2025.01.27

EMA症例163:1月解説

2025年1月症例にご参加いただきました皆様,誠にありがとうございます.1月23 日時点で質問に回答をいただいた方は 122名いらっしゃいました.皆様の回答の集計結果を紹介します.

質問1:まず聴取したい問診事項を教えてください.

「漢方やサプリメントの使用歴」が最多でした。
「その他」では熱型、生活歴、活動歴といった内容を挙げていただきました。

質問2:診断のため,追加で行う検査があれば教えてください.

類似した回答はまとめさせていただいておりますのでご了承ください。
尿中抗原検査(具体的な菌名を上げていただいた方も多数いらっしゃいました)が最多、喀痰培養、血液培養が続く結果となりました。

 質問3:現時点であなたが最も疑う診断は?

こちらも一部類似した回答をまとめさせていただいております。
レジオネラ肺炎を最も多く挙げていただき、そのほか種々の細菌感染症が多く挙がりました。 

質問4:あなたの属性は?

今回も多種多様な職種、属性の方からご参加いただきました。
ありがとうございます。

まず、本症例のその後の経過です。

その後の症例の経過:
CTで肺炎像があることに加え、肝酵素上昇、CPK上昇、農業での汚染土壌との接触があることからレジオネラ肺炎を疑い ,尿中抗原検査を提出したところ陽性であったため,レジオネラ肺炎の診断で呼吸器内科へコンサルトし,レボフロキサシン 500mg/日で治療を開始し入院となりました.治療開始後には肝酵素上昇や腎機能障害は順調に改善し,2週間の抗菌薬治療を終え自宅退院されました.
ちなみに温泉や公衆浴場の利用歴はありませんでしたが,農業をされており清潔ではない水を使用した作業もあるとのことから感染源と考えられました.

 解説:
本症例のテーマは「レジオネラ肺炎」です.

■レジオネラ感染症
レジオネラは好気性グラム陰性細胞内寄生菌で,人体にさまざまな感染症をきたします.よく知られているレジオネラ肺炎のほか、自然軽快する急性熱性疾患であるPontiac熱や,稀ではありますが蜂窩織炎や膿瘍,心内膜炎,髄膜炎といった肺外感染症を起こすこともあります.肺外感染症はレジオネラ肺炎の合併症として生じることもあれば肺病変は伴わずに単独で起きることもあり,その多くが免疫不全患者です.
微生物学的には60以上の種,70以上の血清型があるとされます1)が,レジオネラ肺炎やPontiac熱はLegionella pneumophilaによるものがほとんどで,なかでも血清型1が最多です.一方で肺外感染症はLegionella pneumophila以外によるものが多いとされます2)
河川,土壌などの環境のほか人工貯水池などにも生息しており3),エアロゾルを介して人体に感染します.感染のためには1000以上の菌体が必要とされますが4),免疫不全者や肺疾患患者ではより少ない菌数でも感染を起こし得ます.
なお,レジオネラ感染症は感染症法に基づく届出が必要な4類感染症のひとつであり,診断した場合には最寄りの保健所へただちに届け出ましょう .

■レジオネラ肺炎
○疫学
日本での報告例は2000年には154例でしたが2016年時点で1602例まで増加しており5),尿中抗原検査の普及も報告例増加に寄与しているとされます.公衆温浴施設でのアウトブレイクも複数発生しており,日本における主要な感染源と考えられています.
市中肺炎においては1-10%を占めるとされ6),入院例や重症例が多く44%が集中治療室への入院を要したとする報告7)や入院患者の1-10%が死亡するという報告8)があります.
感染のリスク因子として年齢があり,感染者の75%以上が50歳以上9)とされます.ほかAIDS,血液悪性腫瘍,糖尿病といった免疫不全をきたす疾患もリスクに該当します.また喫煙,慢性呼吸器疾患,心疾患,末期腎臓病,男性,アルコールも感染と関連があります.

○臨床的特徴
頻度の高い症状として発熱,咳嗽,息切れがあります10).汚染水などへの曝露からの潜伏期間は2-10日,咳嗽に先行して発熱や全身倦怠感が生じることが多いとされています.
レジオネラ肺炎以外の肺炎との鑑別点はあまりありませんが,レジオネラ肺炎には嘔気嘔吐といった消化器症状の併発,相対的徐脈,肝トランスアミナーゼ上昇,10mg/dL以上のCRP上昇,低ナトリウム血症,低リン血症,CPK上昇,β-ラクタム系抗菌薬での治療失敗といった特徴がみられること10)があります.こういった特徴をもとにリスクを推測するスコアリングシステムも開発されていますが,実臨床での有用性はまだ示されていません.
X線やCTといった画像検査でも特異的な所見はなく,非区域性,区域性いずれの像も呈することがありますがいずれも陰影が急速に進行することが特徴です.

○診断
市中肺炎かどうかに関わらず肺炎患者の診療にあたるときには念頭に置くべきですが,周囲の環境でのアウトブレイク,汚染水や土壌との接触,旅行などでの入浴施設の利用といった項目を問診し,感染の可能性を拾い上げる必要があります.早期診断による治療開始が予後を改善させる11)ため,入院を要する肺炎患者や免疫不全のある肺炎患者などでは閾値を下げて検査を行うという意見もあります.
検査としてPCR,尿中抗原検査,培養が挙げられます.なかでも尿中抗原検査は特異度99%と高く診断に有用ではありますが,Legionella pneumophilaの血清型1のみの検出であるため陰性であってもレジオネラ肺炎を強く疑う際には,PCRなどの追加検査を行う必要があります.なお近年では血清型1以外も検出できる尿中抗原検査キットも販売されており,その有用性も報告されています12).読者のみなさまの施設でどの血清型に対応したキットが使用されているか確認してみてください.

○治療
レジオネラ肺炎の診断がついた場合,治療としてレボフロキサシンやアジスロマイシンが使用されます.この2剤の効果は差がないとされています13).またレボフロキサシンの投与量について,500mg/日と比較して750mg/日でより早く症状の改善が得られることが報告されています14)
治療期間については抗菌薬選択,重症度,治療反応性によって一定せず最低でも5日とされますが,重症度しだいで7-10日間,特に重症例では2-3週間という意見もあります.
レジオネラ肺炎の診断がついていない場合の経験的治療については割愛させていただきます.

いかがでしたでしょうか?
温浴施設の利用歴や呼吸器症状といった典型的な要素の少ないレジオネラ肺炎の症例をご紹介しました.消化器症状や全身倦怠感などの多彩な症状を伴う発熱患者ではウイルス感染症に飛びついてしまいそうですが,問診や血液検査結果から疑ってかかる必要があります.もちろん肺炎患者の診療でもいちどは「肺炎だけどレジオネラの可能性はどうかな?」と考えてみてください.
なお,実は本症例は一部脚色を加えており,実際には前医からの「腹腔内の炎症」という触れ込みと肝酵素上昇から腹部骨盤部のみのCTを撮影してしまい,撮影範囲に含まれていた肺野の浸潤影に気づいたことで胸部CTと尿中抗原を追加,診断に至ったという筆者の反省症例です. 腹部CTで写っている肺野にある所見を見落とさないようにするとともに,まず問診と診察から所見を余すことなく拾い上げるように心がけましょう(自戒を込めて).
またレジオネラ肺炎はEM Alliance教育班で過去にも取り上げられていますので,こちら(症例編:https://www.emalliance.org/education/case/syourei47,解説編:https://www.emalliance.org/education/case/kaisetsu47)もぜひご覧ください.

Take home message:
  ○レジオネラ肺炎は呼吸器症状だけでなく多彩な症状を呈する
  ○問診からリスク因子を拾い上げて早期診断・早期治療につなげる

参考文献:
1)LPSN bacterio.net. Genus Legionella. http://www.bacterio.net/legionella.html#r.
2) Qin X, Abe PM, Weissman SJ, Manning SC. Extrapulmonary Legionella micdadei infection in a previously healthy child. Pediatr Infect Dis J. 2002 Dec;21(12):1174-6. doi: 10.1097/00006454-200212000-00022. PMID: 12508793.
3) Eisenreich W, Heuner K. The life stage-specific pathometabolism of Legionella pneumophila. FEBS Lett. 2016 Nov;590(21):3868-3886. doi: 10.1002/1873-3468.12326. Epub 2016 Aug 18. PMID: 27455397.
4) Berendt RF, Young HW, Allen RG, Knutsen GL. Dose-response of guinea pigs experimentally infected with aerosols of Legionella pneumophila. J Infect Dis. 1980 Feb;141(2):186-92. doi: 10.1093/infdis/141.2.186. PMID: 7365275.
5) Amemura-Maekawa J, Kura F, Chida K, Ohya H, Kanatani JI, Isobe J, Tanaka S, Nakajima H, Hiratsuka T, Yoshino S, Sakata M, Murai M, Ohnishi M; Working Group for Legionella in Japan. Legionella pneumophila and Other Legionella Species Isolated from Legionellosis Patients in Japan between 2008 and 2016. Appl Environ Microbiol. 2018 Aug 31;84(18):e00721-18. doi: 10.1128/AEM.00721-18. PMID: 29980559; PMCID: PMC6122005.
6) Marchello C, Dale AP, Thai TN, Han DS, Ebell MH. Prevalence of Atypical Pathogens in Patients With Cough and Community-Acquired Pneumonia: A Meta-Analysis. Ann Fam Med. 2016 Nov;14(6):552-566. doi: 10.1370/afm.1993. PMID: 28376442; PMCID: PMC5389400.
7) Isenman HL, Chambers ST, Pithie AD, MacDonald SL, Hegarty JM, Fenwick JL, Maze MJ, Metcalf SC, Murdoch DR. Legionnaires' disease caused by Legionella longbeachae: Clinical features and outcomes of 107 cases from an endemic area. Respirology. 2016 Oct;21(7):1292-9. doi: 10.1111/resp.12808. Epub 2016 May 19. PMID: 27199169.
8) Viasus D, Di Yacovo S, Garcia-Vidal C, Verdaguer R, Manresa F, Dorca J, Gudiol F, Carratalà J. Community-acquired Legionella pneumophila pneumonia: a single-center experience with 214 hospitalized sporadic cases over 15 years. Medicine (Baltimore). 2013 Jan;92(1):51-60. doi: 10.1097/MD.0b013e31827f6104. PMID: 23266795; PMCID: PMC5348137.
9) Den Boer JW, Nijhof J, Friesema I. Risk factors for sporadic community-acquired Legionnaires' disease. A 3-year national case-control study. Public Health. 2006 Jun;120(6):566-71. doi: 10.1016/j.puhe.2006.03.009. Epub 2006 May 16. PMID: 16707144.
10) Kirby BD, Snyder KM, Meyer RD, Finegold SM. Legionnaires' disease: report of sixty-five nosocomially acquired cases of review of the literature. Medicine (Baltimore). 1980 May;59(3):188-205. PMID: 6997673.
11) Heath CH, Grove DI, Looke DF. Delay in appropriate therapy of Legionella pneumonia associated with increased mortality. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1996 Apr;15(4):286-90. doi: 10.1007/BF01695659. PMID: 8781878.
12)Ito A, Yamamoto Y, Ishii Y, Okazaki A, Ishiura Y, Kawagishi Y, Takiguchi Y, Kishi K, Taguchi Y, Shinzato T, Okochi Y, Hayashi R, Nakamori Y, Kichikawa Y, Murata K, Takeda H, Higa F, Miyara T, Saito K, Ishikawa T, Ishida T, Tateda K. Evaluation of a novel urinary antigen test kit for diagnosing Legionella pneumonia. Int J Infect Dis. 2021 Feb;103:42-47. doi: 10.1016/j.ijid.2020.10.106. Epub 2020 Nov 8. PMID: 33176204.
13) Garcia-Vidal C, Sanchez-Rodriguez I, Simonetti AF, Burgos J, Viasus D, Martin MT, Falco V, Carratalà J. Levofloxacin versus azithromycin for treating legionella pneumonia: a propensity score analysis. Clin Microbiol Infect. 2017 Sep;23(9):653-658. doi: 10.1016/j.cmi.2017.02.030. Epub 2017 Mar 6. PMID: 28267637.
14) Dunbar LM, Khashab MM, Kahn JB, Zadeikis N, Xiang JX, Tennenberg AM. Efficacy of 750-mg, 5-day levofloxacin in the treatment of community-acquired pneumonia caused by atypical pathogens. Curr Med Res Opin. 2004 Apr;20(4):555-63. doi: 10.1185/030079904125003304. Erratum in: Curr Med Res Opin. 2004 Jun;20(6):967. PMID: 15119993.

※症例編で提示しましたCTは下記から引用しました:
Knipe H, Legionella pneumonia. Case study, Radiopaedia.org (Accessed on 01 Dec 2024) https://doi.org/10.53347/rID-45780