2020.11.02

2020/11/01文献紹介

EMA文献班より東京大学 公共健康医学専攻の宮本です。
10月後半の文献紹介では高齢者救急に関する論文をご紹介したいと思います。

Kaeppeli T, et al. Validation of the Clinical Frailty Scale for Prediction of Thirty-Day Mortality in the Emergency Department. Ann Emerg Med. 2020;76:291-300.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32336486/

「Clinical Frailty Scale(CFS)は救急外来でのfrailtyを計測するのに有効である」

7月に文献班からご紹介させていただいたClinical Frailty Scale(CFS)についての新たな研究をご紹介します。CFSって何?という方は下記のリンクをご参照ください(https://www.emalliance.org/education/dissertation/20200631
今回は「CFSが救急外来で入院した高齢者の死亡リスクを予測する」という研究です。

スイスのバーゼル大学病院に受診した65歳以上の患者を対象とした前向き研究です。
ただし蘇生レベル・ICU即時入室レベルの患者は同意が取得できないとして除外しています。
上記を満たす2393人を対象にCFSが患者の30日死亡にどのように影響するかを検討しています。具体的には、年齢・性別・内科疾患か外科疾患かについて調整した上で、CFSがどれくらい30日死亡を予測できるのかROC曲線を算出しました。

結果として、CFSの増加に伴い死亡率は上昇し、CFSはAUC0.81と高い診断能を示しました。また、しばしば使用されるトリアージスケールの1つであるEmergency Severity Indexと比較して、このCFSは30日死亡の予測性能が優れていました。(AUC:0.81 vs 0.74)
さらに、frailtyを計測する他のスケールとしてはISAR・PRISMA-7などがありますが、今回はこのISARともその診断精度を比較しています。こちらも、ISARと比較してCFSはより診断精度が良かったとのことです。(AUC:0.81 vs 0.72)

CFSが上昇すれば死亡率が上昇するのはある意味当たり前の現象ですが、今回はその診断能にも着目した研究です。
CFSは他のfrailtyを計測するスケールと比較しても簡便で、約1分程度で判断できると言われています。(PMID:28541400)
さらに診断能も高いということであれば、ぜひ高齢者にルーチンで評価したいスケールだと思いませんか?

例えば、侵襲的治療の是非は年齢をもとに判断するのではなくこのCFSをもとに聴取・相談すると、近年集中治療や救急の現場で叫ばれている「エイジズム(年齢だけを判断基準にして治療を含めた差別化をしてしまうこと)」を避けることができるのかもしれません。
ご興味のある方は積極的に明日からの診療に組み込んでみてはいかがでしょうか?

今回の文献紹介は以上です。
関連文献も含め、是非ご一読いただければと思います!