2022.09.16

2022/09/16 文献紹介

9月前半の文献紹介は、福岡徳洲会病院の鈴木と沖縄県立中部病院の岡です。
沖縄と福岡の南国コンビで、4つの論文を紹介します。

前半は福岡徳洲会病院の鈴木です。
9月下旬にEMAのメンバーで担当させて頂いた
レジデントノート増刊「救急診療、時間軸で考えて動く!」が発刊されますね。
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今回は特別に、「時間軸」に関連する文献として、敗血症性ショックに対するNAD投与のタイミングについての文献を紹介いたします。

①Fei Xuら
Early initiation of norepinephrine in patients with septic shock: A propensity score-based analysis. Am J Emerg Med. 2022 Apr;54:287-296
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35227959/

皆さんは敗血症性ショックに対して、どのタイミングでノルアドレナリン(以下NAD)の投与を開始していますか?以前は、「十分な輸液を行う前にカテコラミンを投与すれば心臓が空打ちになって良くない」などと説明されていました。しかしこれは主にドパミンを使用していた時代に言われていた事です。また、過去にSSCG(Surviving Sepsis Campaign Guidelines)で紹介されたEGDT(Early goal directed therapy)は、まずCVPが8mmHgを超えるまで輸液し、それでも平均血圧が低ければ昇圧剤を使用するというプロトコールでした。今はEGDTが通常治療に勝らないとされており、歴史的な役割を終えようとしていると思います。
なお最新のSSCGでもNADを第一選択薬にする事は勧めていますが、投与開始のタイミングについては言及していません。
そこでこの話題について、どの様な研究があったのか少し整理してみます、、、

2014年に行われた213人の敗血症性ショック患者を対象とした後方視的研究(PMID: 25277635)では、2時間以内にNADの投与を開始した方が、2時間以降に開始した群よりも28日後の死亡率が低いという結果でした(OR=1.86; 1.04 to 3.34)。

2018年には310人の敗血症性ショックの患者を対象に、早期NAD投与群と通常治療群の2群に割り当てた単施設RCTが行われました(PMID: 30704260)。CENSERと名付けられたこのTrialでは、早期NAD投与によって6時間後のショック離脱が有意に増える結果でした。副次項目である28日後の死亡率に有意差は出ませんでしたが、症例数が足りない影響が疑われていました。

2020年には、337人の敗血症性ショックの患者に対してpropensityマッチングを行い、輸液負荷開始から1時間以内にNADを投与した93人と、それより遅くNADを投与し始めた93人を比べたStudyがあります(PMID: 32059682)。1日目のSOFA scoreや抗生物質投与の遅延や体液バランスなどで調整したところ、早期にNAD投与すると28日後の死亡率を有意に下げるという結果でした(HR=0.47; 0.26 to 0.85)。

今年に入って、韓国からは415人の敗血症性ショックの患者に対するpropensityマッチングで、輸液開始から1時間以内にNADを投与した149人と、それより遅くNADを投与し始めた149人を比べたstudyがでました(PMID: 34612848)。こちらは各種因子を調整後に比較したところ、早期にNAD投与すると28日後の死亡率は逆に上がるという結果でした(HR=1.83; 1.26 to 2.65)。

このように敗血症性ショックに対するNAD投与開始は、早く開始した方が有利な結果であるStudyが多い状況ではありますが、まだ結論が出ていない分野と言えます。
専門家に対して行った調査では、十分な輸液を行っている最中から昇圧剤を開始する方法を好む専門家はわずかに26%しかいない様です(PMID: 30701448)。慣例的に「しっかり輸液してから昇圧剤開始」というアプローチが守られているのかもしれません。

今回紹介する文献は4253人の患者に対して後方視的にPropensityマッチングを行い、3時間以内にNAD開始した群と3時間以降にNAD開始した群、それぞれ約1400人ずつを比較しています。結果的に早期投与群の方が28日死亡率は低く(30.0% vs 37.8%)、ICU滞在期間は短い(4.9 vs 7.2日)結果となりました。ただし2群間の輸液量が極端に違うので、調整しきれていない因子が隠れている可能性も疑われます。
これまでの文献よりも一桁n数の多いpropensityマッチングでしたが、やはり「しっかり輸液する前から」NAD投与を開始した方が良さそうな結論でした。今後は大規模なRCTの追試を待つことになりそうです。それまでのアプローチはそれぞれの医師や施設に任されることになると思います。僕はしっかり輸液してからNAD開始する派でしたが、少しアプローチを変えていこうと考えています。

後半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。

②Michael Gottliebら.
Managing Temporomandibular Joint Dislocations.
Ann Emerg Med. 2022 Jul 13;S0196-0644(22)00403-6.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35842342/

③Michael Gottliebら.
Managing Elbow Dislocations.
Ann Emerg Med. 2022 Jun 16;S0196-0644(22)00278-5.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35727595/

「顎関節脱臼と肘関節脱臼の整復法まとめ」

最近、顎関節脱臼と肘関節脱臼の整復法をまとめた論文が発表されました。
どちらも、しばしばERで遭遇する脱臼です。

写真で解説してあり、分かりやすいです。

特に、顎関節の論文がナイスでした。
どの順で整復法を試していけば良いか、提案しています。

順番に、シリンジ法→口腔外法→同側法→レバー→手首ピボット→ヒポクラテス(→咽頭反射(!))です。

古典的ヒポクラテス法を最初にやりにくくなりましたね。汗

いつでも見られるように、自分のEvernoteに保存しました。

そして、顎関節脱臼の整復法について、以下のブログでまとめてくれています。

りんごの街の救急医
https://appleqq.hatenablog.com/entry/2022/04/06/172133

このブログ、どの記事も秀逸です。
おすすめです。
書いているのは、EMA文献班リーダーの徳竹先生です。
ありがたや〜。

④Long H. Tu ら.
Yield of Head Computed Tomography Examinations for Common Psychiatric Presentations and Implications for Medical Clearance From a 6-Year Analysis of Acute Hospital Visits.
JAMA Intern Med. 2022 Aug 1;182(8):879-881.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35727595/

「精神症状に頭部CT撮影しても、6年間効果0%だった」

リサーチレター形式のたった2ページの短い論文です。
2014-2020年のデータを用いた、多施設後ろ向き研究です。

救急外来もしくは入院患者で、自殺念慮、殺人念慮、幻覚、妄想、妄想性障害、精神病など精神症状のみの患者に対して行われた頭部CT検査について調べられました。

369人の患者(平均年齢60歳)が研究に含まれました。
ほとんど(80.5%)が救急外来での頭部CT検査でした。

頭部CTで、何らかの器質的な疾患(脳出血、水頭症、 進行性神経膠腫など)が見つかり、精神症状の診断に寄与したのは、なんと0%でした。

やはり精神症状のみであれば、頭部CTは意味がなさそうです。
そうだと思っていました。笑

しかし自分であれば、
「この病院で行われた6年間の頭部CT、まったく意味ありませんでした」
とは、なかなか言えません。
後ろめたい、闇に葬りたいです。

それを、短い論文ではありますが、きちんと論文にまとめて世界に発表する姿勢に感動しました。

岡正二郎拝