2021.12.17

2021/12/16 文献紹介

皆様こんにちは。
年の瀬が近づき、徐々に忙しくなってきましたね。
文献班から12月前半の文献紹介をお届けします。
今回は東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科の竪と沖縄県立中部病院 救急科の山本が担当です。

今回の文献の概要は以下です。
② ICUでの個別の血糖管理は死亡率を改善させなかった
② COPD急性増悪の際のステロイドの量は、個別化した方が治療失敗は少なかった
③ SAHに対するCTの感度は最近のCTではどうなの!?
④ アルテプラーゼ投与前の降圧薬は持続 or 間欠投与!?
⑤ 血栓回収療法単独 vs アルテプラーゼ併用 初のヨーロッパでのRCT

それではお楽しみください。

東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科の竪です。私からは2つの文献を紹介します。今回は「個別化」シリーズでお届けします。

① Julien Bohe, Hassane Abidi et al.
Individual versus conventional glucose control in critically-ill patients: the CONTROLING study-a randomized clinical trial
Intensive Care Med. 2021; 47: 1271-1283
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34590159/

「ICUでの個別の血糖管理は死亡率を改善させなかった」というフランスの多施設RCTです。

現在、NICE-SUGAR試験の結果を受けて重症患者の血糖目標は180mg/dl以下というのが一般的です。しかし糖尿病患者は非糖尿病患者と比べて、死亡率が最も低くなるICU内での血糖値がより高い、という観察研究がいくつか見られています。元々の血糖値に合わせた血糖管理が最善かもしれないという仮説をもとに今回のRCTが実施されました。

対照群は「血糖目標が180mg/dl以下」で、介入群は「血糖目標が(普段の血糖値+15)mg/dl以下」です。普段の血糖値は28.7×HbA1c−46.7という式で計算されます。HbA1cが4.96%の際に血糖目標が111mg/dlとなり、これが最低値に設定されています。

血糖値に応じた持続インスリン量の調整は、プロトコールをもとにアプリによって看護師に指示され、患者と医療者の両者から盲検化されています。

結果ですが、両群で90日死亡率は有意差がありませんでした。低血糖は有意差をもって介入群で多く見られました。サブグループ解析では非糖尿病患者において、介入群で低血糖の発症率と90日死亡率が有意差をもって高かったです。有益性の可能性の低さと低血糖関連の有害性を考慮し、試験は途中で中止となりました。

個別の血糖管理を使用した初めての研究です。ランダム化までは両群共に血糖目標180mg/dl以下で管理されており、介入群の中には対照群と同じ血糖管理の時間の方が長いケースもあったり、血糖値が迅速血糖測定器で行われているなどのlimitationがあり、今後の追試に期待したいと思います。

② Li L, Zhao N, Ma X, et al.
Personalized variable vs fixed-dose systemic corticosteroid therapy in hospitalized patients with acute exacerbations of copd: a prospective, multicenter, randomized, open-label clinical trial.
Chest. 2021;160(5):1660-1669.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34023318/

「COPD急性増悪の際のステロイドの量は、個別化した方が治療失敗は少なかった」という中国の多施設RCTです。

GOLDなどの国際ガイドラインでは、COPD急性増悪の際にステロイドの量に関してプレドニゾロン40mg/日が推奨されています。しかし実臨床ではそれより多くの量が使用されているという研究もあり、至適量は不明のままです。

対照群はGOLDの推奨と同様プレドニゾロン40mg/日を投与され、介入群は(5項目から算出されたプレドニゾロンの投与量)/日を投与されます。その5項目とはAnthonisen type、CAT(COPD Assessment Test) score、以前の急性増悪の際に使用されたステロイド量、炎症マーカー(CRPと好酸球割合)、血液ガス分析(pHとPaCO2)です。最小量は0mgで、最大量は(2.5×体重)mgです。最大量は体重が80kgなら200mgになります。投与期間は両群共に原則5日間ですが、治療失敗と判断されれば、延長されます。

結果ですが、治療失敗(院内と退院後の180日以内の複合)は対照群で48.8%、介入群で27.6%と介入群で有意に少なかったです(P=0.001)。治療失敗例におけるステロイドの追加使用量、期間も介入群で有意に少なかったです。ステロイドの副作用である高血糖と不眠の発生は両群で差はなく、消化管出血、骨折、精神症状などは両群共に見られませんでした。

個別化の量が固定量より優れているかどうかを検証した初めての研究です。筆者らは個別化を勧めているというより、そもそも40mgという量が少なく、60mgが固定量として至適量かもしれないと述べています。これは介入群の中で60mg以下と60mgを超える量の2群で比較すると治療失敗率が変わらなかったという結果からです。今後ガイドラインへ反映される可能性がありますので、注目していきたいと思います。

後半です。
ここからは山本からは脳神経救急に関連する3つの文献を紹介します。

③ Vincent A, Pearson S, Pickering JW, et al.
Sensitivity of modern multislice ct for subarachnoid haemorrhage at incremental timepoints after headache onset: a 10-year analysis.
Emergency Medicine Journal: EMJ. 2021;2021 Nov 24.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34819306/

「SAHに対するCTの感度は最近のCTではどうなの!?」

2011年の前向きコホート研究は、頭痛発症6時間以内に撮影された単純CTはSAHの除外に感度100%と報告しています。
しかし発症6時間を超えて受診した頭痛患者で、CTが陰性、その後腰椎穿刺やMRIなどを駆使するも、結局SAHではなさそう…
このような経験をしているのは自分だけではないはず…
そんな違和感に少しだけ答えてくれる文献を紹介します。
上記研究の初期(2000-2002年)に使用されたCTは、後頭蓋窩のスライス幅が5mm、それ以外の部分は10mmであり、現在の標準とは大きく異なります。また現在のCTはノイズ除去、解像度、モーションアーチファクトが改善されています。そのため6時間というタイムウィンドウが伸ばせるのではないか?という疑問がこの研究の目的です。
ニュージーランドの単施設の電子カルテを後ろ向きに検討しています。この病院はニュージーランド南島の脳神経外科の中核病院であり、頭痛で救急を受診した後に別の病院にSAHで入院になる可能性が少ないという特徴があります。 2008年1月1日から2017年12月31日までにICD-10でSAHがコードされている患者が対象です。外傷性やSAH診断後再診している患者などは除外されています。

また正確な発症時間が不明な症例に対して、発症時間の推定を2通りで行っています。1つ目は偽陰性が最も大きくなる方法、2つ目は偽陰性が最も小さくなる方法です。

最終的に347人のSAH患者が対象で、うち260人が動脈瘤性です。
結果、発症24時間時点での感度は以下でした。
· 偽陰性が最大になるよう発症時間を推定した場合
動脈瘤性のSAH: 100%(95% CI: 98.3-100)
全てのSAH: 99.3%(95% CI: 97.5-99.9)
· 偽陰性が最小になるよう発症時間を推定した場合
動脈瘤性のSAH: 100%(95% CI: 98.2-100)
全てのSAH: 99.3%(95% CI: 97.2-99.9)

いずれの場合も発症24時間時点で非常に高い感度でした。本文では発症6時間以内から96時間以降までの感度が計算されているので、確認してみて下さい。

単施設でSAHと診断された患者のみを対象としており、この結果を即臨床に当てはめることはできませんね。複数施設での前向き研究や、頭痛でSAHを疑う患者を対象とした研究が出てくることを期待しています。

④ Kamp A, Huang W, Lassiter T, Shah S, Liu B, Kram B.
Comparison of intermittent versus continuous infusion antihypertensives in acute ischemic stroke.
American Journal of Emergency Medicine. 2021.

「アルテプラーゼ投与前の降圧薬は持続 or 間欠投与!?」

脳梗塞患者への血栓溶解療法は来院から60分以内が目標で、この時間を15分短縮するごとに死亡率が低下することがわかっています。血圧が高値の患者に対しては、アルテプラーゼ静注前に185/110mmhg以下を目標に血圧をコントロールする必要があります。よって迅速な降圧が時間を短縮する潜在的な指標になると言われています。一方でどの降圧薬が良いか、持続もしくは間欠投与が良いかはわかっていません。この研究は米国で間欠投与または持続投与に使用する降圧薬が、アルテプラーゼ静注までの時間の短縮に影響があるかを調べるために行われました。

米国3施設の多施設後ろ向きコホート研究です。2013年9月1日から2020年8月31日の期間に脳梗塞で救急を受診し、降圧治療を受けたうえでアルテプラーゼを投与された患者が対象です。間欠投与はラベタロール、ヒドララジン、持続投与はニカルジピンやクレビジピンが使用されました。

主要アウトカムは受診からアルテプラーゼ投与までの時間です(door-to-needle time)。

179人の患者が対象となり、122人が間欠投与、57人が持続投与を受けました。降圧薬の内訳はラベタロール 105人、ヒドララジン 17人、ニカルジピン 29人、クレビジピン 28人でした。来院時の血圧は持続投与群が高値でした(204/102.5 vs 187/97.5mmHg)。

主要アウトカムに差はなく、door-to-needle timeは間欠投与 vs 持続投与で53分 vs. 57分(p=0.17)でした。

低血圧や出血などの有害事象も差がありませんでした。
一方でコストは間欠投与で安く、コストの中央値は2.20ドル vs 71.4ドルでした。

日本で使用できない、または一般的に使用しない薬剤が含まれているので実用的な結果ではないと思います。

とはいえ間欠投与と持続投与のどちらが良いかなど考えたことがなかったので、面白い視点の研究と思い紹介しました!!

⑤ LeCouffe NE, Kappelhof M, Treurniet KM, et al.
A randomized trial of intravenous alteplase before endovascular treatment for stroke.
The New England Journal of Medicine. 2021;385(20):1833-1844.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34758251/

「血栓回収療法単独 vs アルテプラーゼ併用 初のヨーロッパでのRCT」

最後に紹介する文献は血栓回収療法単独 vs アルテプラーゼ併用のRCTです。
文献班では過去にDIRECT-MT, DEVT, SKIPの3つのRCTを紹介してきましたが、いずれも東アジアで行われた研究です(DIRECT-MT: https://www.emalliance.org/education/dissertation/20200632 , DEVT, SKIP: https://www.emalliance.org/education/dissertation/20210316 )。
今回紹介する研究はヨーロッパで行われました。

その前に過去の3つの研究をまとめておきましょう。細かい違いはありますが、3つの研究とも概ね、18歳以上の前方循環の主幹動脈の閉塞に対して、4.5時間以内にアルテプラーゼが投与された患者が対象です。主要アウトカムは90日後の神経学的予後(modified Rankin scale)です。SKIP以外、アルテプラーゼ投与量は0.9mg/kgです。
1. DIRECT-MT (2020年)
中国 41施設 非劣性RCT
対象患者数 654人(単独 327人 併用 329人)
非劣性マージン odds ratio 0.80
結果: 非劣性を証明
2. SKIP (2021年)
日本 23施設 非劣性RCT
対象患者数 204人(単独 101人 併用 103人)
※アルテプラーゼ投与量 0.6mg/kg
非劣性マージン odds ratio 0.74
結果: 非劣性を証明できず
3. DEVT (2021年)
中国 33施設 非劣性RCT
対象患者数 234人(単独 116人 併用 118人)
非劣性マージン 群間差 -10%
結果: 非劣性を証明

では今回の紹介する研究です。
この研究はオランダ、ベルギー、フランスの20施設で行われました。

今回の研究では血栓回収療法の優越性と非劣性を検討しています。非劣性マージンはodds ratioで0.80に設定されました。主要アウトカムは90日後のmodified Rankin scaleです。

対象患者は539人で、273人が血栓回収療法単独に、266人がアルテプラーゼ併用に割り当てられました。最終的なodds ratioは0.84(95%CI: 0.62-1.15; p=0.28)で、優越性も非劣性も証明することができませんでした。

これまでの研究とは異なる点についてdiscussionで述べられており、興味があれば本文も読んでみてください。

この分野に関しては、まだまだ知見の集積が必要なようですね。
これからの研究に期待です。

12月前半の文献紹介は以上です。
これからも文献班をよろしくお願いいたします。

山本 一太