2021.10.17

2021/10/16 文献紹介

10月に入ったというのに、なかなか夏服も仕舞えないぐらい暑い日々が続きますね。
来週からはぐっと冷え込むそうで、体調崩す人たちがERに押し寄せそうですから、
今のうちに英気と新たな知見を養って備えましょう!!
今月前半は湘南鎌倉徳洲会病院の田口と中東遠総合医療センターの大林が担当します。
明日からの診療にぜひ役立ててください。

湘南鎌倉総合病院の田口です。
今回は虫垂炎に関連する論文を2本立てでご紹介いたします。

① Michelson KA, et al. Clinical Features and Preventability of Delayed Diagnosis of Pediatric Appendicitis. JAMA Netw Open. 2021 Aug 31;4(8):e2122248.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34463745/
「やっぱり難しい小児の虫垂炎 検査も重要」
たかが虫垂炎されど虫垂炎、だれもが痛い思いをしたことがあるのではないでしょうか。

2020/4/19にも「ERで見逃される虫垂炎の特徴」と題した文献紹介をしておりますのでご参照ください。(https://www.emalliance.org/education/dissertation/1 )

今回は診断遅延が起きた小児の虫垂炎の特徴とその予防について述べた文献です。

本研究は21歳以下の患者が対象のcase control studyです。診断遅延群は米国の5つの小児救急部で7日以内の再診時に診断された虫垂炎の患者です。対照群はそのうちの1つの救急部で初診時に虫垂炎と診断された患者です。これらの患者に対してカルテレビューを行い、診断遅延群の臨床的特徴と、どの程度が予防可能かを検討しました。

748名の虫垂炎患者のうち471名(63.0%)は虫垂炎の診断遅延があり、277名(37.0%)は初回受診時に診断されていました。

典型的所見(右下腹部への移動する腹痛、歩行時の痛み、筋性防御)は診断遅延群の方で乏しく、診断が難しいことが示唆されました。そして診断遅延群では入院期間が長い、穿孔率が高い、2回以上の外科的処置を受ける可能性が高いとoutcomeも悪く、なんとか早期診断をしたいところです。

診断遅延群の471名のうち、初診時に診断可能だった患者はどれほどいるのでしょうか? 文献ではmissed opportunity to improve diagnosis(MOID)があったのかを評価しています。
診断遅延群のうち109例(23.1%)が予防可能性高い(likely)、247例(52.4%)が予防可能性あり(probably)とされました。

MOIDには初回診察時の病歴聴取や臨床推論が不適切であったことが関連していました。また初診時の Pediatric Appendicitis Risk Calculator (pARC)のスコアリングからエコーが推奨される患者のうち22-61%のみしか受けていませんでした。

できれば減らしたい診断遅延、そのために3つの対策が提案されています。
A.虫垂炎の可能性が高い児では白血球数の確認とエコーを行うこと。ただし19%がエコー偽陰性のため、陰性でもCTを考慮する。
B.虫垂炎の可能性が低い児ではエコーはすべきではないが、長めの経過観察と白血球数の確認が正しい診断に寄与するかもしれない。
C. pARCスコアが有効かもしれない。 
というのも診断遅延群の多くの児では、pARCでは画像診断(エコーなど)をすべき閾値を超えていたのに検査がされていなかったためです。
ただしpARCは5歳以下の児はvalidation studyに組み込まれておらず、適応できない点に注意が必要です。

pARCスコアも頭の片隅に、丁寧な病歴聴取と身体診察で、機を逃さずエコーやCTでの早期診断をしていきたいですね!

② Becker BA, et al. A prospective, multicenter evaluation of point of care ultrasound for appendicitis in the emergency department.
Acad Emerg Med. 2021 Sep 14;acem.14378.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34420255/
「ERでの虫垂炎POCUSは限界あり」
①の紹介文で小児への超音波検査では虫垂炎の偽陰性が19%と記載しましたが、本文献は、成人および小児の患者へ救急医の行うPOCUSで虫垂炎を診断する感度、特異度を調べています。

米国の2施設で行われました。指導医、超音波フェロー、専攻医がそれぞれ虫垂炎疑いの患者へPOCUSを行い、手術所見から虫垂炎と診断、もしくはCTやMRIで診断がつき保存加療を行った患者を虫垂炎患者と定義して感度と特異度を求めました。
POCUSの解釈は(1)正常、虫垂を描出できず(2)正常、虫垂を描出可能(3)虫垂炎(4)虫垂炎の診断には至らず不確定、の4つのうちのいずれかとされました。

256名が虫垂炎疑いとして対象となり、28.1%が急性虫垂炎でした。POCUSの感度は0.85(95%CI 0.74-0.92)、特異度は0.63(95%CI0.56-0.70)でした。ただしsub group解析では指導医によるPOCUSは感度は0.89(95%CI 0.76-0.96)、特異度は0.68(95%CI 0.59-0.76)で感度、特異度ともに優れています。

驚くのはエコー数上位3名の医師の感度で、非常に高いです。
256名の患者に対して18名の医師がそれぞれPOCUSを行っていますが、実はこのうち117名(45.7%)に対して3名の医師がPOCUSを施行しており、医師によって経験数が偏っています。この3名で解析すると感度0.97 (95%CI = 0.83 to 1.00) とかなり優れていました。(特異度はわずかに低かったですが(0.57 [95%CI 0.46-0.68]))

ちなみに小児患者に限定すると感度0.87 (95%CI 0.69-0.96)、特異度0.69 (95% CI 0.58-0.78)とどちらも成人より高い結果でした。

習熟した医師によるPOCUSは虫垂炎の除外には有効かもしれません。
私自身はPOCUSに自信はありませんが、ほか検査も併用しながらも、経験を多く積んでいずれはPOCUS上手になりたいものですね。

続きまして、大林からはこちらの2本。

③Johnson-Arbor K et al.Bloodless Management of the Anemic Patient in the Emergency Department .
Ann Emerg Med. 2021 Aug 2 Epub ahead of print
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34353645/
「無輸血戦略に関するレビュー」
救急外来を訪れる患者の中には医学的または宗教的な理由で血液製剤を受け入れられない人がいますが、みなさんは診療を担当したことがありますか?
有名なのはエホバの証人の伝道者で、日本には21万人強の伝道者がいると公表されています。
今回紹介する論文は、血液製剤を使用できない患者に提供できる医療についてのレビューです。
このような患者集団に対する治療戦略を理解し、満足度の高い医療を提供する役に立つだけでなく、通常の患者の輸血制限戦略にも活かせる内容だと思いますので、ぜひご一読ください。

救急の現場では急性出血の患者の対応が課題となり、本文で紹介されている「不必要な血液喪失を減らす戦略」は重要なトピックです。
その中で取り上げられている内容をピックアップすると、

①採血管をより小型のものに変える
②出血が継続している患者では凝固障害の改善のために、プロトロンビン複合体濃縮液や遺伝子組み換え第7因子製剤(実は原料がハムスター由来!)を使用する
③デスモプレシンやトラネキサム酸を使用する
④大量血胸のドレナージの際に、自己血を回収して自己血輸血を行う
※患者によっては受け入れられなかったり、日本では保険適応が通っていないものもあります

といった、戦略が挙げられています。
また、酸素運搬能を高めるための戦略として高気圧酸素療法を行うという戦略も紹介されています。
施設によっては利用可能な手段となるでしょう。

そして何より大事なことはそのような患者さんと協議して、治療方針を決めることです。
論文中に様々な製剤のリストがありますので、和訳して使用してみるのもよいでしょう。

なかなか出会う機会のないことかもしれませんが、いざというときのために、自施設の対応方針や近くのエホバの証人の医療機関連絡委員会など利用可能なリソースの確認をしてみてはいかがでしょうか?

④Zolfaghari SA et al. Intravenous magnesium sulfate vs. morphine sulfate in relieving renal colic: A randomaized clinical trial.
Am J Emerg Med 2021 Aug;46:188-192
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33071088/
「尿路結石の疼痛緩和にマグネシウム」
先日、Nature Reviews Endocrinologyに妊婦のアセトアミノフェン使用に関するConsensus Statementが掲載されました。妊婦に比較的安全に使えると考えられているアセトアミノフェンも、レビューによると胎児の発育に影響が出るとする研究が増えてきているようで、妊婦に対する鎮痛の代替手段を知っておかなければ、と感じました。
↓興味のある方は下のリンクからどうぞ。
https://www.nature.com/articles/s41574-021-00553-7

近年、マグネシウムは以前紹介した片頭痛の他にも、術後疼痛の軽減などの研究報告がされています。
マグネシウムの鎮痛効果は細胞内へのカルシウム流入の調節や中枢神経におけるNMDA受容体遮断に起因すると考えられています。
マグネシウムは子癇発作で大量に使われていることから、妊婦にも使用しやすいのではないか、と考えこの論文を紹介します。

この研究はイランで行われ、18歳から55歳までの疼痛を感じている尿路結石患者80名を、硫酸マグネシウム群(Mg群)と硫酸モルヒネ群(モルヒネ群)に無作為に振り分けて鎮痛効果を調べました。
Mg群では、硫酸マグネシウム50mg/kgが20分かけて静脈内投与され、モルヒネ群では硫酸モルヒネ0.1mg/kg(最大5mg)が1分かけて緩徐静注されました。(なお、盲検化するためにそれぞれ10mlシリンジでの蒸留水緩徐静注、生理食塩水100mlの点滴が行われています。)
主要評価項目はNRSによる痛みの変化で、介入前の痛みの平均スコアはMg群で7.93(SD = 1.42)、モルヒネ群で7.88(SD = 1.48)でした。薬剤投与10分後の痛みの平均スコアは、Mg群で5.70、モルヒネ群で4.88とモルヒネ群の方が有意に低い値となりましたが、20分後にはMg群で3.20、モルヒネ群で3.65となり両群間の有意差はなくなりました。
また懸念される副作用を副次評価項目としましたが、生命を脅かすような副作用はなく、両群に同程度の非特異的症状(嘔気、嘔吐、顔面紅潮、めまい)がみられました。

日本のERで尿路結石の痛みにモルヒネを使うことはなかなかないとは思いますが、マグネシウムにモルヒネと同等の鎮痛効果があることに驚きました。
マグネシウムは平滑筋弛緩作用があるため、尿路の平滑筋を緩める効果も期待できそうですね。
マグネシウムがいろんな鎮痛の適応になることを期待したいです。