2021.04.02

2021/04/02 文献紹介

東京ベイ・浦安市川医療センターの竪と沖縄県立中部病院の山本です。
すでに4月に入ってしまいましたが、3月後半の文献紹介をお送りいたします!!

今回は以下の4文献を紹介いたします!!

① 鼻出血に対するトランサミンは有効でないかも!?
② 嘔吐前の腹痛は本当に虫垂炎の診断に有用なのか!?
③、④ 脳梗塞に対する血栓回収療法単独 vs 血栓回収療法 + アルテプラーゼ
それではお楽しみください!!

東京ベイ・浦安市川医療センター 集中治療科の竪です。私からは2つの文献を紹介します。

① Adam R, Andrew A et al. The Use of Tranexamic Acid to Reduce the Need for Nasal packing in Epistaxis (NoPAC): Randomized Controlled Trial
Ann Emerg Med. 2021 Feb 18; S0196-0644(20)31461-X.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33612282/

「鼻出血に対するトランサミンの使用が前鼻腔パッキングの必要性を減らさなかった」というRCTです。

消化管出血や喀血に対するトランサミンの研究がここ数年出ていますが、今回は鼻出血です。鼻出血に対するトランサミンの使用はこれまで前鼻腔パッキングとの比較試験がいくつか施行されましたが、サンプル数が少なかったり、単施設であったり、一貫した結果ではなかったり。システマティックレビューでも止血に有意な差がありませんでした。

今回は英国の多施設で、ファーストエイド(鼻翼の圧迫など)と血管収縮薬で湿らせたデンタルロール(歯科治療の止血用に一時的に詰め込む円柱形の綿球)を10分間詰める処置の後も鼻出血が持続する救急外来患者496人を対象にしました。トランサミン200mg~400mgもしくはプラセボで湿らせたデンタルロールを出血している鼻腔に10分間詰めて、その後に前鼻腔パッキングを要した割合を比較しました。

結果としては、両群とも前鼻腔パッキングを40%程度要し、トランサミンの有用性を示せませんでした。

驚く事に英国では、前鼻腔パッキングを要した症例は平均3日程度の入院となるようで、24時間程度のパッキング自体が苦痛や不快となるため、それをなるべく減らすべく今回の試験デザインとなったようです。

日本の救急外来の現状を考慮すると、ボスキシガーゼとトランサミンガーゼの比較が気になるところではないでしょうか。皆さんの施設ではトランサミンを鼻出血に使用していますか?

② Toshihiko T, Ryota I et al. Is “pain before vomiting” useful?: Diagnostic performance of the classic patient history item in acute appendicitis
American Journal of Emergency Medicine 41 (2021) 84-89
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33401081/

「嘔吐前の腹痛が本当に虫垂炎の診断において有用であった」という観察研究です。

虫垂炎の典型的な病歴として、心窩部痛の後に嘔気、嘔吐、その後に腹痛が右下腹部に移動するというのは有名ですよね。しかし実はこの病歴の診断能を評価したのは1976年の研究だけなのです(感度100%、特異度64%)。しかもその研究の腹痛の4割以上は原因不明であり、虫垂炎を見逃している可能性がありました。

今回は日本の3つの急性期病院で、嘔吐前の腹痛の診断能を約50年ぶりに評価しました。虫垂炎の診断の参照基準としてCTが使用されました。嘔吐と腹痛で一般外来または救急外来を受診した18歳以上の患者が対象です。

対象310人の中で、虫垂炎と診断されたのは24人で、そのうち23人に「嘔吐前に腹痛」がありました。また、虫垂炎以外の診断となったのは286人で、そのうち238人に「嘔吐前に腹痛」がありました。感度95.8%、特異度16.6%でした。

1976年の研究と違って特異度はかなり低かったですが、感度はかなり良いですね。「嘔吐前の腹痛」が陰性となった1例については、先行する腸管感染による虫垂周囲の組織の炎症が、虫垂の閉塞を引き起こした可能性があると考察されています。Alvarado scoreが4点以上で、嘔吐前に腹痛がある175人の中に虫垂炎以外の診断となった患者が153人もおり、確定診断には使用できないので注意です。

Alvarado scoreとの組み合わせで、更に11.6%の患者で虫垂炎の除外ができて不要なCTを減らす事ができ、プライマリケアのセッティングやCTへのアクセスが悪い後進国では特に重要であると記載されています。

当たり前と思い込んでいる事実が本当に正しいのかを確認する事はどの分野においても大切ですが、この文献はまさしくそれを体現していると思います。

さて後半は熱い沖縄から沖縄県立中部病院の山本 一太が担当します。

今まさに熱いテーマ、脳梗塞の血栓回収療法にアルテプラーゼを併用するべきか!?
についてSKIP trialとDEVT trialの2つの多施設非劣性RCTを紹介します!!

同様のテーマで8月後半にDIRECT-MTという研究を紹介させて頂きました。
この文献もチェック↓↓↓

https://www.emalliance.org/education/dissertation/20200632

③ Suzuki K et al., Effect of Mechanical Thrombectomy Without vs With Intravenous Thrombolysis on Functional Outcome Among Patients With Acute Ischemic Stroke: The SKIP Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021 Jan 19;325(3):244-253.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33464334/

まず日本の23施設で行われたSKIP trialを紹介します。

対象は18-85歳の成人、発症4.5時間以内でアルテプラーゼ投与(0.6mg/kg)の適応、CTAまたはMRAで内頚動脈や中大動脈M1の閉塞あり、ASPECTS CT score 6-10またはDWI-ASPECTS score 5-10、NIHSS≧6、発症前modified Rankin Scale (mRS) 0-2です。

プライマリーアウトカムは発症90日時点での良好な機能予後(mRS 0-2)、非劣性マージンはodds ratio 0.74です。

101人が血栓回収療法単独群、103人がアルテプラーゼ併用群にランダム化割り付けされ、10人がランダム化後に除外、最終的に194人が対象です。

対象の年齢中央値は単独群 74歳 vs 併用群76歳、NIHSS中央値は単独群 19点 vs 併用群 17点、90日時点でのmRS0-2は単独群 59.4% vs 併用群 57.3%で、odds ratioは1.09(片側97.5%CI: 0.63〜∞)となり、血栓回収療法単独の非劣性を証明することはできませんでした。

NIHSSに若干差がある、対象患者が少ない、アルテプラーゼ量が国際的な標準量より少ない、などのlimitationがあります。

④ Zi W et al., Effect of Endovascular Treatment Alone vs Intravenous Alteplase Plus Endovascular Treatment on Functional Independence in Patients With Acute Ischemic Stroke: The DEVT Randomized Clinical Trial. JAMA. 2021 Jan 19;325(3):234-243.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33464335/

続いて中国の33施設で行われたRCT DEVT trialを紹介します。

こちらも対象患者はほとんど同じですが、アルテプラーゼ投与量は0.9mg/kgです。

プライマリーアウトカムも発症90日時点でのmRS 0-2と同じで、非劣性マージンは odds ratioではなく群間差として-10%が設定されています。

予定サンプル数の20%が90日の追跡調査を完了した時点で事前に設定されていた中間解析を行い、単独群の非劣性が証明され早期終了となりました。最終的に234人のうち116人が血栓回収療法単独群、118人がアルテプラーゼ併用群にランダム化割り付けされました。

対象の年齢中央値は70歳、NIHSS中央値はいずれの群も16点、到着からアルテプラーゼ投与までの中央値は61分、90日時点でのmRS0-2は単独群 54.3% vs 併用群 46.6%、群間差 7.7% (片側97.5%CI: -5.1〜∞)となり、血栓回収療法単独でのアルテプラーゼ併用療法に対する非劣性が証明されました。

この研究も対象患者が早期終了により予定より少ない、参加辞退者が多いなど、limitationがあります。

2つの研究で異なる結果がでました。先のDIRECT-MTと合わせて3つのRCTが揃いましたが、結論を出すには十分ではないようです。そしていずれもStroke Centerのようなすぐに血栓回収にアクセスできる施設で行われていることにも注意が必要です。一方で、数値だけ見ると3つの研究とも血栓回収療法単独群が良好な結果を残しています。

血栓回収療法がすぐに行える施設では単独治療が主流になるのか、一方で血栓回収療法が施行できない施設の場合、リスクベネフィットを考慮した上で、アルテプラーゼ+転院という選択肢が残るのか、それとも血栓回収療法ができる施設への搬送を優先するのか、など解決すべき疑問は多数あります。
今後に注目です!!