2020.07.24

2020/07/31文献紹介

EMA文献班より東京大学 公共健康医学専攻の宮本です。
COVID-19対応で忙しいとは思いますが、そんな中でも他疾患の患者も適切に診療していきたいですよね。
ということで今回は「高齢者」「小児」をテーマにした2本の文献をご紹介したいと思います。
いずれも短く読みやすい論文ですので、是非チャレンジいただければと思います。

①Ibitoye SE, et al. Frailty status predicts futility of cardiopulmonary resuscitation in older adults. Age Ageing. 2020 Jun 5 [Epub ahead of print]
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32500916/

「高齢者の心配蘇生中止の判断にClinical Frailty Scale(CFS)が有効かもしれない」

皆様、Clinical Frailty Scaleという指標をご存知でしょうか?
(NICEのHPより引用:https://www.nice.org.uk/guidance/ng159/resources/clinical-frailty-scale-pdf-8712262765 )
この指標ではフレイルの程度を9つに分類しており、CFS1が元気な状態で、数字が増えるにつれて虚弱性が増していきます。
例えばCFS5は「軽度フレイル」に該当し、「IADLの一部に支障があり、単独の外出や食事の準備などが困難になる」といった具合です。
このCFSはNICEガイドラインではよく使用されているようで、例えばCOVID-19におけるICU入室の適応についてもCFS「5未満」を1つの基準にしているようです。(https://www.nice.org.uk/guidance/ng159
さて、前置きが長くなりましたが、今回はこのCFSが心配蘇生継続判断の1つの指標になるのではないかという見解の論文になります。

イギリスの3次病院での単施設後向き研究。
2017年5月から2018年12月までに院内心肺停止にて心肺蘇生を受けた60歳以上の患者を対象とした。
解析対象となった90例のうち、生存例は13例で、そのいずれもがCFS「4以下」であった。
つまり、CFS「5以上」の患者に生存退院の症例は1例も存在しなかった。
なお、年齢・性別・基礎疾患(Charlson Comorbidity Index)・初期波形を調整した多変量ロジスティック解析では、CFSは独立して院内死亡率と関連していた。(OR 2.8, 95%CI: 1.1-6.8)
生存退院した13人のうち、12人がCPC(Cerebral Performance Category)が1 or 2であり、その全員が1年後まで生存していた。
CFS5以上の患者にも、15%の割合でショック適応波形の患者がいたが、そのような患者も生存退院は叶わなかった。

単施設後向き研究なので、様々なlimitationはあると思いますが、今後の診療に役立つ点もたくさんあると思います。

例えば、救命士の方とCFSの概念を共有したり、CFSをわかりやすい表にして家族に素早く回答してもらったりすることで、蘇生時の方針決定がスムーズになるかもしれませんね!
なおCFS「6以上」をカットオフとした過去の研究もありますので、興味のある方はこちらの文献もご参照ください! (Resuscitation. 2019;143:208-211.)

②Rivas-García A, et al. Contamination in Urine Samples Collected Using Bladder Stimulation and Clean Catch Versus Urinary Catheterization in Infants Younger Than 90 Days. Pediatr Emerg Care. 2020 Jun 16 [Epub ahead of print]
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32555017/

「尿の『Clean Catch』ってどれくらいCleanなの?」

こちらは打って変わって、小児の研究です。
小児の尿路感染症における尿採取の方法として、パック尿・膀胱穿刺・尿道カテーテル・Clean catchの4つの方法が代表的です。
尿道カテーテルの挿入は確かにコンタミネーションの可能性は低いですが、その侵襲度を考えると少し躊躇われますよね。
かといって、いわゆる「パック尿」では皮膚常在菌のコンタミネーションの可能性が…と考えてしまいます。
そこで非侵襲的かつコンタミネーションの可能性が低いと言われている「Clean Catch」という方法を使う方もいらっしゃるかもしれません。
文献班でも以前、Clean Catchの変法についてご紹介させていただきました。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/20170430
しかし、このClean Catchのコンタミ率については、サンプル数が少ないこともあり、研究によって数値は様々でした。
同様に、尿道カテーテルと比較してコンタミ率は高いのかについての見解も一定ではありませんでした。
そこで、今回は生後3ヶ月未満の児に対する2つの方法のコンタミネーション率をケースコントロール研究で比較しています。

スペインの3次病院 単施設でのケースコントロール研究。
生後90日未満の患児で、Clean Catchもしくはカテーテル法で採取された尿培養が対象となった。
473件の尿培養が対象となり、16件がコンタミネーションしていた。
それぞれ、Clean Catchで11/163件(6.8%) カテーテル法で5/310件(1.6%)のコンタミ率であった。
多変量解析では、カテーテル法と比較して、Clean Catchのコンタミに関するオッズ比は5.61(95%CI:1.8-17.2)であった。

過去の研究と比較すると、Clean Catchのコンタミ率はかなり低いですが、それでもカテーテル法と比較すると高いということがわかります。
確実にコンタミを避けたい時や、脱水が強い時、全身状態が悪い時で速やかな尿培養採取が必要なときはやはりカテーテル法のほうが優れていると考えられます。