2022.07.02

2022/07/02 文献紹介

7月に入ってしまいましたが、文献班から6月後半の文献紹介をお送りいたします。
6月後半担当は山本と竪です。
暑い関東からHOTな文献をお届けします、アチチ!!

ラインナップ
①3D VRヘッドセットを利用した処置時のdistractionの効果は!?
②ICU退室後患者の職場復帰率
③挿管時の血圧低下はボーラス投与で予防できるか!?
④尿路結石の鎮痛にデキサメタゾンを使用してみた
⑤局所麻酔薬Review、この文献を読んで復習しよう!!

練馬光が丘病院 総合救急診療科の竪です。私からは2つの文献を紹介します。
① Bosso L, Espejo T, et al.
Analgesic and Anxiolytic Effects of Virtual Reality During Minor Procedures in an Emergency Department: A Randomized Controlled Study
Ann Emerg Med. 2022 May 28:S0196-0644(22)00264-5.
doi: 10.1016/j.annemergmed.2022.04.015.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35641354/
子供の救急外来における縫合などの処置時に、iPadでyoutubeを見せたり、ぬいぐるみを見せたりして、注意を他に向ける努力をした経験はありますか?Distractionと言われる非薬物的方法ですね。
子供においては、処置時の疼痛や不安感を減らすために熱傷処置や静脈路確保の際、VRを使用する事に肯定的なエビデンスがあります。しかしCochraneでのreviewで、子供において3DのVRはVR以外のdistraction techniqueと比較して鎮痛などの効果に有意差はありませんでした。一方大人ではどうなのかという事に関してはこれまで検討されていませんでした。
今回はスイスの大学病院のERにおけるRCTです。18歳以上を対象とし、対照群は14インチのノートパソコン画面で2DのVR、介入群はVRヘッドセットを装着して3DのVRを見ます。VRの内容は「禅の庭」で、心を落ち着かせるような音楽が流れたりするようです。VAS により処置中の疼痛、不安感の程度を検討しています。VRを見るのは処置の準備中の最大5分間、処置中、処置後の5分間です。
結果ですが、両群で処置中の疼痛、不安感の程度に有意差はありませんでした。3D群では処置中に医師が患者とコミュニケーションを取る必要が出た際に、一時的にVRヘッドセットを外さねばならず、処置前の不安感が強い場合には処置前の最大5分間では不十分である可能性があります。これが有意差の出なかった原因として考察されています。
コストも考慮すると3Dまで使用する必要はなく、あくまで薬物的方法の補助なのかなと思います。しかしVRを臨床に取り入れた斬新な研究で興味深いと思ったので今回取り上げました。VRの内容については検討の余地がありそうです。皆様はどんなdistraction techniqueを普段使用していますか?

② Unoki T, Kitayama M, et al.
Employment status and its associated factors for patients 12 months after intensive care: Secondary analysis of the SMAP-HoPe study
PLoS One. 2022 Mar 18;17(3):e0263441.
doi: 10.1371/journal.pone.0263441.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35302991/
ICUで治療を受けた患者のうち、退院後に仕事へ復帰できる人の割合はどれくらいなのか想像できますか?
ICUで治療を受けた患者が仕事復帰できるかどうかは重要な問題です。2021年に冠動脈バイパス術か外科的大動脈置換術を受けた患者の34%は仕事復帰できなかったという研究が出ました。同年、日本からもJ-PICS studyというPICSの現状を調べた多施設研究が出て、ICUで治療を受けた患者のうち16.1%が仕事復帰できなかったという結果でした。しかしサンプルサイズが小さく、より大規模のコホート研究が望まれていました。
今回紹介する研究も日本からのもので、ICUで治療を受けた患者のメンタルヘルスやQOLを調査したSMAP-HoPe study(n=754)のサブ解析です。
元々仕事をしていて、ICUで治療を受けた後に退院してから1年後に自宅で生活している328人を対象としています。
結果ですが79人(24%)が仕事復帰できていませんでした。また高齢や重度のうつ症状が仕事復帰できていない事の独立した因子となっていました。そして仕事復帰できた人と比較して仕事復帰できなかった人の方が、経済状況の悪化(入院前と比較して)を報告する割合が多かったです。
PICS(post intensive care syndrome)という言葉を聞いた事がありますか?PICSはICUに入室中あるいは ICU 退室後に生じる身体障害、認知機能、精神障害のことです。ICU管理の進歩によりICUの生存率が上昇してきましたが、その後に身体障害や精神障害のために元通りの生活に戻れない患者が多い事が判明してきたのです。そして現在ではPICSを予防する取り組みが様々実施されるようになっています。生命予後だけでなく機能的予後まで意識して集中治療を行うのが必要になっているのです。
機能的予後の具体例として「仕事復帰」の現状を報告する研究が最近報告されており、救急の現場で少しでもそこに思いを馳せるのは大事ではないかと思い、紹介させて頂きました、仕事復帰できない割合が約4分の1というのは大きな数字ですね。

後半は聖マリアンナ医大の山本です。
私からは救急医に馴染みのある、挿管、尿路結石、局所麻酔薬中毒について、3つの文献を紹介します。

② Russell DW, Casey JD, et al.
Effect of Fluid Bolus Administration on Cardiovascular Collapse Among Critically Ill Patients Undergoing Tracheal Intubation: A Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2022 Jun 16.
doi: 10.1001/jama.2022.9792.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35707974/

『挿管時にルーチンで晶質液をボーラスしても、低血圧は防げない』

挿管時の血圧低下は死亡リスク上昇と関連するため、避けたいところです。
低血圧を避けるために輸液をボーラス投与することがあると思いますが、果たして効果があるのでしょうか!?
過去に行われたRCT(PrePARE trial, PMID: 31585796)では、輸液のボーラス投与は重度の低血圧や心停止、死亡リスクの低減に寄与しませんでした。
しかしこの研究では、事前に設定したサンプルサイズに達していない、割り付け前に投与された輸液量が不明、などの問題がありました。
またマスク換気やNIVで陽圧換気をしている場合に限れば有益な可能性が示唆されました。陽圧換気により静脈リターンが減少するので、ボーラス投与が有用だった可能性があるのです。
そこで今回紹介する文献です。
この研究は米国の11のICUで行われたRCTです。
対象は18歳以上で薬剤でinductionし、挿管前に陽圧換気(マスク換気 or NIV)を行う挿管患者です。
介入群はinducion前に500mLの晶質液をボーラス投与、コントロール群はボーラス投与なしです。
一次アウトカムは心血管collapseで、以下のうち1つが起こった場合と定義されました。
- 昇圧剤の開始 or 増量
- inductionから挿管2分後までのSBP<65mmHg
- inductionから挿管1時間後までの心停止
- inductionから挿管1時間後までの死亡
結果です、529人が介入群、538人がコントロール群に割付されました。
介入群の21%、コントロール群の18.2%に心血管collapseが起こり([95% CI, −2.2% to 7.7%], p=0.25)、両者に有意差はありませんでした。
つまり挿管時の低血圧を防ぐためのルーチンのボーラス投与は効果がない結果になりました。
ICUの研究なので、ERと患者背景が違うことに留意する必要があります。例えばhypovolemiaはICUの患者の方が是正されていそうです。また196人が緊急挿管が必要という理由で除外されています。これは選択バイアスになります。
この研究はボーラス投与を誰にするべきかは教えてくれませんが、少なくともルーチンのボーラスは効果が乏しそうです。

④ Razi A, Farrokhi E, et al.
Dexamethasone and ketorolac compare with ketorolac alone in acute renal colic: A randomized clinical trial Am J Emerg Med. 2022 Jun 2;58:245-250.
doi: 10.1016/j.ajem.2022.05.054.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35738193/

『尿路結石の疼痛コントロールにデキサメタゾンを使用してみた』

2つ目に紹介する文献は尿路結石の鎮痛にデキサメタゾンを使用した研究です。
ご存じのように尿路結石の鎮痛の第一選択はNSAIDsです。尿路結石の鎮痛においてNSAIDsはオピオイドよりも優れています。
デキサメタゾンはその機序はよくわかっていないものの、術後疼痛に対して使用されています。局所麻酔薬との併用で、鎮痛効果の持続や麻薬使用量を減少させることが知られています。
この研究はNSAIDsに加えてデキサメタゾンを使用した場合の鎮痛効果を検討したRCTです。
対象は18から60歳で、側腹部痛を主訴に救急を受診し尿路結石と診断、10cmのVASで5より強い痛みを訴えていた患者です。診断は白血球数、尿検査、超音波、CTをもとに専門医が判断してます。
患者は介入群とコントロール群にランダムに割り付けられ、介入群はケトロラク30mg IVとデキサメタゾン8mg IV、コントロール群はケトロラクとプラセボが投与されました。
一次アウトカムはVASで評価した疼痛です。投与1時間後まで30分おきに評価されました。
結果です。60人が各群に割り付けられました。ベースラインの疼痛の中央値は9.5(8-10)です。
介入群、コントロール群の0分、30分後、60分後のVASはそれぞれ、
介入群: 9.5 → 3.5(0.25-6) → 1(0-5)
コントロール群: 9.5 → 5(3-7) → 4(0-6)
でした。
投与30分後のVASは両群で有意差があったものの(p=0.009)、60分後のVASは有意差がありませんでした(p=0.07)。
麻薬必要性(35% vs. 58%, p=0.01)と制吐剤必要性(12% vs. 28%, p=0.022)は介入群で低値でした。
規模が小さい研究で、この結果をそのまま臨床にあてはめるのは抵抗があります。またステロイドの作用機序を考えると、本当に投与30分、60分で効果が出たのか疑問です。追試に期待しましょう。

⑤ Long B, Chavez S, et al.
Local anesthetic systemic toxicity: A narrative review for emergency clinicians
Am J Emerg Med. 2022
doi: 10.1016/j.aejm.2022.06.17
https://www.ajemjournal.com/article/S0735-6757(22)00384-9/fulltext

最後に紹介する文献は局所麻酔薬中毒(LAST)のNarrative Reviewです。

詳しい内容は本文を読んで頂くとして、ポイントのみお伝えします。

LASTの病態生理、症状
・LASTは局所麻酔薬の心臓、脳のNaチャネルへの作用で起こる
・CNS症状は感覚障害、視覚障害、痙攣、意識障害、呼吸停止、心血管症状は不整脈、低血圧、心停止
・心血管症状の方が重症度が高く予後悪い
・アミド型(ブピバカイン、ロピバカイン、リドカイン、メピバカインなど)は肝代謝、エステル型(プロカイン、テトラカイン、ベンゾカインなど)は血漿コリンエステラーゼで水溶性代謝物になり腎排泄、エステル型は半減期が短くLASTの発生率下げる
・cardiovascular-collapse-to-CNS ratio(CC:CNS ratio)
CC:CNS ratioは心血管毒性と痙攣をきたす用量の比で、CC:CNS ratioが高値ほど安全域大(心血管症状のずっと前にCNS症状が出現)
・CC:CNS ratioは低い順(心毒性が強い順)にブピバカイン、レボブピバカイン、ロピバカイン、リドカイン
・ブピバカインとロピバカインは不整脈を起こしやすく、リドカインとメピバカインは収縮力低下から低血圧を起こしやすい
・1/4が注射から1分以内に発症、初期症状の約80%はCNS症状、68%が痙攣。半数がCNSと心血管症状両方、1/3が不整脈、低血圧など重度の心血管症状
・初期症状は金属味、口周囲の異常感覚、視覚・聴覚異常、めまい、構音障害、味覚障害、筋痙攣、興奮、幻覚、意識変容
・不整脈は色々、徐脈やブロックから頻脈性不整脈、VTやVFで心停止も
LASTの対応
・LAST疑ったら局所麻酔薬の注入やめ緊急カート、蘇生セット準備
・低酸素とアシドーシスはLASTの増悪因子、可能な限り是正、必要時挿管
・痙攣にベンゾジアゼピン繰り返す、それでも持続なら少量プロポフォールやケタミン
・VTやVFにリドカインなどNa遮断薬避けアミオダロン
・心停止のアドレナリンは体重あたり1μg/kgに減量。1mg投与は不整脈悪化の可能性、ただしこの推奨は動物実験が元、人では不明
・痙攣や重度の心毒性(血行動態に影響を与える不整脈、低血圧、心停止)に20%脂肪乳剤
・逆に軽度のCNS症状(口周囲の感覚異常、視覚聴覚異常、めまい、構音障害、筋痙攣など)に脂肪乳剤は不要
・脂肪乳剤は卵黄と大豆アレルギーに禁
20%脂肪乳剤の使用方法
ASRA(American Society of Regional Anesthesia)の推奨
・2, 3分でボーラス量を投与後、理想体重量を15-20分かけて追加投与、体重>70kgの場合、100mLをボーラスし200-250mLを追加投与、体重<70kgの場合、1.5mL/kgをボーラス投与し、0.25mL/kg/minuteで持続投与
・ボーラス投与2-3分後も不安定な場合、5分おきにボーラスを繰り返す
ACMT(American College of Medical Toxicology)とAAGBI(Association of Anaesthetists of Great Britain and Ireland)の推奨
・1.5mL/kgのボーラス投与、劇的に改善したら、0.025mL/kg/minuteに減速、減速後再増悪したら、ボーラス再投与 or 持続を0.25mL/kg/minuteに流速up
予防のポイント
・薬剤注入前に陰圧かけ血管誤穿刺ないか確認
・事前に極量を計算、フレイルや高齢者、妊婦、小児患者では減量。肥満患者では極量を理想体重で計算
・処置に必要な時間と効果が得られる最小量の使用を心掛ける
・CC:CNS ratioが高い(心毒性が少ない)薬剤を使用
・ブロックはエコーガイド下で
・E入りを使用、E入りが直接血管内に入ると、HR>10, SBP>15の上昇が起きるので判断可能

6月後半の文献紹介は以上です。
これからも文献班をよろしくお願いします。

聖マリアンナ医科大学
山本 一太