2019.12.25

2019/10/31 文献紹介

みなさま

コチラ、EMA文献班です!
文献版ではメーリングリストで、月2回文献の紹介を行っています。

今回は4つの文献を紹介します!

① 単独頭部外傷にトラネキサム酸投与する?
② トラネキサム酸投与で血栓性合併症は起こる?
③ 尿路結石症を疑ったときのベストな画像診断は?
④ 在胎28週未満で出生した新生児、すぐに三次病院に転院しても良い?

今夜はハロウィン。「Trick or Read!」
文献読まないとおばけにイタズラされちゃうかも?!

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① CRASH-3 trial collaborators.
Effects of tranexamic acid on death, disability, vascular occlusive events and other morbidities in patients with acute traumatic brain injury (CRASH-3): a randomised, placebo-controlled trial
Lancet. 2019. [Epub ahead of print] PMID:31623894

トラネキサム酸投与の有効性を調べる大規模研究として、、、

 重症外傷  CRASH-2 (Lancet. 2010 Jul 3;376(9734):23-32.)
 分娩後出血  WOMAN trial (Lancet. 2017 May 27;389(10084):2105-2116.)
 内因性脳出血  TICH-2 (Health Technol Assess. 2019 Jul;23(35):1-48.)

が知られていますが、このたび単独頭部外傷に対する有効性を調べたCRASH-3の結果が発表されました!!

CRASH-3は単独頭部外傷に対するトラネキサム酸投与がテーマです。(CRASH-2では単独頭部外傷が除外されていました!!)
対象は、受傷から3時間以内、GCS≦12 or 頭部CTで頭蓋内出血、他の部位にひどい出血がない成人の頭部外傷症例。
投与方法は他の研究と同様で1gを10分以上かけて投与し、その後さらに1gを8時間以上かけて投与しています。

primary outcomeは受傷28日以内の頭部外傷関連死であり、トラネキサム酸投与で有意な発生率減少はありませんでした(RR 0.94, 95% CI 0.86-1.02)。

subgroup解析は興味深い結果となっています。
GCS 9-15 の症例ではトラネキサム酸投与群で頭部外傷関連死の発生率が低かった(RR 0.78, 95% CI 0.64-0.95)ようです。
GCS 9-15 の症例ではトラネキサム酸投与が早いほど有効であることも示されています(p=0.005)。

primary outcomeでは有意な差がありませんでしたが、みなさまは単独頭部外傷に対するトラネキサム酸投与をどのようにされますか?
わたしは、受傷から3時間以内の症例で「GCS 9-15」や「両側対光反射あり」の場合は、特に「急いで」トラネキサム酸投与を行いたいと思っています。

② Chornenki NLJ et al.
Risk of venous and arterial thrombosis in non-surgical patients receiving systemic tranexamic acid: A systematic review and meta-analysis.
Thromb Res. 2019;179:81-86. PMID:31100632

「外科手術以外での出血予防や治療で、トラネキサム酸の全身投与は血栓性合併症を増やさない!!」

皆さんは、血栓溶解療法施行時や抗血小板薬・抗凝固薬を使用する際には、患者さんに「出血のリスクがあること」を説明していると思いますが、止血剤としてトラネキサム酸を投与する際には逆に「血栓症を起こすリスクがあること」を説明しますか?少なくとも自分はしたことありませんでした。

トラネキサム酸で血栓症は増えないのか?

このシステマティックレビュー&メタアナリシスでは、22の研究、約5万人の症例をレビューしており、対象となった疾患は白血病関連の出血、消化管出血、遺伝性出血性毛細血管拡張症、重篤な月経出血、頭蓋内出血、クモ膜下出血、外傷性脳損傷、外傷(CRASH-2)、分娩後出血、肝斑でした。血栓性合併症として脳卒中、心筋梗塞、肺塞栓症、深部静脈血栓症を調べています。

投与方法や合併症の確認方法などの違いで結果の解釈に注意する必要がありますが、少なくとも血栓性合併症を有意に増やすことはなく死亡率を下げる(RR 0.92 CI 0.87-0.98)、といえそうです。
ただ、元々凝固異常のある症例を組み入れていない可能性があるため、そのような方に適応する場合は慎重になる必要があります。
今回のレビューには組み込まれなかった白血病や進行子宮頸がんの研究でも、血栓症の増加は見られていないようでさらなる知見の蓄積でより安全に使えることが期待されます。

③ Moore CL, et al.
Imaging in Suspected Renal Colic: Systematic Review of the Literature and Multispecialty Consensus.
Ann Emerg Med. 2019 Sep;74(3):391-399. PMID:31402153

尿路結石を疑う患者さんにどのような診断アプローチをされていますか?
泌尿器科学会が作成した尿路結石症診療ガイドライン2013年度版では、確定診断にCT検査を推奨しています(Grade A)。
そのため、尿路結石を疑ったら全例CTという施設も多いのではないでしょうか?

この論文では、American College of Emergency Physicians,American College of Radiology,American Urology Associationからそれぞれ3人ずつのエキスパートが代表として、システマティックレビューを元に、29の具体的なシナリオにおける最適な画像診断プロセスのコンセンサスを形成しました。それぞれのシナリオに対して、画像検査を行わない、POCUS、放射線科医が施行する超音波検査、低線量CT、非造影CT、造影CTのいずれが適切かを提案しています。

例えば、
「尿路結石の既往のない35歳男性、急に発症した側腹部痛が3時間継続している。嘔気・嘔吐あり、尿試験紙で血尿を呈している。腹部の圧痛はなく、静注の鎮痛薬で痛みは改善している」
といったシナリオに対して9人のエキスパートは全員一致して「POCUS」を推奨しています。(POCUS以上の画像検査は提案していません)

各施設や地域の事情もあるかもしれませんが、CTによる被爆もありますので、一度シナリオをみて日常診療を見直してみてはいかかでしょうか?

なお今回のシステマティックレビューでは通常のCTの文献も取り上げていますが、こちらは正診率ではなく別の診断やその後治療方針への影響を調べています。
それによると、急性の代替診断(すぐに治療介入が必要な別の疾患)の有病率は5%以下だった、とのことです。

④ Helenius K, et al.
Association of early postnatal transfer and birth outside a tertiary hospital with mortality and severe brain injury in extremely preterm infants: observational cohort study with propensity score matching.
BMJ. 2019;367:l5678. PMID:31619384

もし、あなたが総合周産期母子医療センターではない施設でER医として働いていて、救急隊から「妊娠週数不明の墜落産」や「未受診妊婦の腹痛」などの受入要請があった場合、どのように対応しますか?
また、ERをwalk-in受診した「若年女性腹痛+血尿」が実は未受診妊婦だった場合、どのようなディスポジションを考えて診療するでしょうか?
私自身もかつて「受け入れ先がなく救急車内で分娩となるよりは、ERで分娩したほうが良いのではないか」や「未受診妊婦が陣痛発来した場合、分娩後に転院搬送した方が良いのではないか」と悩んだことがありました。

この文献は、イギリスのNational Neonatal Research Databaseに登録されている28週未満で出生した児 18,213人を対象とした研究です。
出生病院の種別や出生48時間以内の転院搬送の有無で下記のように分類し、その予後(死亡・重度脳損傷・重度脳損傷のない生存)を評価しています。

 Upward transfer group : 非三次病院で出生→ 出生48時間以内に三次病院に転院搬送された児
 Horizontal transfer group : 三次病院で出生→ 出生48時間以内に他の三次病院に転院搬送された児
 Non-tertiary care group : 非三次病院で出生 → 転院搬送されなかった児
 Control group : 三次病院で出生 → 転院搬送されなかった児

非三次病院での出産は死亡リスク増加や重度脳損傷を伴わず生存する率の低下と関連しています。
出生48時間以内の転院搬送は三次病院で出生した児と比して重度脳損傷のリスク増加と関連していました。

Upward transfer groupは、Control groupと比して、重度脳損傷のリスクが増加(OR 2.32, 95% CI 1.78-3.06; NNT 8)し、重度脳損傷を伴わない生存率は減少(OR 0.60, 95% CI 0.47-0.76; NNT 9)していました。
Non-tertiary care groupは、Control groupと比して、院内死亡率が増加(OR 1.34, 95% CI 1.02-1.77; NNT 20)していました。
また、Non-tertiary care groupは、Upward transfer groupと比して、院内死亡率に差はないものの、重度脳損傷のリスクは減少(OR 0.41, 95% CI 0.31-0.53; NNT 8)し、重度脳損傷を伴わない生存は増加(OR 1.37, 95% CI 1.09-1.73; NNT 14)していました。

この結果からは「新生児の転院搬送」自体が新生児の神経学的予後に大きく関わっているように感じます。
イギリスでデータではありますが、救急医として妊娠28週未満で出生した新生児の転院搬送をできる限り回避できるよう努めていきたいですね!