2020.03.01

2020/2/29 文献紹介

COVID-19が業務のみならず普段の生活にも大きな影響を与える中失礼します。
EM Alliance文献班の定期配信です。

聖マリアンナ医大の井桁・川口より、4つの文献をご紹介します。

①Levine DM et al. Hospital-Level Care at Home for Acutely Ill Adults: A Randomized Controlled Trial.
Ann Intern Med. 2019 Dec 17.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31842232


home hospital careの方がusual hospital careよりコストは減少し、寝たきり度や30日以内の再入院率も低下させた

P:ERを受診し初期診断が感染、心不全、COPD増悪、喘息発作などの特定の疾患であった患者(5マイル圏内在住)
I:“home hospital care”群。在宅で入院治療を行う。
C:“usual hospital care”群。通常通りの入院治療を行う。
O:Primary outcomeは総コスト(医師以外の労働者、消耗品、薬剤、診断検査などの合計コスト)、Secondary outcomeは急性期から30日間のヘルスケア使用(検査、画像、専門医への相談、滞在期間)、身体活動度(座位や臥位でいる時間)

高齢者の軽い肺炎や心不全などは酸素や点滴しなければいけないけど入院すると認知症も悪化するし…など悩んでいる方も多いのではないのでしょうか?そこで今回は“home hospital care”という在宅で急性期入院治療をやってみた、という論文を紹介します。

Home hospital careとは自宅で入院加療に準じて治療を行うことで、この研究では医療行為として酸素投与、点滴、レントゲン、Point-of-Care採血が可能で、持続モニターなどもスマートフォンで確認でき、患者は電話・メッセージなどで医療者とコンタクトを取ることができる体制でした。そこに1日1回の訪問医の診察、1日2回の訪問看護、必要に応じてその他の職業(リハビリ、ソーシャルワーカーなど)の介入を追加でき、24時間緊急の往診も対応しています。

全体で91人の患者が解析され、home群は43人、usual群は48人でした。患者の疾患群は感染症(肺炎、軟部組織感染、尿路感染等)が約50%、心不全が約15%、喘息・COPDが約15%となっていました。もちろん重症例は除外されており、例えば肺炎だったらCURB-65>3、5L酸素でSpO2<90%など、感染症関連ならqSOFA >1の症例は含まれていません。また全体で独居患者は25%程度でした。

平均コストはhome群の方が38%減となりました。usual群と比べるとhome群は検査回数(3回 vs 15回)、画像検査(14% vs 44%)、専門医への相談(2% vs 31%)は少ない結果となりました。
Home群の方が座りっぱなしの割合(12% vs 23%)と、寝たきりの割合も少なく (18% vs 55%)、さらには30日以内の再入院もhome群で少ない(7% vs 23%)という結果になりました。

まだ新しい試みであり、日本と海外では訪問診療のシステムが違うのですぐに導入できるものではありません(日本の訪問診療はそもそも「通院できない人、すでに定期介入している人」が前提)。今回は患者・患者家族、そして救急医や外来主治医が拒否したために248人中148人(約60%)が除外されています。この事実からも欧米でもまだ新しい試みで一般的に受け入れられている状況ではないことが推測されます。これから同様の研究が続きhome hospital careの有用性が実証されてくれば普及するかもしれませんね。

もしこの分野に詳しい先生がいましたらコメントいただければ幸いです。これからERでのdispositionの選択肢の一つに“home hospital care”という選択肢が増える時代がきたら面白いですね!

②Rabjohns J et al. Pseudo-pulseless electrical activity in the emergency department, an evidence based approach.
Am J Emerg Med. 2019 Oct 14.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31740090


Pseudo-PEAはROSC率が高く神経予後も良い

皆さんは “Pseudo”-PEAをご存知でしょうか?Pseudo-PEAとは脈拍は触知できないものの、エコーで心収縮が見られる、もしくは頸動脈血流がドプラエコーで検出される状態と言われています。
今回はPseudo-PEAの研究をレビューした文献を紹介します。

Pseudo-PEAは一般にTrue-PEAよりROSC率が高く(RR 4.35)、神経予後も良いと報告されます。報告により疎らですが近年認識が広がった影響かPEA全体の42~86%を占めると言われています。
Pseudo-PEAは治療介入可能な疾患が背景にあることが多く、エコーで心停止の原因を同定(肺塞栓、心タンポナーデ、緊張性気胸など)し介入することで良好な転機となる可能性があります。
エコーによる自己心拍の確認には2通りがあり、頸動脈をパルスドプラで確認する方法と、直接心エコーを当てる方法があります。心エコーによる確認は頸動脈触診による確認より早く正確であると報告されており積極的な使用が勧められています。
逆にTrue-PEAであることがエコーで確認される場合は予後が不良であることが推測され、蘇生中断の判断の一つとなり得る可能性があります。

一点注意していただきたいのはPseudo-PEAと言っても有効な全身灌流はないことには変わりはないので、脈の触知がなければ胸骨圧迫は躊躇しないようにしましょう。
今後は心エコー活用し、より一層Pseudo-PEAを意識して蘇生に当たってはいかがでしょうか?

COVID-19発症者の中でも重症者の転帰に着目した論文

③Xiaobo Yang, et al. Clinical course and outcomes of critically ill patients with SARS-CoV-2 pneumonia in Wuhan, China: a single-centered, retrospective, observational study., Published Online February 21, 2020, Lancet Respir Med. 2020
https://www.thelancet.com/journals/lanres/article/PIIS2213-2600(20)30079-5

中国武漢Jin Yin-tan病院の集中治療室に入院した52名の重症患者の単施設後ろ向き研究で、
アウトカムはICU入室後28日間の死亡率、ARDS発生率、人工呼吸器要否となっています。

重症の定義:人工呼吸器を必要とする or FiO2:60%以上の酸素需要がある
ちなみにFiO2:60%はマスクやリザーバー付きマスクで概ね6~7L/min以上の状態です

ICUに入ったのは全患者の7%(710人中52人)で、平均年齢は59.7歳でした。
症状の発現からICU入院までの期間の中央値は9日
治療:37人(71%)が人工呼吸器、6人(11.5%)が腹臥位、6人(11.5%)がECMOを使用

結果はICU入室後28日間で61.5%にあたる32人が死亡という死亡率の高さでした。
入院から死亡までの期間の中央値は7日で、
死亡例は高齢、ARDS発症、人工呼吸器使用率が高いという特徴がありました。

なお、生存した20人の患者のうち、8人の患者が28日時点で退院できたようです。

未知の疾患の重症例と対峙する上で先の見通しが立たないことは非常に大きな不安となります。
一つの参考になりましたら幸いです。

最後はSARS-CoV-2感染者の上気道標本と検体中のウイルス量に関する文献です。

④Zou L, Ruan F, Huang M, et al. SARS-CoV-2 Viral Load in Upper Respiratory Specimens of Infected Patients [published online ahead of print, 2020 Feb 19]. N Engl J Med. 2020
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32074444

短い論文(CORRESPONDENCE)ですが感染管理やフォローアップに影響する可能性のある重要な情報です。

中国広東省珠海のSARS-CoV-2患者18人(男性9人と女性9人、年齢の中央値59歳)から採取した鼻腔・咽頭スワブ各72検体中のウイルス量を測定し、グラフで示しています。

本研究から
咽頭よりも鼻腔で検出されるウイルス量の方が多いこと
発症初期から約14日間程度はウイルスが検出されること
がわかります。

この結果をうけて本邦でも国立感染症研究所発表の「検体採取・輸送マニュアル」が改定されています。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9325-manual.html

本疾患に関しては今後もどんどん新しい知見が蓄積していくと思われます。
NEJM, BMJ, JAMA, Lancet内のコロナウイルスリソースセンターのリンクを共有します。ご活用ください。
https://www.nejm.org/coronavirus
https://www.bmj.com/coronavirus
https://www.thelancet.com/coronavirus
https://jamanetwork.com/journals/jama/pages/coronavirus-alert