2023.04.02

2023/04/02 文献紹介

もう新年度ですね、新たな仲間や環境に期待や不安を感じているメンバーも多いことでしょう。
私はどんな研修医が入ってくるのか楽しみにしながら、オリエンテーションの教材を作る今日このごろです。

さて少し遅くなりましたが、3月後半の文献を湘南鎌倉総合病院 救急科の田口と中東遠総合医療センター救急科の大林が紹介します。
ぜひとも日々の臨床に役立ててください。

①Kelsey A, et al. Video-Assisted Laryngoscopy for Pediatric Tracheal Intubation in the Emergency Department: A Multicenter Study of Clinical Outcomes.
Ann Emerg Med. 2023 Feb;81(2):113-122.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36253297/

みなさんは小児の挿管でビデオ喉頭鏡を使用しますか?
小児でのビデオ喉頭鏡の使用については初回成功率の上昇と関連しているという結果の研究、関連していないとする結果の研究があり推奨は明確ではありません。2017年とやや古いですがCochraneではビデオ喉頭鏡の使用と挿管失敗率上昇との関連が示唆されています。
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD011413.pub2/full

今回の論文は、ビデオ喉頭鏡を使用すること(画面は補助的に使用し直視で挿管したか、または画面を見て挿管したかは問わない)が初回成功率や合併症にどのように関連しているかを評価した前向きの観察研究です。

2017年から2021年に、アメリカ、カナダの小児救急11施設でデータは収集されました。
1412件の気管挿管が行われ、年齢の中央値は39ヶ月(3歳3ヶ月)でした。ビデオ喉頭鏡の使用に関して記録のある1241件の気管挿管のうち、946件(76.2%)でビデオ喉頭鏡を使用していました。施設によってapneic oxygenationの有無、鎮静薬の選択、筋弛緩薬の選択、ビデオ喉頭鏡の使用は大きく異なっていました。

結果ですが、ビデオ喉頭鏡の使用は初回成功の増加と、また深刻な有害事象の減少と関連していました。(Odds ratio(OR) 2.01[95%CI:1.47-2.73]), OR 0.70[95%CI:0.58-0.85])
また施設間で比較すると、80%以上の症例でビデオ喉頭鏡を使用している施設は初回成功の増加と関連がありました。(OR 2.3[95%CI:1.79-2.95])

本文での考察として、初回成功率が上昇した要因にビデオ喉頭鏡の使い方の違いが挙げられています。
今回はビデオ画面のみを見て挿管する方法に限らず、ビデオ喉頭鏡を使用して直視下に挿管し画面は補助として使用する方法、リアルタイムで指導を受けながら挿管する方法、リモートで指導を受けながら挿管する方法などがありえました。以前の研究ではこうした使用方法は含まれていませんでした。
実際に過去の研究では、直視が可能なC-MACでは初回成功のOddsが上昇し、最近まで直視では挿管できなかったGlidescopeでは初回成功のOddsが上昇しなかったという結果もあります。

本研究は小児救急外来での結果であり、日本の救急外来にそのまま当てはめることはできません。とはいえ個人的にはぜひ直視のできるビデオ喉頭鏡を使用して、またその練習をして安全な挿管を心がけたいと思いました。

②Olugbenga A, et al. Vascular Complications in Children Following Button Battery Ingestions: A Systematic Review.
Pediatrics 2022 Sep 1;150(3):e2022057477
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36032017/

次はボタン電池の誤飲に関するシステマティックレビューです。

このレビュー、著者らがボタン電池誤飲後の食道からの出血により2歳児の死亡を経験し、執筆を始めたそうです。

5歳未満、20mm以上のボタン電池誤飲で合併症が多くなること、食道へのダメージは15分、重度の腐食性の食道損傷は早いと2時間で起きることが、すでに報告されています。

本研究は、ボタン電池誤飲により血管、食道、気道に関する合併症や死亡が生じた18歳未満の児について調査しました。 米国国立毒物情報センターの登録データベースとPubMedからそれぞれ抽出した361人を分析した結果、69人(19%)が死亡し、51人(14%)が血管合併症を発症していました。
血管合併症のうち大動脈-食道瘻、死亡はそれぞれ75%、82%でした。
またボタン電池が体内に留まっていた時間は、致死的となった症例では中央値96時間[IQR:28-240]、致死的でない症例では中央値36時間[IQR:8-144]と長期間ボタン電池が体内に残存していることが、血管合併症や死亡の危険因子であることが示唆されました。

頻度としては非常にrareなボタン電池誤飲による血管合併症ですが、診断が遅れることが致命的になることが認識できました。
誤飲は目撃があるとは限らず、初期には非特異的な症状で来院するため、診断することは必ずしも容易ではありませんが、レントゲンさえ撮れば診断ができます。
診断がはっきりつかない症例では誤飲を疑うような「もの、電池が紛失した」などの病歴を積極的に聴取し、ボタン電池誤飲の疑いがあれば速やかにレントゲンの撮影、早期の除去を試みたいと思います。

③Vrettou CS, et al. Effect of Different Early Oxygenation Levels on Clinical Outcomes of Patients Presenting in the Emergency Department With Severe Traumatic Brain Injury.
Ann Emerg Med. 2023 Mar;81(3):273-281
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36402630/

「重症頭部外傷の初期治療中は酸素投与について悩まなくても大丈夫」

重症頭部外傷患者(以下、TBI)において最適な酸素化のターゲットはわかっていません。
酸素投与によって脳代謝が改善するという報告がある一方で、過度な酸素化は中枢神経毒性、脳血管攣縮、感染症の素因につながる免疫傷害、急性肺障害といった有害な影響をもたらすことも知られています。

そこでResuscitation Outcomes Consortiumが実施したTBIに対する高張食塩水投与研究(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/results/NCT00316004 )のデータを用いて、酸素投与による臨床転帰について調査行いました。

試験に登録された1,282人のうちGCS8以下のTBI患者が1,037人いて、そこから初療時(ERに到着してから4時間以内)にPaO2測定されていた910人をPaO2の最低値によって、①PaO2≦100,②101〜250、③251〜400、④≧401mmHgと4群に分けて解析しました。
主要評価項目は6ヶ月後の神経学的予後で、Glasgow Outcome Scale Extended(以下、GOS-E)を用いて、スコアが5以上を良好、4以下を不良と評価しました。
また副次評価項目は、全死因死亡率、酸素による肺傷害と関連しているARDSの発症、28日以内の院内肺炎の発症です。
(補足:肺炎はTBI患者に最も多い感染症で機能転帰スコアが低くなるオッズが約7倍に増加する独立因子として知られている)

結果ですが、それぞれ①178人 ②280人 ③241人 ④211人の患者がいました。
患者背景として①の群はISSがその他の群より高く、ヘモグロビン値が低いという特徴がありました。
①の群を基準した神経学的予後不良のオッズ比(カッコ内は95%信頼区間)は、

未調整  ②OR 0.59(0.38-0.91) ③OR 0.53(0.34-0.83) ④OR 0.31(0.20-0.49)
基本調整 ②OR 0.58(0.35-0.95) ③OR 0.58(0.35-0.98) ④OR 0.39(0.23-0.67)
フル調整 ②OR 0.87(0.49-1.52) ③OR 0.75(0.42-1.35) ④OR 0.57(0.31-1.05)
(基本調整は年齢・RTS・瞳孔の反応性で調整、フル調整は入院時Hb・Marshall CT分類スコア・ISSを追加)

となりました。
またARDSも①群と比較して②③④群で関連する可能性が低くなりましたが、院内肺炎の発症とは関連はありませんでした。
ただし「PaO2が高くした方が予後が良い」という結論にはなりませんのでご注意ください。

欠損値が11%程度あり、酸素化の違いが患者の特徴や外傷の違いを示している可能性を排除できない、PaO2を測定したタイミングに関するデータが不足しているといった制限はありますが、おそらく初期治療(4時間以内)の段階ではPaO2は101以上あったほうが良さそうで、少なくとも酸素を過剰に投与しても長期的な臨床転帰に悪影響を及ぼさない可能性があるといえます。

この結果から、初療中は厳密な酸素化のコントロールよりも、その他の全身安定化に集中した方がよさそうです。

過去の研究では入院から24時間以内にPaO2が200mmHg を超えると神経学的予後が悪化し死亡率が高くなることが報告されているので、治療のフェーズで酸素化レベルのターゲットは変えていきましょう。

④Yu-Hsiang M, et al.Effect of Carbon Monoxide Poisoning on Epilepsy Development/ A Nationwide Population-Based Cohort Study.
Ann Emerg Med. 2023 Feb;Online Ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36797130/

「CO中毒とてんかん発症が関連している」

CO中毒による遅発性の精神神経障害(delayed neuropsychiatric syndrome)はよく知られていますが、CO中毒が後のてんかんの発症に影響するかは知られていません。
新生児の低酸素性脳症でてんかん発作の起点となる部位とCO中毒で傷害される脳の部位にはいくつか関連がみられていて、その中には大脳基底核や海馬も含まれています。

この知見からCO中毒とその後のてんかん発症は関連するのではないか、と著者らは調査を行いました。
台湾の国民健康保険研究データベースを使用して2000年1月1日〜2010年12月31日までに台湾全ての病院に入院した20歳以上のCO中毒患者を抽出し、その5倍のCO中毒でない患者を年齢・性別ごとにランダムにマッチさせました。
主要評価項目は追跡中のてんかんの新規発症、追跡期間は2013年12月31日までとし、13年間の追跡期間における発生率をKaplan-Meier法で推定しました。

結果として8,264人のCO中毒患者と41,230人の非CO中毒患者がマッチされ、併存疾患などの共変量を調整した後のてんかん発症はCO中毒群でより高いことがわかりました。(HR 8.40 95%CI 6.80-11.36)
また中高年や高齢者より若年者の方が、CO中毒によりてんかんを発症するリスクが高まる可能性が示唆されました。(HR 11.06 95%CI 7.17-17.08)

この研究の制限ですが、まずデータベースによる研究のため社会的経済的地位・喫煙・薬物使用・アルコール消費といった結果に影響するリスク要因の情報が欠損していました。
またCO中毒による自殺を試みる可能性が高いうつ病患者は、もともとてんかんとの関連性が指摘されているものの、今回の研究ではうつ病を変量にいれていません。

そして初期のCOHbレベル、曝露時間や呼吸管理方法といった重症度に関する情報がなく、また高圧酸素療法とてんかんの関連性の評価まではできていないということが挙げられます。

今後はCO中毒による神経後遺症は認知機能低下やパーキンソニズムだけでなくてんかんの発症にも注目していこうと感じた調査報告でした。

湘南鎌倉総合病院 救急科 田口 梓
中東遠総合医療センター 救急科 大林 正和