2020.05.31

2020/05/31文献紹介

EMA文献班 聖マリアンナ医大の川口と国際医療福祉大学成田病院の井桁より
5月後半の文献紹介をさせていただきます。
①②はCOVID-19関連
③④⑤はそれ以外の内容となっています。

①Lauren M., et al. Variation in False-Negative Rate of Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction–Based SARS-CoV-2 Tests by Time Since Exposure. Ann Intern Med. 2020;M20-1495
https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-1495

SARS-CoV-2感染のRT-PCR検査は発症後1-3日程度待ってから行うべき

各病院や自治体の尽力により確定診断がついた症例の診療体制は流行初期と比べてかなり整備された印象ですが、
診断のついていない擬似症例に対して個人防護具や陰圧・個室管理をいつ中止するのか
暴露した医療従事者の就業制限をいつ解除するのか
など、いつ・どのように擬似症としての扱いを終了するのかという疑問はなかなか解消されません。

本研究は7つの先行研究の結果からRT-PCR検査の偽陰性率について考察したものです。

元になった7つの研究の検体の採取方法や質、症例の重症度や外来/入院などの条件が均一ではないなどのlimitationはありますが、
Figure2を見ていただくとわかるように、暴露当日の偽陰性率はなんと100%!
その後徐々に減少し、偽陰性率が最も低いのは暴露後8日(症状出現3日後)の20% (CI, 12% to 30%)でした。その後は再び増加します。

Figure3からは検査前確率によって検査後確率が大きく変わることが読み取れます。

現在本邦では新規患者数がかなり低下しており、検査前確率が低い状況と言えます。
検査の特性と疫学を考慮して適切に臨床に適用していきましょう!

②Clerkin KJ, Fried JA, Raikhelkar J, et al. Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) and Cardiovascular Disease [published online ahead of print, 2020 Mar 21]. Circulation. 2020;10.1161
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32200663/

報告により様々ですが、感染した患者の7%(重症患者の22%)は何らか心筋障害を呈すると言われています。
既往のない患者の死亡率は0.9%とされていますが心血管疾患があると10.5%、高血圧があると6%と死亡率は上昇します。

COVID感染と心筋障害の因果関係はまだ解明していませんが、現時点ではACE2を介しての心筋への直接作用か、サイトカインストーム・低酸素含め全身状態悪化に伴う二次的な心筋障害の2パターンが考えられています。
生存群と死亡群との比較では、トロポニン(hs-cTnI)は死亡群で高値であり日を追うごとに上昇したと報告されます。
そのため何らか心筋障害をきたすと死亡率は上昇する可能性が示唆されています。

後半には心臓移植に関しても記述されています。
中国武漢からの87例の心臓移植の報告では、通常通り予防策を取っていればリスクは高くないと報告しています。
アメリカ移植学会は過去2~4週間にCOVIDの暴露や症状がないことを条件に移植を考慮するとしています。

ドナーに関しても少なくとも2週間はPCRによるCOVID陰性を確認することが必要になります。
日本の移植学会からも同様の声明が出ていますので一読をお勧めします。

まだ解明していないことが多く、日々情報がupdateされる現状ではありますが、COVID感染と心疾患に関しての情報をお届けしました。

③Turgut K, Yavuz E. Comparison of non-invasive CPAP with mask use in carbon monoxide poisoning [published online ahead of print, 2020 Apr 18]. Am J Emerg Med.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32331960

CO中毒に対するNPPV(CPAP)療法はリザーバーマスクによる酸素投与よりも経皮的一酸化炭素飽和度(SpCO)を早く減少させる

CO中毒の治療において最も重要な介入は、ヘモグロビンからのCOの除去と低酸素症の防止です。酸素投与はヘモグロビンからのCOの除去を加速します。

高圧酸素療法はCO中毒の治療法の一つであり、米国救急医学会ACEP臨床方針(2008)では推奨度レベルCとなっています。
また、高圧酸素療法がCO中毒による神経学的後遺症を減少させるという報告もあります。 しかし専用の設備が必要であり、実施できる施設が限られているのが現状です。

本研究は、多くの施設で使用できるCPAP機器を用いることで、通常の酸素療法よりもCO濃度を早く低下できるのではないかという仮説を検証したものです。

P: 2019年1年間でトルコの三次病院の救急外来を受診したCO患者45人(全てストーブが原因)を対象とした単施設研究の前向き観察研究
 SpCO20以下と35以上および意識障害がある症例は除外

I: CPAP mode (FiO2: 100%, PEEP: 5 cm)による酸素投与(使用機器はLTV 1200  https://www.vyaire.com/products/ltvtm-series-ventilators
C: リザーバー付マスク15L/minによる酸素投与

O: 0分、30分、60分、90分時点でのSpCO値(Masimo Rad-57™️ https://www.masimo.co.jp/rad-57/ )

結果としては、治療開始後30分、60分、90分の全ての時点でCPAP群のほうが通常酸素群よりもSpCO値が低くなりました。
30分 21%(15–28)vs 16%(12–27), p < 0.001
60分 17%(11–26)vs 10%(7–25), p < 0.001
90分 13%(9–25)vs 7%(2-23), p < 0.001

両群あわせて全患者が回復して退院したこと
神経学的後遺症が評価されていないこと
単施設で症例も少ないこと
などのlimitationがありますが、大きなデメリットもなく多くの施設で実施可能という点で非常に有用な知見かと思いました。
今後さらに研究が進めば一般的な治療法になる日が来るかもしれません。

④Shaker MS, et al. Anaphylaxis-a 2020 practice parameter update, systematic review, and Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation
(GRADE) analysis. J Allergy Clin Immunol. 2020 Apr;145(4):1082-1123.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32001253

アナフィラキシーのガイドラインがアップデートされました。
EMA文献班では2018年7月に二相性反応のレビューを紹介しておりますが、
https://www.emalliance.org/education/dissertation/20180717-journal
そのときと比較して二相性反応を想定した経過観察時間がやや短くなっています。

2018年のレビューでは8時間程度の経過観察が目安になっていましたが、
本ガイドラインでは軽症なら1時間、重症なら6時間程度の経過観察が提唱されています。

2019年のメタアナリシス(PMID: 30763927)で二相性反応発生の陰性的中率が
1時間の観察で95%
6時間の観察で97%
だったことが根拠になっています。

本邦は入院の閾値が比較的低いので重症の場合は1泊2日程度入院することが多いかもしれませんが、
6時間の経過観察であれば「朝一番で来院した人をERで昼過ぎまで観察して問題なければ帰宅する」ということが可能かもしれません。

二相性反応のリスク因子としては
アナフィラキシー発症からエピネフリン初回投与までの時間が長いこと
エプネフリンの総投与回数(投与量)が多いこと
が挙げられています。

また、エピネフリン投与は「0.3mg筋注」と呪文のように覚えることが有名ですが
本ガイドラインでは0.01mg/kgの投与量、成人0.5mg/子供0.3mgを最大量とする
と記載されています。

⑤Lau JYW, Yu Y, Tang RSY, et al. Timing of Endoscopy for Acute Upper Gastrointestinal Bleeding.
N Engl J Med. 2020;382(14):1299‐1308.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32242355/

バイタルの崩れていない上部消化管出血に対して緊急内視鏡(6時間以内)と早期内視鏡(6-24時間以内)を比較したが死亡率に差はなかった

今回は上部消化管出血に対する内視鏡治療のタイミングに関しての論文を紹介します。香港の大学病院単施設で行われたopen label RCTです。
内視鏡処置は24時間以内に行うこと推奨されていますが、重症群は24時間以内と言わず即座の対応が求められます。
しかし過去の研究では緊急内視鏡で死亡率の改善するかはまだ結論が出ていないところでした。
そこで今回は重症度をBlatchfold scoreを用いて、ハイリスクと考えられる患者群に絞って検討を行われています。

P:吐血・下血など明らかに上部消化管出血がある患者、かつGlasgow Blatchfold score 12点以上
I:消化器内科コンサルト後、6時間以内に内視鏡をする(urgent群)
C:消化器内科コンサルト後、6~24時間以内に内視鏡をする(early群)
O:30日以内死亡

2012~2018年で4715人がスクリーニングされ598人がBlatchfold score 12点以上であり、内516人(約11%)が無作為化されました。
Primary outcomeである30日死亡率はurgent群で23人(8.9%)、early群で17人(6.6%)で差はありませんでした。(95%CI, -2.3~6.9)
Secondary outcomeである初回内視鏡成功率、再出血とその原因、ICU・一般病棟入院期間、30日以内の追加の内視鏡治療、緊急手術、塞栓術、副作用、輸血施行はどれも両群に差はありませんでした。
受診から内視鏡までの平均時間はurgent群で9.9±6.1hr、early群で24.7±9.0hrでした。
ちなみに来院から消化器内科へのコンサルトまでの平均時間はurgent群で7.4±6.2hr、early群で8.0±7.1hrでありそもそもコンサルトまでに結構時間がかかっていることがわかります。

今回の研究のLimitationとしては以下の要因が挙げられます。
・ショック患者は除外している
・治療内容が日本と違う(high-dose PPI:80mgボーラス後、8mg/h持続投与)
・消化器内科コンサルトに時間がかなりかかっている
・予測死亡率より低かったためパワー不足
・Blatchfold score自体が緊急内視鏡適応の判断としてよいかは不明である

今後の研究が待たれますが、朝まで診れそうな患者は人手などが整ったところで内視鏡検査を施行する、という流れでも良いかもしれないと思わせてくれる結果でした。
コロナ蔓延時代の今日この頃、緊急性の処置はなるべく避けて、感染管理を整えてからの処置が求められますので参考になればと思います。

以上になります。次回もお楽しみに!

EMA文献班
聖マリアンナ医科大学 川口剛史
国際医療福祉大学成田病院 井桁龍平