2021.09.09

2020/12/31文献紹介

文献班から沖縄県立中部病院 救急科の山本と東京ベイ・浦安市川医療センター集中治療科の竪です。
意外に寒い沖縄から雪をも溶かす熱い文献をお届けします(雪降っていないけど...)。

今年最後の文献紹介です。
メニューです↓
① 救急医のHINTSってアテになるの??
② ADD-RS x D-dimer
③ ドローンで届けます。AEDデリバリー
④ CPRにREBOA!?
それではお楽しみください!!

①Ohle R, Montpellier RA, Marchadier V, et al. Can Emergency Physicians Accurately Rule Out a Central Cause of Vertigo Using the HINTS Examination? A Systematic Review and Meta-analysis. Acad Emerg Med. 2020;27(9):887-896. doi:10.1111/acem.13960
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32167642/

“救急医のHINTSってアテになるの?? えっ、ワイ自信ないけど..."

みなさん、めまいで受診した患者にHINTS examinationしていますか??

HINTS examinationは
- Head Impulse test
- Nystagmus
- positive Test of Skew
を合わせた診察ですね。
その目的はacute vestibular syndrome(AVS: 急性前庭症候群)から中枢性疾患を除外することです。

HINTS examinationは診察のみで、概ね感度、特異度が90%を超えています。
しかし多くの報告は神経内科医や神経眼科医が行っています。

この文献は救急医がHINTS examinationを行なった場合どうなのかを調べたシステマティックレビュー・メタアナリシスです。

救急をAVSで受診した成人患者、HINTS examinationが行われ、CTやMRIが撮影され、アウトカムが中枢性(脳梗塞など)の文献が対象です。

最終的に5文献あり、救急医が単独でHINTSを行った文献はありませんでした。
救急医と神経内科医が混在する1つの研究は、
- 感度 83.3%(63.1-93.6)
- 特異度 43.8%(36.7-51.2)
でした。
また救急医と神経内科医の所見の一致率はκ 0.24-0.4と低値でした。

神経内科医、神経眼科医が行った場合、
- 感度 96.7%(93.1-98.5)
- 特異度 94.8%(91-97.1)
でした。

救急医単独の研究なし、神経内科医と混在する研究では感度、特異度ともに低い、救急医と神経内科医の一致率は低い...
よって、めまい患者に救急医単独でHINTSを行うことをサポートするエビデンスは存在せず。

あくまでエビデンスがないだけなので、救急医が行うHINTSが全くアテにならない、ということではありません…
HINTSそれ自体は使える身体診察のようです!!
ただ少し所見の解釈には注意しましょう。

HINTSはヒントをくれるけど、答えはMRIから...なんつって...


②Bima P, Pivetta E, Nazerian P, et al. Systematic Review of Aortic Dissection Detection Risk Score Plus D-dimer for Diagnostic Rule-out Of Suspected Acute Aortic Syndromes. Acad Emerg Med. 2020;27(10):1013-1027. doi:10.1111/acem.13969
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32187432/

“ADD-RS x D-dimer = r/o 大動脈解離??”

大動脈解離とD-dimerについて8月に徳竹先生と山田先生が興味深い文献を紹介していますね↓
D-dimer陰性の急性大動脈解離の特徴と予後
2020/08/16文献紹介 | EM Alliance

大動脈解離の診断のため、除外診断に有用なスクリーニングが求められてきました。
そこでaortic dissection detection risk score (ADD-RS)とD-dimerの併用が注目されています。
この文献はそのシステマティックレビュー・メタアナリシスです。

ADD-RSは大動脈解離の検査前確率を分類するためのスコアで、
- ハイリスクな患者背景・状態
- ハイリスクな疼痛の特徴
- ハイリスクな身体所見
の3項目を含み、3つのうち何項目を満たすかでスコアリングします。

大動脈解離含む急性大動脈症候群(Acute Aortic Syndromes: AASs)で、ADD-RSとD-dimerの併用を調べた研究が対象です。
AASsに矛盾しない症状、ADD-RSの計算あり、D-dimer測定あり、など7項目が基準です。

最終的に4文献が対象となりました(n=3804人, うちAASs675人)。
以下が結果です。

ADD-RS=0 + D-dimer < 500 ng/mL ⇨ 感度 99.9%, 陰性尤度比 0.032
ADD-RS=0 + D-dimer < 年齢 x10 ⇨ 感度 99.9%, 陰性尤度比 0.027
ADD-RS≦1 + D-dimer < 500 ng/mL ⇨ 感度 98.9%, 陰性尤度比 0.025
ADD-RS≦1 + D-dimer < 年齢 x10 ⇨ 感度 97.6%, 陰性尤度比 0.048
※年齢 x 10 = 年齢調節カットオフ値


ADD-RS≦1点 + D-dimer陰性は除外診断に有用そうです。

ADD-RSとD-dimerについて日本の研究チームから発表されたシステマティックレビューもあり、要チェックです!! ↓
集団の事前確率の違いとADD-RS、D-dimerの併用を検討しており興味深いです。

Tsutsumi Y, Tsujimoto Y, Takahashi S, et al.
Accuracy of aortic dissection detection risk score alone or with D-dimer: A systematic review and meta-analysis.
Eur Heart J Acute Cardiovasc Care. 2020;9(3_suppl):S32-S39.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31970996/


ADD-RSとD-dimer併用は市民権を得られ始めていそうですね。
念の為注意ポイントとして
偽腔閉塞型はD-dimerが陰性になりやすい
アジア人は偽腔閉塞型が多い
ことを挙げておきます。


東京ベイ・浦安市川医療センター 集中治療科の竪です。私からは2つの文献を紹介します。

③Zègre-Hemsey JK, Grewe ME, Johnson AM, et al. Delivery of Automated External Defibrillators via Drones in Simulated Cardiac Arrest: Users' Experiences and the Human-Drone Interaction. Resuscitation. 2020;157:83-88.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33080371/

ドローンによるAEDデリバリーを検証した面白い研究です。

アメリカにおける院外心停止の生存率は約10%です。AEDの普及が進んでいるとはいえ、市民によるAED使用は院外心停止の2%未満と不十分です。それを解消するためにドローンによるAEDデリバリーが注目されてきているようで、院外心停止を想定したシミュレーション形式で、通常通りAEDを探しに行く場合とドローンデリバリーを利用する場合を比較したという研究です。ドローンデリバリー群は、dispatcher(通信指令係)という人が、参加者と電話して位置情報を聞きながら、AEDを装着したドローンを派遣します。

ある大学のキャンパス内で18~65歳の参加者を募って、2人ペアでシミュレーションを実施して、その後に感想や問題点の聞き取りをしました。

参加者からはドローンデリバリーについてpositive な意見が多く、ドローンからAEDを外しやすいようにこうした方が良いのではなど建設的な意見もあったようです。むしろ実際に心停止に遭遇した時にAEDを使用できるか自信がないといった意見が多く、まだまだBLSの普及が不十分である事が分かります。

ドローンによるAEDデリバリー、今後期待できるのではないでしょうか?今回はあくまで感想を聞いただけなので、AEDが傷病者の元に到着するまでの時間などを検証した研究が行われる必要がありますね。

④Levis A, Greif R, Hautz WE, et al. Resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta (REBOA) during cardiopulmonary resuscitation: A pilot study. Resuscitation. 2020;156:27-34.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32866549/

CPRにおけるREBOAについて検討したpilot studyです。

REBOA(大動脈内バルーン遮断)は重症外傷に対して大動脈クランプに代わるものとして注目されています。バルーンを下行大動脈内で膨らませて心臓と脳への血流を増加させます。これをECPRの適応がないCPA患者に対して救急外来で挿入する事の実現可能性を検討した研究です。

15人のCPA患者に対してREBOA挿入を試みて、9人において適切に挿入できました(成功率6割)。残りの6人は静脈への挿入になったり、挿入に失敗したりしました。適切に挿入できた9人中2人でREBOAのインフレーション後にROSCしましたが、2人とも救急外来で死亡しました。脳組織酸素飽和度はREBOA挿入により有意に上昇しましたが、MAPとEtCO2の有意な上昇はありませんでした。

6割の成功率は低いように思えますが、筆者らはCPR中のREBOAに関する初めての研究であり、実現可能性があると結論付けています。

原理的にはREBOAは有用なように思えますが、ECPRの適応がない症例の中でどのような症例に対して挿入するのかという点が大きな問題です。むしろECPRの適応であるが、マンパワー的に迅速な挿入ができない場合や施設的に挿入ができない場合に検討されるのかもしれません。脳組織酸素飽和度の有意な上昇と言ってもわずか1%の上昇であり、今回の研究は「CPA患者にREBOA挿入をやってみました」程度のものでしょうが、発想自体は面白いですね。

2020年最後の文献紹介は以上になります!!
来年も文献班をよろしくお願いいたします!!