2022/03/02 文献紹介
みなさまこんにちは。
2月後半の文献紹介は東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科の竪と沖縄県立中部病院 救急科の山本がお送りします。
今回ご紹介する文献は以下の4つです。
① Review: 高カリウム血症の治療の誤解
② 心房細動に対するカルディオバージョン時の電極の貼る位置は前-後より前-側方の方が効果的であった
③ リズムチェック前に除細動器を充電しよう、そうすればhands-off timeが減少するかも!!
④ 大腿動脈でパルスドップラーを用いたパルスチェックは有用なのか!?
それではお楽しみください!!
東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科の竪です。私からは2つの文献を紹介します。
① Arnav A Gupta, Michael Self et al. Dispelling myths and misconceptions about the treatment of acute hyperkalemia
Am J Emerg Med. 2022; 52: 85-91
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34890894/
高カリウム血症の治療の誤解に関するreviewです。
高カリウム血症の治療に関しては実は定まったガイドラインはなく、様々なバリエーションで行われているのが現状のようです。ある研究では14施設で計43パターンの治療が行われたようです。このreviewでは高カリウムの治療に関する誤解として以下の4つを紹介しています。
a)ケイサキレートは安全で効果的である
b)乳酸リンゲル液は高カリウム血症には禁忌である
c)高カリウム血症の心電図変化は予期可能なものである
d)高カリウム血症の患者はみなカルシウムで治療されるべきである
a)
ケイキサレートの効果を検証したRCTは4つしかなく、そのうち統計的に有意な結果を示したのは1つしかありません。しかも大腸壊死などの消化管合併症が指摘されており、KDIGOの最近のsummaryやAHAの2020年のupdateではケイキサレートの使用は推奨されていません。パチロマーのような新しい樹脂はより安全で、より効果的である可能性がありますが、緊急処置を要する患者での使用についてはまだ検討されていません。
b)
乳酸リンゲル液のようなbalanced crystalloidはカリウムを含有するため高カリウム血症の際にはしばしば避けられ、カリウムを含有しない生理食塩水が好まれます。しかし2018年のNEJMからの2つのRCT(SMART studyとSALT-ED study)では2群間で数日後のカリウムの値に差がなかった事が示されました。生理食塩水による高クロール性アシドーシスが1個の要因と言われています。
c)
心電図変化からカリウム値を予測する事はできないというのは有名ですよね。また更に大事な事として心電図が正常だからと言って、高カリウム血症は否定できません。しかし心電図変化がない場合には重篤な副作用が起こる可能性は低下します。
d)
カルシウム製剤(カルチコールなど)は血管外に漏れると軟部組織の傷害を来たす可能性があり、またジゴキシン毒性を悪化させる可能性があります。そのため高カリウム血症による心臓合併症の高リスク患者への使用に限定されるべきで、AHAやERCのガイドラインではカリウム値が6.0~6.5mEq/Lで、心電図異常がない場合にカルシウムは投与されるべきではないとされています。
いかがでしたか?このreviewを読んで、自施設の高カリウムの治療方法に関して見直してみてはいかがでしょうか?
② Anders S S, Kasper G L et al. Anterior-Lateral Versus Anterior-Posterior Electrode Position for Cardioverting Atrial Fibrillation
Circulation. 2021; 144(25): 1995-2003
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34814700/
「心房細動に対するカルディオバージョン時の電極の貼る位置は前-後より前-側方の方が効果的であった」というデンマークの多施設RCTです(EPIC trial)。
みなさんの施設ではカルディオバージョン時の電極をどのように貼っていますか?
文献班内では前-側方しか貼った事がない人がほとんどでした。実は、単相式の除細動器では前-後の方が前-側方より効果的であったという2つのRCTの結果から、前-後が最適な電極の貼り方として提案されてきた経緯があります。しかし二相式の除細動器を用いた研究では相反する結果が報告されてきました。また2つのメタ解析ではパワー不足が指摘されました。それを受けて今回EPIC trialが実施されました。
心房細動があってカルディオバージョンが予定されている18歳以上が対象です。循環が不安定な患者は除外されています。電極を前-後に貼るか前-側方に貼るかの2群に分けました。
Primary outcomeは最初のショックから1分後の洞調律への復帰率です。前-後群が33%に対して前-側方群が54%であり、前-側方群が有意に高いという結果でした。
今回はカルディオバージョンのジュール数を徐々に増量していきましたが、最新のESCのガイドラインでは初回からの最大のジュール数で行う事が推奨されており、それが1つのlimitationです。
よほどの事情がない限りはこれまで通り前-側方に貼るので良さそうです。これまで当たり前に行ってきた事であったとしても、そのエビデンスの歴史を振り返るのは面白いなと感じた文献でした。
後半は沖縄県立中部病院の山本から2文献を紹介いたします。
③ Iversen BN, Meilandt C, et al. Pre-charging the defibrillator before rhythm analysis reduces hands-off time in patients with out-of-hospital cardiac arrest with shockable rhythm.
Resuscitation. 2021 Dec;169:23-30.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34627866/
『リズムチェック前に除細動器を充電しよう、そうすればhands-off timeが減少するかも!!』
1つ目の文献は心停止で除細動器を充電するタイミングについての文献です。
胸骨圧迫の中断時間を最小限にすること、これは質の高いCPRのために必須です。
CPRの質の指標に、胸骨圧迫中断時間(hands-off time)やCPR全体に対する胸骨圧迫中断時間の比率(total hands-off fraction)があります。
一般的に胸骨圧迫が行われている時間比率をchest compression fraction(CCF)と呼び、CCF>80%が良好なCPRです(つまりtotal hands-off fraction<20%)。
Hands-off timeをもっと減らすにはどうしたら良いか?
この文献はEMSでリズムチェック前に除細動器を充電することでhands-off timeが減少したというデンマークからの報告です。
筆者はリズムチェックと除細動器充電の手順を以下の3つに分類しました。
1. Standard法: リズムチェック時に胸骨圧迫を中断。充電する際に胸骨圧迫再開、除細動時にまた中断。一般的だが、中断2回あり。
2. Precharge法: リズムチェック前に充電開始。胸骨圧迫を中断しリズムチェックで適応あればそのまま除細動。中断が1回で済む。
3. Old法: リズムチェック時に胸骨圧迫を中断。その後、再開せず充電から除細動まで。中断長い。
対象は最低1回除細動が行われた成人心停止患者で、各方法でのhands-off timeやtotal hands-off fractionが解析されました。なおデンマークのEMSでは2018年7月1日からPrecharge法が義務化されました。
解析対象は178人、523回の除細動です(Precharge法: 220回、Standard法: 203回、Old法: 100回)。
解析の結果、hands-off timeもhands-off fractionもprecharge法導入でかなり減少したことがわかりました!!
Precharge法はStandard法と比べてhands-off time が40%減少、100% Precharge法では0%と比べてhands-off fractionが20.1%から12.2%に低下、そしてPrecharge法導入後、EMS全体でhands-off fractionが20.4% から16.5%に低下しました。ちなみに各方法で誤放電の頻度に差は見られませんでした。
n数が少ない観察研究、設定もEMSなのでERで同様の結果が得られるとは限りません。しかしPrecharge法導入によるhands-off time、hands-off fractionの減少は目に見張るものがあります。これからも要注目です。
④ Cohen AL, Li T, et al. Femoral artery Doppler ultrasound is more accurate than manual palpation for pulse detection in cardiac arrest.
Resuscitation. 2022 Feb 4:S0300-9572(22)00032-6.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35131404/
『大腿動脈でパルスドップラーを用いたパルスチェックは有用なのか!?』
2つ目も蘇生関連の文献です。
文献班では心停止時のパルスチェックは頸動脈が大腿動脈に比べて良いという文献を以前に紹介しました(https://www.emalliance.org/education/dissertation/20210322
)。
とはいえ、用手的なパルスチェックで判断に迷うことはあると思います。
そんな時頼りたくなるエコー。大腿動脈ならサッとエコーが当てられる、これ使えるのでは?と思ったことありませんか?(僕はあります)
そこで大腿動脈にエコーをあてて、パルスドップラーでパルスチェックを行ったらどうなの!?という文献を紹介します。
18歳以上成人非外傷性心停止で、大腿動脈に動脈圧ラインが留置された患者が対象です。
用手的パルスチェック(頸動脈 or 大腿動脈)と、パルスドップラーでのパルスチェック(パルスドップラーの波形の存在の有無)を比較しています。パルスドップラーは波形の有無だけでなく、peak systolic velocity(PSV)も計測しています。
動脈圧ラインでの圧波形の有無がパルスの有無の基準です。
正確性=(動脈圧ラインと一致したパルスチェック数)÷(全てのパルスチェック数)で計算します。
またSBP≧60mmHgを有効な循環と定義し、動脈圧ラインでSBP≧60mmHgの時にパルスを正しく判定できるかどうかも検討しています。この定義に基づくと、SBP<60mmHgは有効な循環がないことになるので、パルスを触知しないことを想定しています。
54人の患者の213回のパルスチェックが対象です。
結果、パルスドップラーは用手的パルスチェックに比べて正確でしたが(95.3% vs 54.0%, p<0.001)、SBP≧60mmHgのパルス判定では正確性が下がり(77.6% vs 66.2%, p=0.011)、SBP<60mmHgでもパルスありと誤って判定する危険性が示唆されました(SBP≧60mmHgに対して特異度56.8% vs 81.9%, p<0.01)。
一方でPSV≧20cm/sをカットオフにした場合、SBP≧60mmHgに対して用手的パルスチェックよりも正確性、感度、特異度いずれも高値でした。
パルスチェックのスタンダードとして動脈圧ラインを用いていることから、従来の研究と比べて用手的パルスチェックの正確性が低いです。
心臓の電気的活動、収縮があるものの、脈が触れないpseudo-PEAでは胸骨圧迫が有効と言われています。パルスドップラーのみでは必要な胸骨圧迫が中断される危険性があります(以前に紹介したpseudo-PEAのreviewもどうぞ: https://www.emalliance.org/education/dissertation/journal-2020229
)。
一方PSV≧20cm/sは感度、特異度ともに良好であることからPSV測定は有効かもしれません。
PSVはカットオフ値の検証が必要なので、まだまだ使うには研究が必要そうです。
ただ、肥満で頸動脈が触知しづらい、でも大腿動脈の用手的判断に自信がない、そんな時に試してみても良いかも?と思いました。