2022.07.16

2022/07/15 文献紹介

EMA文献班の井桁です。
またコロナが不穏な動きになってきましたね。今年もPPEを着て暑い夏になりそうです。
今回は前半に聖マリアンナ医科大学の川口先生、後半に国際医療福祉大学成田病院の井桁より論文紹介をさせていただきます。
内容は以下の4本です。

①鼻出血にトラネキサム酸
②偶発的に見つかったCTの異常所見
③心不全の診断と肺エコー
④肋骨骨折の超音波診断

①Hosseinialhashemi M et al. Intranasal Topical Application of Tranexamic Acid in Atraumatic Anterior Epistaxis: A Double-Blind Randomized Clinical Trial.
Ann Emerg Med. 2022 Jun 22:S0196-0644(22)00247-5.
PMID: 35752521. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35752521/

鼻血にトランサミン、やっぱり効くかもしれない

2021年3月後半にご紹介したRCT NoPAC試験(https://www.emalliance.org/education/dissertation/20210316 )では「鼻出血に対するトランサミンの使用が前鼻腔パッキングの必要性を減らさなかった」という結果でした。 また、2022年4月後半にご紹介したナラティブレビュー(https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001247 )では「有害事象も少なく、考慮すべき治療」と表現されています。
その他にも2022年1月にメタアナリシス(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34763235/ )が出ており、「局所のトランサミンは標準治療よりも止血率が高い」という結果が出ています。

今回の研究はイランの単施設で行われたRCTで、非外傷性の鼻出血(前方出血)に対してフェニレフリン+リドカイン(コントロール群)またはフェニレフリン+リドカイン+トラネキサム酸(対照群)を染み込ませた綿球を15分間鼻腔に留置し、出血を止められるか調べた研究です。わずか2ヶ月間に240人がincludeされています。

※対照群の綿球の作り方:綿球をトラネキサム酸溶液(100 mg / mL)5mLと塩酸フェニレフリン10 mL(0.05 g)に浸し、10%リドカインスプレーを5puff(10mg/puff)

NoPAC試験には
・鼻出血のサブタイプが不明確
・TXAの投与タイミングが遅い
・TXAの投与量(200mg)が先行研究と比較して少ない
というLimitationがありましたが、本研究はそれらを補うデザインになっています。

一次アウトカムは15分間の綿球留置の後に追加で鼻腔パッキングが必要になったかどうかで、
結果は対照群50.0% vs コントロール群64.2%、オッズ比0.56、95%CI 0.33〜0.94
トラネキサム酸を染み込ませた綿球を使った方がパッキングの必要率が低下していました。

その他にも、対照群の方が2時間以上救急外来に滞在する割合が低く(9.2% vs 20.8%; OR, 0.38; 95% CI, 0.18 to 0.82)、24時間以内の再出血も少ない(15.0% vs 30%; OR, 0.41; 95% CI, 0.22 to 0.78)という結果が出ています。

ボスミンガーゼではなく「BLTガーゼ(ボス・リド・トラ)」が登場する日も近い!?と思いつつ、TXA効くのかい効かへんのかいどっちなんだい?という声も聞こえてきそうです。
まだまだ意見の分かれるところかと思いますが、個人的には調剤の一手間が負担にならない忙しさであれば使ってみたいと思いました。

②Evans CS et al. Incidental Radiology Findings on Computed Tomography Studies in Emergency Department Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis.
Ann Emerg Med. 2022 Jun 16:S0196-0644(22)00237-2.
PMID: 35717273. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35717273/

救急外来で撮影したCTの約3割に偶発的な異常所見が写っている

救急外来で撮影したCTにおける偶発的所見の有病率を調べたシステマティックレビューです。
救急外来で撮影された頭部・頚部・胸部・腹部・骨盤部のCTについて扱った69個の研究が対象となり、そのうちおよそ半分が外傷の研究でした。

16カ国147,763症例を調べた結果、31.3%(95%CI 24.4%-39.1%)に偶発的な異常所見がみられました。それらの所見には憩室症、胆石症、脂肪肝など臨床的に問題になりにくいものも含んでいますが、悪性所見が最大で2%程度含まれていた研究もあったようです。

CT撮影のシチュエーション別では、偶発的所見が最も多くみつかったのは胸痛精査時の36.6%で、その次は外傷の34.7%でした。

気になるのはそれらの所見を認知させたりフォローアップをする方法ですが、
所見の重要度に点数をつける
帰宅指示書を発行する
電子カルテ内にアラートシステムがある
などが挙がりました。みなさまの施設ではどのような工夫がなされていますでしょうか。

撮ったCTの3割で意図しない所見が見つかるなんて、今日からCTを読む目が変わりそうですね。

続いて後半は国際医療福祉大学成田病院の井桁です。
私からは今回ERにおける超音波診断について、2つシステマティックレビュー・メタ解析が出ていましたのでご紹介します。
今やERではPOCUSは欠かすことのできないスキルになっていますので、これを機に知識の整理になれば幸いです。

③Chiu L et al. Meta-Analysis of Point-of-Care Lung Ultrasonography Versus Chest Radiography in Adults With Symptoms of Acute Decompensated Heart Failure.
Am J Cardiol. 2022 Jul 1;174:89-95.
PMID 35504747 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35504747/

皆さんは肺エコーは日常的に使っていますか?
気胸から心不全や肺炎など、呼吸不全の患者さんのPOCUSとして活躍の場は広がっています。
そこでLung ultrasound(LUS)と胸部レントゲン(CXR)によるうっ血性心不全の診断精度の比較についてメタ解析を紹介します。

8つの研究が解析されました。
LUS陽性の基準は各研究でやや異なっていましたが、多くの研究で少なくとも3本のBラインが2つ以上のゾーンで両側肺から検出されること、とされています。
心不全の診断はエコーやBNP、レントゲンなどを用いて救急医や循環器医によって行われました。
結果としてLUSは心不全の診断においてCXRよりも感度が高く(91.8% vs 76.5%)、特異度が高い(92.3% vs 87.0%)結果となりました。
より簡便で診断精度も高く、心エコーを見るついでにスキャンできるので肺エコーはうまく活用していきたいですね。

見慣れていない方は下記のサイトに動画で載っていますので参考にしてください。
https://www.thepocusatlas.com/pulmonary

④Gilbertson J et al. Test Characteristics of Chest Ultrasonography for Rib Fractures Following Blunt Chest Trauma: A Systematic Review and Meta-analysis.
Ann Emerg Med. 2022 Jun;79(6):529-539.
PMID 35461720 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35461720/

レントゲンでは約3分の2をも見逃す可能性があるという報告があります(感度31.1%、特異度90.5%、PMID 28559032)
となると肋骨骨折は毎度CTでしょうか?それもコストがかかるし放射線被曝の問題がありますよね。
そこで今回は超音波検査での診断精度についてメタ解析が出ていたので紹介します。

メタ解析に組み込まれた研究の基準は①肋骨骨折を疑う鈍的胸部外傷、②救急外来かそれに準じた場所を受診している、③診断に超音波とCTを用いている、という条件で検索されました。
超音波での診断手順としては最大圧痛点をスキャンし、その部位に皮質の不連続性があることと定義されました。

7つの研究がinclusion criteriaを満たし、データの関係でそのうち6つの研究で解析がされました。(n=663)
結果はCTと比較して感度89.3%(95%CI, 81.1-94.3)、特異度 98.4%(95%CI, 90.2-99.8)と良い結果でした。
陽性尤度比は55.7(95%CI 8.5-363.4)、陰性尤度比は0.11(95%CI 0.06-0.20)でした。
6つのうち3つはERでの、3つは放射線部で行われ、手技者はそれぞれ救急医と放射線科医が行っていました。
検査する場での統計学的な差はなかったようですが、やはりERでの検査の方がわずかに悪い傾向でした。

Limitationとしては各研究のバイアスリスクが高いこと、手技者による異質性、女性患者の数が少ない(16.3%)などが挙げられていました。特に女性は乳房で観察不良になる可能性があります。

実際検査をする際の注意点としては以下です。
・肩甲骨などのため上位肋骨では診断精度が低下する可能性がある(一方で上位肋骨は縦隔損傷のリスクが増加するという観察研究もあり!)
・疼痛部位が明確でない場合は精度が落ちる(意識レベルが悪い、複数の損傷があり他の部位の痛みが強い など)

手技としては難しいものではなく、軽傷でCTまではいかなくても良さそう…と思う時は超音波の使い所かもしれませんね。
ぜひ一度お試しください。
動画はこちらのサイトに載っていますので参考にしてください。
https://www.thepocusatlas.com/musculoskeletal

以上です。
今後とも文献班をよろしくお願いします!