2020.03.15

2020/3/15 文献紹介

3月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の鈴木です。
沖縄と福岡の南国コンビがお送りします。


前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。


①Brown CA 3rd, et al. Laryngoscopy Compared to Augmented Direct Laryngoscopy in Adult Emergency Department Tracheal Intubations: A National Emergency Airway Registry (NEAR) Study. Acad Emerg Med. 2020 Feb;27(2):100-108.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31957174


一つ目は、ビデオ喉頭鏡最高やん!という論文です。

また挿管スタディかよ…お腹いっぱい?
いや、今回のはちゃうんです!

直接喉頭鏡を様々な手法で助けても、ビデオ喉頭鏡「単独」にさえ勝てなかったんですよ!
しかも
救急外来だけのデータで、そして1万人以上のデータを用いて、です。

(一部のハードコアな方には、NEARからのスタディというだけで垂涎ものでしょう。)

NEARレジストリから、北米の25病院救急外来11,714人の挿管データが解析されました。

ビデオ喉頭鏡 3,002人
vs.
直接喉頭鏡 +ブジーやrampポジションなど何らかの補助 3,936人

その結果、
「圧倒的に」ビデオ喉頭鏡の初回挿管成功率が高かった。(91% vs. 69〜82%)
しかも、ビデオ喉頭鏡は挿管困難と思われる患者の割合が多かった。

つい数年前まで、救急外来でのビデオ喉頭鏡の優位性は不明だったはずです。
しかし、もはや全然違います。

ビデオ喉頭鏡、自分も大好きです。
(ちなみに当院はマックグラス︎が採用されています)

むしろ、今後は使用しない理由を考えるのが難しくなります…。




②Brown SGA, et al. Conservative versus Interventional Treatment for Spontaneous Pneumothorax. N Engl J Med. 2020 Jan 30;382(5):405-415.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31995686


次に、中等度以上の自然気胸でも治療しなくても良いのでは、という激ヤバ論文です。

え、何言ってるの?

39病院で14〜50歳の合併症がない、初発の「中等度〜高度」(Collins法で胸部Xp32%以上)の気胸患者を対象に、非盲検非劣性試験で比較しました。
非劣性マージンを-9%ポイントとしました。

無治療群)
4時間以上外来で経過観察。
・酸素不要
・歩行可能
・2回目以降の胸部Xpで気胸増悪がない
→ドレナージなしで帰宅。

治療群)
すぐ小径の胸腔チューブで治療。

結果、316人が対象となりました。

8週間のフォロー期間で、無治療群94.4%、治療群98.5%が肺再膨張が認められました。
リスク差は-4.1%ポイント(95%CI -8.6-0.5)で、無治療群は治療群に比べて非劣性でした。

また、重篤な有害事象や1年以内の気胸再発率のリスクが低い結果でした。

…中等度以上の気胸を自然観察するという概念が衝撃的でした。
しかもNEJMですよコレ。

今後の治療法を変えるゲームチェンジャー論文となるのでしょうか。
意外と普及するきっかけになるかも。なぁんて。

岡正二郎




続きまして、福岡徳洲会病院の鈴木です。
私からも気胸に関する論文を1つ、感染症に関する論文を2つご紹介します。



岡先生が紹介した気胸の論文をみて驚いた方も多いと思います。
まだ保存的に経過を見る自信がない方も多いと思いますが、入れるとしたらどれくらいの太さのチェストチューブを挿入していますか?

③Mummadi,de Longpre' J, Hahn PY. Comparative Effectiveness of Interventions in Initial Management of Spontaneous Pneumothorax: A Systematic Review and a Bayesian Network Meta-analysis. Ann Emerg Med. 2020 Feb 27.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32115203


私は大抵は16Fr程度のトロッカーを入れていますが、今後はアスピレーションキットなどに変更していこうかと検討している最中です。

本論文は
・針吸引
・14Fr未満の細いチェストチューブ
・14Fr以上のチェストチューブ

の3群の有効性、安全性などをSystematic reviewのネットワークメタアナリシスという手法で評価しています。注意したいポイントとしては、一次性自然気胸と二次性気胸(肺気腫など)の両方が解析に組み込まれています。

12のStudyの781名がIncludeされています。
最も安全に治療できたのは針吸引でした。
最も迅速に治療が有効となったのは14Fr未満の細いチェストチューブでした。
針吸引の場合はレントゲンのフォローが必要なため、治療が有効であると判断するまでに時間がかかったようです。
このSystematic reviewからは14Fr以上のチェストチューブを挿入するメリットは認められていませんでした。私のように16Frを入れるアプローチは標準的治療とは言えない時代なのかもしれません。

針吸引で経過をみるか、細いチェストチューブを入れるか、、、はたまた何もせずに経過をみるのか!?
このテーマに対する答えは、より一層保存的な治療に傾いてきているという印象ですね。




④Hwang SY, Yoon H, Yoon A, et al. N95 filtering facepiece respirators do not reliably afford respiratory protection during chest compression: A simulation study. Am J Emerg Med. 2020 Jan;38(1):12-17.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32115203


N95をしながら胸骨圧迫する予定はありますか?
特に気管挿管のようなエアロゾル発生手技を行う前後では、そのようなシチュエーションが十分に予想されることと思います。
特に韓国ではSARSやMERSの患者に対するCPRの最中に、医療従事者に感染した事例が報告されています。本論文は韓国発の一風変わった報告です。

N95の装着前には通常のフィットテスト以外に、専用の機器を使ったリークの量的な評価が本来は必要とされています。評価の仕方については、前かがみになったり、顔を横に向けるなどのプロトコールが決められています。
このプロトコールを使って、事前にN95 が完全にフィットしていた群と部分的にフィットしていた群にわけて、人形に対して2分間の胸骨圧迫を3回してもらっています。胸骨圧迫中にリークを量的に専用機器で評価しました。

部分的にフィットしていた群のうち94%がフィットせずにリークしていると判断されました。
完全にフィットしていた群も61%はフィットせずにリークしていると判断されました。
どうやらN95を装着しながら胸骨圧迫をしても、高い確率でリークしてしまうようです。

どうしてもマスクで守りたいならばヘルメットタイプの防護服が必要になりますが、CPR中の会話が困難になってしまいます。

新型コロナウイルス感染症についてもLUCAS@やAutoPulse@などの機械を持っている施設では使用を考慮しても良いのかもしれません。


⑤Rizkalla C, Arroyo A, Zerzan J, et al. Urban Emergency Department Response to Measles Outbreak. Ann Emerg Med. 2020 Feb 17. pii: S0196-0644(20)30007-X.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32081384


ニューヨークで麻疹が流行したときの都市部EDの戦いの記録です。

・疑い患者に気づくための基準
・隔離の基準
・ペア血清とPCRによる検査
・MMRワクチンとグロブリン製剤の投与
・グロブリン製剤投与後28日間の自宅での検疫

このような視点でフローチャートを作成して対応しています。
なおMMRワクチンは普通は生後6カ月で1回目を打って4-6歳で2回目を打ちますが、1回目の1ヶ月後には2回目のワクチンを打ちました。

新型コロナウイルスと麻疹では、そもそもの感染様式(空気感染と飛沫感染)や、ワクチンの有無などに大きな違いがあります。しかし今後、新型コロナウイルスに対するペア血清が使えるようになった後のフローチャートづくりや、意外と早くワクチンが販売された場合の対応方法の参考になると思います。


またフローチャートが動き出した後の苦労も、近い将来に我々が経験することになるかもしれません。

・小児を28日間も自宅で検疫するのが大変だった、保育と親の仕事の問題。
・英語を話せない人の電話フォローが大変だった。
・MMRを打った後に皮疹がでた子が発生。麻疹として対応していたが後日薬疹と判明。その濃厚接触者までしばらくフォローし続けた。ワクチンの副反応と感染の有無を見分けるのが困難な問題。
・隔離室が足りず、結局は待合室で待たせるしかなかった。待合室で麻疹患者のそばにいた人は、やむを得ず後日連絡してフォローした。
・非流行地から来院した発熱だけの患者は隔離しなかったが、それで良かったのか不明だった。
・受診後に、公共交通機関で来院した患者は帰宅方法が見つからず大変だった。
などなど。

Studyというよりは、読み物として一読をお勧めいたします。


鈴木裕之