2018/7/17 文献紹介
こんにちは。沖縄県立中部病院の山本 一太です。暑い日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回は趣向を変えて紹介方法をクイズ形式に変更しました。それではどうぞご覧ください。
◼️問題1
骨盤骨折の診断をするには骨盤レントゲン検査、CT検査などがあるが、骨盤骨折を除外するのに有用かもしれない身体所見は??
◼️答え
SLR:straight leg raise test
骨盤レントゲンは外傷診療で比較的ルーチンに撮影されていると思いますが、意識がはっきりしている鈍的外傷患者に対するルーチンの骨盤レントゲンは疑問視されており、これまでも骨盤レントゲンを省略するための症状や身体所見が研究されています。今回ご紹介するのは、SLR:straight leg raiseを用いて重大な骨盤骨折を除外できるか検討したオーストラリアからの研究です。
Straight leg elevation to rule out pelvic injury
Injury. 2018 Feb;49(2):279-283.
SLRで骨盤骨折を除外する背景には、SLRに関係する筋肉が骨盤に付着していることがあるようです。
GCS≧14の16歳以上の鈍的外傷で搬送され骨盤レントゲンが施行された患者に自動でSLRを行なってもらい、骨盤骨折の有無とSLR施行の可否、疼痛誘発の有無を調べています(脊椎外傷、下肢外傷は除外) 。骨盤骨折の有無は撮影されたレントゲンを放射線科医が読影して診断しています。
結果、367人のうちレントゲンを撮影しなかったり、下肢外傷があった39人を除外した後、328人にSLRを施行しました。328人中118人がSLRを施行できない、もしくは疼痛誘発ありでした。骨盤骨折は35人(10.7%)おり、35人中32人がSLRを施行することができませんでした。3人はSLRを施行できたのですが、いずれもGCS14点で、そのうち1人は救急車内でフェンタニルを投与されていました。
レントゲンで診断できた骨盤骨折に対するSLRの感度は91.43%、特異度は70.65%、陽性的中率は27.12%、陰性的中率は98.57%でした。GCS 15の患者に限定するとSLRの感度は100%、特異度は68.85%、陽性的中率は26.92%、陰性的中率は100%でした。
小規模、単施設の研究です。骨盤骨折の診断もレントゲンを用いており、CTを用いていません。limitationが多く、これからvalidationも必要で、この結果をそのまま臨床に当てはめることはできません。しかし簡便でとても面白い内容ですので、GCS 15に限定したり、CTを用いたり、多施設で症例数を増やしての検討が待たれます。
ERで前向きにできそうな研究ですね!!臨床研究に興味のある先生方、ぜひ検討して見てください!!
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◼️問題2
アナフィラキシーの二相性反応を予測する因子は??(2つ)
◼️答え
エピネフリン投与のタイミングと総投与量
Biphasic anaphylaxis: A review of the literature and implications for emergency management
Am J Emerg Med. 2018 May 9.
アナフィラキシーの二相性反応に関するレビューです。二相性反応は有名ですが、実臨床であまり経験したことがない方も多いのではないでしょうか??エビデンスが限定的な二相性反応に関する内容がまとまっています。是非読んでみてください!!
以下はこの論文のポイントです。
・アナフィラキシーの二相性反応は5.2-19.4%の頻度と報告されており、小規模後ろ向き研究では最高で21%と報告されていたが、最近の大規模後向き観察研究では4-4.5%と報告されている
・その中で死亡と関連するような重度な反応はさらにレアと言われている
・アナフィラキシー発症から、エピネフリン初回投与までの時間が長いことは二相性反応の予測因子である
・二相性反応を起こした患者は、初期症状を改善させるのにより多くのエピネフリンを使用していた(総投与量が多かった)
・ステロイドの使用については、小規模の後向き研究を根拠としている。実際は賛成意見、反対意見共にエビデンスが乏しい
・二相性反応は発症1-72時間に起こり、中央値は4-22時間である
・8時間以上救急室で経過観察しようがしまいが、死亡率はゼロだったという報告もある
・NIAID/FAAN※ シンポジウムでは初期症状の重症度、患者の信頼度、医療へのアクセスの良さを考慮して、4時間から6時間の間で合理的な経過観察時間を選択することを推奨している
・ほとんどの二相性反応はこの経過観察時間外で起こるので、この推奨もまだ議論の余地がある
・重度の症状、難治性の症状の場合、より長い経過観察や入院を推奨している
まとめると、症状出現から早めにエピネフリンを投与することが大切。早めに投与でき、しかも反応が良好であれば、その他の因子も考慮して、従来よりも短めの経過観察で問題ないかもしれない、とのことです。
※ National Institute of Allergy and Infectious Disease and the Food Allergy and Anaphylaxis Network
7月前半の文献紹介は以上となります。