2023.05.18

2023/05/18 文献紹介

みなさま

あっという間に春らしさもなくなり、地域によっては最高気温が30度となる箇所もあり、寒暖差も大きな日が続きますがいかがお過ごしでしょうか。

個人的には熱中症の搬送を目にするようになり初夏を感じ始めております。

EMA文献班 聖路加国際病院 救急科 宮本颯真 ・ 京都府立医科大学 中村侑暉より5月前半のとっておきの文献の紹介をさせていただきます。

今回のラインナップは
①憩室炎を疑った時の”TICS”プロトコル
②肩関節前方脱臼の整復方法に関するペアワイズ/ネットワークメタアナリシスによるシステマティックレビュー
③急性膵炎に対する制限的輸液療法 最新システマティックレビュー/メタアナリシス
④ペニシリンアレルギーに対するβラクタム系抗菌薬の使用
です。

まずは聖路加国際病院 宮本より2文献の紹介です。

①憩室炎を疑った時の”TICS”プロトコル
Hamid Shokoohi et al. Accuracy of “TICS” ultrasound protocol in detecting simple and complicated diverticulitis: A prospective cohort study. Acad Emerg Med. 2023 Mar;30(3):172-179. doi: 10.1111/acem.14628. PMID: 36354309.

憩室炎が疑われる患者に超音波検査を行い、診断に至った経験はありますか?

実は憩室炎に対する超音波検査の診断精度はCTにも匹敵すると報告されています。
迅速な診断や、医療費の削減のためにも外来診療の武器として持っておきたい評価技術の一つです。

今回筆者らは”TICS”と名付けた診断プロトコルに従って憩室炎の評価を行い、その診断精度の評価を行いました。

“TICS”とは
Thickness:結腸壁の厚さ>4mm
Intramural air:炎症を生じた憩室内のacoustic shadowを伴う高輝度な空気もしくは糞石
Colonic Murphy’s sign:TやIを認めた場所での局所的な圧痛
Stranding:憩室を取り囲む非圧縮性の結腸周囲脂肪織混濁
の頭文字からきております。
(実際の所見に関しては是非、文献内の画像を参考にしてみてください。)

また、結腸周囲の液体貯留や広範囲の管腔外airの貯留は、穿孔や膿瘍形成の徴候であるとして複雑性憩室炎と判断されました。

最終的にCTで診断し、精度を検討した結果、
・憩室炎全体に対しては、
感度95% (95% confidence interval [CI] 87%–99%)、特異度77% (95% CI 65%–86%)、陽性適中率80% (95% CI 71%–88%)、陰性適中率93% (95% CI 84%–98%)
・複雑性憩室炎に対しては
感度55% [95% CI 32%–76%])、特異度96% (95% CI 91%–99%)、陽性適中率70% (95% CI 44%–90%)、陰性適中率92% (95% CI 86%–96%)、陽性尤度13.9 (95% CI 5.41‒35.47)、陰性尤度0.47 (95% CI 0.30‒0.75)
でした。

複雑性憩室炎であるエコーのみで判断するのは難しそうですが、単純性/複雑性問わず憩室炎の有無を判断しに行くのであればTICSは有用そうです。

症例数が少なく、今後の追試で結果が異なってくる可能性はありますが、是非普段の診療に役立ててみてはいかがでしょう!?

②肩関節前方脱臼の整復方法に関するペアワイズ/ネットワークメタアナリシスによるシステマティックレビュー
Gonai S et al. A Systematic Review With Pairwise and Network Meta-analysis of Closed Reduction Methods for Anterior Shoulder Dislocation. Ann Emerg Med. 2023 Apr;81(4):453-465. doi: 10.1016/j.annemergmed.2022.10.020. PMID: 36797133.

過去にEMAでも症例解説(2020年1月症例:( https://www.emalliance.org/education/case/kaisetsu105 ))や、
エコーを用いた評価方法に関しての文献紹介(2020年9月前半文献紹介:(https://www.emalliance.org/education/dissertation/20200634 ))など取り扱ったことのある肩関節脱臼ですが、皆さんは普段どの方法を使って整復を試みているでしょうか?

整復方法はleverage、traction、scapular manipulationの3つに大別され、その組み合わせや変法等を含めると、実は20種類以上あることをご存じでしょうか。(※参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31917030/ )

ただ、これまでに肩関節脱臼の整復方法に関して個々の整復方法を包括的に検討したメタアナリシスを含むシステマティックレビューはありませんでした。

今回著者らは15歳以上の急性肩関節脱臼に関する14文献を抽出し、結果、合計1189人に行われた18種の整復方法を解析しました。

Tractionに分類されるヒポクラテス法と、rotation/leverageを利用したコッヘル法を比較したペアワイズ・メタアナリシスでは、
・整復成功率:p=0.64, I2=0%, OR=1.21; 95% CI [0.53 to 2.75]
・疼痛の軽減:p=0.06, I2=0%, SMD=0.33; 95% CI [0.69 to 0.02]
・整復時間の短縮:p=0.85, I2=94%, MD=0.19; 95% CI [1.77 to 2.15]
といずれも有意差を認めず、整復時間に関しては高い異質性を認めました。

また、コッヘル法と他の整復方法を比較したネットワーク・メタアナリシスでは、
それぞれ結果が良好であった順に、
・整復成功率:Davos(Boss-Holzach-Matter)法、FARES、Spaso法
・疼痛の軽減:FARES法、External rotation法、Scapular manipulation technique
・整復時間の短縮:修正External rotation法、FARES法、External rotation法
となりました。

Davos(BHM)法の整復成功率は高いですが、唯一検討を行った研究の対象群の大半が若年であることより適応に関しては注意が必要です。
また、鎮痛や鎮静に関しても研究間でばらつきがあり、一概には鵜呑みにはできません。

現時点では総合的に判断するとFARES法が優位でしょうか。

FARES法やDavos法に馴染みのない方はぜひ動画で手技も確認してください。
DAVOS: https://www.youtube.com/watch?v=u2MsnjVNoPM
FARES: https://www.youtube.com/watch?v=bXitctnGio4

整復方法を賢く選択して、なるべく初回で、短時間で、疼痛も最低限で整復したいものですね。

お次は京都府立医科大学病院 中村より下記2文献を紹介します。
③急性膵炎に対する制限的輸液療法 最新システマティックレビュー/メタアナリシス
Li XW, et al. Comparison of clinical outcomes between aggressive and non-aggressive intravenous hydration for acute pancreatitis: a systematic review and meta-analysis. Crit Care. 2023 Mar 22;27(1):122. doi: 10.1186/s13054-023-04401-0. PMID: 36949459
急性膵炎での輸液戦略に決まったものはありますか?近日、過剰輸液に対し、待ったをかける文献が増えつつあり、本文献もその一つとなります。
急性膵炎の治療では、循環動態の悪化を待たずに早期の輸液負荷を行うのが一般的だと思います。
しかし、その輸液速度については議論の余地があり、各国のガイドラインでも一貫性がなく、米国内に存在する複数のガイドラインでも推奨に大きな差があります。
最近では文献班より、非重症例での輸液量を比較したWATERFALL試験なる文献を紹介しました。(2022年9月後半文献紹介: https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001253

今回紹介する文献は、急性膵炎の重症、非重症いずれも含めた、輸液速度についてのシステマティックレビュー、メタアナリシスとなります。9件のRCT、953人の患者が対象となりました。

重症度は改訂アトランタ分類に基づいて決定され、臓器不全や合併症がないものは軽症、一過性の臓器不全や合併症のあるものは中等症、臓器不全が持続するものを重症と分類され、軽症、中等症は非重症と分類されました。

介入群(積極輸液): 10ml/kg/h以上 or 20ml/kgを2時間でボーラス+2〜3ml/kg/hで24時間 or 最初の12〜24時間は500ml/h以上もしくは最初の24時間で4000ml以上
対照群(制限輸液): 10ml/kg/h以下 or 10ml/kgを2時間でボーラス+1.5ml/kg/hで24時間 or 最初の12〜24時間で500ml/h以下もしくは最初の24時間で4000ml以下

主要評価項目:全死因死亡率
副次的評価項目:輸液合併症、APACHE Ⅱ score、敗血症、急性呼吸不全、臨床症状、急性腎障害、膵壊死、48時間以内のSIRS沈静化、持続する臓器不全、Hct、BUN、入院日数

主要評価項目である全死因死亡率は、積極輸液を行った介入群で有意に高い結果となりました(RR: 2.42, 95% CI: 1.41-4.17; I2: 0%)。
特に、重症では介入群で有意に死亡率が高く(RR: 2.45, 95% CI: 1.37-4.40, I2: 0%)、非重症では介入群で死亡率が高い傾向があったものの、有意差はありませんでした(RR: 2.26, 95% CI: 0.54-9.44, I2: 0%)。

副次的評価項目については以下の項目で、介入群で増加していました。
・輸液合併症(RR: 2.49, 95% CI: 1.65-3.75, I2: 0%)
・APACHE Ⅱ score(MD: 3.31, 95% CI: 1.79-4.84, I2: 0%)
・敗血症(RR: 1.44, 95% CI: 1.15-1.80, I2: 0%)
・急性呼吸不全RR: 1.49, 95% CI: 1.18-1.89, I2: 0%)
その他、臨床症状、急性腎障害、膵壊死、48時間以内のSIRS沈静化、持続する臓器不全、Hct、BUN、入院日数については、有意差はありませんでした。

急性膵炎では、過剰輸液に伴って、間質性浮腫が毛細血管間距離を増大させ、局所的な虚血となったり、貯留した体液が腹部コンパートメント症候群を悪化させ、多臓器不全を助長する、などが考えられています。

本文献の限界として、症例数が不十分である可能性があること、RCTのサンプルサイズが小さいこと、急性膵炎の成因が混在していること、輸液速度のみの提示で輸液総量が明示されていないこと等が挙げられます。また、日本のガイドラインと重症の定義が異なることにも注意が必要です。

過剰輸液は予後を悪化させることを常に意識し、積極輸液にはこだわらない慎重な輸液療法を心がけていきましょう。

④ペニシリンアレルギーに対するβラクタム系抗菌薬の使用
Holmes MD, et al. Administration of β-lactam antibiotics to patients with reported penicillin allergy in the emergency department. Am J Emerg Med. 2023 Mar 21;68:119-123. doi: 10.1016/j.ajem.2023.03.013. Epub ahead of print. PMID: 36972634.

日常診療で、ペニシリンアレルギーの自己申告を受ける機会は、少なくないのではないでしょうか。

βラクタム系抗菌薬はペニシリンと交差反応性があるため、ペニシリンアレルギーのある場合は、βラクタム系抗菌薬の投与を避けることが通例かと思います。
一方で、自己申告があったとしても実際にペニシリンアレルギーであるのはごく一部で、さらに10年でそのうち80%程度が過敏性を消失するとされており、発症様式など十分な問診を行なって、その吟味を行うことが推奨されています。

βラクタム系抗菌薬は感染症治療において非常に重要で、第一選択となることが非常に多い薬剤です。βラクタム系抗菌薬の使用回避によるデメリットが、アレルギーによる有害事象のリスクを上回る可能性が指摘されるようになってきています。

本文献は、ペニシリンアレルギーの自己申告者に対して、βラクタム系抗菌薬を使用した、米国ニュージャージー州の単一施設のレトロスペクティブコホート研究です。
2015年1月1日から2019年12月31日までに救急外来を受診し、カルテ内にペニシリンアレルギーの記載のある18歳以上で、βラクタム系抗菌薬を投与された患者が対象となりました。
βラクタム系抗菌薬を投与されなかった患者、アレルギーの記録前に既にβラクタム系抗菌薬を投与された患者、ペニシリン以外のβラクタム系抗菌薬のアレルギーがあった患者は除外されました。

主要評価項目:IgE依存性アレルギー反応の発生率
副次的評価項目:救急外来受診以降にβラクタム系抗菌薬を継続した頻度

819人が基準を満たし、既往のペニシリンアレルギーの症状としては、蕁麻疹22.4%、発疹15.4%、アナフィラキシー3.5%、不明40.4%でした。
投与されたβラクタム系抗菌薬のうち、セフェピム(393人、48%)とセフトリアキソン(380人、46.4%)が大半を占め、それ以外にセファゾリン、メロぺネム、ピペラシリン・タゾバクタム、セファレキシン、エルタペネムがありました。

主要評価項目である、IgE依存性アレルギー反応は1人も発生しませんでした。
630人(77%)が入院し、うち434人(68.9%)がβラクタム系抗菌薬の投与を継続しました。86人(13.6%)で非βラクタム系抗菌薬に変更され、98人(15.5%)で抗菌薬終了、12人(2%)で中断となりました。
蕁麻疹、発疹、アナフィラキシーなどのIgE依存性アレルギー反応の既往の申告のあった患者は、申告のない患者と比較して、救急外来受診以降のβラクタム系抗菌薬の継続に差がありませんでした(OR: 1,95% CI: 0.7-1.44)。

本研究の限界として、後方視的であることや、単一施設であること、βラクタム系抗菌薬の中でも比較的ペニシリンと交差反応性が低いとされているセフェピムやセフトリアキソンが多数を占めていたこと、アレルギーの既往は患者からの自己申告であったことなどが挙げられます。

アナフィラキシーや重症薬疹のリスクもあるため、十分な問診を行い、必要に応じて代替薬の使用は検討すべきですが、アレルギーの自己申告を鵜呑みにして、第一選択薬を使用する機会を完全に失ってしまうことは避けるべきかもしれません。

みなさまの普段の診療にお役に立てば幸いです、
次回の文献紹介もお楽しみに。

宮本颯真