2021.04.16

2021/04/16 文献紹介

新年度が始まりましたが、皆さまいいスタートは切れましたか?
4月前半の文献紹介は、静岡県掛川市の中東遠総合医療センター救急科の大林が送ります。
今回はこちらの3本です!

1) Matthew J.Levy et al. Removal of the prehospital tourniquet in the emergency department.
J Emerg Med.2021 Jan;60(1):98-102. doi:10.1016/j.jemermed.2020.10.018.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33303278/

「病院前で装着した止血帯の解除手順」

3月前半に即席止血帯に関する論文紹介を行いました。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/20210315

止血帯の装着方法は教えてもらうことはあっても、解除する方法って教わる機会がなかなかないですよね。
今回は救急医、外傷外科医、軍医などが協力して作った、重症四肢外傷に対して病院前で装着された止血帯を安全に解除するためのアプローチについて紹介します。

①止血帯が装着された時間を確認する。
虚血による組織障害を最小限に抑えるため、装着時間は120分以内であることが望ましいとされています。

②止血帯解除の禁忌がないか確認する。
切断部位からすぐ近く(約5〜7cm以内)に装着されている、ショックや心肺停止に陥りやすい状況、創部から再出血がないか観察できないといった場合には、止血帯の解除はやめましょう。

③予備の止血帯を準備して、張力を緩める。
一度使った止血帯は、再利用すると十分な張力を発揮できないこともあるため、予備の止血帯を準備してから解除します。生命を脅かすような出血があれば再度止血帯を装着しますが、そうでなければ圧迫止血等の行います。

④再出血が起きないか、監視と評価を最低1時間行う。
再出血に備えて解除した止血帯は緩めた状態で創部の近くに置いておくのがよいとされています。

より具体的なフローチャートが本文に掲載されていますので、これを機に止血帯マスターを目指してみてはいかがでしょうか?

2) Brandon M. et al.Sobering centers, emergency medical services, and emergency departments: A review of literature.
Am J Emerg Med. 2021 Feb;40:37-40. doi: 10.1016/j.ajem.2020.11.031
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33340876/

「酔いさましセンターって知ってますか?」

この1年ちょっとの間は新型コロナウイルスの流行で、急性アルコール中毒の患者は少なかった印象ですが、皆様の施設ではいかがでしょうか?
東京消防庁が発表しているデータによると、東京都で急性アルコール中毒で搬送された患者数は、令和元年だと18,212人だったそうです。同年の総搬送患者数は731,900人ですから、約2.5%が急性アルコール中毒(あくまで疑いですが)患者ということになります。結構多いですね。

サンフランシスコでは2003年からSobering center(酔いさましセンター)という取り組みが始まっており、この取り組みは徐々に全米に広がっています。酔いさましセンターは、救急部門や刑務所ではない短時間(〜12時間)でアルコールや薬物の急性中毒から回復、療養を行う施設や環境のことをさします。多くの施設では看護師や救急救命士が常駐しており、高度なケアを要する患者のトリアージだけでなくアルコール依存症の治療への橋渡し、ホームレスの住宅支援などの活動を行っています。

この文献レビューでは酔いさましセンターの運用が与えるアルコールに関連する救急医療サービスや医療経済への影響、そして安全な患者管理についてまとめられており、面白い取り組みだなと感じました。
引用文献には、救急隊が病院に搬送するか酔いさましセンターに搬送するかを決めるチェックリストを掲載しているものもあるので、ぜひ参考にしてください。

私が働く掛川市では毎年一度大きな祭があるため、その会場に臨時酔いさましセンターを作ってみようかと考えています。

3) Tatsuya N. et al. Extraglottic airway device misplacement: A novel classification system and findings in postmortem computed tomography.
Ann Emerg Med. 2021 Mar;77(3):285-295. doi: 10.1016/j.annemergmed.2020.10.005.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33455839/"

「声門上気道デバイスの誤装着頻度」

声門上気道デバイス(EGA)は院外心停止患者の気道確保の際などによく使われていると思います。しかし、盲目的に挿入するため、正しく出来ていない可能性も指摘されており、筆者らは死後のCT検査でEGAの誤装着の頻度を調べ、誤装着の分類システムを開発しました。

EGAを装着したまま死亡し、死後にCTを撮影した341名が対象となりました。分類システムは「深さ」「大きさ」「回転」「キンク」「換気口の機械的閉塞」「デバイス装着による損傷」の6つの要素で構成されました。
結果341例中49例(14.4%)が直ちに入れ直す必要がある誤装着であることがわかりました。そのうち5例がEGA挿入に伴う重度の損傷でしたが、それらすべての症例の死因は外傷性ではありませんでした。

あくまで、死亡後のCT画像による検討であるため、蘇生に成功した患者群と頻度は異なる可能性があります。また画像上の異常と実際に使用した際に機能していなかったかは別問題であるため、今後は臨床情報(たとえばカプノグラフィーなど)と併せて検討する必要があります。

このような誤装着があることを念頭に診療するだけでなく、気道確保のトレーニングへのフィードバックにも活かせる研究だと思います。本文に掲載されている誤装着の画像も興味深いものですので、ぜひご覧になってください。