2020.01.17

EMA症例47:1月症例解説

たくさんの回答ありがとうございました。
今回の症例は皆さん多く正解されておりさすがでした。
診断名はレジオネラ肺炎です。
それではアンケート結果から振返っていきましょう。

質問1最初の行動は?回答53名

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質問2診断名は?回答30名
レジオネラ肺炎15名、髄膜炎2名、脳炎2名、細菌性肺炎2名、その他レジオネラ感染症、インフルエンザ肺炎、大動脈解離、抗NMDAR抗体陽性脳炎、敗血症性ショック、肺癌などが挙げられました。

 レジオネラ属菌による感染症は大きくわけて3種類あり、軽症のポンティアック熱と重症となりやすいレジオネラ肺炎、その他として肺外感染症があります(1)。
 ポンティアック熱は3〜5日で自然軽快する気道症状を伴わない発熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛を認めます。一方、レジオネラ肺炎は90%以上がL.Pneumophilaが原因とされ、非定型肺炎に分類されます。
 菌は一般に25〜43℃で繁殖し36℃前後で最も繁殖するとされ、レジオネラ菌を含んだエアロゾルを吸入するか、汚染水を経口摂取して感染します。繁殖に適した温度であることから日本では夏場に発生する事が多く、給水・給湯設備や冷却塔水、循環式浴槽、加湿器やスプリンクラーなどの噴水施設といったエアロゾルを発生させる人工環境から吸入して起こります(2)。またレジオネラ属菌はもともと自然界の土壌に存在しているため腐葉土を扱うようなガーデニング趣味でも原因となり得ます。そのため病歴で温泉のみを確認すればよいという訳ではありません。
 リスクとしては移植等の免疫不全患者、透析患者、高齢者、慢性肝障害、アルコール中毒、喫煙・閉塞性肺疾患などがあります(3)。
 潜伏期間は一般的に2〜10日間とされます。臨床症状としては本症例のように下痢、腹痛といった消化器症状や頭痛、混迷、失調などの神経症状、脳炎を示唆する所見が前面に出てきて、最初には呼吸器症状は強くないことがよくあります(4)。その数日後に呼吸状態が悪化してきます。レジオネラ肺炎には同じ重症呼吸不全をおこす肺炎球菌肺炎と比べて以下の特徴があるとされます(5)。
男性に多い OR4.6
アルコール多飲に多い OR4.8
以前にβラクタム系抗生剤治療を受けている OR19.9
腋窩体温が39℃以上である OR10.3
筋肉痛 OR8.5
胃腸症状 OR3.5

胸膜痛や膿性喀痰はあまり認めません。死亡率は12%と言われ高齢者ではそれ以上とされています。
 レントゲン画像ではレジオネラ肺炎の半数が片側性肺病変を認め、本症例のように下肺野に病変を来すのが一般的です。1/3の症例で胸水を認めます。血液検査では低ナトリウム血症、低リン血症、軽度肝機能障害やCK上昇、顕微鏡的血尿や蛋白尿が認められます。
 喀痰グラム染色ではよく染まらないためヒメネス染色といった特別な染色法が必要となります。よく用いられるのは尿中レジオネラ抗原だと思われます。日本の多くのL.pneumophilaが血清型1で、それに対しては感度90%特異度99%と尿中抗原検査が陽性であればほぼ間違いないと思いますが、陰性であっても型が違う可能性があり否定はできません。そのため臨床的に疑われる場合には血清抗体価、PCRや培養検査(レジオネラは一般細菌用培地では培養できずBCYEα培地など分離培養が必要で、その旨を検査室に伝える必要があります)を併用する必要があります。
 治療にはキノロン系やマクロライド系を7〜10日間用い、免疫抑制患者では最低21日間抗生剤投与すべきとされています。重症化しやすい肺炎ですので入院加療が望ましいです。
 またレジオネラ感染症は感染症法による4類全数把握疾患に分類され診断した医師はただちに最寄りの保健所に届け出ることが定められています(6)。日本では2010年以降、毎年報告数が増加しており、2013年には過去最多の1,111例が報告されました。

 最後に本症例の経過ですが、病歴から尿中レジオネラ抗原を疑い検査を行ったところ陽性でレジオネラ肺炎の診断となりました。アジスロマイシン+セフトリアキソンにて点滴抗生剤加療を開始し入院となりました。痰培養は一般細菌用培地でしか提出しておらず、残念ながらレジオネラを検出できませんでした。また難聴の症状は同日入院時には消失しており、入院後は徐々に症状改善しておりました。その他の症状徐々に改善し、第14病日に独歩で退院されました。結局レジオネラにどこで感染したのかは同定するに至りませんでした。

まとめ
○呼吸器症状より消化器・神経症状が前面に出ることがある
○市中肺炎の非定型肺炎では必ず考慮し、特異的な血液検査や尿中抗原を追加する
○直ちに保健所に届け出が必要である

1. Paul H. Edelsteinら:Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Diseases 8th,234,2633-2644
2. IDWR2014年第25号<注目すべき感染症>最近のレジオネラの発生動向
3. 青木眞:レジデントのための感染症診療マニュアル第2版,502-503
4. Kirby BDら:Legonnaires’ disease: report of sixty-five nosocomially acquired cases of review of the literature,Medicine(Baltimore),59,188
5. Thomas J. Marrieら:Goldman’s Cecil Medicine,332,1903-1906
6. 厚生労働省ホームページhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-39.html