2020.02.17

2020/2/16 文献紹介

EMA文献班、防衛医大/聖路加SPHの山田浩平です。
健生病院の徳竹先生とペアで文献紹介をお送りします!

今回は、
①非特異的症状で来た高齢者へのトロポニン測定
②心房細動の薬物的+電気的除細動
③CPA蘇生後の頭部CT
④外傷のLow-dose CT

の4本を紹介します。


Wang AZ et al. Troponin Testing and Coronary Syndrome in Geriatric Patients With Nonspecific Complaints: Are We Overtesting?
Acad Emerg Med. 2020 Jan;27(1):6-14.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31854117

「非特異的な症状を呈する高齢者でのACS有病率はあまり高くなく、ルーチンでのtroponin測定は意義に乏しい」

高齢者では、ACSの際に胸痛や息切れといった「特異的な症状」を呈さないこともあることは有名です。
特異的な症状を訴えない高齢者においてACSが占める割合につい ては不明であり、troponin測定の意義も不明でした。

これらの命題を検討した最初の研究が発表されました。
2017年1月1日~ 6月30日に米国の三次救急センターで行われた後ろ向き研究です。
対象は「非特異的な症状」でERを受診された65歳以上かつtroponin検査がされた 患者で、
発熱・呼吸困難・嘔吐・失神・咳嗽・ 局所の神経学的異常など局所的な症状を訴えた患者は除外されました。
ここでの「非特異的な症状」とは脱力感・めまい・倦怠感などのあいまいな症状を指します。

最終的に594人が非特異的な症状を訴えてERを受診し、そのうち412人(69%) でtroponin検査がされました。
ACSと診断されたのはわずかに5人(1.2%)でした。
これはtroponin上昇が認められた患者のうち6% に過ぎず、初診時のACS診断におけるtroponinは感度80%/特異度88%といまいちな結果でした。
また、ACS以外のtroponin上昇の原因はtable 3にまとめられていますが、敗血症、脱水症、心不全がtop 3を占めていました。

非特異的な症状を呈する高齢者において、ACSが占める割合はそれほど高くなさそうです。
troponin検査をされなかった182人はACSの可能性が考慮されなかった患者群とも考えられ、さらに有病率は低くなりそうです。
このような非特異的な症状を呈する高齢者でのtroponin検査は偽陽性率が高く、ルーチンでの検査は意義が乏しそうです。

高齢者が訴えるよくわからない症状のときには鑑別にどのような疾患を挙げるか悩んでしまうこともありますが、
敗血症をはじめとしたtable 3のような疾患を考慮すべきというメッセージもあると思い、今回紹介させていただきました。


Stiell IG et al. Electrical versus pharmacological cardioversion for emergency department patients with acute atrial fibrillation (RAFF2): a partial factorial randomised trial.
Lancet. 2020 Feb 1;395(10221):339-349.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32007169

「 心房細動に対して薬物的除細動と電気的除細動とを組み合わせて治 療することで、 重大な合併症を増やすことなく十分な洞調律化が得られる」

みなさんは急性発症の心房細動と対峙したときにどのように対応していますか?
以前EMA文献班より、 電気的除細動を選択すると薬物的除細動に比較して洞調律化が高くER滞在時間も短くなるという文献を紹介しました。
(https://www.emalliance.org/education/dissertation/journal-20191130)

今回ご紹介する論文は少し似ていますが、 急性発症の心房細動への治療として薬物的除細動と電気的除細動と を併用した場合の効果を検証した研究です。
以前紹介した研究では、 薬物的除細動をfirstで実施する群では電気的除細動を行うま でに平均110分かかっていました。
今回は30分で切り上げて次の手を打つところが異なります。

2013年7月18日~ 2018年10月17日に実施されたカナダの11ERでの研究で す。
少なくとも3時間症状がある安定したAF患者で、 cardioversionが適切と考えられた患者が対象となり ました。
この患者群をdrug-shock群(204人)とshock- only群(192人)に1:1にランダムに割り付けました。
drug-shock群では、 procainamide静注30分間を最初に行い洞調律化でき たら終了、無効の場合に最大3回の電気的除細動を実施。
shock-only群では、placebo静注30分間後に( 自然に洞調律化しない場合には) 最大3回の電気的除細動を実施しました。

primary outcomeは、 洞調律化および30分以上の洞調律維持できた割合で、
drug-shock群では196人(96%)、shock- only群では176人(92%) であり有意差はありませんでした。
drug-shock群では30分間の薬物投与により52% で洞調律化が得られました。
drug- shock群では一過性低血圧などの有害事象が多い傾向にありま したが、いずれの群でも死亡や脳卒中発症はありませんでした。

なお、 上記で電気的除細動を実施された患者はパッドの位置を前胸部と背 側にする vs 前胸部と側胸部にする群でその効果を比較されましたが、
いずれの位置でも洞調律化は有意差はありませんでした。

電気的除細動のみでも薬物的除細動を組み合わせても、 同様の洞調律化が認められました。
結局、有効性に関しては「どちらの方法でもいい」 というのが現時点での結論かもしれません。
30分間の抗不整脈薬点滴により50% 以上の確率で除細動が成功するため、 これに効果がなかった場合に電気的除細動に移るという対応をとる ことも忙しいERでは考慮してもよいかもしれません。
鎮静が不要で、 それによる人員を割かずに済むことから薬物的除細動という選択肢 を持っておいてもよいと思います。
また、 電気的除細動に比較して患者への心理的負担も少ないのではないで しょうか。

ちなみに、shock- only群では同期しなかったため1人心停止になっています。
くれぐれも気をつけましょう。


Streitberger KJ et al. Timing of brain computed tomography and accuracy of outcome prediction after cardiac arrest. Resuscitation. 2019 ;145:8-14.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31585185

「心肺停止から蘇生した患者の頭部CT、GWR (Gray-white-matter Ratio)1.10 だと神経学的予後不良」

CPA蘇生後の患者の神経学的予後の評価には、神経学的所見、 頭部CT、脳波、血液検査など様々な項目があります。 一つの検査所見だけではなんとも言えないのが悩ましいですよね… 。様々な(検査)所見を組み合わせて総合的に判断している、という施設が多いのではないでしょうか。頭部CT一つとっても、クリアカットな基準があるわけではないのが難しいところです。

ここではCPA蘇生後にICU入室した患者を対象にして頭部CT と神経学的予後の相関を検討した、ドイツの単施設の研究を紹介します。

非外傷性のCPAから蘇生した成人患者 (全員TTM中)で、CPAが起きてから10日以内に頭部CTを撮影された患者が対象です。各データは、研究施設のデータベースから収集されました。
頭部CTの所見では、GWR (Gray-white-matter Ratio)という灰白質と白質のCT値の比を用いています。 いわゆる低酸素性脳症の「皮髄境界不明瞭」を数値化したものです。1より大きければ大きいほどコントラストがはっきりしていること を示します。このGWRからICU退室時の神経学的予後不良 (CPC 4,5)をどの程度予測できるか等を検討しました。

主要な結果は、195人中125人 (64%)が神経学的予後不良 (CPC 4,5)でした。
GWR 1.10をカットオフにすると、神経学的予後不良に対しての特異度は撮影のタイミングによらず1 00 %でした。一方で感度は低く、CPAが起きてから6時間以内に撮影したCTだと17 %、6〜24時間だと10%、24時間以降だと39%でした。

あくまで単施設での短期的 (ICU退室時)な予後の研究ですが、GWR 1.10であれば神経学的予後は非常に厳しいと言えそうです。
ちなみにGWRは決められた16箇所の白質・ 灰白質のCT値の比ですので、 計測に特別なソフトなどは必要ありませんが、、 手動でやると少々面倒です…。
私1度やってみましたが、15分かかりました。


Stengel D et al. Association of Low-Dose Whole-Body Computed Tomography With Missed Injury Diagnoses and Radiation Exposure in Patients With Blunt Multiple Trauma. JAMA Surg. 2020 [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm. nih.gov/pubmed/31940019

「高リスク受傷機転の鈍的外傷、Low-doseのWhole- Body CTでも見逃し変わらず」

高リスク受傷機転の外傷患者の診療でスクリーニング的にWBCT (Whole-Body CT)を撮影することはよくありますよね。
便利な反面、被曝のこともちょっと気になります。線量を減らして同じ質の画像が得られるなら、そっちの方が良いですよね!

ここではドイツの単施設で行われたタイムシリーズコホート研究を紹介します。

ドイツの外傷センターで、「高リスク受傷機転」で鈍的多発外傷が疑われる患者を対象として、2014年9月〜2015年7月はStandard-dose (通常線量)群、2015年8月〜2016年8月をLow-dose (低線量)群としてCTを撮影しました。 CTの線量以外の診療はプロトコル変更前後で変わりません。

primary outcomeとして設定したのは「損傷の見逃し」です。

結果は、通常群で見逃しが109/468 (23.3 %)、Low-dose群で見逃しが107/503 (21.3 %)でした。(リスク差 -2.0% [95% CI, -7.3% - 3.2%])
読影者の主観で評価した画像の質も、2群間で差はなかったようです。
一方で被曝量は、通常群で11.7 mGy、Low-dose群で5.9 mGyと、Low-doseにすることで約半分になりました。

低線量にしても画像の質が落ちず、見逃しも変わらないのなら( 本研究は見逃し率高いような気もしますが…)良いですね!

以上になります。

次回の文献紹介もお楽しみに!!

防衛医科大学校病院救急部
聖路加国際大学公衆衛生大学院
山田 浩平