2020.07.24

2021/03/15 文献紹介

3月前半の文献紹介は、福岡徳洲会病院の鈴木と、沖縄県立中部徳洲会病院の岡です。
沖縄と福岡の南国コンビがお送りします。

今回の文献紹介は
①経胸壁心エコーによるCVCの位置確認の案
②即席の止血帯は既製品と同等に止血できるし、使い勝手は既製品よりも良いかもしれない
③COVID-19流行下の「バーチャル病院」における在宅診療
④従来型トロポニン検査1回でも、2回と同じくらい安全かも
⑤布製マスクでも良いですか?
という多岐にわたる話題になります。



前半は福岡徳洲会病院の鈴木です。
福岡は桜が咲き始めています。今年は早いですね!

①経胸壁心エコーによるCVCの位置確認の案
Use of Point-of-Care Ultrasound to Confirm Central Venous Catheter Placement and Evaluate for Postprocedural Complications. J Emerg Med. 2021 Feb 24;S0736-4679(21)00088-3. Online ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33640215/

内頸静脈からのCVC挿入後に、レントゲン撮影前にエコーで合併症の有無を確認する方法を提案する文献です。
1.同側肺のスライディングサイン
2.対側の内頸静脈にカテーテルがないことを確認
3.経食心エコーの右左シャントを確認するときの様にマイクロバブルテストを行って、右室内の乱流を確認
エコーによる位置確認は、簡便に2-3分で確認できると記載されています。
経胸壁心エコーによるマイクロバブルテストでの位置確認という案が斬新に感じましたが、実はこの観点についてはmeta-analysisも出されていることを知りました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5350032/

CVがどこを向いているか分からないのにマイクロバブルテストを行うのは不安になると思いますが、1⇒2⇒3の順番で検査を行うことにより合併症のリスクを低減できると考えているようです。
エコーがレントゲンの代用になるものではありませんが、色々な確認手段を知っている救急医になれたら良いですね!



②即席の止血帯は既製品と同等に止血できるし、使い勝手は既製品よりも良いかもしれない
Evaluation of the efficacy of commercial and noncommercial tourniquets for extremity hemorrhage control in a perfused cadaver model
J Trauma Acute Care Surg. 2021 Mar 1;90(3):522-526.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33230091

国際蘇生連絡委員会(ILCOR)の最新の国際コンセンサス(CoSTR)では、生命を脅かす重症四肢出血に対して、即席の止血帯ではなく既製品の止血帯を使用することを推奨しています。
しかしその根拠となったのは少数のボランティアによるドップラー消失を指標にしたシミュレーション試験などであり、十分なエビデンスはありませんでした。

今回の研究では、ご遺体を使用して浅大腿動脈から疑似血液が大量出血するモデルを作成し、48人の医学生が5種類の止血帯によって止血を試みました。
ほとんどの止血に成功していますが、1つの既製品(RATSという一人で止血するためのポリエステルコード)で2名が止血できませんでした。
意外にも、三角巾と棒を使用した即席の止血帯はほかの既製品の止血帯と同等の効果が得られて、装着も簡単でした。
普通の革ベルトは装着までの時間が最も短かったですが、四肢に巻き付けたベルトはバックルの固定ができないため締め上げ続けるのに腕力が必要になります。(当たり前ですけど・・・)

First Aidの分野では止血帯の使用がトピックではありますが、既製品を常に持ち歩いているマニアックな方は少ないと思います。
もしも既製品を持ち合わせていなくても、即席の止血帯を使用すれば漫画のようにカッコよく止血できるかもしれません。

ただし止血帯の使用は、生命を脅かす重症の四肢出血のみです。間違っても軽症の人に革ベルトを締め付けたりして苦しめることはやめましょう!



③COVID-19流行下の「バーチャル病院」における在宅診療
Insights From Rapid Deployment of a "Virtual Hospital" as Standard Care During the COVID-19 Pandemic
Ann Intern Med. 2021 Feb;174(2):192-199.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33175567/(無料で読めます)

京都府でCOVID-19の患者に対する訪問診療を開始したことがニュースになっています。
訪問診療は病床逼迫の問題に対する、重要な選択肢の一つと考えられます。

本論文は、アメリカで訪問と遠隔診療を主体としたバーチャル病院を作り、病院とほぼ同じレベルのサービスを在宅で提供できることを目指した報告です。
初診時のDSCRB-65(CRB65に併存疾患、SpO2を加えたもの)やATS/IDSRの重症肺炎の基準を参考に、バーチャル観察ユニット(VOU: Virtual Observation Unit)やバーチャル急性期ケアユニット(VACU: Virtual Acute Care Unit)に入所した事として在宅でモニタリングや治療を受けました。

在宅で自分でバイタルサインを測定するためにSpO2モニターや血圧計などが配布されます。
点滴や酸素が必要であれば訪問して治療を開始します。ただし酸素5L以上必要なときは実際の入院になります。
本文だけ読んでも少しイメージがつきづらいですが、同バーチャル病院を作ったArtium HealthのHPにある動画を見ればわかりやすいと思います。
動画を見ると、日本のやっているオンライン診療と在宅診療を組み合わせている感じの様です。

新生児と妊婦も対象にしているみたいですね。

バーチャル観察ユニットに入った1300人ほどのうち、実際に入院が必要だったのは40名(3%)だけでした。
バーチャル急性期ケアユニットに入った184人のうち、実際に入院が必要だったのは24名(13%)でした。

医師・看護師だけではなく、薬剤師やソーシャルワーカー、緩和ケアに特化した専門職(Nurse PractitionerなどのAdvanced practice provider)、夜勤専用スタッフなどがチームに加わっているのが、アメリカらしいなと感じますね。
COVID-19時代においても重要な報告ですが、COVID-19後の救急医療の将来像としても、重要で興味深い内容だと思います。



後半は沖縄県立中部病院の岡です。
暑い沖縄から熱い文献をご紹介します。

④従来型トロポニン検査1回でも、2回と同じくらい安全かも
Single vs Serial Measurements of Cardiac Troponin Level in the Evaluation of Patients in the Emergency Department With Suspected Acute Myocardial Infarction. JAMA Netw Open. 2021 Feb 1;4(2):e2037930.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33620444/(無料で読めます)

現在、心筋梗塞を除外するには、トロポニンを複数回検査し、陰性あるいは絶対値の変化を確認することが推奨されています。
最近の研究で、もし高感度トロポニンであれば1回だけの陰性結果でも心筋梗塞が除外できそう、ということがわかっています。
そこで、今回の研究では、高感度ではない従来型のトロポニン1回の陰性だけで、心筋梗塞が除外できるか、調べられました。
(まだ従来型のトロポニンしか検査できない施設が多いようです。)

カリフォルニア州の15の病院の救急外来で、胸痛の成人患者を対象に、前向きに集計されたデータの後ろ向き分析です。
すべての病院で、高感度ではない従来型のトロポニンが使われました。
結果です。
最終的に27,918人が対象となりました。
1回の検査陰性のみで帰宅となったのは14,459人。
複数回の検査陰性で帰宅となったのは13,459人。
それぞれの群で、30日間の心筋梗塞/心原性死亡率に、有意差はありませんでした(0.4% vs. 0.4%)。

低リスクの患者であれば、1回だけの陰性でもそれなりに安心できるのかな、と思いました。
とはいえ、少しでも疑わしければ推奨通り複数回検査しますね。
だって、後ろ向き研究ですし、実際のところ複数回検査するデメリットはほとんどないですものねぇ。



⑤布製マスクでも良いですか?
Covid-19: Are cloth masks still effective? And other questions answered. BMJ. 2021 Feb 15;372:n432.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33589420/(無料で読めます)

2つ目は、研究ではありませんが、マスクについてのまとめ記事です。

Q. 不織布ではなく布製マスクだと、電車で誰も隣に座りません。これって布製マスクのせいでしょうか?
もう布製マスクは使ってはいけないのでしょうか。
(…そもそも沖縄には電車ないから、知らんけど)

各国の非医療者への推奨マスクをまとめています。
フランスでは、自家製マスクや、高機能でない市販布製マスク(3μm粒子の95%以上をフィルターできないもの)を着用しないように注意喚起されています。
オーストラリアでは屋内の公共の場ではFFP2マスク(N95マスクに相当)の着用が義務付けられています。
…厳しいですね!
ドイツでは医療用マスクがスーパーマーケットや公共交通機関で義務付けられています。
WHOは重症化リスクがある人や60歳以上には医療用マスクの着用を推奨しています。
その一方で、医療用マスクが不足しているとも言及しています。
それでは、今回記載がなかった、日本ではどうでしょうか?

厚労省は、「不織布マスクがないときはガーゼマスクやタオルなどの代用品を使おう」とのことです。
お、おう…せやな。

以上です。