2021.08.01

2021/08/01 文献紹介

東京オリンピックでの日本人選手の活躍に湧く一方で、コロナの第5波に直面し、皆様ご多忙かと思われますが、お仕事の合間にぜひチェックいただきたい文献を用意しました。

今回はオリンピックの活気に負けじと盛りだくさん紹介しております!

7月後半の文献紹介担当は、EMAのダブル宮本コンビ、聖路加国際病院の宮本颯真と京都府立医科大学の宮本雄気がお送りします。

まずは東の宮本より以下2文献の紹介です。
(1) NIVが奏功しないCOPDの早期認知に横隔膜POCUSが有効かも
(2) PECARN低リスク評価の生後3か月未満の児の鈍的頭部外傷における合併症

(1)NIVが奏功しないCOPDの早期認知に横隔膜POCUSが有効かも
Huseyin Kocyigit, et al.Diaphragm dysfunction detected with ultrasound to predict noninvasive mechanical ventilation failure: A prospective cohort study. Am J Emerg Med . 2021 Jul;45:202-207.
( https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33046306 / )

みなさんは救急外来で横隔膜エコーを行うことはありますか?

重症慢性閉塞性肺疾患の急性増悪(AECOPD)では、肺の過膨張が進行することで横隔膜機能不全(DD)が生じることが分かっておりますが、救急外来でDDを推測する一定の評価方法はありません。

過去の研究では、AECOPDにおいて、NIVが失敗した患者の方が、早期挿管と人工呼吸器管理による治療を受けた患者よりも死亡リスクが高いことが明らかになっています。しかし一方で、血液ガスではNIV失敗を早期に予見することは困難との報告もあります。

今回AECOPDにおいて、横隔膜エコーを行うことで非侵襲的機械的換気(NIV)の失敗の予測精度を評価した論文がありましたので紹介します!

対象となったのは、 COPDの診断が判明している患者の内、進行性の症状の増悪を認め、呼吸性アシドーシス(PaCO2≧45mmHg、動脈pH≦7.35)、重篤な呼吸困難、ベンチュリーマスクによる24~35%FiO2の補助酸素療法で改善する低酸素血症を伴うためにNIVの適応となった患者です。

方法ですが、
①患者を45度仰臥位にする。
②第7と第8、または第8と第9の肋間にプローブを置いて、ゾーン・オブ・アポジション(肋骨下部の内側にある尾側付着部から始まり、横隔膜のドーム上部まで伸びる横隔膜の垂直領域)の矢状断を最もよく見ることができるように描出する。
③吸気時と呼気時にBモードで横隔膜の厚さを測定し、
横隔膜肥厚率=(吸気ピーク時の厚さ)/呼気終了時の厚さ×100 で算出する。
上記の方法で、NIV開始前に、両胸での自発呼吸時に横隔膜肥厚率が20%未満であれば,横隔膜機能不全(DD)であると判断しています。

NIVの失敗に関しては、NIVを行っているにも関わらず、血液ガスパラメータが変化しない、あるいは悪化した場合、意識の変容がある場合、分泌物が過剰となった場合,血行動態が不安定になった場合、心電図の虚血性変化のために呼吸保護が必要となった場合、呼吸困難が悪化した場合と定義しています。

NIVを必要とするAECOPD患者60名が最終的に評価の対象となり、NIVの失敗は、DD患者15名中11名(73.3%)に、DDなし45名中2名(4.4%)に認められました。NIV失敗の予測において,DDは感度84.6%(95%信頼区間[CI]:54.6-98.1)、特異度91.5%(95%CI:79. 6-97.6)、陽性適中率73.3%(95%CI:51.2-87.8)、陰性適中率95.6%(95%CI:85.7-98.7)という結果になりました。

今回の研究で、横隔膜エコーは比較的高い感度と特異性を持つことがわかりました。肺エコー・心エコーなどの後に非侵襲的かつ短時間で施行可能なことからも、人工呼吸器管理が必要な患者の特定の予測を容易にする可能性があると考えられます。現実的にはNIVとりあえず装着してみてからの評価になりそうですね。

実際に施行してみた感想ですが、なかなか描出に個人差もあり、数mm単位での観察となるため、難しいです。。。!
論文中の施行医師と同様に正確に描出するためにはそれなりのは練習が必要そうです。

みなさんもお試しになってはいかがでしょうか?

(2)PECARN低リスク評価の生後3か月未満の児の鈍的頭部外傷における合併症しっていますか?
Risk of Traumatic Brain Injuries in Infants Younger than 3 Months With Minor Blunt Head Trauma Zaynah Abid, et al.Ann Emerg Med. 2021 Jun 17;S0196-0644(21)00298-5.
( https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34148662/ )

小児の頭部外傷においてCT撮像の適否を考える際に皆さんの施設はどのようなアルゴリズムを用いていますか?PECARN、CATCH、CHALICEなど様々なクライテリアがありますが、PECARNを用いている施設も多いのではないでしょうか。

PECARNでは、生後間もない児から2歳間近の児まで同様のアルゴリズムとなっていること、元論文の主要アウトカムがciTBI(臨床的に重要な外傷性脳損傷)となっており微細な線状骨折や軽微な頭蓋内血腫を見落とす可能性があること、などから微妙な受傷機転である際のCT撮像の適否に頭を悩ませることも多いかと思います。

特に生後まもない乳児では自分で症状を訴えることができず、また軽度の受傷機転では外傷性脳損傷を生じていても身体所見を呈しにくいと報告されており、判断が難しいところです。

今回は生後3か月未満のPECARN低リスクを満たした鈍的頭部外傷症例におけるciTBI、外傷性脳損傷、頭蓋骨骨折の頻度を研究した論文があったので紹介します。

2004年6月から2006年9月にかけて米国の25の救急医療機関で実施されたPECARN前向き観察研究の公開データセットの二次解析を行い、軽度の鈍的頭部外傷を受けた2歳未満の小児10,904人のうち1,147人(10.5%)が生後3ヵ月未満でしたが、最終的に、データ欠損のない1,081人が解析対象となりました。

1081人のうちPECARN低リスクの評価となった514人の乳児において、ciTBIは1人だけ(0.2%、95%CI 0.005%~1.1%)であり、CTを行った197人中CT上の外傷性脳損傷は10人(5.1%、95%CI 2.5%~9.1%)、頭蓋骨骨折は9名(4.6%、95%CI 2.1%~8.5%)でした。
なお、PECARNの低リスク基準を満たさなかった567人の乳児において、ciTBIは24名(4.2%、95%CI 2.7%~6.2%)で、CTを行った436人のうちCT上の外傷性脳損傷が93人(21.3%,95%CI 17.6%~25.5%),頭蓋骨骨折が122人(28.0%,95%CI 23.8%~32.5%)と比較的多くの割合を占めていました。

やはりPECARN低リスクから外れるとciTBI、外傷性脳損傷、頭蓋骨骨折の割合がかなり増加すること、低リスク群でもciTBI以外の外傷性脳損傷や頭蓋骨骨折は約20人に1人の割合で生じることがわかりました。

3か月未満の乳児でCTを撮るか否かに関してはご家族と相談をして決めることもあるかと思いますが、どれくらいの割合で合併症があるか質問され、困ったことはないでしょうか。

今回のこの結果が、日々の診察上の説明で一役買ってくれれば幸いです!

次に西の宮本より以下2文献の紹介です。
(3) 左脚ブロックの心筋梗塞の心電図診断には「modified Sgarbossa criteria」が有効!
(4) 破傷風トキソイドを投与しすぎていませんか?
(5) 知っているようで知らない話、前胸部殴打・パーカッションペーシング・咳CPRのシステマティックレビュー
(6) mRNAワクチンにおける心筋炎のレビュー

(3) 左脚ブロックの心筋梗塞の心電図診断には「modified Sgarbossa criteria」が有効! Dodd KW, et al. Electrocardiographic Diagnosis of Acute Coronary Occlusion Myocardial Infarction in Ventricular Paced Rhythm Using the Modified Sgarbossa Criteria. Ann Emerg Med. 2021;S0196-0644(21)00249-3.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34172301/

皆様は「modified Sgarbossa criteria(MSC)」というのをご存知ですか?
従来のSgarbossa criteria(左脚ブロックにおける心筋梗塞を疑う心電図所見)は特異度は高いものの、感度が低く、「見つけたらラッキー」という所見でした。心筋梗塞という疾患の特性上、やはり感度が高いほうが望ましいと考えられます。
そこでMSCが約10年ほど前から提唱されていました。MSCの一部はSmith criteriaと呼ばれることもあるようで、以下のように基準を修正したものになります。

①極性の一致した1mm以上のST上昇(つまりQRSもSTも上向きでSTが1mm以上上昇している)
②V1-V6の誘導で極性の一致した1mm以上のST低下(オリジナルの基準ではV1-V3に限定していたことに注意!)
③極性不一致時に「ST上昇/QRS低下」の値が0.25より大きいこと

特に③が特徴的で、割り算をするのは少し面倒ですが、過去の研究でもその有用性が報告されていました。
今回はそのMSCにおける国際的な多施設研究の結果が発表されましたのでご紹介します。 ケースコントロール研究を用いオリジナルの基準と今回の基準の診断精度を比較するのが今回の研究目的です。

18歳以上のACSを疑う症状で救急受診し、心室ペーシング波形を有していた患者を対象としました。 この対象者のうち、血管造影の結果血管閉塞が疑われる(TIMI 0 or 1)もしくはTIMI 2 or 3だったがトロポニンの上昇が著しい場合を血管閉塞性心筋梗塞(ケース群)としました。
コントロール群は2つ設定されており、
(1)血管造影まで行ったが、上記の血管閉塞性心筋梗塞の基準を満たさなかった患者(血管造影で否定された群)
(2)ランダムに選択されたERを受診し、血管閉塞性心筋梗塞が否定的な患者
としています。
結果としてMSCの感度は86%、オリジナルの基準では感度56%でした。
また(1)をコントロール群に設定した場合、特異度はMSCで83%、オリジナルの基準で90%、(2)をコントロール群にした場合、MSCの特異度は96%、オリジナルの基準の特異度は97%でした。

つまりMSCは特異度をほとんど下げることなく、感度を上げることができると考えられます。
陰性尤度比は0.2であり、「この心電図だけで除外」とはいきませんが、日常診療の重要な武器となることは間違いないでしょう。 本文中には具体的な心電図や診断アルゴリズムなども提示してくれていますので、興味を持たれた方はぜひ本文も参照ください。

(4)破傷風トキソイドを投与しすぎていませんか?
Dutta S, et al. Clinical Decision Support Reduces Unnecessary Tetanus Vaccinations in the Emergency Department. Ann Emerg Med. 2021;S0196-0644(21)00153-0.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33975733/

破傷風トキソイドの投与の適応やタイミングは皆様覚えていらっしゃるでしょうか?
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/cadetto/column/ematips/201804/555691.html
何でもかんでも投与すればいいというわけではなく、清潔創に対しては最終接種から10年以上経過していれば追加接種、汚染創に対しては5年経過していれば追加接種が推奨されており、逆に10年以内・5年以内の場合は接種不要と言われています。

また稀ではありますが破傷風トキソイドによるギランバレー症候群の報告もされており、可能な限り不要な接種は避けたいですよね。
しかしERの現場では職業上などの理由で何度も怪我で受診されるかたもいます。
そのような方などに過剰に破傷風トキソイドを投与してしまっていないか?という臨床上の疑問に答える興味深い文献をご紹介します。

米国の3ヶ所の総合病院で行われた前後比較研究です。
2016年12月〜2017年2月までを無介入のベースライン期間としています。
2017年2月〜2017年4月までの介入期間に過去10年以内に破傷風トキソイドを接種したことのある人を電子カルテ上でアラートを出すように設定しました。

結果として、最終接種から10年以内に再接種した患者に対し、破傷風トキソイドがオーダーされた患者がベースライン期間に172人、介入期間に165人いました。ベースライン期間では157/172人(91.3%)がそのまま接種された一方で、介入期間では90/165人(54.5%)のみが接種されました。

電子カルテの挙動を今すぐに変えることは難しいですし、医療機関が多数存在する日本で同様の取り組みを行うのは難しいかもしれません。
しかし、「いつ破傷風トキソイドを打ったかどうか確認した?」と声掛けをしたり、怪我で受診した患者のトリアージの際にルーチンで接種歴を問診したりするだけでも不要な接種を減らすことができるかもしれませんね!

(5)知っているようで知らない話、前胸部殴打・パーカッションペーシング・咳CPRのシステマティックレビュー
Dee R, et al. The effect of alternative methods of cardiopulmonary resuscitation - Cough CPR, percussion pacing or precordial thump - on outcomes following cardiac arrest. A systematic review. Resuscitation. 2021;162:73-81.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33582257/

ICLSなどの心肺蘇生講習でこんなデモビデオをみたことはありますか?
https://youtu.be/FXlMwrHApoA

ツッコミどころ満載の動画ですが、動画中で指導医が前胸部叩打を行っています。
前胸部叩打が現在のガイドラインで推奨されていないことはよく知られていますが、実際どのようなエビデンスがあるのかまではあまり知られていません。
今回は前胸部叩打やそれに類似したパーカッションペーシング、またSNSなどで最近話題になっている「咳CPR(不整脈を感じた際に深呼吸と咳を繰り返す行為)」の有効性について厳密にシステマティックレビューを行った結果が今回発表されました。
結論としてはいずれの処置も臨床転機を改善させるエビデンスがないとされましたが、研究の詳細についても触れられているので、興味のある方はぜひご一読ください。

(6)mRNAワクチンにおける心筋炎のレビュー
Bozkurt B, et al. Myocarditis with COVID-19 mRNA Vaccines. Circulation. 2021 [Epub ahead of print]
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34281357/

話題のmRNAワクチン接種後の心筋炎について、Circulationからまとめが出ていました。mRNAワクチン接種後の副反応で救急受診される方も多いので、ぜひご一読いただければと思います。
・100万回接種あたり12.6件生じる
・2回目の接種から2-3日後に生じ、男性に多い
・多くは治療の有無に関わらず改善する
あたりがポイントです。

今回の文献紹介は以上となります。
今後ともEMA文献班をよろしくお願いします!

宮本颯真・宮本雄気