2024.06.15

2024/06/15 文献紹介

6月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と、福岡徳洲会病院の大方です。
沖縄と福岡の南国コンビで、3つの論文を紹介します。

前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。

Steven Walker
Joint ERS/EACTS/ESTS clinical practice guidelines on adults with spontaneous pneumothorax. 
Eur Respir J.  2024 May 28;63(5):2300797. 
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38806203/
(無料で読めます)

ヨーロッパの気胸ガイドラインが改訂されました。

治療法がFIGURE 1にまとまっています。

原発性自然気胸で、症状が軽く、臨床的に安定していれば保存的治療が提案されるようになりました。
気胸のサイズは関係ありません。

気胸の大きさによらず、保存的治療とは驚きです。

2023
年、イギリスの気胸ガイドラインも改訂されました。
PMID 37433578
こちらも気胸の大きさによらず、症状と臨床的な安定度によって治療法を選択します。

どちらのガイドラインも保存的治療の推奨度が高まり、ドレーン留置の推奨度は下がっています。

きっかけは2020年のNEJMの文献のようです。
中等度以上の大きさの原発性自然気胸について調べられた多施設RCTです。
結果は、保守的治療が劣らず、重篤な有害事象リスクが低いというものでした。
正直に言うと、文献班で紹介したときには眉唾でした。てへ。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/journal-2020315

まずは、院内の呼吸器内科・外科・救急科で方針を確認しようっと。


James F Holmes .
 PECARN prediction rules for CT imaging of children presenting to the emergency department with blunt abdominal or minor head trauma: a multicentre prospective validation study.
Lancet Child Adolesc Health . 2024 May;8(5):339-347.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38609287/

PECARN
腹部CTルール。
みんな待ってました

PECARN
の頭部CTルールはご存知ですよね。
小児の軽症頭部外傷でCTを取るべきかの指標として、自分も毎日使いまくっています。
(もう何百回使ったろか)

そんなPECARNが今回、腹部外傷小児でCTを取るべきかの指標について、多施設前向き検証をしてくれたですって。

それも、7,542 人の小児。
なんと、
感度 100% (95%CI 98.0–100.0)
陰性的中率100% (95%CI 99.9–100.0)
驚異的な数字です。

項目は以下です、これら全部が無ければCT不要としました。
(正確には「腹部CTは正当化されない;CT not warranted」)
・腹痛
・嘔吐
GCS <14
・呼吸音減弱
・腹壁外傷痕(シートベルト痕、擦過傷、皮下出血など)
・胸壁外傷痕
・腹部の圧痛

えっ

項目厳しすぎるや

そりゃ、これら全部なければ、腹腔内臓器損傷なさそうや
腹痛・圧痛・外傷痕すべてないって逆になんでCT撮ろうと思ったん?

いや、ちょっと待ってください。
この研究、対象患者が重度な受傷機転の小児なんです。

例えば、
6mからの落下。
・歩行者対車の交通事故で、時速40km以上。
・手足の麻痺もしくは長骨骨折が複数ある鈍的外傷。
・体幹への鈍的外傷で意識レベル低下GCS15

ぎょえ。
そんな小児はすぐ造影CT撮りたくなるわ。

そんな重度の受傷機転の小児を対象として妥当性が確かめられたのであれば信用できるでしょう。

ただし、いくつかの注意点が必要です。

1
つ目。
緊急介入が必要な腹腔内外傷、についてのみ調べられています。
緊急介入が必要だった145人(全体の1.9%)については正しく識別できた一方で、42人の腹腔内臓器損傷を見逃しています。
しかし、緊急介入が不要だったためルールの感度と陰性的中率が100%となっています。

2
つ目。
「ルール」と言いましたが、1つでも当てはまったらCTが必要というわけではありません。かえってCT撮影が多くならないようにしましょう。
そもそもかなり危険な受傷機転の小児が対象になった研究です。
身体所見、FASTエコー、AST/ALT値などを用いればよりリスクを層別化できます。



後半は福岡徳洲会病院の大方です。


Zlatan Zvizdic
.
Clinical characteristics and outcome of children with acute cryptorchid testicular torsion: A single-center, retrospective case series study.
American Journal of Emergency Medicine. 2024 May 9.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38749372/
(無料で読めます)

みなさん、急性停留精巣捻転という疾患をご存知でしょうか?
恥ずかしながら私は最近まで知らず、実際に症例にあたって初めて知りました。

経験を積んだ救急医や小児科医、泌尿器科医であれば、比較的知っている疾患かもしれませんが、若手救急医や研修医にとっては馴染みがないものではないでしょうか。
診察だけでは鼠径ヘルニアと勘違いしかねず、鑑別にあげることもできないかもしれません。
知らなかった人に認知してもらい、知っている方には復習となるように、急性停留精巣捻転の特徴や予後についてのケースシリーズスタディをご紹介します。

サラエボの大学臨床センターのデータベースから360度以上のねじれのある精巣捻転患者90人が抽出されました。
そのうち8人(8.9%)が急性停留精巣捻転で、年齢の中央値が65ヶ月、症状持続時間の中央値が16時間でした。
最も一般的な症状は腹部や鼠径部の痛み、同側の陰嚢に精巣を触知できない鼠径部腫瘤でした。
全員が外科的処置の前に超音波検査を施行され、7人が精巣内の血流欠損もしくは低下を認めました。
4
人が精巣摘出術を施行されましたが、精巣固定術をされた患者の1人が委縮を認めため、最終的な精巣救済率は35%でした。

精巣捻転の8.9%と停留精巣捻転が思ったより多いことが驚きでした。比較的若年で鼠径部の腫瘤と疼痛を主訴に来院した場合は、停留精巣捻転を鑑別にあげつつ、診断に至り、迅速なコンサルトができると理想ですね。

また、精巣捻転のエコーでは以前ご紹介した文献(https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001292)では41.7%が正常血流で、エコー頼りは注意となっていましたが、急性停留精巣捻転では有用の可能性がありそうです。
ただし今回の研究では8人とn数が小さいため、エコー所見については今後の規模の大きい研究により有用性が判断されると良いと思いました。