2021.10.21

2021/09/15 文献紹介

9月前半の文献紹介は、沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の鈴木です。
沖縄と福岡の南国コンビがお送りします。

前半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。

①米国小児学会が、生後60日未満の発熱対応ガイドラインを発表しました。
Robert H Pantell et al. Evaluation and Management of Well-Appearing Febrile Infants 8 to 60 Days Old. Pediatrics. 2021 Aug;148(2):e2021052228.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34281996/

これまで、Rochester(1994年)、Boston (1992年) 、Philadelphia (1993年) の3つの有名なクライテリアはありましたが、小児学会のガイドラインは初めてです。

前提として、正期産・well-appearingな小児が対象です。

生後8〜21日、22〜28日、29〜60日それぞれの推奨対応をフロチャートでまとめています。
このフロチャート、わかりやすいですね〜。

これまでのクライテリアと大きく異なる点は以下でした。
・炎症マーカーとしてWBCではなく、体温>38.5℃・CRP・プロカルシトニン・好中球数の4つを用いる。
・SBI(serious bacterial infection)と一括りにするのではなく、尿路感染症、細菌性髄膜炎、菌血症のように個別に表現している。

また、以下のことが強調されていました。
・このガイドラインを唯一の標準的診療としない。
・他の対応を否定しない。それぞれの症例での状況を考慮すべき。

この30年間でワクチンが普及し、CRPやプロカルシトニンなどの検査も普及し、ずっと新しいクライテリアが望まれていました。
今回、学会公式のガイドラインが発表され、インパクト大ですね。

②救急医のHINTS試験も信用できそうです。…ただし、6時間トレーニングを受ければね。
Camille Gerlier et al. Differentiating central from peripheral causes of acute vertigo in an emergency setting with the HINTS, STANDING, and ABCD2 tests: A diagnostic cohort study. Acad Emerg Med. 2021 Jul 10.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34245635/

過去、文献班で紹介したように、救急医が行うHINTS試験には精度が疑問視されていました。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001231

しかし今回、たとえ救急医であってもHINTS試験の診断精度が高いという論文が発表されました。
また、STANDING試験という新しい診察法でも同様の結果が得られました。

おさらいです。
HINTS試験は、以下を用います。
・ヘッド・インパルス・テスト(HIT)
・眼振評価Nystagmus
・Test of Skew
STANDING試験は、以下を用います。
・ヘッド・インパルス・テスト(HIT)
・フレンツェル眼鏡を用いた眼振評価
・歩行評価
・頭位変換テスト

さて、今回の論文はフランスの3次病院の単施設前向きコホート研究です。
6時間のトレーニングを受けた救急医によって行われました。

結果、めまい患者300人のうち、中枢性は62人、末梢性は238人でした。

中枢性めまいに対して、
HINTS試験の陰性的中率は99 %、LR+ 3.0 でした。
STANDING試験の陰性的中率は98 %、LR+ 3.7でした。

…救急医も、6時間のトレーニングを受ければ中枢性めまいをほぼ除外できるということですね。
ぜひこのトレーニングを受けたいです。

福岡徳洲会病院の鈴木です。
僕からは、動脈血ガスをとるときの裏ワザに関する文献を1つ、救急外来での気管挿管に関する文献を3つ紹介します。

③手首から動脈血ガスをとるとき、事前にリドカインスプレーをかけておけば痛みを減らせる!!
Ali Gur, et al. 10% Lidocaine spray as a local anesthetic in blood gas sampling: A randomized, double-blind, placebo-controlled study. Am J Emerg Med. 2021 May 28;49:89-93.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34098331/
とてもシンプルな論文です。
144人の救急患者を、10%リドカインスプレーをかけてからABGを採る群(72人)とプラセボをかけてABGを採る群(72人)に分けました。
25Gの針で採血をするときの痛みをVisual Analog Scale (VAS)で比べてみると、、、
リドカインスプレーをかけた群は中央値で1.5点、プラセボ群は5点でした。

もちろんリドカインアレルギーについては事前に問診する必要はあると思います。ただしリドカインによる真のアナフィラキシーショックは超稀と推測されています。


さて、ここからは救急外来の気道管理に関する世界最大のレジストリー“NEAR”(National Emergency Airway Registry)から3文献を紹介します。
北米の25のacademic EDが救急外来の気道管理に関してNEARにデータを前向きに登録していっていますが、最新のデータは2016年1月から2018年末までの3年間で区切りをつけています。この期間の約19000例の気管挿管に関するデータを解析する文献が多数報告されています。
いずれもレジストリーを後方視的に分析している観察研究ですので、因果関係を断定できるものではない点に注意が必要です。
④ 救急外来のAwake挿管
Maria C Kaisler, et al. Awake intubations in the emergency department: A report from the National Emergency Airway Registry. Am J Emerg Med. 2021 May 15;49:48-51.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34062317/
最近は日本の救急外来でもRSIがかなり普及したと思います。「Awake挿管なんてほとんどしてないよ」という施設が多いのではないでしょうか?
逆に北米でAwake挿管を選択されたのは、どんなシチュエーションだったのでしょう?
なおここで言うAwake挿管とは、(キシロカインスプレーのような)局所麻酔薬を使い、筋弛緩薬を使用しなかった気管挿管になります。鎮静薬の有無は問われていません。

救急外来でAwake挿管を選択したのは、約19000例のうちわずか82例(0.4%)。選択した理由として一番多かったのは血管性浮腫(32%)。最も多く使われたデバイスは軟性内視鏡(いわゆる「ファイバー挿管」「ブロンコ挿管」だと思われます)でした。
僕は救急外来で局所麻酔薬を使った気管挿管は何年も行っていません。本論文では局所麻酔薬を使用することがAwake挿管の前提になっており、覚えておきたいポイントだと感じました。

⑤血管性浮腫に対しては経鼻挿管やファイバー挿管も多い
Benjamin J Sandefur, et al. Emergency Department Intubations in Patients With Angioedema: A Report from the National Emergency Airway Registry. J Emerg Med. 2021 Aug 31;S0736-4679(21)00549-7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34479750/
ではAwake挿管を選択した最多の理由であった血管性浮腫の患者さんの気道管理はどのようなものだったのでしょうか?
98人の血管性浮腫の患者さんのうち、60人にRSIが選択されています。全部が全部Awake挿管というわけではなかったんですね。そりゃそうですよね。重症度や緊急度によりますよね。
最も多く使われたデバイスは、やはり軟性内視鏡(ファイバー挿管、49%)でした。
また約4割は経鼻挿管を選択されていたことも興味深い結果です。
経鼻挿管でファイバーを操作している最中にどこまでを1トライとするかが曖昧なので、経鼻挿管が何回で成功したかを厳密に規定することは難しいと思われます。ただ経鼻挿管を選択した41人のうち、結果的に39人(95%)が1回で成功したと記録されていました。
また2%で外科的気道確保が行われました。

血管性浮腫の患者さんに気管挿管を行わなければならないというシチュエーション自体、体験したことのある方が少ないのではないかと思います。北米では意外とRSIを選択した救急医も多かったですが、経鼻からのファイバーを使用したAwake挿管という選択についてもシミュレーションや練習をしておいた方が良いと思われます。
意外と8割が1回で挿管に成功していますし、挿管前後の死亡例は1例もありません。
事前準備さえできていれば、落ち着いて大丈夫です!!

⑥外傷もやっぱりビデオ喉頭鏡が良い
Stacy A Trent, et al. Video Laryngoscopy is Associated With First-Pass Success in Emergency Department Intubations for Trauma Patients: A Propensity Score Matched Analysis of the National Emergency Airway Registry. Ann Emerg Med. 2021 Aug 17;S0196-0644(21)00696-X.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34417072/
外傷では顔面骨の骨折や嘔吐などの理由で、ビデオ喉頭鏡の画面が曇ったりして使いづらいと感じたことはないでしょうか?逆にネックカラーやバックボードなどの関係で、ビデオ喉頭鏡でなければ挿管が難しい症例もあるように思います。
NEARに登録された約19000例のうち、4429例(23%)が外傷による気管挿管でした。
ビデオ喉頭鏡を使えば90%が1回で挿管成功だったのに対し、直接喉頭鏡は79%でした。
やはりビデオ喉頭鏡の圧勝という結果ですね。

ただし気管挿管に関してはさまざまな交絡因子が考えられます。例えば重症度が高ければビデオ喉頭鏡を選択する理由になってしまうかもしれません。
そこで受傷機序やバイタルサインや使ったデバイスなどの様々なデータを収集してプロペンシティスコアマッチングを施行されています。マッチング後の解析でもビデオ喉頭鏡が気管挿管の初回成功に寄与するという結果でした。(OR 2.2, 95% CI: 1.6 to 2.9)
本文献は、施行者の学年や施設因子などを調節していくつも検証しています。
最初に書いた通り後方視的な観察研究では因果関係を断定することは難しいですが、多くの解析を重ねることにより、この壁を乗り越えようとしている文献だと感じました。

僕はこれからも積極的にビデオ喉頭鏡を使っていこうと思います!
ただ、、、ビデオ喉頭鏡を使いすぎることによって直接喉頭鏡での気管挿管が苦手になっている可能性についてLimitationに記載されていました。どこの国も同じ悩みを抱えているんですね。

世の中には患者の痛みを軽減するための裏ワザはあるようですが、救急医のテクニックを維持する裏ワザってないもんですかねぇ~。