2022.12.08

2022/12/08 文献紹介

 

EM Allianceの皆様

2022年も残すところあと1ヶ月を切りましたね。
COVID-19とインフルエンザのダブル流行への備えは万全ですか?
少し遅くなってしまいましたが、明日からERプラクティスに刺さる11月後半の文献をお届けします!

①Sheldon Cheskes,et al. Defibrillation Strategies for Refractory Ventricular Fibrillation.
N Engl J Med 2022 Nov 24; 387:1947-1956
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36342151/

「難治性VFにDSEDで対応」

難治性VF/pVTに対するDouble Sequential External Defibrillation:DSEDをご存知ですか?実は以前にもEMA文献班で紹介したことがあります。 https://www.emalliance.org/education/dissertation/1

DSEDは難治性のVF/pVT(除細動に3回連続で反応なし)に対して2組のパッドと除細動器を連続で使用する方法です。2020年にpilot studyが行われ、2022年11月に今回の研究、DOSE VF試験の結果が発表されました。

本試験では難治性VF/pVTに対して3つの方法を検討しています。
1. 従来通り右前胸部と左側胸部にパッドを貼る(従来法)
2. 前後にパッドを貼る(Vector change: VC)
3. 1と2の両方のパッドを装着し、除細動時には1秒以内に連続してボタンを押す(DSED) 

カナダの6つの救急隊においてクラスターランダム化クロスオーバー試験が行われました。PICOは下記の通りです。
P : 18歳以上で、除細動に3回連続で反応しないVF/pVTの病院外心停止の患者
I : VC群とDESD群
C : 従来法群
O : 生存退院

事前のsample size計算では930人が必要でしたが、COVID-19の流行のために試験は早期に中止され、最終的に405人が解析されました。

Primary Outcomeである生存退院した患者の割合は従来法群13.3%、VC群21.7%、DSED群30.4%とDSEDが最も優れていました。
またSecondary outcomeの神経学的予後良好(mRankin scale≦2)の患者も従来群に対してDSED群でAdjusted Relative Risk 2.21(95%CI, 1.26-3.88)と優れていました。

様々な障壁は考えられますが、今後の救急隊の活動も変化してくるかもしれません。

では自分ならばERでDSEDを行うか?を考えてみました。
今回は病院前でのDSEDに関しての研究であり、ERに来院後のDSEDについては検証できていません。ただし難治性VFではECMOが考慮され、それに比してDSEDは簡便で低侵襲かつ有効な可能性がある治療であり、個人的にはトライしてみてもいいのではないかと思います。
症例報告では各種薬剤の投与と11回の除細動の後にDSEDでsinus returnし、神経学的予後良好で生存退院したという報告もありました。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36210231/

懸念されるのはACLSが疎かになることです。切れ目ないCPRを行いながら背面にパッドを貼りDSEDを行うには、チームでの練習やシミュレーションが必要です。本研究で行われたDSEDの動画もありますのでご参照ください。https://www.dropbox.com/s/xzjm3i963mkf1ft/Choreography%20of%20DSED.mp4?dl=0

皆さんならどうしますか?

②Rayas EG, et al. Distal femur versus humeral or tibial IO, access in adult out of hospital cardiac resuscitation.
Resuscitation. 2022 Jan;170:11-16.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34748766/

「蘇生中に大腿骨遠位部の骨髄路ってどうなの?」

蘇生や外傷、小児症例で静脈路が確保できない時に頼りになる骨髄路ですが、
脛骨は輸液するのに高い注入圧が必要であったり、上腕骨は胸に近いので蘇生行為中には穿刺しにくかったりと少し不便な点もあります。

今回は蘇生中の骨髄路を穿刺部位で比較した研究を紹介します。
研究はアメリカ、テキサス州のサンアントニオ消防署救急医療サービス(SAFD EMS)で行われました。SAFD EMSは人口約150万人の都市にある唯一の救急医療サービスで、2018年には1,400件近くの蘇生を試みたという実績があります。
SAFD EMSでは2016年に骨髄針の穿刺部位として大腿骨遠位部を蘇生プロトコルに導入しました。
アメリカでは救急救命士が骨髄針でルート確保しているようで驚きです。
2017〜2018年の2年間に18歳以上の院外心停止症例で、2016例の骨髄路(大腿骨888例、脛骨534例、上腕骨594例)が確保されました。
初回成功率は大腿骨95%、脛骨87%、上腕骨95%で加圧バッグを用いて投与された生理食塩水の量は脛骨で有意に少なく、大腿骨と上腕骨では差はみられませんでした。
また上腕骨は大腿骨に比べて骨髄針の脱落が少ないということがわかりました。

今回の研究ではEZ-IO®(Teleflex社)を使用していて、成人では大腿骨遠位部での使用をFDAで承認されていませんので、ご注意ください。(小児では承認されています)

狭い救急車内で胸骨圧迫しながらルート確保するには、大腿骨遠位部骨髄路、とてもいいんじゃないでしょうか。

③Ankol S, et al. Distal femur intraosseous access in adult trauma patients: Afeasible option?
Am J Emerg Med. 2022 Nov 15; Online ahead on print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36428188/

「大腿遠位部での骨までの距離」

さて、大腿骨遠位部の骨髄路の可能性について紹介しましたが、次は骨髄路確保の成否に関わる重要な要素、大腿遠位部の皮膚ー皮質骨の距離(Soft tissue depth、以下STD)を調べた研究です。

イスラエルの高度な教育医療センターを重症外傷で受診した1,024人の成人患者のうち、大腿遠位部までCT撮影が行われていた114人が対象となり、広範な骨折でSTD測定が出来なかった16人を除いて98人からデータを取りました。
測定部位は膝蓋骨から2cm近位の大腿正中です。
研究コホートの65.3%は男性で、年齢中央値は32歳、BMIの中央値は24.8でした。
今回の研究コホート内では年齢やBMIとSTDの分布には相関がなく、STDの中央値は35mmで、22人(22.4%)でSTDが40mm以上という結果でした。
EZ-IO®の一番長い針が45mmなので、STDが40mm以上の傷病者ではそのまま大腿骨遠位部に骨髄路を確保するのは難しそうです。

実際に先程紹介したサンアントニオの救急救命士は、大腿骨遠位部で骨髄路を取るときには、カットダウンを行う場合もある、とのことでした。

大腿遠位部で骨髄路を取る場合は、さっとエコーを当ててSTDを測定してからが安全かつ確実でしょう。

④Grossman M, et al. Complete Neurological Recovery After Emergency Burr Hole Placement Utilizing EZ-IO® for Epidural Hematoma.
J Emerg Med. 2022 Oct 10; Online ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36229321/

「EZ-IO®で緊急穿頭!」

骨髄針にまつわる文献の最後は、EZ-IO®での緊急穿頭の症例報告です。

症例は自動車事故で救急外来を受診した17歳女性、受診後に意識を失いGCS 4点に悪化、嘔吐もあり緊急で頭部CTを撮影して左前頭部に急性硬膜外血腫を認めました。
しかし受診した病院ではすぐに脳神経外科の介入ができず、また緊急穿頭のための道具もなかったため、小児外傷センター搬送しようとしましたが悪天候で空路も使えず、地上搬送では間に合わないという状況でした。

小児外傷センターの神経外科医と協議して、眼窩・前頭洞・シルビウス裂を通らない安全な場所を選んで、EZ-IO®で骨髄針を挿入し35mLの血液を回収したところ、鎮静中ではありましたがGCS 8点に改善し、その後小児外傷センターに搬送されました。
なんと17歳の女性は神経学的障害を残さず術後4日で退院したそうです!

脳神経外科的な介入がすぐに出来ない時の救命処置として、EZ-IO®のこのような使い方を知っておいて損はないでしょう。

今回、EZ-IO®に関する文献ばかり紹介しましたが、Teleflex社とのCOIはありません。

湘南鎌倉総合病院 救急科 田口 梓
中東遠総合医療センター 救急科 大林 正和