2020.11.17

2020/11/17文献紹介

EMA文献班、防衛医大救急部の山田浩平です。
11月前半の文献紹介を健生病院の徳竹先生と一緒にお送りします。

今回は外傷×トラネキサム酸(TXA)特集です!

①頭部外傷×TXA、プレホスピタル版RCT
②出血性ショック×TXA、プレホスピタル版RCT
③頭部外傷×TXAのシステマティックレビュー最新版
の3本立てです!

①Rowell SE et al. Effect of Out-of-Hospital Tranexamic Acid vs Placebo on 6-Month Functional Neurologic Outcomes in Patients With Moderate or Severe Traumatic Brain Injury.
JAMA. 2020 Sep 8;324(10):961-974.
PMID: 32897344

はやいもので、CRASH-3が発表されてから1年が経ちました。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/journal-20191031?searched=CRASH&advsearch=oneword&highlight=ajaxSearch_highlight+ajaxSearch_highlight1

TXAに関する研究はそれ以降も続々と出てきています。

さて、今回の研究は気合が入っています。
中等度~重度の頭部外傷に対して院外(ERに到着するよりも早い段階!)でTXA投与をしたらどうなるかを検証しています。

アメリカとカナダで行われた多施設共同二重盲検化ランダム化試験です。
15歳以上、GCS3-12の鈍的および穿通性頭部外傷、最低でも片側の対光反射あり、SBP≧90mmHg、受傷から2時間以内の症例が対象になりました。

TXA群…院外でTXA1gまたは2g bolus投与に引き続き、院内でTXA 1g 8時間で持続投与
Placebo群…院内外で上記に合わせてplacebo投与
TXA2gって多くない?と思いましたが、院外や軍隊での使用時には利便性が高いとされている方法なんだとか。

最終的に966人が対象となりました。
受傷から薬剤投与までは平均40分ほどでした。ERで投与するよりもだいぶ早そうです。
6か月後の良好な神経学的予後(Glasgow Outcome Scale Extended>4)を達成できたのは、TXA群65%、placebo群62%でリスク差-3.5、有意差はありませんでした。

残念なことに、薬剤のbolus投与は93-95%で行われましたが持続投与が行われたのは69-77%でしかなかったようです。しかも、最終的に頭蓋内出血を認めた患者は半数程度でした。
これによりTXAの効果が減弱してしまったのかもしれません。院外主体の研究なので仕方ないでしょうか。

とはいえ、3.5%の差があるというのは実はすごい結果なのではないかとも思います。
上記条件を揃えて、大規模な研究をやれば有意な差が出てくるかも。

→ 当時我々は、CRASH-3の結果より「GCS 9-15や両側対光反射ありには効果があるかもしれない」と考えていました。
今回の研究と併せて考えると、GCS9-12くらいが最も効果的なのかもしれません。

②STAAMP Study Group. Tranexamic Acid During Prehospital Transport in Patients at Risk for Hemorrhage After Injury: A Double-blind, Placebo-Controlled, Randomized Clinical Trial.
JAMA Surg. 2020 Oct 5:e204350. Epub ahead of print.
PMID: 33016996

CRASH-2の結果から、出血を伴う外傷(特にショックの徴候がある場合)に対してTXAを早期に使用することは正当化されると考えています。

さて、こちらも院外でTXAを投与したらどうなるのかを検証した研究です。
早ければ早いほど効果あるんでしょうか?

多施設二重盲検化ランダム化試験で、受傷から2時間以内かつSBP≦90mmHgまたはHR≧110bpmの18歳~90歳が対象となりました。
病院前でTXA1gまたはplaceboが投与され、院内ではTXA投与群は最終的に合計1‐3gのTXAが投与されています。

最終的に903人が対象となりました。
30日死亡率には両群で有意な差は出ませんでした。
サブグループ解析を見てみると、TXA3g投与、1時間以内の投与やSBP≦70mmHgでは30日死亡率が有意に低下しました。
いずれの群でもVTE発症率やけいれん発作を増加させることはありませんでした。

「重症(ショック)」には「なるべく早期(できれば1時間以内!)」にTXA投与するというのはやはりまだ正当化されると思われます。

HALT-IT(消化管出血へのTXA投与)の結果によれば、
TXA投与が多すぎると痙攣する可能性があると報告されており、TXA3g投与は気が引けますが…。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/7?searched=HALT-IT&advsearch=oneword&highlight=ajaxSearch_highlight+ajaxSearch_highlight1

最近TXAについてはnegativeな結果が出てきていますが、不要!と結論付けるにはまだ少し時期尚早なようです。
重症度や外傷の種類、抗血栓薬使用の有無などによってもいろいろ研究が組めそうで、まだまだ議論は続く分野なのでしょう。

個人的には、まだなるべく早い段階でのTXA投与をしておきたいと考えました。

③Lawati KA, et al. Efficacy and safety of tranexamic acid in acute traumatic brain injury: a systematic review and meta-analysis of randomized-controlled trials. Intensive Care Med. 2020 Oct 20. Epub ahead of print.
PMID: 33079217

最後に、今回の①のRCTや去年のCRASH-3を含めた最新のシステマテックレビュー(SR)を紹介します。

P:頭部外傷で頭蓋内出血がある15歳以上
I:トラネキサム酸投与あり(用量問わず)
C:プラセボ/通常ケア
O:死亡、意識レベル、有害事象など

に合致した計9つのRCTがincludeされました。今回の①やCRASH-3もincludeされています。

結果は死亡に関してはリスク比 0.95 (95% CI 0.88 - 1.02)と有意差はありませんでした。
その他、意識レベル、有害事象の数でも有意差はありませんでした。
血腫拡大幅は、平均差が-2.46ml (95% CI -6.46 - 1.55ml)と有意差はあるとは言えなかったものの、筆者らは血腫拡大抑制には効果がある可能性がある、としています。

この結果の方向性は圧倒的なnを誇るCRASH-3を除いた感度分析でも同様でした。
また、重症度に応じたsub group解析は、十分な研究数がなくできなかったようです。

筆者らは本文中で「明確な益がなく、コストもかかるので頭部外傷にTXAを使わない」、「有害事象はなく血腫サイズ減少に寄与する可能性があるので頭部外傷にTXAを使う」
どちらの立場も許容できるだろうと述べています。

…いかがでしょうか?

近年急速に広まってきたTXAですが、ここ最近negative studyが続いています。

私自身は「使う派」ですが、TXA投与について考え直してみるいいきっかけになったと思います。
今後の研究で効くシチュエーションがより明確になるといいですね。
引き続き今後の動向をチェックしましょう!