2021/11/01 文献紹介
急に冷え込みが強くなり、朝起きるのが億劫になってきましたね~!
コロナも一旦落ち着いてきて徐々に通常診療に戻ってきた施設も多いのではないでしょうか。
10月後半の文献紹介は
京都府立医科大学の宮本雄気と聖路加国際病院の宮本颯真がお送りします。
まずは東の宮本より蘇生に関する論文を二つ紹介します。
① Torgrim Soeyland, et al. External Aortic Compression in Noncompressible
Truncal Hemorrhage and Traumatic Cardiac Arrest: A Scoping Review. Annals of Emergency Medicine 2021 Oct 1;S0196-0644(21)00726-5.
https://doi.org/10.1016/j.annemergmed.2021.07.132
「体幹部の大量出血・外傷性心停止、間に合わないときは手や膝で押さえろ⁉」
REBOAの挿入・留置が困難な時、REBOAを使いたくても物品がなかなか手に入らない時、このように思ったことはありませんか?
「お腹をグッと外から押してみたら出血を少しは止められるのでは。。。?」と。
Noncompressible Truncal Hemorrhage(胸部・腹部・骨盤部の血管や臓器損傷による出血の総称)は発生後30分程度で死に至る可能性が高く、REBOAなどで血管内治療デバイスを用いつつ、その後早急に根治術につなげる必要があります。一方で、病院前診療、刺入が困難で留置までに時間がかかる、血管内デバイスが手元にない、使用できる人がいない、などの理由で血管内デバイスの留置に時間がかかる・使用できないことがあります。
そのような場合において、代わりに両手や膝を使って外表より大動脈を圧迫することで一定の効果が得られるのではないかということで、外表圧迫による遠位血流の低下や止血、外傷性心停止のROSC率、生理学的変化、および副作用や合併症に関して検討が行われました。
1)遠位血流への影響:
外傷・産科出血および健常な成人を対象として遠位の血流の評価を行った人体における9研究ならびに動物実験7研究で大腿動脈遠位の有意な血流低下および止血が得られたとの報告がありました。
2)外傷性心停止(TCA)への影響
またTCAに対する検討に関しては、人体を対象とした4論文が見つかりました。TCA18症例を対象とした研究ではROSC2例(22%)で、生存退院はおらず、その他の研究で他3症例を検討していますが、生存退院はありませんでした。TCAの豚12匹を対象とした実験では対象群が6匹中1匹のROSCに対し、介入群では6匹中5匹と明らかな差を認めておりました。
3)生理学的変化
生理学的パラメータに関して検討した計44論文では、全体として全身血管抵抗・脈拍・血圧の上昇を認めたものの心拍出量の増加は認めませんでした。
4)副作用・合併症
副作用や合併症に関して述べた論文は少なく、健常な成人に対して行った際の腹部の疼痛に関して述べたものを除き人体でどのような副作用・合併症が生じるのかは不明です。
それぞれの検討項目に関して、人体での症例数が少なく、実臨床での推奨を行う程の確証は得られませんでしたが、これまでの知見では有意に遠位血流を低下させ、全身血管抵抗ならびに血圧や脈拍の上昇をもたらす可能性が示唆されました。もちろん代替療法がある場合には外表からの圧迫を推奨することにはなりませんが、代替療法がない際にはもしかすると転帰をよくする可能性があるかもしれません。
ちなみに文中に登場するAAJTに関しては聞きなれない方も多いと思いますので、
興味ある方は下記のページにまとまっていますので参照になさってください!
https://www.trauma-news.com/2019/08/combat-tested-abdominal-junctional-tourniquet-proven-equivalent-to-reboa/
② Aufderheide TP, et al. Change in Out-of-Hospital 12-lead ECG Diagnostic Classification
Following Resuscitation from Cardiac Arrest. Resuscitation . 2021 Oct 16;S0300-9572(21)00408-1
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34666124/
「ROSC後の心電図の経時的な変化」
ROSC後には冠動脈病変を伴わなくても胸骨圧迫に伴う影響でST上昇すること多いとされており、1度の心電図評価ではあまりアテにならないとされています。
今回筆者らは、ROSC直後に救急隊により施行された心電図とその後EDへ搬送されてから施行された心電図を比較し、それぞれにおける心電図上の「虚血性心疾患らしさ」を検討しています。
2012年7月27日から2019年7月19日までの7年間に心停止にて搬送となった5,637人の成人患者のうち、研究機関に搬送となり、救急隊が施行した心電図とEDで施行された心電図の両方が入手可能であった計176例が対象となっています。
蘇生の合計期間の中央値は15分(範囲:9~20分)で、院外での12誘導心電図を施行してから比較のEDでの12誘導心電図を施行するまでの時間は約30分でした(範囲:20 55分)。かなり時間がかかっている印象ですがアメリカが広大であるからゆえ搬送に時間がかかるのでしょうか。。。
176人の患者における12誘導心電図の分類は
院外:
1)STEMI:49人(27.8%)、2)虚血性:61人(34.7%)、3)非虚血性:66人(37.5%)
ED:
1)STEMI:21人(11.9%)、2)虚血性:47人(26.7%)、3)非虚血性:108人(61.4%)
でした。
全体として、患者の90人(51.1%)は分類を変更しませんでしたが、一方、86人(48.9%)は分類が変更になりました。分類を変更した患者のうち、69人(80%)は、虚血性の高い分類から低い分類に変更されましたが、一方で17人(20%)虚血性の低い分類から高い分類に変更となりました(p <0.0001)。
院外でSTEMIの評価であった49名のうち33名(67.3%)がEDでは非STEMIの評価へと変更となりました。また統計学的に有意な差はありませんでしたが(p=0.06)、院外ROSC後から院外心電図までの時間が短い程(<7分)、これらの変更を認める傾向にありました。
救急隊からのROSC後のSTEMIの情報のみで心カテの適応を判断するのは時期尚早なようです。 搬送後に心電図を再検し、現病歴や心エコー所見と合わせて冷静に心カテの適応を判断したいものですね。
文中に登場するSgarbossa criteriaに関して( https://www.emalliance.org/education/dissertation/20210323 )や、OHCAに対する即座の心カテに関するTOMAHAWK trialに関して( https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001232 )も過去に紹介しておりますので是非合わせてご確認ください!
次に西の宮本よりCOVID-19に関する論文の紹介です。
中等症のCOVID-19患者に対するヘパリン投与は「治療量」が良いかもしれない 〜2本のRCTより〜
COVID-19診療において、おそらくほとんどの病院でヘパリン投与が行われていると思います。しかしその一方で、どの程度ヘパリンを投与するのかはまだ意見が分かれるところかと思います。
過去の研究では治療量のヘパリン投与は臓器サポートを要さない日数が増加するものの、死亡率に変化はない可能性があると言われていました。
そんな中、今回は非ICUの入院患者、いわゆる「中等症」のCOVID-19患者に対するヘパリン投与量に関する2本のRCTが続けて発表されたのでご紹介します。
③Effectiveness of therapeutic heparin versus prophylactic heparin on death, mechanical ventilation, or intensive care unit admission in moderately ill patients with covid-19 admitted to hospital: RAPID randomised clinical trial. BMJ. 2021;375:n2400.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34649864/
1つ目はBMJで発表された多国籍RCT(RAPID study)です。
非ICUのCOVID-19患者でD-dimer値が正常上限値の2倍(SpO2≤93%の場合はD-dimerが正常上限値)以上の方を治療量投与群と予防量投与群に割り付けました。いずれの群も未分画ヘパリン・低分子ヘパリンのどちらも使用されました。
治療量投与群の投与例:未分画ヘパリンを持続静注しaPTTなどを指標に投与量の調整を行う
予防量投与群の投与例:未分画ヘパリンを5000単位を1日2-3回皮下投与(BMI≥40の場合は7500単位を1日3回)
465人が対象となりました。プライマリアウトカムである「28日目までのICU 入室・NPPVや気管挿管下での人工呼吸器管理・死亡」の複合アウトカムは有意差はありませんでした。(治療量群 16.2% vs 予防量群 21.9% オッズ比0.69 95%CI 0.43-1.10)
ただし28日以内の死亡に関しては治療量投与群の方が有意に減少しました。(治療量群 1.8% vs 予防量群 7.6% オッズ比0.22 95%CI 0.07-0.65)
また、出血イベントには有意差はありませんでした。
④Spyropoulos AC, et al. Efficacy and Safety of Therapeutic-Dose Heparin vs Standard Prophylactic or Intermediate-Dose Heparins for Thromboprophylaxis in High-risk Hospitalized Patients With COVID-19: The HEP-COVID Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2021;e216203.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34617959/
もう1つはJAMA Internal Medicineから発表された米国での多施設RCT(HEP-COVID study)です。
こちらは酸素需要のあるCOVID-19患者で、D-dimer値が正常上限値の4倍以上(もしくはSepsis-induced coagulopathy scoreが4点以上)の方を対象として、治療量投与群と予防量投与群に無作為に割り付けています。
RAPID studyと同様に、未分画ヘパリンだけでなく、エノキサパリン・ダルテパリンなどの低分子ヘパリンも使用されています。
治療量投与群の投与例:エノキサパリン1mg/kgを1日2回投与
予防量投与群の投与例:エノキサパリン30-40mgを1日1-2回投与
またこの研究では入院10-14日目にスクリーニングの下肢エコーを行っているのが特徴的です。
257人が対象となり、ICU患者は約30%含まれていました。プライマリアウトカムである「30日以内の静脈血栓症・動脈血栓症・死亡」の複合アウトカムの発生割合は治療量投与群の方が有意に減少しました。(治療量群 28.7% vs 予防量群 41.9% オッズ比0.68 95%CI 0.49-0.96)ただし、サブグループ解析としてICU患者と非ICU患者に層別化したところ、ICU患者では有意差は生じず、非ICU患者でのみアウトカムの発生割合が減少しました。
出血イベントの割合は治療量投与群の方が多いですが、有意差はありませんでした(治療量群 4.7% vs 予防量群 1.6% オッズ比2.88 95%CI 0.59-14.0)
以上2本の研究概要を紹介しました。
過去との研究とは結果が異なり、死亡率が低下したことについては
・過去の研究ではコントロール群のヘパリン投与量が多かった
・治療量投与群のヘパリン投与量が少なかった
という可能性が考えられると両者の研究で述べられています。
両者の研究を読み込んでみると、本邦のヘパリン使用量よりも多い可能性が考えられますが、中等症COVID-19における抗凝固戦略に一石を投じる可能性はあるかもしれません。
またエノキサパリンなど一部の低分子ヘパリンの効果は腎機能に左右されやすいのでクレアチニンクリアランスが過大評価されやすい高齢者や筋萎縮のある患者への使用は十分に注意が必要ですね。
今回の文献紹介は以上となります。
これからも文献班をよろしくお願いいたします!