2024.06.13

2023/01/31 文献紹介

EMAの皆様

 

1月の文献紹介です。

コロナに加えて大寒波で大変かと思いますが、スキマ時間に一読いただけると幸いです。

 

今回は国際医療福祉大学成田病院の井桁と、聖マリアンナ医科大学の川口でお送りします。

 

壊死性筋膜炎に超音波は有用?

精巣の血流低下だけでは精巣捻転は除外できない!

喉頭鏡のブレードサイズはどれがいい?

大動脈解離レビュー 診断フローチャートが見やすい!

 

 

まず前半はどちらも救急医が一度は痛い目を見たことがある疾患と超音波の関係です。

 

Marks A et al. Ultrasound for the diagnosis of necrotizing fasciitis: A systematic review of the literature. 

Am J Emerg Med. 2022 Dec 22;65:31-35. 

PMID: 36580698

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36580698/

 

超音波で壊死性筋膜炎は診断できるのか?

 

壊死性筋膜炎と言えば救急医は誰もが苦い経験をしたことがある疾患かと思います。

疑ったらFinger test!といきたいところですが侵襲的だし、筋膜普段触らないから正常かどうかわからない、、、なんてことありますよね?

そこで今回は壊死性筋膜炎の診断に超音波は有用かどうかを調べたsystematic reviewを紹介します。

 

壊死性筋膜炎疑いの患者に対して超音波検査をした研究を集積して最終的に3つの論文がReviewされました。

使用するプローべはリニアプローべです

方法は簡単で疑わしい部位に当てるだけ、皮膚、皮下組織、筋肉、筋膜層を描出します。

今回の研究は全て救急医が施行しており、レジデント、フェロー、指導医まで様々な立場の医師が検査していました。

 

壊死性筋膜炎を疑う所見として今回挙げられていたのは以下の2です。

・筋膜にそった液体貯留(2mm以上):感度85.4%(95%CI 72.2-93.9%)、特異度44.7%(95%CI 30.2-59.9%)

先行研究のPMID31031033

・皮下気腫:感度6.3%(95%CI 1.3-17.2%)、特異度100%(95%CI 92.5-100%)

筋膜の不整・肥厚や皮下の敷石状変化はあまり有意な所見ではなかったようです

意識して見ないと見落としてしまいそうな所見です。

 

もちろん超音波のみでは診断、除外ができないと思いますが一つのツールとして知っておいてもいいと思います。

例えば蜂窩織炎として経過見ていたけど壊死性筋膜炎が心配、という時に繰り返し評価できるのも超音波の一つの強みかもしれません。

筆者らも述べていましたが、今後LRINECスコアと超音波所見を統合したスコアなどできると面白いですね。

 

 

Lukosiute-Urboniene A et al. Clinical risk factors for testicular torsion and a warning against falsely reassuring ultrasound scans: a 10-year single-centre experience. Emerg Med J. 2023 Feb;40(2):134-139.

PMID: 36526335.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36526335/

 

精巣の血流低下の有無だけで精巣捻転を判断するのは注意!

 

2011年から2020年までにリトアニア最大の三次医療機関で治療を受けた急性陰嚢症の患者を後方視的に解析した研究です。

555例が登録されそのうち精巣捻転が196(35%)その他が359(65%)でした。

 

超音波による診断については今回の研究では主に患側血流の低下/途絶を評価しています。

気になる超音波の精度ですが、

感度58.3%、特異度98.2%、陽性的中率94.6%陰性的中率81.3%という結果でした。

除外には使えない!ということですね。

なんと精巣捻転患者の77(41.7%)が精巣血流正常であったとのことです。

ちなみに超音波検査は放射線科医がERで行っています。

超音波で血流が正常と評価された患者は、血流なしと判断された患者と比較して外科的介入まで1時間多くかかっていました。

今回の結果では偽陰性であったからといって睾丸摘出が有意に増える、という結果までは出ていませんが、筆者らはこの偽陰性が多く、手術までに時間が多くかかっているという結果に注意が必要だと述べています。

そのため超音波所見を過信せず、あくまで症状から疑わしければすぐに泌尿器科医/小児外科医をコールするべきという結論でした。

 

精巣捻転を疑うため症状というのは以下の通りです。

・年齢が13~17(OR 8.39; 95% CI 5.1213.76)

・症状持続時間が7時間未満(OR 3.41; 95% CI 2.035.72)

・触診による硬い精巣(OR 4.6595% CI 2.025.72)

・陰嚢の腫脹(OR 2.37; 95% CI 1.31 to 4.30)

・嘔気/嘔吐(OR 4.37; 95% CI 2.03 to 9.43)

・腹痛(OR 2.38; 95% CI 1.27 to 4.45)

 

精巣捻転といえばTWIST score(PMID: 35238603)が有名ですが、こちらも同様にhigh riskな場合は超音波を挟まずに泌尿器科コンサルトを推奨していますね。

あまり超音波に固執せず、早い段階でコンサルトが重要ということでした。

 

以上緊急疾患における超音波の研究を2つ紹介しました。

緊急疾患はとにかく時間軸を意識してマネジメント、ということで超音波は強い味方ですがその解釈には要注意ですね。

時間軸といえばEMAメンバーで執筆したレジデントノート増刊号「救急診療、時間軸で考えて動く!」が絶賛発売中です!精巣捻転のことも詳しく述べられているのでこちらもぜひお手に取ってご覧ください!

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Godet T, et al. Impact of Macintosh blade size on endotracheal intubation success in intensive care units: a retrospective multicenter observational MacSize-ICU study. Intensive Care Med. 2022 Sep;48(9):1176-1184.

PMID: 35974189

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35974189/(無料で読めます)

 

喉頭鏡のブレードサイズ、どうやって選んでいますか?

「とりあえず3」「大は小を兼ねるから4」「基本は3身体が大きい人には4」などいろいろな流派があると思います。

 

ブレード43よりも2cmほど長く、この原理で下顎や喉頭蓋に力がかかりすぎないようにしたりブレードの先端の位置決めをするのに繊細なコントロールが必要です。また、幅も数mm程大きく、開口制限がある場合は口に入れにくいのが特徴です。ここまでの話だとブレード3の方利点多そうに聞こえますが、実はブレードの選択に関する研究はあまり進んでいませんでした。

 

そこで今回紹介する論文です。ある海外コンテンツでは救急集中治療2022年ベスト論文集に選ばれていました。

 

フランスの48病院の集中治療室で行われた多施設後ろ向き研究で、マッキントッシュ型喉頭鏡ブレードNo.3を用いた629例とNo.4を用いた1510例とで挿管の初回成功率を比較しました。

 

患者群間で差があった性別、身長、挿管理由、挿管困難因子等は傾向スコアを用いて調整しています。また、マッキントッシュのブレードを使うこと以外の挿管の要素、例えばチューブサイズや鎮静、体位は全て担当医に委ねられていました。

 

結果:No.3 79.5% vs No.4 73.3%, p=0.0025

挿管の初回成功率に対するブレードサイズの影響はNo.3が有意に高く(OR 1.44 [95 CI 1.14-1.84]; p=0.0025)、声門の視認性や合併症の発生率は同等でした。

 

ERではなくICUのデータである

最近良く使われるビデオ喉頭鏡のブレードではない

手技の実施者(Residentの割合)に差がある

などなど結果の解釈に検討の余地はありますが、当面は「とりあえず3」に軍配が上がりそうです。

 

 

Carrel T, et al. Acute aortic dissection. Lancet. 2023 Jan 11:S0140-6736(22)01970-5.

PMID: 36640801.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36640801/

 

Lancetの大動脈解離のレビューです。時間のない方はFigure 2だけでもご覧ください。

リスク評価+Dダイマー+経胸壁心エコー+胸部レントゲンで診療を進めるフローチャートが秀逸です。

 

その他重要点

大動脈解離の診断の見落としや遅延や生じる要因

- 急性冠症候群、脳卒中、肺塞栓症などの特徴がみられる

- うっ血性心不全の特徴がみられる

そこで診断が終わってしまい大動脈解離まで行きつかない

- 非定型的な痛み(突然発症ではない、痛みがない)

- 心臓手術の既往

- 三次医療機関以外の病院に初診で来院

- 発熱がある

- 女性

 

経胸壁心エコーで大動脈基部を見るポイント

- 内膜のフラップ、偽腔の流れ

- 大動脈径>40mm

- 大動脈弁閉鎖不全症

- 二尖弁

- 心嚢液貯留

- 胸水貯留

- 心タンポナーデ

 

多彩な症状・経過で来院する代表的疾患ですので、しっかり引っ掛けてCTAで診断したいですね。

 

 

以上です。

今年も有益な文献情報をお伝えしていきますのでよろしくお願いします!

 

井桁