2024.04.15

2024/04/15 文献紹介

EMA文献班の徳竹雅之です。

新年度がはじまりましたね!
新たな気持ちで今年度もEMA文献班をよろしくお願いいたします



Az A, et al. Intradermal Sterile Water Injection: Safe and Effective Alternative for Relief of Acute Renal Colic in the Emergency Department.
J Emerg Med. 2024 Feb;66(2):83-90.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38267297/

腎疝痛には滅菌水皮内注射が効果的!


腎疝痛の疼痛管理に関しては、EMAlliance文献班でも興味のあるところであり以前にも紹介しています。

「尿管結石の疼痛緩和にマグネシウム」https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001233
「尿管結石の疼痛コントロールにデキサメタゾンを使用してみた」https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001246

さらに別の手段である「滅菌水の皮内注射」の効果を検討した興味深い研究を紹介します。

20226月~
20231月にイスタンブールのある救急外来を受診した急性腎疝痛患者320人を対象とした前向き無作為化単盲検単施設試験です。

患者は滅菌水皮内注射群、ジクロフェナク筋注群、トラマドール静注群、アセトアミノフェン静注群の4群に均等に割り付けられ、治療効果が判定されました。
なお、それぞれの治療群において疼痛が悪化した場合にはレスキュー治療としてフェンタニル静注が追加されました。

滅菌水皮内注射とはなんぞ!? やり方は簡単です。
注射部位は最も疼痛を感じている部位の周囲4か所です。その部分を広くアルコール消毒してから1mlのインスリン注射針を用い、それぞれ0.5mlずつ滅菌水を皮内注射するだけです。

なんと滅菌水皮内注射群は他の治療群に比較して、治療15分後~30分後のVASが有意に低くなるという結果になりました。
レスキュー治療の必要性についても滅菌水皮内注射群は他の治療群と有意な差はありませんでした(トラマドール静注と比較するとレスキュー治療が少なく済んだ!)
合併症もゼロ!

効果発現の機序は、滅菌水の浸透圧変化による皮膚刺激が内因性オピオイド放出につながるとか、疼痛のゲートコントロール理論とか提唱されているようです。
単施設での試験、疼痛緩和の持続時間が不明などというlimitationがあり、滅菌水の注射量や注入の深さなども今後の検討事項と言えます。

はやい!やすい!うまい!を体現したような治療選択肢になりそうです。
まさかここまでの効果が期待できるとは驚きです。特に妊婦や心血管疾患/腎不全患者などのハイリスク集団において、腎疝痛に対する有用な治療選択肢になるかもしれません。


Kumar M, et al. Tranexamic acid in upper gastrointestinal bleed in patients with cirrhosis - a randomized controlled trial.
Hepatology. 2024 Mar 5. Epub ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38441903/  

CTP class B-C
の上部消化管出血に対するトラネキサム酸は捨てたもんじゃない!?


出血イベントに対するトラネキサム酸(TXA)の投与は、タイミングや適応などを絞れば補助治療として大きな役割を担ってくれることがわかっています。

ただし、重症消化管出血に限ると、大規模RCTであるHALT-IT試験においてTXA投与は死亡率を減少させず有害事象を増やしてしまうという残念な結果に終わりました。

TXA投与について復習
https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001247
HALT-IT試験について復習
https://www.emalliance.org/education/dissertation/7

消化管出血の原因や背景にはさまざまありますが、肝硬変のChild-Turcotte-Pugh (CTP) class BまたはCに絞ってTXAの効果を検討した初めてのRCTがありましたので紹介します。

CTP class BまたはCかつ発症から24時間以内の上部消化管出血を呈した600人を対象にした、2020101日~
2022113日にインドの単施設で行われた無作為比較試験です。

患者はTXA投与群とプラセボ群にランダムに割り付けられました
TXAの投与方法はHALT-IT試験と同じで、
TXA1g10分間で投与24時間かけてTXA3gが持続静注されました。

結果として、TXA群では5日以内の治療失敗(出血が制御不能または再出血)が有意に低下しました。
出血源として食道静脈瘤が最多で標準的な治療が行われましたが、特にEVLを行った部位からの出血が減少したことがこの差につながっていると考えられる結果でした。

しかし、5日および6週間死亡率は両群に有意差はありませんでした。
合併症として、トラネキサム酸投与群では1例にTIAを認めたこと以外、発作を含めてプラセボ群と大差はありませんでした。

本研究の新規性は、特に進行した肝硬変を有する患者に合併した上部消化管出血治療におけるTXAの短期的な治療効果が明らかになった点であると考えます。
ただし、TXAの長期的な安全性(特に血栓症:無症候性の場合には積極的な検索は行われなかった)や効果などについては検討ができていないこと、HALT-IT試験に比して小規模のために有害事象の検出が十分でなかった可能性があります。

進行した肝硬変に合併した消化管出血に対する治療戦略の一手になってくるかもしれません。
今後の研究をみて再度判断したいと思います。


Green SM, et al. Use of Topical Anesthetics in the Management of Patients With Simple Corneal Abrasions: Consensus Guidelines from the American College of Emergency Physicians.
Ann Emerg Med. 2024 Feb 6:S0196-0644(24)00004-0.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38323950/

点眼麻酔薬処方に関するACEPのガイドライン


救急医療の現場では、単純な角膜損傷に対する局所麻酔薬の使用が長年にわたり議論の的となってきました。
従来、角膜損傷を悪化させる懸念があることからこれらの薬剤を処方することは一般的に推奨されていませんでした。

しかし、最近のACEPによるガイドラインでは、この慣習に対する新たな見解が示されることとなりました。
2024年に発表されたこのガイドラインは、単純な角膜損傷を有する患者に対し、限定的な条件下での局所麻酔薬(例:プロパラカイン、テトラカイン、オキシブプロカイン)の処方が推奨されています。


具体的には、患者が診断後の最初の24時間以内に、必要に応じて30分ごとに局所麻酔薬を使用することは安全で、角膜損傷を増悪させるリスクは低いと見積もられています。
処方量は1.5から2mLに制限し(例:検査で使用して余った点眼薬の大部分を捨てて少量のみ渡す)、24時間後には使用を中止し残りを廃棄することが強調されています。

患者の疼痛を除去し、満足度を上げることに寄与するこの推奨は現行の対応より人道的なのかなと思います。
鎮痛薬の無駄な投与を減らし、腎機能や消化管出血などの合併症を考慮する必要もなくなります。

今後の方向性として、より大規模な臨床試験や長期的なフォローアップ研究が求められます。
このガイドラインの発表は個人的には衝撃的で、救急外来における角膜損傷管理の新たな時代の幕開けの第一歩になるように感じました。

注意点として、日本の添付文書には「患者に渡さないこと」という記載があります。
角膜損傷に対して24時間の局所麻酔薬は安全そうだから処方しましょう、ということを推奨する紹介ではありません。
世界的にはこういう展開があって、新たな管理方法が見出されるかもしれないということを共有するくらいの目的でした。

さて、どうなるのでしょうかね。


Coccolini F, et al. Antibiotic prophylaxis in trauma: Global Alliance for Infection in Surgery, Surgical Infection Society Europe, World Surgical Infection Society, American Association for the Surgery of Trauma, and World Society of Emergency Surgery guidelines.
J Trauma Acute Care Surg. 2024 Apr 1;96(4):674-682.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38108632/

外傷の部位別、種類別(開放骨折や熱傷、動物咬傷)の予防的抗菌薬投与のガイドラインです。

推奨をぱらっと眺めて、日常の診療との比較をしてみるとよいかもしれませんね。