2020/09/15文献紹介
9月前半の文献紹介は、福岡徳洲会病院の鈴木と沖縄県立中部病院の岡です。
沖縄と福岡の南国コンビがお送りします。
どれも見逃せない文献ばかりなので、こうご期待!
①小児の無菌性髄膜炎と細菌性髄膜炎を鑑別する新しいスコア「MSE」
②軽症外傷患者に対するCT撮影
③ステロイド短期投与はどれくらい有害か
④肩関節脱臼をエコーで診断する
⑤エアロゾルボックスに関するFDAの声明
前半は福岡徳洲会病院の鈴木です。
①Santiago Mintegi, et al. Clinical Prediction Rule for Distinguishing Bacterial From Aseptic Meningitis. Pediatrics. 2020 Sep;146(3):e20201126.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32843440/
インフルエンザ桿菌や肺炎球菌の予防接種普及に伴って、小児の髄膜炎の多くが無菌性になった昨今だと思います。
細菌性髄膜炎の診断はもちろん髄液検査で確定する事と思いますが、髄液検査の結果を見て、無菌性髄膜炎との鑑別に悩んだことはないでしょうか?
この鑑別に有用とされているのがBacterial Meningitis Score(BMS)です。
これは生後29日から19歳までの小児で、以下の5項目のうち全てが陰性であれば細菌性髄膜炎のリスクが非常に低いと判断されるScoreです。(DOI: 10.1542/peds.110.4.712)
・髄液グラム染色が陽性
・髄液の好中球≧1000個/μL
・髄液の蛋白≧80mg/dL
・血中の好中球数≧10000個/μL
・痙攣を合併した
非常に感度が高いとされるBMSですが、時に見逃しが起きてしまう事も指摘されています。
そこで筆者らはスペインの25のEDで、生後29日から14歳までの髄膜炎患者を6年間後方視的に解析し、819名のデータから新たなスコアMeningitis Score for Emergencies(MSE)を開発しました。
MSEの項目は以下の4項目です。
・プロカルシトニン>1.2ng/ml
・CRP>4.0㎎/dL
・髄液の好中球数>1000個/μL
・髄液の蛋白>80mg/dL
さらに検証群として2年間で190人の髄膜炎患者を集め、MSEの精度を検証しています。
MSE≧1以上をカットオフとすると、感度100%(95% CI: 95.0%–100%)、特異度83.2%(95% CI: 80.6–85.5)、陰性的中率100%(95% CI: 99.4–100)という結果でした。
BMS≧1では感度93.5%、特異度50.3%という結果であり、いずれもMSEの方が良い結果となりました。
BMSよりもシンプル化されているのにも関わらず、感度が上がっているのは凄いと思いました。
またスコアを作成する過程において、プロカルシトニンが単独では最も診断への寄与率が高い事も印象的でした。
小児の細菌性髄膜炎の診断において、プロカルシトニンの値は非常に重要なんですね!
なお本文献では、非常に重症(Critically ill)・紫斑を伴う患者群などは除外されています。
②Megha R George, et al. Prevalence of serious injuries in low risk trauma patients. Am J Emerg Med. 2020 Aug;38(8):1572-1575.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31500924/
Trauma pan scanの有用性が報告されてから、外傷患者にルーチンでCT撮影を行うようになった施設は多いと思います。一方で軽症患者に対して過剰にCT撮影を施行しているのではないかと、不安に思う事もあると思います。しかしどの様な患者であればCTを撮影しなくても良いのか、確かな基準は無いのが現状だと思います。
筆者らはニューヨークのレベル1外傷センターを受診した患者のうち、以下の基準に当てはまる患者を低リスク外傷患者(LRTP:low-risk trauma patients)と定義しました。
・18から40歳の鈍的外傷患者
・ずっと意識清明で神経学的異常がない(GCS15点)
・脈拍>100、呼吸数>20をいずれも満たさない
・一度も低血圧(収縮期血圧<90)にならず、低還流所見がない
・抗凝固薬を内服していない
・基礎疾患がない(ASA classⅠかⅡ)
6カ月間で750人のLRTPの患者を後方視的にレビューしています。
790のCTが撮影され、そのうち731(92.5%)で外傷所見は認めませんでした。
臨床的に有意な外傷が発見されたのは13人でしたが、手術や輸血などの緊急介入が必要になったのはそのうち1人にすぎませんでした。(0.13%)
筆者らの軽症外傷リスク分類は、CT適応の参考に使えるかもしれません。
③Tsung-Chieh Yao, et al. Association Between Oral Corticosteroid Bursts and Severe Adverse Events: A Nationwide Population-Based Cohort Study. Ann Intern Med. 2020 Sep 1;173(5):325-330.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32628532/
喘息やベル麻痺などでステロイドを短期間頓用する「ステロイドバースト」を実践している方も多いと思います。
世界的には上気道炎の咽頭痛にもステロイドを投与する方法が普及しており、2017年には咽頭痛へのステロイド投与に関するガイドラインも発表されました。(DOI: 10.1136/bmj.j4090)
2週間以内の短期投与であればステロイドはさほど害がないとも言われていますが、本当でしょうか?
今回、台湾の医療保険請求に基づく研究用データベース(National Health Insurance Research Database:NHIRD)から、1590万人もの成人患者のデータを解析しています。
なんと3年間で25%(約400万人)もの患者にステロイドバーストが行われていました。
消化管出血・敗血症・心不全の3疾患について、ステロイドを投与する前・ステロイドバースト後5~30日・ステロイドバースト後31~90日の罹患率を比べたところ、
いずれもステロイドバースト後5~30日が最も罹患率が高いという結果になりました。
今後、ステロイド短期投与の副作用について論じるとき、必ず引用されるであろう重要な論文だと思います。
ただしステロイドバースト後5~30日においては、1000観察人年(1000人を1年間観察した場合に相当)につき、消化管出血が10人、心不全が1人、敗血症が0.1人増える計算になります。この程度の発生頻度をリスクと捉えるかどうかは個々人の捉え方によるかもしれません。
鈴木
後半は沖縄県立中部病院の岡です。
④Michael A Secko et al. Musculoskeletal Ultrasonography to Diagnose Dislocated Shoulders:A Prospective Cohort.Ann Emerg Med.2020 Aug;76(2):119-128.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32111508/
1つ目の文献は、
Annals of Emergency medicine8月号から肩関節脱臼のエコーについてです。
…感度・特異度どちらも100%ですって!
2つの救急施設で肩関節脱臼疑い65人が対象となりました。
結果、32人(49%)が脱臼しており、そのうち後方脱臼は2人でした。
エコーでの診断精度は
感度100%(95%CI 87%〜100%)
特異度100%(95%CI 87%〜100%)
でした。
また、エコーにかかる時間は平均19秒でした。(!)
すげーな。肩エコー。
良い適応としては、整復してからXpで確認するまでに、でしょうか。
例えば、ちゃんと整復できたか分かりにくいときに、その場でサッとエコーで確認できたら良いですよね。
エコー描出方法は、本文中の写真が分かりやすいのですが、
肩関節の後方からプローブをあて、上腕骨頭後縁と肩甲骨の関節窩後縁の位置を比べます。
通常は上腕骨頭後縁が関節窩後縁よりも平均0.22cm後ろです。
それが、
前方脱臼では平均1.83cm前
後方脱臼では平均3.30cm後ろ
になります。
YouTubeで同様の方法を説明した動画がありました。
https://www.youtube.com/watch?v=WQMQUEcBx0g
いかがでしょうか。
早く肩関節脱臼を診察したくなりませんか?
2つ目の文献は、文献というよりも情報共有です。
COVID-19の挿管に、いわゆる「エアロゾルボックス」の使用しないようFDAが声明を発表しました。
https://www.fda.gov/medical-devices/letters-health-care-providers/protective-barrier-enclosures-without-negative-pressure-used-during-covid-19-pandemic-may-increase?fbclid=IwAR2U1e2KbpAEctooE6q2WMP9IjxH7pks4Wit8RGCCqYkm7TIwyPWrPR3BIM
4月にNEJMで最初にエアロゾルボックスについての論文が発表されました。
https://www.emalliance.org/covid/journal/32243118
自分の施設でもすぐに採用しました。
しかしその後、エアロゾルボックスの使用すると、かえってエアロゾル発生が生じるとの検証論文が発表されました。
https://www.emalliance.org/covid/journal/aerosol_box_negative
それをうけて、FDAは今回の声明発表をしました。
…そもそも挿管しにくくなりますしね。
かえって挿管手技者が顔近づけちゃったりして。
以上です。
岡正二郎拝