2025.10.16

2025/10/15 文献紹介

ひたちなか総合病院の救急総合診療科の徳竹雅之です。

秋田大学救急・集中治療医学講座の前野恭平医師とともに10月前半の要チェック文献を紹介します。

① 重症外傷に対する病院前でのトラネキサム酸投与~合同声明2025~

Barrett WJ, et al. Tranexamic acid in trauma: A joint position statement and resource document of NAEMSP, ACEP, and ACS-COT.
J Trauma Acute Care Surg. 2025 Sep 1;99(3):357-363. doi: 10.1097/TA.0000000000004727.
PMID: 40842057; PMCID: PMC12363306.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40842057/

AEMSP、ACEP、ACS-COTによる共同声明が発表されました。
前回は2016年の声明でしたが、今回はその後に蓄積されたエビデンスを踏まえ、重症外傷における院外でのトラネキサム酸(TXA)静脈投与に関する推奨が中心となっています。

TXAの有効性や安全性については、もはや多くの方がご存じの通りです。
出血性ショックを伴う成人外傷患者に対して、救命処置に続いてTXAを投与することで、特に24時間生存率が改善することが示唆されています。
一方で、長期的な神経学的転帰に関するエビデンスはまだ不足しており、輸血製剤の使用量を減らせるかどうかについても結果が一致していません。
つまり、まだ「わかっていない部分」が多い領域です。

個人的に興味深かったのは、TXAの最適な用量・投与速度・投与経路がいまだ確立されていないという点です。
声明では、以下のいずれのレジメンも選択可能とされています。
・1g 静注または骨髄内投与 → その後、院内で8時間かけて1gを持続静注
・2g 静注または骨髄内投与
後者のTXA 2g単回投与レジメンは、主に戦闘外傷領域から引用されたもので、シンプルなプロトコルの魅力を感じました。

さて、TXA使用で最も重要なのは、やはり「投与までの時間」です。
CRASH-2試験からも明らかなように、TXAは受傷後3時間以内の投与が推奨されています。
3時間を過ぎてからの投与では、有効性・安全性ともに明確な裏付けがありません。

しかし、今後はこの“時間窓”がさらにタイトになるかもしれません。

たとえば、声明でも引用されていたSTAAMP試験の二次解析を見てみましょう。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34132695/
※STAAMP試験はコチラ
https://www.emalliance.org/education/dissertation/20200638

この解析では、受傷から1時間以内にTXAを投与した群では、1時間を超えて投与された群に比べて30日死亡率、多臓器不全発生率、輸血必要量のいずれも有意に低下していました。
つまり、「1時間以内の投与」が生存に直結する可能性が示されました。

さらに、PATCH-Trauma試験も注目に値します。
CRASH試験では評価が難しかった、医療先進国での長期的な機能的転帰を検討した研究です。

※PATCH-Trauma試験はコチラ

https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001271

このPATCH-Trauma試験の探索的解析が興味深く感じたので、ここで紹介します。

② 外傷へのTXA投与は90分以内!~PATCH-Trauma試験の探索的解析~

Ali A, Gruen RL, et al; PATCH-Trauma trial investigators. Tranexamic Acid Timing and Mortality Impact After Trauma.
Ann Emerg Med. 2025 Aug 1:S0196-0644(25)00989-8. doi: 10.1016/j.annemergmed.2025.06.609. Epub ahead of print.
PMID: 40751727.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40751727/

PATCH試験の強みは、受傷時刻と初回投与時刻を分単位で現場記録し、ばらつきの少ない統一されたプロトコル(病院前で1gボーラス+病着後1gを8時間で点滴静注)で実施された点にありました。
そして、この高精度のデータを基にした本探索的解析では時間をカテゴリにせず連続変数として扱い、MFPI(Multivariable Fractional Polynomial Interaction:多変数フラクショナル多項式交互作用)で時間×治療の相互作用を推定したところに新規性があります。

その結果、TXAの利益はおおむね90分まで(上限95% CI < 1)で、約120分経過するとリスク比が1 (等価)に到達する”治療可能時間窓”が定量的に可視化(効果曲線(RRと95% CI)で表示)されました。
さらに、この効果曲線に沿った補助解析でも、90分以内:調整RR 0.64 (0.50-0.82)、90分以上:調整RR 1.04 (0.74-1.47)であることが裏付けられました。

おそらく、TXAは「早ければ早いほど良い」、できれば病院到着前に投与するのが理想でしょう。
もちろん、救命処置を差し置いてまで優先すべきではありませんが、今後の研究でTXAの最適な投与タイミングがさらに明確にされていくのではと期待しています。

③ 心停止時の外気温が低いと、OHCA患者の神経学的予後を悪化させる?

Uechi Takahiro et al. Effects of Cold Exposure on Neurological Mortality of Out-of-Hospital Cardiac Arrest Patients.
Journal of Emergency Medicine, 2025.
https://www.jem-journal.com/article/S0736-4679(25)00384-1/abstract

提示した文献は、OHCA患者を対象に心停止時の外気温とその神経学的予後との関連を調べたものです。
先行文献から患者周囲の気温が低いほど、VF/VTを誘発しやすいことが分かっています。
筆者らは「寒冷曝露が交感神経系を刺激しVF/VTが持続し(=ROSCまでの時間が長くなり)、その結果として神経学的予後が悪化する」という仮説を立て検証しました。

2005-10年までの18歳以上のOHCA患者を対象としました。
OHCA発症時の外気温は、47都道府県庁所在地の1時間ごとの気温を気象庁の自動気象データ収集システム(アメダス)から抽出し適応しました。
主要アウトカムを1ヶ月後の神経学的予後良好な割合、副次的アウトカムをCPR開始からROSCまでの時間と設定しました。
OHCA発症時の外気温に基づいて5グループに層別化し転帰を比較しました(Q1:-12.4~5.9℃、Q2:6.0~10.7℃、Q3:10.8~16.9℃、Q4:17.0~23.2℃、Q5:23.3~39.9℃)。

結果に移ります。OHCA発症時の外気温の低さは、いずれの初期波形においても低い神経学的生存率と有意に関連していました。その中でもVT/VFの患者群ではより顕著に見られました。
神経学的予後良好な割合は気温が9℃上昇するごとに、VT/VF患者での調整後ORが1.09上昇(95%CI 1.05-1.13)、全集団での調整後ORは1.07上昇(95%CI 1.05-1.10)し、有意に関連していました。
ROSCの割合に関しても、外気温が高いほど高くなる傾向にありました。ROSC率は気温が9℃上昇するごとに、VT/VF患者での調整後HRが1.11(95%CI 1.08-1.13)、PEA患者での調整後HRが1.06(95%CI 1.03-1.08)、asystole患者での調整後HRが1.06(95%CI 1.02-1.09)、全集団での調整後HRが1.09(95%CI 1.07-1.10)上昇するという結果でした。

今回の文献から初期波形がVF/VTであるOHCA患者においては、外気温が低いほど神経学的予後が悪化する可能性が示唆されました。
また外気温が低いほどCPR開始からROSCまでの時間が延長することも分かりました。先行研究からROSCまでの時間が長いことは予後不良につながることが分かっています。これまでのことから、外気温が低いことがROSCまでの時間を延長させ予後を悪化させた可能性があります。

寒冷地域に住む私としては非常に興味深い(そして怖い)結果でした。
今回の文献を読むうえで個人的に注意すべき点としては以下の2つをあげます。
・あくまで外気温と予後やROSC率との関連を見た文献であり、直接患者の体温との関連を見たものではない
・寒冷地域=医療が希薄な地域であり、いわゆる都市と地域での医療の質の差が出た可能性がある
※ただし、人口密度が高い地域と低い地域で層別化した場合にも、外気温と神経学的予後との関係は変わらなかったことを検証しています
OHCAと体温、気温の関連は今後の文献も追っていきたいです