2023.03.03

2023/03/03 文献紹介

今回の担当は練馬光が丘病院 総合救急診療科(救急部門)の竪と東京ベイ浦安・市川医療センターの山本です。

今回ご紹介する文献は以下の3つです。

①偶発性低体温へのECMOは有効か
②初期輸液後の敗血症による低血圧に対して、輸液優先と血管作動薬優先のいずれが良いか
③セロトニン症候群のリスクについて

練馬光が丘病院 総合救急診療科(救急部門)の竪です。私からは2つの文献を紹介します。

① Shuhei Takauji, et al. Outcome of extracorporeal membrane oxygenation use in severe accidental hypothermia with cardiac arrest and circulatory instability : A multicenter, prospective, observational study in Japan (ICE-CRASH study)
Resuscitation 2023; 182: 109663

1つ目は偶発性低体温に対するECMOの有効性と安全性を調べた、日本の多施設前向き観察研究であるICE-CRASH studyです。

ヨーロッパ蘇生協議会(ERC)の最新のガイドラインでは、心停止や循環の不安定な偶発性低体温患者にはECMOの使用を推奨していますが、そのエビデンスは限られています。倫理上の問題でRCTの実施が困難であり、これまでの研究は単施設の後方視的な研究やsystematic reviewが主です。循環が不安定ですが心停止に至っていない患者へのECMOの導入は非常にcontroversialで、それはECMOが重篤な合併症を起こし得る侵襲度の高い治療法であるからです。

今回の研究は18歳以上、来院時の体温が32℃未満で、「来院時に心停止もしくは来院後に救急外来で心停止になった患者」と「来院時に血圧が測定不能もしくは収縮期血圧が60mmHg未満もしくは心拍数が50/分未満の患者」を対象としています。

計242人の重症の偶発性低体温患者のうち201人が非ECMO群、41人がECMO群でした。ECMO以外の復温方法は臨床医の判断でした。年齢の中央値は80歳程度で、偶発性低体温症の発生場所は半数以上が屋内でした。

入院後28日目の生存率と退院時の神経学的予後良好(CPC 1か2)の割合を評価しており、心停止患者ではECMO群は非ECMO群と比較して共に有意に改善したのに対して、循環の不安定な患者では共に有意差がありませんでした。循環の不安定な患者では更にECMO群でICU在室や人工呼吸器装着、カテコラミン投与のない日数を減らし、出血合併症の頻度を増やすという結果でした。出血合併症は非ECMO群で21.9%に対してECMO群では73.2%に達しました。ただでさえ低体温で凝固障害がある状況で、ECMO管理のための抗凝固薬使用が影響したと考えられます。

心停止に至ってしまった場合には蘇生と復温を兼ねてECMO導入すべきですが、心停止に至っていない場合には循環が不安定でも必ずしもECMO導入ではなく、出血合併症のリスクを考慮して復温方法を考慮すべきという結論です。1)心停止前にECMO導入するメリットが大きい患者群はいるのかどうかと2)復温中にECMOを安全に管理し、合併症を最小限にする方法(復温完了までは抗凝固薬をしないなど)について今後の研究で明らかにしていく必要があるとも述べられています。

皆さんの施設では循環が不安定な偶発性低体温症に対する復温方法はどうしていますか?

② Nathan I Shapiro, et al. Early Restrictive or Liberal Fluid Management for Sepsis-Induced Hypotension
N Engl J Med 2023; 388: 499-510

2つ目は敗血症による低血圧に対して輸液と血管収縮薬のどちらを優先するかに関するRCTであるCLOVERS trialです。

この件については去年の9月前半の文献紹介の際にも触れていますのでご参照下さい。https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001252

約10年前には十分な輸液なしで血管収縮薬を使う事は許されないとよく言われていましたが、ここ数年はその風潮が変わってきました。過剰輸液の害が指摘されるようになり、輸液制限をして早期に血管収縮薬を開始する事の妥当性が言われ始めました。

大きなRCTについて述べると、2019年のCENSER trialでは血管収縮薬の早期使用群で、死亡率には差がなかったもののショックのコントロール率が有意に上昇するという結果でした。2022年のCLASSIC trialでは成人ICUに入室した敗血症性ショック患者において輸液制限群は通常輸液群と比較して死亡率を改善させなかったという結果でした。しかし呼吸補助を伴う敗血症性ショック患者では輸液制限が有益となる傾向にありました。ちなみにCENSER trialは診断から6時間前までのRescue期の議論であったのに対して、CLASSIC trialはRescue期に続くOptimization期の議論でした。

今回のCLOVERS trialはCENSER trial同様にRescue期の議論であり、米国の60施設の救急外来を受診し、初期輸液として1~3Lの輸液を施行されたが収縮期血圧<100mm Hgである18歳以上の敗血症患者を対象としています。今回は24時間で検討しています。これまでのRCTと違って輸液優先群だけでなく血管収縮薬優先群にも細かいプロトコールが定められています。ランダム化を行なった時点で両群共に2割程度で血管収縮薬が既に使用されていました。

24時間の輸液量は血管収縮薬優先群で1267mL、輸液優先群で3400mL(いずれも中央値)が投与されました。「90日目までに元々の生活環境へ戻る前に死亡した割合」は両群共に14%程度で有意差はありませんでした。

24時間で血管収縮薬を使用した症例の割合が血管収縮薬優先群で59.0%、輸液優先群で37.2%である事、ベースラインのSOFA scoreの平均値が3点台である事、平均年齢が60歳程度である事などから敗血症の重症度としてはそれほど高くなかったと予想されます。

輸液優先群はランダム化を終えるとまず体重に関係なく2Lの輸液が開始される点や両群共に2割程度は既に血管収縮薬が使用されている点には違和感がありました。また輸液反応性の指標として非侵襲的なデバイスや心エコーなどを基本的に使用せず、血圧や心拍数、乳酸値、尿量などの簡単に測定可能なものを主な指標にしている点は大きなlimitationになると思いました。

血管収縮薬の投与経路として中心静脈路だけでなく末梢静脈路も可としていましたが、重篤な血管外への漏出などは報告されず安全に末梢静脈路から投与可能であるという事実を改めて示した事は興味深い点です。

輸液優先か血管収縮薬優先か、この議論はまだまだ続きそうです。というよりどちらかを優先するのではなく、両者をうまく併用していく事が重要なのかもしれません。

東京ベイ浦安・市川医療センターの山本です。
私からはセロトニン症候群に関する文献を紹介します。

③ Cooper J, et al.
Predicting serotonin toxicity in serotonin reuptake inhibitor overdose.
Clin Toxicol (Phila). 2023 Jan;61(1):22-28.

“セロトニン症候群のリスクはSSRI/SNRIの内服量よりも同時に内服した薬剤に影響を受ける”

セロトニン症候群の症例や解説は過去にEMA症例で扱っていますので、https://www.emalliance.org/education/case/kaisetsu8 を参照してください。

この研究はSSRI/SNRIの過量服薬に関するコホートです。
1990年から2013年までSSRI/SNRIを過量服薬し入院した2200人が対象です。

このコホートでのセロトニン症候群の発症率は13.6%です。
過去の報告と違わず、SNRIで16.3%、SSRIで12.5%と、SNRIの方がセロトニン症候群の発症率が高いです。
またMAO阻害薬併用で発症リスクが高まるのは知られていますが、本研究でも同様の結果でした。
SSRI/SNRIが治療量でも、MAO阻害薬を併用すると、発症リスクは5倍、あるいは最大で80%に増加しました。

ここからが非常に興味深いです。
SSRI/SNRIの過量服薬の量が増えるほど、セロトニン症候群の発症率は増えそう、というのが直感ですね。
ところが結果はそうではありませんでした。

まずSSRI/SNRI共に治療量でも12.5%にセロトニン症候群が発症しました。
内服量と発症率の間に相関はあるものの、服薬量の中央値ではその発生率は12.7%とほとんど変わりません。
多変量解析でのORは1.01 (95% CI, 0.93 - 1.10) です。
1日治療量の420倍の過量服薬でも、発症率は19%でした。

一方で5HT2Aアンタゴニストのオランザピンやリスペリドンの併用は、セロトニン症候群のリスクを減少させました。
オランザピンで1/2、リスペリドンで1/6のリスクです。
SSRI/SNRIを治療量の15倍過量服薬し、同時にオランザピン、リスペリドンを内服していると、セロトニン症候群を発症する可能性はそれぞれ5.5%、1.8%に減少します。
オランザピンやリスペリドンが5HT2Aに対して抗セロトニン効果を発揮し保護的に働くようです。
なおリスペリドンの方がオランザピンよりも5HT2Aの占有率が高いため、リスペリドンの方が保護効果が高いと著者は考察しています。

セロトニン症候群を発症するリスクは、SSRI/SNRIの内服量そのものよりも、同時に摂取した薬剤に影響を受けることがわかりました。
SSRI/SNRI過量服薬の診療時には、同時に内服した薬剤に、一層の注意をお願いします。