2023.08.05

2023/08/03 文献紹介

まだまだめちゃくちゃな暑さが続いていますね。
熱中症かと思いきやコロナも紛れていて、、、お忙しい日々をお過ごしと思います。

 

今回は外傷に対する「内科的マネジメント」に関わる分野の論文を2つ紹介します。

 


PATCH-Trauma Investigators and the ANZICS Clinical Trials Group; Gruen RL, et al. Prehospital Tranexamic Acid for Severe Trauma.
N Engl J Med. 2023 Jul 13;389(2):127-136. PMID: 37314244.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37314244/

重症外傷に対するTXA投与は6か月後機能的予後を改善させなかったが、短期死亡率には◎

 

外傷へのトラネキサム酸(TXA)投与の話題です。

 

これまでEMAでも複数回にわたり、TXAを取り上げてきました。
TXAの有効性や有害性はだいぶ研究されてきており、どの病態に有効なのか有害なのかよくわからなくなってきてしまったので、
手前味噌ですが少しまとめを作ったこともあります。
https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2023/3521_04

CRASH-2, CRASH-3試験を中心に、外傷に対する受傷3時間以内のTXA投与は28日死亡率を低下させることが示されました。
ただし、病院前でのTXA投与についてはその有益性が示されていませんでした。
6か月後の機能的転帰まで含んだ予後を評価した試験が今回のPATCH試験です。

 

オーストラリア、ニュージーランド、ドイツの15EMS/21病院で行われたRCTです。
COAST score≧3により規定された外傷性凝固障害のリスクがあるかつ受傷3時間以内のTXA投与が可能な重症外傷患者1131人が対象となり、
TXA群とプラセボ群に割り付けられました。
TXA群では病院前でTXA1gを10分かけて点滴静注→病着後に1gを8時間かけて点滴静注が行われました。

 

鈍的外傷が9割以上、ISS29、AIS≧3の頭頸部外傷が4割前後含まれました。

 

primary outcomeは、GOS-Eを用いて評価した6か月後の良好な機能的転帰です。
1:死亡~8:外傷に伴う問題なしで評価され、5以上:中等度以下の障害度であれば良好な機能的転帰と定義されました。
TXA群:53.7% vs プラセボ群:53.5% (RR 1.00, 95% CI 0.9-1.12) であり、primary outcomeに有意差はありませんでした。
なお、血管閉塞イベントにも有意な差はありませんでした。

 

CRASH試験で検討できなかった①医療先進国、②長期的機能的転帰の検討がこの研究の目玉です。
PATCH試験によれば、①医療先進国において②長期的機能的転帰はTXAで改善することはありませんでした。

 

これをどう考えればよいのでしょうか。
6か月後の機能的転帰を指標にしたことは重要でしょう。
急性期医療をしていると蘇生に気を取られ、機能的転帰の部分が考えられなくなってしまうことがあります。ありませんか?

 

ただし、TXAの使用の是非を問うのはあくまで短期的死亡率に関する指標であって、
6か月後の機能的転帰とするには少し無理があるかもしれません。

 

今回の試験のsecondary outcomeではありますが、
24時間死亡率や28日死亡率に関してはTXA群で有意に改善しています。
これだけが1人歩きしてしまうことは問題ですが、TXA使用の主眼はこちらなのかなと思います。

 

出血による死亡リスクが高いと考えられる外傷症例では、これまで通りにTXA投与を行うことで良さそうでしょうか。

 


Robinson A, et al. Defining the optimal calcium repletion dosing in patients requiring activation of massive transfusion protocol.
Am J Emerg Med. 2023 May 13;70:96-100. PMID: 37245404.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37245404/

MTPの際の最適なCa投与量の決め方に指標はある?

 

外傷や外科手術などでは大量輸血を要することがあります。

 

その合併症の1つとして低Ca血症は注目に値します。
輸血製剤には、その保存安定性を維持するために抗凝固剤としてクエン酸塩が添加されていますが、
大量の血液製剤を投与することで、クエン酸塩はイオン化Caと結合し、低Ca血症が引き起こされます。
特に、外傷における低Ca血症は凝固障害と関連することが知られています。

 

大量輸血プロトコールを発動した際には、こまめに血液検査を繰り返して血清Ca値をチェックすることと思います。

 

どのくらい輸血をしたらどのくらいのCaを投与すればいいのか、ある程度の指標があれば!と思ったことはありませんか?

 

輸血中に含まれるクエン酸塩:Ca比率を決定することを試みた試験を紹介します。

 

レベル1外傷センター単施設で行われた後方視コホート試験です。
この病院では、MTPが発動されるとRBC:FFP:PC=5:5:1の割合で投与されることが決まっていました。
※日本の輸血製剤と規格が異なります。

 

primary outcomeは、30日死亡率を低下させるための補充Ca (mEq)に対するクエン酸塩の至適投与量 (g) 比を決定することであり、
重症低Ca血症を有する患者と有さない患者が比較検討されました。

 

クエン酸塩の含有量は血液製剤によって異なりますが、欧米の規格ではそれぞれ1単位あたりRBC: 3g, FFP: 10g, PC: 0.22g, 全血: 2gが含まれているそうです。
補充するCaはグルコン酸Ca: 4.65mEq/g, 塩化Ca: 13.6mEq/gが用いられました。

 

MTPを受けた外科手術および外傷患者501人を評価し、最終的に308人が対象となりました。
165例(53.6%)が24時間以内に重症低Ca血症(<0.9mmol/L)を発症し、この患者集団はSOFA scoreが高くなりました。

 

24時間時点で重症低Ca血症を発症しなかった群ではクエン酸塩 (g):Ca (mEq)比の中央値は1.97でしたが、30日死亡率との関連はありませんでした。
3次スプライン解析によれば、クエン酸塩 (g):Ca (mEq)比を2~3にすることで、24時間および30日死亡率を最も減らせることがわかりました。

 

これを日本の輸血製剤に当てはめるとどのくらいの比率なんでしょうか。
それぞれの製剤に含まれるクエン酸塩(g)は、RBC 0.1g/U, FFP 1.13g/2U(4U製剤の場合には1.4g/4U), PC 1.08g/10Uとされています。
当院でよく使われるグルコン酸Ca8.5%製剤1mlあたりには0.39mEqのCaが含まれます。

 

当院ではMTP発動によりRBC6U + FFP6U(クエン酸塩を約4g含有)がERにきますので、
これらを投与する毎にグルコン酸Ca8.5%は5ml程度入ればよい計算になります。

 

MTPを行うときにはCaのこまめなチェックは必要ですが、
1つの参考にされてはいかがでしょうか。