2019.12.25

2019/11/30 文献紹介

EMAのみなさま

いよいよ冬らしくなってまいりました。自分も患者さんも体調を崩しやすい時期です。今季も頑張って乗り切りましょう!

今回は4つの文献をご紹介します。

最初の2つはERにおけるAFのRhythm controlに関する論文です。
皆様の施設では心房細動(AF)患者に対するRhythm controlとRate controlはどう使い分けていますか?

過去AFFIRM、RACEなど大規模試験が行われ“Rate controlはRhythm controlどちらを選んでも予後に大きな差はない”とされていますが、その一方で非高齢者の発作性心房細動(PAF)では洞調律帰率が高く、Rhythm controlをトライする意義は十分にあると考えられています。

①Scheuermeyer FX et al. A Multicenter Randomized Trial toEvaluate a Chemical-first or Electrical-first Cardioversion Strategy for Patients With Uncomplicated Acute Atrial Fibrillation.
Acad Emerg Med. 2019 Sep;26(9):969-981. PMID:31423687


Rhythm controlは電気的除細動を用いた方が洞調律復帰は高く、ER滞在時間も短い。

P:発症から48時間以内にERを受診してAFの診断に至った18~75歳の患者
I:薬理的除細動(chemical-first)を第一選択とする群(プロカインアミド17mg/kg、max 1500mg、1時間以上かけて)、効果不十分なら電気的除細動
C:電気的除細動(electrical-first)を第一選択とする群(100~200Jで最大で3回施行)、効果不十分なら薬理的除細動
O:primary outcome(来院4時間以内に帰れた患者数)、secondary outcome(ER滞在時間、有害事象発生率、30日以内でのER再診率、入院、脳卒中、死亡、QOL)

まずはRhythm controlの方法について、カナダの6つの病院で行われたRCTです。
84人が登録され、41人がChemical群、43人がElectrical群となりました。全患者は帰宅でき、83人(99%)が洞調律に戻っていました。
4時間以内に帰宅となった患者はChemical群では32%、Electrical群では67%であり、ER滞在時間の中央値はそれぞれ5.1時間と3.5時間とElectrical群で有意に短い結果となりました。
Chemical群で薬理的除細動に失敗し、電気的除細動へ移行した群はその間に中央値110分かかっていました。その原因は効果判定のため、ER混雑のためなど考えられますが、この時間を短縮できれば両側の差はもう少し小さくなると考えられます。

Chemical群は洞調律復帰までの時間は2.3時間、プロカインアミド投与のみで戻ったのはわずか22人(54%)で、残りは除細動をして洞調律復帰しています。
一方Electrical群では洞調律復帰までの時間は0.6時間、38人(88%)は除細動のみで洞調律復帰しています。合併症の発生はどちらも大きなものはなく、発生率も差はありませんでした。

以上より、Electrical-firstの方が洞調律復帰までの時間が早く、帰宅までの時間も早く、洞調律化する率が高いという結果になりました。Rhythm controlを試みる時は時間的にも効果的にもElectrical-firstの方が良さそうです。
しかし鎮静をかけられて除細動を受けるというのは患者心理からしてかなり抵抗があると思いますので、その点も加味して治療プランを考えなくてはいけませんね!

②Pluymaekers NAHA et al. Early or Delayed Cardioversion in Recent-Onset Atrial Fibrillation.
N Engl J Med. 2019 Apr 18;380(16):1499-1508. PMID:30883054
RACE 7 ACWAS trial


発症間もない症候性心房細動に対する待機的治療は、4週間後の洞調律維持の割合において、早期除細動治療に劣らない。

P:発症から36時間以内でERを受診した症候性心房細動の患者
I:delayed cardioversion群(wait-and-see approach)→ERでrate controlし、翌日の外来でまだAFであればその時点で除細動を行う
C:early cardioversion群→ERで除細動を行う(薬理的除細動をまず行う、禁忌や過去に薬剤抵抗性が分かっている場合は電気的除細動)
O:primary outcome(4週後に洞調律かどうか)、secondary outcome(AFの再燃、心血管合併症でのER再診など)

次に除細動を行うタイミングについて検討した研究です。
オランダで行われた多施設非盲検試験で、全体で437人がincludeされdelay群は218人、early群は219人でした。
Primary outcomeである4週時点での洞調律維持はdelay群で91%、early群で94%となっておりdelay群の非劣勢が示されました(-2.9%; 95%CI, -8.2~2.2; p=0.005 for noninferiority)。再発率は両群ともに30%程度と同等の結果となりました。心血管系の合併症の発生率もdelayed群で10人、early群で8人であり差はありませんでした。
delayed cardioversion strategyの大きなメリットとしては、自然に洞調律に戻る可能性(本研究では69%)があるので除細動を回避できる可能性があることと、ER滞在時間を短縮できるかもしれないこと等が挙げられます。
以上から、もし翌日にでも外来受診ができる環境であればERでは症状改善のためのRate controlに努め、翌日の外来にて再評価し必要あればRhythm controlという方法(wait-and-see approach)が推奨されます。

どちらの研究も既知の持続性AF、無症状(偶発的に指摘されたAF)、循環動態不安定な患者などは除外されています。
またAF治療の際に忘れてはならない塞栓症のリスクに関しては、①はCHADS2 score 2点未満の患者群が対象であり、抗凝固薬内服者は全体の16%、②はCHA2DS2-VASc score≧2点の患者が60%以上を占めており抗凝固薬内服者は全体で40%となっていました。

ERで出会うAFに対して、Rhythm controlかRate controlの議論はまだ尽きませんが、各病院のプラクティスを循環器内科の先生とも共有し見直す機会の一助になれば幸いです。

③Lentz RJ et al., Interventional Pulmonary Outcomes Group. The Impact of Gravity versus Suction-driven Therapeutic Thoracentesis on Pressure-related Complications: the GRAVITAS Multicenter Randomized Controlled Trial.
Chest. 2019 Nov 8.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31711990

胸水のドレナージは重力に任せてもシリンジで引いても合併症は変わらないがシリンジで引く方が短時間で終わる

胸腔ドレナージの合併症発生率は5%程度で、20cmH2O以上の陰圧をかけることはよくないとされています。
本研究はアメリカの10施設で行われたスタディで、推定500ml以上の胸水がある18歳以上の患者が対象になっています。
8Fチューブ(中サイズのアスピレーションキット™️と同等)を留置し、60mlシリンジで陰圧をかけて胸水を引く群と100cm下に排液バッグを置いて重力でドレナージする群とに分け、患者の不快感や合併症の発生率を比較しました。

その結果、不快感や合併症、排液量に両群間で差はなく、手技にかかる時間は重力群で平均約7.4分長くなっていました。

個人的には手技時間にもっと差が出る感覚でしたが、皆さんの印象はいかがでしょうか。

胸水のドレナージを7.4分処置を終わらせて他の診療に取り掛かる、重力に任せている間7.4分は他のことができる、、、
解釈はそれぞれですが、多忙なERで手技時間を計算に入れた戦略を立てる一助になれば幸いです。

④Filbin MR, et al. Antibiotic Delays and Feasibility of a 1-Hour-From-Triage Antibiotic Requirement: Analysis of an Emergency Department Sepsis Quality Improvement Database.
Ann Emerg Med. 2019 Sep 24.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31561998

敗血症患者に対する来院後1時間以内の抗菌薬投与はやっぱり難しい&有用性には議論の余地がある

SSCG2018では来院後1時間以内の抗菌薬投与が推奨されていますが、一方で3時間以内と1時間以内を比較して有益性に差はなかったというメタアナリシスもあります。

アメリカ連邦政府機関であるメディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)はSSCGの推奨を支持せず、「組織灌流低下を認識してから3時間以内の投与」を推奨しています。

本研究はMGHの単施設研究で、18歳以上のER患者を対象とし、敗血症を診療するスタッフへの介入(=敗血症スクリーニングプロトコールの説明+症例のリアルタイムフィードバック)の前後で抗菌投与遅延の割合を比較しています。

結果として、介入の前後で抗菌薬投与遅延(1時間以内に抗菌薬を投与できなかった)の割合の減少は85%から71%までにとどまりました。
最も遅延に寄与していた因子は、ERの非急性期エリアに回ったことでした。(オッズ比15.9)

広域抗菌薬の不適切使用やバイタル安定・非特異的症状に対して大きな医療資源を注ぐことがER全体に与える影響を懸念して、SSCGの推奨に疑問を投げかける論調でした。

「早期投与を頑張ってみたけどやっぱり難しかった」という今回の研究結果を受けてSSCGの次回改訂がどうなるか、今から気になります。

今回の文献紹介は以上です。
聖マリアンナ医大の救命コンビがお送りしました!
川口剛史
井桁龍平(文献班新加入)