2024.01.16

2024/01/30 文献紹介

2024年から新しくEMA文献班に加わった国際医療福祉大学成田病院の西田 晴香と申します。
これからよろしくお願いいたします。

今回のラインナップは以下です。
① 急性中毒の非侵襲的気道戦略
② ILCORのガイドライン update
③ 救急医の労働時間は第3位

①Freund Y, et al. Effect of Noninvasive Airway Management of Comatose Patients With Acute Poisoning: A Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2023 Dec 19;330(23):2267-2274. 
PMID: 38019968
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38019968/

GCS≦8は挿管!・・とはいえ、急性中毒患者への気管挿管って迷うことがありますよね。
そんな中、挿管戦略を比較した多施設RCTが出ました。ED20+ICU 1施設で行われた研究です。

P:18歳以上、GCS<9 の急性中毒患者
I :非侵襲的な気道管理
C:通常管理
O:院内死亡+ICU 滞在期間+入院期間の複合アウトカム
・介入群では緊急挿管(呼吸不全、脳損傷、全身痙攣発作、SBP<90のショック)の適応がない限り、挿管せずに4時間慎重にモニターされました。
・対象群で挿管するかは救急医の判断に任されました。

結果は全225例(平均33歳、女性38%、GCS平均6)、介入群116例、対照群109例。
中毒の大半がアルコールとベンゾジアゼピンでした。
結果的に、非侵襲群 16%、通常管理群 58%が挿管されました。

Primary outcomeである複合アウトカムとして、院内死亡・ICU入室期間・入院期間ついて順番に勝負させていくことによって得られるwin ratioを評価したところ、非侵襲群でwin ratioが1.85(95%CI、1.33-2.58)と有意に優れていました。
Secondary outcomeであるICU入室率( 39.7% vs 66.1%)、肺炎の合併率(6.9% vs. 14.7% [OR 0.43; 0.18 to 1.05])も非侵襲群と少ない結果でした。
なお、両群とも院内死亡はいませんでした。
ちなみに、win ratioとは、複合エンドポイントを使う際にイベントに優先順位をつける目的で使用されるようです。

通常管理群の挿管率が58%という結果から分かるように、GCS<9がでも多くの医師が気道戦略を迷うところなのかと思いました。個人的には積極的に挿管していたタイプでしたが、みなさまはいかがでしょうか?

今回の研究で、急性中毒患者(とくにアルコール中毒)では、不必要な挿管を回避すれば、ICU入室や有害事象リスクが低下する可能性がわかりました。もちろん、患者ごとに適応を考えること、慎重にモニターする環境があることが大前提だと思います。

②Berg KM et al.2023 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations: Summary From the Basic Life Support; Advanced Life Support; Pediatric Life Support; Neonatal Life Support; Education, Implementation, and Teams; and First Aid Task Forces. Circulation. 2023 Dec 12;148(24)
PMID: 37942682
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIR.0000000000001179

ILCORのガイドラインがupdateされました!
上記URLからフリーで読めますので気になる方はぜひご覧ください。
日本語版のハイライトも公開されていますのでサッと目を通したい方は下記もお勧めです。
https://cpr.heart.org/-/media/CPR-Files/CPR-Guidelines-Files/2023-ACLS-Focused-Updates/JA_Hghlghts_2023GLFU_ALS.pdf

今回はERに関係しそうなトピックを3つ紹介しようと思います。

1.CPRでルーチンにカルシウムは投与しない

今回はさらに使用しないように強調されました。OHCAに対しては使用しないことを強い推奨、IHCAに対しては使用しないことを弱い推奨です。

高カリウム血症やカルシウム拮抗薬の過量内服などの場合はもちろん使用しますが、闇雲にカルシウムを投与することはむしろ害になる可能性があるとのことです。(COCA trial:PMID 35917866)

2.DSEDの推奨が記載された

最近何かと話題のDSEDについてです!
3回以上の連続ショック後もVFまたはpVTが持続する場合は考慮する(弱い推奨)と新たに記載されました。

そして行うなら1人のオペレーターがなるべく同時押しで、という方法が良さそうです。今後の研究も要チェックですね!

過去に文献班でも紹介していますので、チェックがまだの方は確認してみてください。
素早く同時押しがよさそう→https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001282

DOSE VF試験→https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001257

3.ECPRはまだエビデンス不足

内容はあまり変わらず「従来のCPRが奏功しない場合は考慮することを弱く推奨する」でした。

最近行われたOHCAに対するRCTではARREST試験、EROCA試験、INCEPTION試験がレビューされました。
これらの結果を元にOHCAに関してはエビデンスレベルがvery-lowからlowへ少し上がったようです。IHCAについては変わらずvery-lowでした。

大きく日頃のプラクティスが変わる内容ではないですが、少しずつ変化がありますね。

他にも溺水CPAの対応や、蘇生後脳症の神経学的予後評価についてなども載っていますので興味のある方は本文を読んでみてください。

③日本の臨床医の業務時間に関する記述研究
Koike S, et al. Working hours of full-time hospital physicians in Japan: a cross-sectional nationwide survey.
BMC Public Health. 2024 Jan 12;24(1) :164.
PMID: 38216962 ※無料で読めます
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10785398/

日本の救急医の労働時間は全診療科の中で3番目に長い

2024年度の働き方改革開始まであとわずかとなりました。各施設で対策や調整は進んでいるでしょうか?
それに関連して、日本の勤務医の労働時間に関する記述研究が発表されましたのでご紹介します。

日本の病院で働く常勤医11,466名を対象とした2022年の調査結果をまとめたもので、救急医は217人(大学病院60名、市中病院157名)でした。
全回答者の労働時間は50.1時間/週で、救急医は54.1±14.3時間/週(大学病院と市中病院とで有意差なし)
これは脳神経外科56.4±16.1、外科54.5±15.2に次ぐ3番目の長さです。
ちなみに2016年の救急医は55.9時間/週、2019年は61.0でした。上位3科の顔ぶれは2019年と同じです。

救急医はワークライフバランスとの相性が良いと言われることも多く、私自身もそのように考えていたため本研究の結果は意外に感じました。

一口に救急医と言っても働き方は様々で、シフト制か固定勤務制か、救急外来か入院診療か、施設の規模や体制、地域などいろいろなファクターで変動するかと思います。また、回答が自己申告であること、コロナ禍真っ最中の調査であることの影響を考慮する必要があります。
持続可能な救急医療の提供のために労働時間の工夫は重要な要素です。即時解決が難しいこともありますができることを少しずつ考えていければと思います。
参考:EMA for us https://www.emalliance.org/emaforus/

以上、1月後半の3文献でした。次回もお楽しみにお待ち下さい!