2024/10/16 文献紹介
EMA文献班の徳竹雅之です。
文献班からの定期投稿の時間です。今回は4つの文献を選択しました。
①Luo Z, et al; HAPPEN
Investigators. Effect of High-Intensity vs Low-Intensity Noninvasive Positive
Pressure Ventilation on the Need for Endotracheal Intubation in Patients With an Acute Exacerbation of Chronic Obstructive Pulmonary
Disease: The HAPPEN Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2024 Sep 16:e2415815. doi:
10.1001/jama.2024.15815. Epub ahead of print.
PMID: 39283649
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39283649/
COPD急性増悪にはNPPV!
設定はどうでしょう? 低強度(比較的低めのIPAP 18cmH2Oくらいまで)にしていることが多いと思います。
しかし、この設定では圧サポートが不十分で、必要な肺胞換気ができていないことが示唆されているようです。
そこで高いIPAPを使用したらどうなるか…を検証したのが HAPPEN 試験です。
2019年1月~2022年1月までの期間に行われた、中国の30病院における一般呼吸器病棟で実施されたRCTです。
COPDの急性増悪と高二酸化炭素血症を呈し、6時間の低強度NPPV治療後もPaCO2が持続的に高い患者300名が対象になりました。
なお、一般的なNPPVの禁忌事項を持つ患者は除外されています。
この患者群が高強度NPPV群と低強度NPPV群にランダムに割り付けられました。
・高強度:IPAP20-30cmHOに設定、1回換気量10-15mL/kgに調整
・低強度:IPAPは最大20 cmH2Oまで、1回換気量6-10mL/kgに調整
主要評価項目は、入院中の気管挿管の必要性(アシドーシスの増悪・臨床徴候の悪化・心停止または呼吸停止の複合転帰)としました。
4.8% vs 13.7%, 絶対差-9.0%, 95% CI -15.4% ~ -2.5%であり、高強度NPPVにより気管挿管の必要性は有意に低下するという結果でした。
ただし、実際の挿管率には有意差がありませんでした。
低強度群の患者は挿管基準を満たした場合には高強度群に移行できるというオプションが設けられていましたが、これが1つの要因になっているものと思われます。
中間解析で有意な結果が得らえたことから早期に終了され、当初予定していたものよりサンプルサイズが小さくなったこともlimitationです。
この試験はERで行われたものではないためすぐに臨床応用できる試験ではありませんが、救急医としていくつか目を引くものがありました。
まずは高いIPAPでも意外と安全性が保たれているということ。
腹部膨満感や重度代謝性アルカローシスは増えましたが、誤嚥や気胸などの臨床上いやな有害事象がほぼないことは目を引きました。
また、結構大胆にIPAPのサポートを上げてもいいんだな、という感想です。
ARDSに対する肺保護換気の考え方があるため、1回換気量を上げてしまうことは悪である風潮が一般的にあると思います。
一時的な呼吸仕事量やアシドーシスなどの改善のためにはこの1回換気量を選択することは理にかなっている可能性があることを提案してくれたのは、大きな光になるのかもしれません。
救急外来に外挿することは難しいかもしれませんが、COPD急性増悪への挿管はリスクも高いことから高強度のIPAPを試してみるという段階を1つ踏んでも良いかもしれないという勇気をもらえました。
(無作為時の両群の平均pHは7.31で大したことないんですけど)
②Shiro Gonai et al. An overview review of systematic
review and meta-analysis for assessment and treatment of acute shoulder
dislocation
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0735675724005084?via=ihub
肩関節前方脱臼に対する評価と治療に関する研究のSR&MAを紹介します。
最近の流れを確認しておきましょう。
RCTを中心に30件の研究が対象とされています。
救急医に関係がありそうな結果は以下の通りでした。
・超音波による診断:感度100%(95% CI
85.6%-100%)、特異度100%(95% CI
79.4%-100%)でした。やっぱりそうなんですね。
(https://www.emalliance.org/education/dissertation/20200634)
・鎮痛方法:関節内注射は鎮痛薬全身投与に比較して、整復成功率は同等で、副作用が少なくER滞在時間が短いというメリットが示されました。
・整復方法:FARES(Fast, Reliable, and Safe)法は他の整復方法に比較して整復率が高く、約90-100%でした。疼痛も他の手法より少なく、患者にとっても快適性が高い処置のようです。さらに処置にかかる時間も短いと。FARES法はぜひマスターすべし。
(https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001266 https://www.emalliance.org/education/case/kaisetsu105)
③Coz Yataco AO, et al. Red Blood Cell Transfusion in
Critically Ill Adults An American College of Chest
Physicians Clinical Practice Guideline.
Chest. 2024 Sep 26:S0012-3692(24)05272-3. doi: 10.1016/j.chest.2024.09.016. Epub
ahead of print.
PMID: 39341492.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39341492/
米国胸部疾患学会より重症患者へのRBC輸血に関する最新のガイドラインが発表されていますので、かいつまんで紹介します。
これまでのガイドラインと同様に、原則として重症患者へのRBC輸血はHb7-8g/dLを閾値とした制限輸血を行うことが推奨されています。
敗血症性ショックと臓器低灌流のある患者においても同様に、標準的な制限輸血戦略から逸脱してRBCを投与することは推奨されていません。
ACSに関しては、これまでのガイドラインと比較してわずかにニュアンスが変わりました。
最近の大規模研究であるMINT試験において、Hb値が低いほど死亡率・心筋梗塞・虚血性脳卒中の複合エンドポイントを含む主要な有害事象のリスクが上昇することが示されたことを反映して、制限的輸血戦略ではなく許可的輸血戦略(permissive RBC transfusion:Hb8.5-10g/dLを閾値とする)が推奨されています。
ただし、Hb10g/dL未満でリスクが徐々に上昇するのか、10g/dLを超えるとリスクを打ち消す効果があるのかは不明と考えられています。つまり、Hb9g/dlが10g/dlと同じくらい安全かどうかを示しているわけではないことに注意が必要です。
ACS患者の輸血閾値を選択する際には、患者の症状や生理学的変数を考慮して輸血を行おうという推奨になっています。
36ページに適応をまとめた図が掲載されています。
お忙しい方はこれだけでもご覧ください。
④Taccone FS, et al; TRAIN Study Group. Restrictive vs
Liberal Transfusion Strategy in Patients With Acute
Brain Injury: The TRAIN Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2024 Oct 9. doi: 10.1001/jama.2024.20424. Epub ahead of print.
PMID: 39382241.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39382241/
最後にもう1つだけ、輸血関連の話題です。
急性脳損傷(外傷性脳損傷、くも膜下出血、脳出血)では、輸血閾値をHb<7g/dLよりもHb<9g/dLに設定するほうが神経学的予後が良かったという趣旨の研究です。
これまで急性脳損傷に対する輸血閾値は、ガイドラインで明確に設定されてはいませんでした。上記ガイドラインにも載っていませんね。
TRAIN試験はそこに切り込んでいます。
22か国77のICUにおける研究で、急性脳損傷患者850名が制限的輸血戦略群(Hb<7g/dL)と非制限的輸血戦略群(Hb<9g/dL)のいずれかに無作為に割り当てられました。
主要評価項目は180日後の不良な神経学的転帰(GOS-Eスコア≦5)と設定され、制限的輸血戦略群では非制限的輸血戦略群よりも有意に転帰不良が増加しました。
(絶対差-10.0%, 72.6% vs 62.6%)
なお、28日死亡率には有意差はありませんでした。
オープンラベル、当初計画されたサンプルサイズに達していなかったことなどがlimitationですが、新たなエビデンスとなっていきそうです。
これからのガイドラインに影響を与えるRCTかもしれません!
急性脳損傷に対する輸血閾値は高めに設定しておこっと。