2021.09.15

2021/10/03 文献紹介

もう10月に入ってしまいましたが、9月後半の文献紹介です。
9月後半は東京ベイ・浦安市川医療センター 集中治療科の竪と沖縄県立中部病院救急科の山本が担当いたします。

今回の文献紹介は以下の6つです。
① 救急でのケタミン鎮痛を低用量化!?
② TOMAHAWK trial: ショック波形と非ショック波形を含めた院外心停止で即座の冠動脈造影は30日死亡率を改善させない
③ 低リスクだが胸痛を繰り返す場合どうする?ガイドライン、8つの推奨
④ 信頼できるのはカナダ失神リスクスコアだけ!? 失神ツールのシステマティックレビュー
⑤ 北イタリア発、カナダ失神リスクスコアのカナダ以外での外的妥当性の検討
⑥ Amal Mattu先生の失神の解説: I love syncope.
それではお楽しみください。

東京ベイ・浦安市川医療センター 集中治療科の竪です。私からは2つの文献を紹介します。

① Shannon Lovett, Trent Reed et al. A randomized, noninferiority, controlled trial of two doses of intravenous subdissociative ketamine for analgesia in the emergency department

Acad Emerg Med. 2021 ; 28: 647-654

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33354815/

「救急でのケタミン鎮痛は低用量化できる」というRCTです。

解離用量以下のケタミンが、救急での鎮痛のために様々な用途で使用されるようになってきています。最も使用されている用量が0.3mg/kgです。しかしその量ではめまいや意識障害などの副作用の報告があり、副作用を最小限にしつつ鎮痛効果のある用量が検討されていました。今回は0.15mg/kgと0.3mg/kgで鎮痛効果と安全性を比較しています。

アメリカの単施設の救急外来を、腹痛や頭痛で受診した18歳以上の患者を対象にしています。鎮痛効果はNRSで評価しています。投与開始から30分、60分が経過した時点でのNRSは0.15mg/kg群で非劣性でした。副作用は両群で差はありませんでした。一方、投与開始から15分が経過した時点でのNRSは0.30mg/kg群で有意にNRSを低下させたが、副作用はより多いという結果でした。副作用はいずれも介入不要でした。

以上から、ケタミンをこれまで最も使用されていた用量の半分量で、鎮痛薬として使用できる可能性が示されました。0.15mg/kgと言うと体重60kgの場合に約1mLであり、一般的に使用される1~2mg/kgの約1/10の量です。副作用を減らすためにも今後検討が必要です。現状では、日本ではケタミンの保険適応は「手術、検査および処置時の全身麻酔および吸入麻酔の導入」となっており、鎮痛目的での使用は保険適応外ですので注意して下さい。ちなみに禁忌の欄には「外来患者」と記載されています。今後の適応拡大が望まれます。

② S. Desch, A. Freund et al. Angiography after Out-of-Hospital Cardiac Arrest without ST-Segment Elevation

N Engl J Med. 2021 Aug 29. doi: 10.1056/NEJMoa2101909. Online ahead of print
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34459570/

「ショック波形と非ショック波形を含めた院外心停止で即座の冠動脈造影が30日死亡率を改善させなかった」というRCTです。TOMAHAWK trialです。

以前EMA文献班でも紹介したCOACT trialではショック波形のみを対象にしていましたが、今回は非ショック波形も含んでいるのが一番の違いです。COACT trialに関しては
http://emalliance.sakura.ne.jp/education/recommend/dissertation/20190417-journal
を参照下さい。
COACT trialでは院外心停止で即座の冠動脈造影が死亡率を改善させないという結果で、その後の2つの小さなpilot trial(DISCO trial, PEARL trial)でも同様の結果でした。

ドイツとデンマークの31個の病院で、30歳以上の院外心停止から蘇生し、心電図でST上昇がなかった患者を対象にしています。介入群は病院到着後すぐに冠動脈造影を施行し、対象群は一旦ICUに入室して診察や検査をして早くても24時間以降に冠動脈造影を施行します。

30日死亡率は介入群で54%、対象群で46%と有意差はギリギリないものの、介入群で多い傾向がありました。重度の神経予後(CPC3~5)を示した患者も有意差はありませんでした。体温管理療法は両群共に8割程度で施行されていました。

介入群で死亡率などが改善しなかった理由として、心停止の原因が冠動脈以外であった場合に、それに対する介入が遅くなると言う考察がなされていました。LVEFなどの心臓の機能評価は施行できていない事がlimitationとして挙げられています。同様のRCTが2個実施中であり(DISCO trial, ARREST trial)、心臓の機能評価も実施しているようであり、結果が楽しみです。

現時点ではST上昇がない場合には心停止波形に関わらず、即座に冠動脈造影を施行せずに、まずICUに入室して体温管理療法を施行しつつ、ACS以外の原因を検索する戦略が良さそうです。

山本からは4つの文献を紹介いたします。

③Musey PI Jr et al., Guidelines for reasonable and appropriate care in the emergency department (GRACE): Recurrent, low-risk chest pain in the emergency department.
Acad Emerg Med. 2021 Jul;28(7):718-744.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34228849/

「低リスク、繰り返す胸痛のガイドライン: 8つの推奨」

低リスクだが胸痛を繰り返す方、よく救急外来を受診されますよね…
そんな胸痛を繰り返す低リスク患者に関するガイドラインが出たので紹介します。

”胸痛を繰り返す患者”は、『過去12ヶ月以内に2回以上、胸痛で救急を受診し、診断手順に従っても、ACSや冠動脈狭窄の証拠が掴めなかった患者』と定義されます。
また”低リスク”とは『HEART score4点未満、またはHEART pathwayなどその他スコアで低リスクに分類』です。

胸痛を繰り返す低リスク患者に関する概要は以下の8点です。
1. 3時間以上持続する胸痛では、高感度トロポニン1回確認
2. 12ヶ月以内の運動または薬物負荷試験が正常なら、負荷試験をルーチンで繰り返さない
3. 胸痛を繰り返す低リスク患者を、入院(経過観察含む)させるか帰宅させるかはエビデンスなし
4. 5年以内のCAGで非狭窄性(50%未満狭窄)の冠動脈疾患あるなら、入院精査ではなく必要時外来で早めに検査
5. 5年以内のCAGで狭窄ないなら、必要時外来で早めに検査
6. 過去2年間の冠動脈CTで狭窄ないなら、高感度トロポニン1回確認する以外、他の診断検査を行わない
7. うつ病や不安症のスクリーニングツールを用いてみる
8. うつ病や不安症のマネジメントのため精神科へ紹介してみる

クリアカットな推奨ですね!!

低レベルのエビデンスを元にした推奨がほとんどなこと、前提条件を守ること、ACS以外の胸痛はターゲットにしていないことに注意です。

本文にはより詳しい内容が書かれているので、ぜひ一読を!!

続いて失神の文献をいくつか紹介します。

④Sweanor RAL et al., Multivariable risk scores for predicting short-term outcomes for emergency department patients with unexplained syncope: A systematic review.
Acad Emerg Med. 2021 May;28(5):502-510. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33382159/

「信頼できるのはカナダ失神リスクスコアだけ!? 失神ツールのシステマティックレビュー」

まず失神のリスクを見極めるルールやスコアリングのシステマティックレビューです。

色々調べたけど失神の原因が不明…
帰宅できそうだが、うーん悩む、ルールやスコアリングに頼りたくなる…
でもこういうツールはエビデンスに乏しいと聞いたことがあるがどうなんだろう!?
そんな経験ありますか!?

2018年のESCガイドラインでは失神ツールは臨床判断と比べて優れているとはいえず、単独では使用しないことと明記されています。
とはいえ近年新しいツールが開発されたため、今までに報告されたツールの正確性を検討したのが、このシステマティックレビューです。
比較的新しいツールに期待ですね!!

以下の9つのツールが対象です。
• サンフランシスコ失神ルール
• OESILルール
• ボストン失神ルール
• ROSEルール
• オタワECGクライテリア
• カナダ失神リスクスコア
• 失神リスクスコア
• カナダ失神不整脈スコア
• FAINTスコア

結果、30日の有害事象発生の予測能について17の文献を元に評価したところ、ほとんどのツールが正確性に欠ける、または外的妥当性が評価されていませんでした。
うーん、残念な結果…
唯一外的妥当性が評価されていたのが、カナダ失神リスクスコア(CSRS)でした。

もうCSRSに期待するしかない!!
というわけで次の文献です。

上記のシステマティックレビューではCSRSは外的妥当性が検討されているとされていましたが、実はカナダ以外では外的妥当性が検討されていません。
カナダは西欧諸国では失神の入院率が最も低い国なので、カナダで作成してカナダで外的妥当性が検討されたツールが、他国で安心して使用できるとはいえないですね。

⑤Solbiati M et al., Multicentre external validation of the Canadian Syncope Risk Score to predict adverse events and comparison with clinical judgement.
Emerg Med J. 2021 Sep;38(9):701-706.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34039646/

「イタリアでカナダ失神リスクスコアの外的妥当性を検討」

そこでイタリア北部の6つの病院を受診した患者を対象にCSRSの外的妥当性を検証したのがこの研究です。
対象は2015年9月1日から2017年2月28日に受診した18歳以上の失神成人患者(SyMoNEデータベースを使用: 失神患者の心電図モニターの有効性を調べたThe SyMoNE multicenter studyはこちらを参照→https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31854141/ )です。

CSRSで層別化したリスクと、臨床判断で層別化したリスク(低、中間、高)を比較しています。
  ちなみにCSRSでは-3〜-2点が超低リスク、-1〜0点が低リスクに分類されます。カナダでの外的妥当性の検討では、超低リスク、低リスクでの有害事象発生率はそれぞれ0.3%、0.7%でした。

アウトカムは受診30日後の死亡や不整脈、大動脈解離、肺塞栓など19項目の有害事象の発生です。

結果です。345人が登録され、43人(12%)に有害事象が発生、5人が死亡しました。
有害事象発生はCSRS-3〜-2点で83人中0人、-1点〜0点で126人中13人、臨床判断で低リスクでは100人中2人でした。

CSRSと臨床判断の有害事象発生の予測は
CSRS -3〜-2点
感度 100%(95%CI 92-100%) 特異度 27%(95%CI 22-33%) 陰性的中率100%(95%CI 96-100%)
CSRS -1〜0点
感度 70%(95%CI 54-83%) 特異度 61%(95%CI 55-66%) 陰性的中率 93%(95%CI 90-96%)
臨床判断 低リスク(中間・高リスクに対して)
感度 95%(95%CI 84-99%) 特異度 32%(95%CI 27-37%) 陰性的中率 98% (95%CI 93-100%)
でした。

CSRSのチェック項目を見るとCSRS-3〜-2点の患者は、CSRS使わなくても判断に迷わなさそうです。
一方で判断に迷うのは-1点や0点の患者です。
これらの患者で臨床判断に劣後するのは、残念ですね...
とはいえカナダで行われた外的妥当性の研究では4030人を対象としており、対象人数が少ないことや、心電図モニターで経過観察されていることが多いことから、有害事象発生率が上がったかもしれない、などがLimitationsです。

⑥Lloyd Tannenbaum et al., Can I Send This Syncope Patient Home From the Emergency Department?,
J Emerg Med. 2021 Sep 14:S0736-4679(21)00642-9. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34535304/

最後にちょっと異色な失神の文献の紹介です。
これは症例ベースに最近の失神の文献を4つ紹介しているevidence reviewなのですが、米国救急医で教育・心電図の大家、Amal Mattu先生が最後の解説を担当しています。良い解説なので一部抜粋します。ちなみにこの解説、最初の一言は“I love syncope.”です。格の違いを感じさせるぜ!!

抜粋↓
- 失神ツールは原因不明時のみ使用すること
- 低リスクの失神患者は死亡リスクが非常に低く入院させても死亡率を低下させるエビデンスはないこと

ふむ、ツールを頼る前に原因を明らかにする努力を怠らないこと、そして原因不明な低リスク患者は入院のメリットが乏しいかもしれない、ということですね。

さらに、失神ツールは外的妥当性の検討が必要だと前置きしつつも、これらはエビデンスに基づき、標準治療に従っており、医療者も患者も安心させる力があると述べています。

なるほど、ガイドラインで記載されているように単独では使用しない、でも帰宅前のチェックや患者への説明に使えそうですね!!