2021.05.17

2021/05/31 文献紹介

国際医療福祉大学成田病院の井桁です。
聖マリアンナ医科大学の川口先生と、5月後半の文献紹介をお送りします!
日頃の診療の参考になれば幸いです。

①眼窩骨折における眼球損傷のリスク因子とは
②挿管後の金縛り状態にならないように気をつけよう
③ERで広域抗菌薬を投与した症例の診断

①Rossin EJ et al. Factors Associated With Increased Risk of Serious Ocular Injury in the Setting of Orbital Fracture. JAMA Ophthalmol. 2021 Jan 1;139(1):77-83.
PMID: 33237267.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33237267/

アメリカのレベル1外傷センターを受診した患者、もしくは入院患者の中で眼科コンサルトを受けた眼窩骨折の患者を対象に、後方視的に症例集積をして解析した研究です。診療場所や患者背景、眼球の身体所見、骨折の種類などが変数として組み込まれリスク因子を解析しています。Primary outcomeは眼球の損傷としています。
前半の2012-2017年で430人(500眼球)を登録しリスク因子が抽出され、後半の2017-2018年で88人(97眼球)を追加で登録しリスク因子の予測ツールとしての有用性を検討しています。

全体で眼球損傷を認めた患者は20.4%、即座に眼科医の介入が必要だったのは14.4%でした。具体的には球後出血(5%)、1mm以上の大きな角膜剥離(2.4%)、前房出血(2.4%)などが緊急性のある疾患とされていました。

眼窩骨折の患者を診たとき、眼球損傷がないか診るべきポイント5つは以下の通りです。
異物による鈍的外傷(OR 19.4;95%CI 6.3-64.1;p<0.001)
指を数えることができない(OR 10.1;95%CI 2.8-30.0;p=0.002)
眼窩上壁骨折(OR 9.1;95%CI 2.8-30.0;p=0.002)
正面視で複視がある(OR 4.2;95%CI,1.7-25.1; p=0003)
結膜出血・浮腫(OR 4.2:95%CI,2.2-8.5;p<0001)

後半に登録された88人で上記診断ツールの有用性を検討した結果、感度 95%、特異度 40%、PPV 31.8%、NPV 96.8%でした。これら全て陰性であった中で重大な眼球損傷があったのは1例のみで、スクリーニングツールとして有用な可能性が示唆されました。
ちなみにuptodateによると眼窩上壁骨折は10歳以下に好発するようですが、今回の研究は15歳以上が対象になっていました。
単施設の後ろ向き研究なので今後の研究が待たれますが、眼底診察などは不要で非眼科医でも診察可能でベッドサイドで簡単に行えるツールなので一つの手札として持っておいてもいいのではないでしょうか。
過去にEMA教育班でも眼外傷の症例がありましたのでこちらも併せて復習していただければと思います!
https://www.emalliance.org/education/case/syourei61kaisetsu

②Pappal RD et al. The ED-AWARENESS Study: A Prospective, Observational Cohort Study of Awareness With Paralysis in Mechanically Ventilated Patients Admitted From the Emergency Department. Ann Emerg Med. 2021 May;77(5):532-544.
PMID: 33485698.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33485698/

EDで挿管後に金縛り状態になっている患者は2.6%いる!!

皆さんの施設ではEDでの挿管の際は筋弛緩薬は使用していますか?また挿管後は遅延なく鎮静薬・鎮痛薬を投与していますか?
RSIの普及によりEDでも筋弛緩薬を使用されることが多くなっているのではないでしょうか。
筋弛緩薬を使用する際は、鎮静・鎮痛薬を適切に使用しないと意識はあるけど動けない、いわゆる“金縛り状態”になってしまうことに注意が必要です。
金縛り状態で人工呼吸器を受けることは患者にとって大変なストレスであり、PTSDの発症リスクを高めると言われています。

今回紹介するのはアメリカの単施設で行われた前向き観察コホート研究です。EDで挿管され、後に抜管された患者に対して、修正Brice質問表とICU memory toolという記録法を活用してアンケートを取り、それらを3人の専門家が個々に判定し患者が挿管後に金縛り状態となっていたかどうかを判定しています。
383人が登録され、金縛り状態と判定されたのは2.6%(10人)でした。使用する薬剤が日本とは異なり、この施設ではRSIの際は鎮静薬はエトミデート、ケタミンがほとんどで、筋弛緩薬はサクシニルコリンが52%、ロクロニウムは27%程度の使用率でした。
ロクロニウムを使用している患者の方が金縛りを経験することが多く、金縛りを経験した患者の方がより恐怖を感じていたと報告されました。
日本はロクロニウムの使用率が高いので、今回の報告より金縛りの発生率が高い可能性が危惧されます。
本文中のTable2に金縛りにあった10人の記憶•経験のレポートが生々しく記載されていますので一読をお勧めします。
過去の手術室、ICUで報告された研究よりも金縛りを訴えた患者が多く、要因としては静脈麻酔が遅れる、作用時間の長い筋弛緩薬(ロクロニウム)を使用する、鎮静のモニタリングが不十分であることが挙げられていました。
挿管した後はついついCVカテーテル入れたりAライン入れたりに没頭してしまい、適切な鎮静鎮痛に目がいかないこともあるかと思いますが、患者のトラウマを作らないためにも注意していきたいと自分の反省にもなった論文でした。

③Shappell CN et al. Likelihood of Bacterial Infection in Patients Treated With Broad-Spectrum IV Antibiotics in the Emergency Department. Crit Care Med. 2021 May 7. Epub ahead of print. PMID: 33967206
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33967206/

ERで広域抗菌薬を投与した重症患者の3分の1は非感染性疾患やウイルス感染かもしれない

敗血症ガイドラインでは速やかに広域抗菌薬を投与することが推奨されている一方で、初療の時点で重症患者が感染症か否かをはっきり見分けるのは至難の技です。
本研究は米国マサチューセッツ州の4病院の救急外来で重症感染症を疑って血液培養+広域抗菌薬を投与された症例をカルテレビューし、その中で実際にどれくらい細菌感染があったのかを調べた記述研究です。

対象患者8396例のうち各施設から75例ずつランダムに選んだ計300例を解析し、症状や身体所見などから各患者の"細菌感染らしさ"をdefinite, likely, unlikely, definitely noの4段階に分け、各段階の転帰や診断が明記されています。

・細菌感染らしさが少ない(unlikely, definitely no)患者の最終診断は
1.ウイルス感染 28%
2.volume overloadや心疾患 9%
3.医薬品や違法薬物による症状 9%
4.hypovolemia
5.認知症や神経疾患の進行
でした。

細菌感染を(多少なりとも)疑って初療をしても3分の1は診断が違うという結果ですが、それでも「初療で抗菌薬を投与しない」という決断はなかなかしづらいのが重症対応・敗血症診療の実際だと思います。筆者は本文中で「今回の結果が、救急医の判断を批判するものとなってはいけない」と述べています。
今後こういった研究が進むことで細菌感染の有無を見分ける所見が蓄積されていくかもしれませんし、ER退室(入院)後の早期de-escalationや抗菌薬投与期間の短縮につながるかもしれません。

ちなみに本研究の「広域抗菌薬」とは第三世代セフェム、カルバペネム、ラクタマーゼ阻害剤配合βラクタム、フルオロキノロン、抗MRSA薬などを指しています。普段使っているものがほぼ全て当てはまってしまう…