2024.06.02

2024/06/02 文献紹介

新年度も2ヶ月が経過し、新たな環境に身をおいた方は、そろそろ慣れてきた頃でしょうか?
今回は今すぐ使える小児関連の文献を4本ご紹介しますので、ぜひ読んでみてください。

中東遠総合医療センターの大林からはこちらの2本です。

① Chiew AL, et al. Home Therapies to Neutralize Button Battery Injury in a Porcine Esophageal Model. Ann Emerg Med. 2024 Apr;83(4):351-359
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37725021/
「ボタン電池誤飲したら、ハチミツまたはジャム」

以前文献班よりボタン電池誤飲のシステマティックレビューを紹介しました。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001263
ボタン電池誤飲はみなさんご存知の通り食道損傷などの危険性があり、診断が遅れると致命的な経過を辿ることもあります。
もしこどもがボタン電池を誤飲してしまった場合の応急処置として、ハチミツを摂取することで食道損傷が減らせることが知られていて、対応アルゴリズムにハチミツ摂取を表記しているガイドラインもあります。
https://www.poison.org/battery/guideline
(12時間以内に10mL を10分ごと6回まで、穿孔などが疑われるときはだめ)

しかし、ハチミツは12ヶ月未満、アレルギーがあるといった場合に使用できず、そもそも家にハチミツを常備していないという場合もあります。

そこで、家庭にあるもので食道損傷を減らせるものはないか、と調べたのが今回紹介する研究です。
ブタから採取した食道にハチミツ、数種類のジャム、オレンジジュース、ヨーグルト、牛乳、コーラ、生食(コントロール)とボタン電池(3V、CR2032)を接触させる実験を2種類行いました。
実験の詳細は割愛しますが、主要評価項目はボタン電池が接触していた部分のpH(120分後)、副次評価項目としてその他の時間でのpH、ボタン電池の放電量、食道の損傷面積でした。

結果として、ハチミツとジャムで最もpHが低く、放電量や損傷面積も他の5つより小さいことがわかりました。
(Fig.3に食道損傷の比較写真がありますのでぜひご覧になってください)
ちなみに使われたジャムのうち、日本でも購入できるものがありました。

あくまで動物実験ではありますが、ジャムの経口摂取に害がないことを考えると、ハチミツの代替手段として用いてもよさそうです。
ボタン電池誤飲の電話相談があったら、受診前の応急処置として伝えてみてはどうでしょうか?

② Dupont D, et al. Postconcussive Symptoms After Early Childhood Concussion.
JAMA Network Open. 2024 Mar 4;7(3):e243182
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38512252/
※無料で読めます
「乳幼児期の脳震盪後症候群」

頭部外傷後の頭痛、めまい、認知機能の低下、情緒の不安定性、睡眠障害などの脳震盪後症候群(Postconcussive symptoms、以下PCS)は、受傷後数時間から数日以内に発症し、通常は10〜14日以内に回復しますが、中には1ヶ月以上も症状が持続することもあります。
これまで6歳以上の小児では自己申告もしくは親などの養育者によるアンケート回答で、PCSの頻度や持続期間がわかっていましたが、もっと小さい乳幼児におけるPCSについてはほとんど知られていません。

そこで、都市部の小児救急部門(カナダ3施設、アメリカ1施設)とカナダの8つの保育園で収集されたデータを用いて、前向き、多施設、縦断的コホート研究が行われました。このデータには受傷後48時間以内に救急部門を受診した生後6ヶ月から6歳まで軽度の頭部外傷患者(脳震盪群)、骨折や捻挫などの整形外科的な外傷患者(対照)および外傷のない健康な乳幼児(対照)が含まれます。

脳震盪の症状は106項目からなるREACTIONSインベントリを用いて認知機能、身体症状、行動の3つの領域について評価し、評価のタイミングは受傷前、急性期(救急部門)、6〜14日後、1ヶ月後、3ヶ月後でした。REACTIONSインベントリには年齢に応じた補足の症状リストがついており、それに基づいて養育者が評価しました。
補足:REACTIONSインベントリはこの研究グループが小児の脳震盪評価のために開発した独自の観察ツールです。

結果、包含基準を満たす961名の小児のうち、343名が同意を得て登録され、303名(平均年齢35.8ヶ月[ SD 20.2ヶ月]、男性 152名[50.2%])が分析されました。
脳震盪群では、注意力と集中力の低下が受傷後すべての時点で一貫してみられる認知機能症状で、3ヶ月後にも53.3%にみられました。また睡眠障害や頭痛といった身体症状、落ち着きのなさや不安といった行動に関する症状も受傷後3ヶ月時点でも多くみられました。
そのほか2つの対照群と比較すると、頭痛はもちろんのこと、疲労、眠気、視覚症状、光や音への過敏症、気分の落ち込みなどの項目で受傷10日後、1ヶ月後においてオッズが有意に高いことがわかりました。

今回のデータ収集で、研究者らの予想に反して3ヶ月経過しても身体症状が残っているということがわかり、また易怒性・癇癪がPCSとして現れたことは注目に値する、と研究者は述べています。
他のPCSに関するアンケートでは項目に含まれていない、抱っこを要求する、親から離れると不機嫌になる、よく泣く、引っ込み思案になり孤立するといった行動に関する症状も観察されました。

養育者によるアンケートという手法に想起バイアスなどの限界はありますが、日頃乳幼児の頭部外傷を診察する救急医が知っておきたい知見だと考えます。

続いて湘南鎌倉総合病院の田口からはこちらの2本です。

③Casey K, et al. Serious bacterial infection risk in recently immunized febrile infants in the emergency department. Am J Emerg Med. 2024;80:138-142.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38583343/

「予防接種後の発熱乳児におけるSBI/IBIのリスクは低い」

予防接種後の発熱に対して、どう対応すればいいか迷ったことはありませんか。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/20210915

では生後60日未満の発熱対応ガイドラインをご紹介しています。生後60-90日の発熱については予防接種後の発熱が大きな割合を占めていますが、その対応が明記されているガイドラインなどはほとんどありません。

この研究はアメリカの2カ所の救急外来での後ろ向きコホート研究です。生後6〜12週の発熱(38度以上)した乳児508人を対象に、72時間以内に予防接種を受けた乳児(RI: recently immunized)と受けていない乳児(NRI: not recently immunized)に分類し、 SBI(serious bacterial infection)とIBI(invasive bacterial infection)を評価しました。この研究では菌血症、細菌性髄膜炎、尿路感染症などをSBIと呼び、その中でも菌血症と細菌性髄膜炎をIBIと定義しています。
SBIの発生率はRI群で3.5%、NRI群で 13.7%でした。RI群のSBIのリスク比は0.3 (95% CI=0.1-0.7)でした。

またRI群でIBIは0でした。RI群の中でも予防接種後24時間以内の場合はSBIの発生率がさらに低く、2%でした。ほとんどのSBIは尿路感染症であり、1例だけ明らかな呼吸器症状を伴っていた肺炎がありました。

ワクチン接種後の24時間以内の発熱でも尿検査不要とはいえませんが、追加の検査について家族と要相談とすることは許容できそうです。

④Kampmann B, et al. Bivalent Prefusion F Vaccine in Pregnancy to Prevent RSV Illness in Infants. N Engl J Med. 2023 Apr;388(16):1451-1464.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37018474/

「母へのRSVワクチンで子の感染を減らす」

こちらはERと直接関係はありませんが、ワクチン関連でおまけとしてご紹介いたします。2024年6月から日本でも妊婦へのRSVワクチンが接種可能になります。その根拠の一つとなったのが約1年前のこちらの文献です。

妊娠24~36 週の女性を対象に、18カ国でRSVワクチンのRCTを行いました。結果、RSVワクチンを接種した母から生まれてきた子供は生後6ヶ月までの重症のRSV関連の下気道感染が減るなどの効果があり、安全性にも問題がないとされました。

RSVで入院する乳児が今後は減少するかもしれませんね。

湘南鎌倉総合病院 救急総合診療科 田口 梓
中東遠総合医療センター 救急科 大林 正和