2021.07.16

2021/07/16 文献紹介

中東遠総合医療センターの大林です。
今月は、これまで自分と一緒に文献紹介を行っていた湘南鎌倉総合病院の関根先生からバトンを引き継いだ田口先生と3本の文献を紹介します。
今までのプラクティスを見直したりブラッシュアップするきっかけになれば幸いです。

今年4月からEMA文献班に参加しております湘南鎌倉総合病院の田口梓です。
Majorな文献はもちろん、役立ちそうだが抄読会には採用されないようなMinorな文献にもスポットライトを当てていきたいと思います。
というわけで、私の初めての文献紹介は、
  ①少人数でもCPRの換気はぜひ2人法で
  ②大腿動脈ではなくやはり頸動脈でpulse check!
の2本です。

① Gerber L, et al. Modified Two-Rescuer CPR With a Two-Handed Mask-Face Seal Technique Is Superior To Conventional Two-Rescuer CPR With a One-Handed Mask-Face Seal Technique.
  The Journal of Emergency Medicine. 2021 Epub ahead of print
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34103204/
「少人数でもCPRの換気はぜひ2人法で」

もっぱら胸骨圧迫がfeatureされがちな心肺蘇生(CPR)ですが、換気が予後をよくする可能性を示唆する文献もあり、軽視することはできません。
少人数でのCPRでは、胸骨圧迫とマスク換気は別の人員を割り当て、基本的に一人ずつで行うことが多いと思います。

ただし先行研究においては両手でマスクシールをする2人法によるBVMによるバギングは、
CPRにおいて片手マスクシールよりも良好な換気の回数、換気量が得られることが示されています。
そのため著者らは胸骨圧迫の質を落とすことなく、2人だけでできる両手マスクシールでの換気を行うCPRの研究をしました。

従来法は、1人が片手でマスクシールとバギングを行い、もう1人が胸骨圧迫をします。
修正法は1人が両手でマスクシールのみ行い、もう1人が胸骨圧迫とバギングを行います。

本研究では従来法と修正法によるCPRを、シミュレーターを用いて、換気と胸骨圧迫の質を比較しました。
実験協力者として、40人の救命救急士を目指す学生が参加しました。

結果です。修正法は胸骨圧迫の質を落とすことなく、平均換気量が増えました。(319.4 vs. 190.2 ml)

研究の限界はあくまでシミュレーションであることですが、実臨床に活かせる内容だと感じました。
院内であっても挿管準備に時間がかかるときなど、BVMによるバギングが必要なときの工夫として頭の片隅においてみてはどうでしょうか。

論文には、修正法のショートビデオもリンクしていますのでぜひご覧になってください。

② Yılmaz G, et al. Comparison of femoral and carotid arteries in terms of pulse check in cardiopulmonary resuscitation: A prospective observational study.
Resuscitation. 2021 May;162:56-62.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33582255/
「大腿動脈ではなくやはり頚動脈でpulse check!」

心肺蘇生(CPR)におけるパルスチェックを、みなさんはどの部位で行っていますか?
ACLSにおいて「パルスチェックは頸動脈で行う」と教わるため基本的には頸動脈で確認していると思いますが、
複数名でCPR中に手の空いた人が大腿動脈もあわせて確認することもあるかと思います。

しかし実はCPRにおけるパルスチェックのゴールドスタンダードとなる部位はきまっていません。
そのため頸動脈VS大腿動脈のどちらがパルスチェックに有効かを調べるために本研究は行われました。

研究はトルコの単一病院で2018年9月から2019年3月に18歳以上の院外発症の非外傷性心肺停止の患者を対象に前向きに行われました。
研究のためにパルスチェックチームを作り、頸動脈と大腿動脈を同時に触知した結果とEtCO2、ECGリズム、心エコーによってROSCの基準を作り、それと比較しました。

この項目はより客観的なROSC基準を求めた先行研究から選ばれました。
本研究での客観的なROSCの基準(pulse criteria)は
・EtCO2が「前回のパルスチェックと比較して10mmHg以上上昇した場合」
・ECGモニターで「無脈性電気活動、VT、正常洞調律、心房性頻脈性不整脈(心房粗動、心房細動)であるか」
・心エコーで「弁の動きを伴う壁運動」
が含まれます。3つそろえばwith pulse criteria=ROSC、1つでもかければwithout pulse criteriaとされました。
つまり脈を触知できていなくでもwith pulse criteriaはROSCと判断されました。

結果です。102人の患者の1289回のパルスチェックを評価しました。
パルスチェックの各部位とpulse criteriaを用いて統計解析を行った結果、頸動脈の感度が大腿動脈の感度よりも有意に高いことがわかりました。(p= 0.017)。

この結果から、成人蘇生ガイドラインにおいてパルスチェックのゴールドスタンダードとして頸動脈を考慮すべきである、と主張しています
ただし、この研究で頸動脈は触れず大腿動脈が触れた患者群の特徴が肥満であったことは知っておいてよいかもしれません。

やはり頸動脈がよい!という結論にimpactはないかもしれませんが、ROSCの基準に心エコーなどを組み合わせて行う方法があるということが驚きでした。
これからはROSCの基準も変わってくるかもしれませんね。

中東遠総合医療センターの大林からはこちらを紹介します。

③ R Goulden et al. Association of Intravenous Radiocontrast With Kidney Function : A Regression
  Discontibuity Analysis. JAMA Intern Med. 2021 Jun 1;181(6)767-774.
  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33818606/
「造影剤は長期的な腎障害と関連しない」
造影剤による腎障害は造影剤使用のリスクとして、未だに恐れられています。しかし最近の多くの観察研究では、造影剤と腎障害の関連性を示す証拠は得られていません。
今回の研究は、造影剤と長期的な腎障害の関連性をより明確にするため、過去の研究で生じていた交絡や選択バイアスを排除する研究モデルを設計して行われました。

研究は2013年4月1日から2018年6月30日の間に、カナダのアルバータ州の救急外来受診時に、D-ダイマーを測定した18歳以上の全個人を対象として行われました。
既存研究の限界を克服するために、回帰不連続デザインを用いました。
今回、回帰不連続デザインを用いられたのは、あるカットオフ値(今回は肺塞栓症疑いでD-dimer 500ng/mL)の両側では、介入(今回は造影CT検査)を受ける確率が著しく異なっているが、
潜在的な交絡因子を含むその他の特性が非常に似通っていることが予想されるからです。
主要評価項目は、長期的な腎機能として6ヶ月後までのeGFRとしました。

対象となったのは156,028人で、長期的なeGFRに関するデータが得られたのは、84,624人(54%)でしたが、データ欠落の頻度や時期はカットオフ値による差がありませんでした。
解析の結果、D-ダイマーカットオフを超えたことでの造影剤曝露による長期的なeGFRの変化は-0.4ml/min/1.73㎡(95% CI, -4.9 to 4.0)であり、
造影剤と長期的な腎障害の関連性は示唆されませんでした。
なお、サブグループ解析で腎障害のハイリスクと考えられる、eGFR<45ml/min/1.73㎡、60歳以上、高血圧のグループでも長期的な腎障害との関連性は示唆されませんでしたが、
検出力が不足していました。
また糖尿病患者においては、eGFRの変化が-6.4mL/min/1.73㎡(95% CI,-15.4 to 0.2)と統計学的に有意でないものの、腎障害と関連性があることがわかりました。

臨床現場では、腎障害を懸念して必要な造影CTが遅れる、といったこともよくみられるため、このような結果が積み重なり広く認知されるとよいと感じました。

湘南鎌倉総合病院 救急科 田口 梓
中東遠総合医療センター 救急科 大林 正和