2026.03.07

2026/03/04 文献紹介

こんにちは。
遅くなりましたが、2月後半の文献紹介です。
今回は東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科 救急外来部門の竪と集中治療部門の山本から3つの文献を紹介します。

1. ATLS 11版の重要な変更点についてのReview
2. ICUでの上部消化管出血を見抜くのにBUN/Cre比が有用か?
3. 院内心停止はどこで起きるかで助かりやすさは変わるのか?

前半、竪からは以下の2つを紹介します。

『ATLS 11版の重要な変更点についてのReview』

① Ramasamy A.
Advanced trauma life support 2025: A brief review of update
Injury 2026; 57(4): 113079
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41671886/

2025年に発表されたATLS(Advanced trauma life support: JATECの元になったガイドライン)11版の重要な変更点に関するreviewです。

その中から出血コントロールの優先、脊椎運動制限、コミュニケーションとチームワークの3点を取りあげます。

まず出血コントロールの優先についてですが、外傷蘇生の順序が「ABCDE」から「xABCDE」に変更となりました。Xは大量出血/外出血(Exsanguinating hemorrhage/External hemorrhage)です。前版までは大量出血/外出血をCirculation(循環)の評価の一部と見なしていましたが、第11版では気道よりも先に対処すべき重大な脅威として扱っています。具体的にはターニケットや骨盤固定具の装着について記載されています。また前版からREBOAが補助手段として記載されましたが、第11版ではpartial REBOAが外科的な止血へのブリッジとして組み込まれました。これはpartial REBOAや間欠的なtotal REBOAが遠位の循環をある程度維持し、長時間のtotal REBOAで起こり得るアシドーシスや再灌流障害のリスクを軽減するためです。

続いて脊椎運動制限です。前版から頸椎固定に代わる用語として脊椎運動制限が導入されました。これはバックボードや頚椎カラーの重要性を下げる意味合いでした。
文献班でもこちらに関して2024年11月前半に紹介しました。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001303

第11版ではバックボードの使用を救出や一時的な移動といった短期的な必要性に限定し、長期間の脊椎安定化には使用しないことを引き続き推奨しています。また穿通性頚部損傷のような低リスク患者では一律、頚椎カラーの使用を避けることを推奨しています。そして脊椎運動制限の優先順位が出血コントロール、気道管理の後であることがより明確となりました。

最後にコミュニケーションとチームワークです。外傷診療のような混沌とした現場においては、チームの結束力を維持しつつ、個々のスキルにもとづいたダイナミックあるいは状況に応じたリーダーシップ戦略が不可欠です。重大な知らせの伝達に関する新しい章が設けられていて、そこでは「ABCDEモデル」(Ask: 尋ねる、Begin with warning: 警告から始める、Concise summary: 簡潔な要約、Don’t speak too much & Do allow silence: 話しすぎず沈黙を許容する、Encourage emotions/Elicit questions: 感情を促す/質問を引き出す、End encounter with plan for next step: 次のステップの計画を立てて面談を終える)が導入されています。

以上、3点の変更点を紹介しました。前版と違って2000年代の戦争から得られた多くの教訓が取り入れられた結果であることには留意すべきです。今回のATLSの改訂版をもとに日々の外傷診療を見直してみてはいかがでしょうか?今後のJATECの改訂にもぜひ注目して下さい。

『ICUでの上部消化管出血を見抜くのにBUN/Cre比が有用か?』

② Meghdadi K, et al.
Diagnostic performance of the blood urea/creatinine ratio in the diagnosis of occult upper gastrointestinal hemorrhage in the ICU
Crit Care 2025; 29: 527
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41419937/

ICU患者の上部消化管出血は頻度が5~30%と幅はあるもののコモンで、重篤な合併症・死亡率と関係しています。その診断のゴールドスタンダードはもちろん上部内視鏡検査ですが特有のリスクがあり、人的・経済的コストが大きい検査であるため、潜在的な上部消化管出血の患者の中から上部内視鏡検査を施行するべき患者を拾い上げることが重要です。BUN/Cre比は消化管出血を疑う採血異常としてよく知られていますが、ICU患者で上部内視鏡検査を施行する根拠として利用できるかを調べた研究です。

72時間以内でHgbが1g/dL以上低下しているが、明らかな出血がなく上部内視鏡検査を施行された139人が対象となりました。Stage 3以上の急性腎傷害のある患者が除外されています。上部内視鏡検査を施行して出血が確認された群とされなかった群の2群でBUN/Cre比が比較され、検査精度が検証されました。

結果ですが、出血が確認された群とされなかった群でBUN/Cre比の中央値はそれぞれ37.7[26.2-48.4]、34.2[24.2-44]と有意差はなく、37.7をカットオフ値とすると感度は52%、特異度は68%であり、陽性尤度比が1.63と上部内視鏡検査を施行するという臨床判断に影響を与えるには低すぎる結果でした。

重症患者における上部消化器内視鏡の適応の策定には単独の採血指標ではなく集学的アプローチに注力すべきと結論付けています。

明らかな出血がある患者を除外しており、出血が少量であったと予想される事とICU患者は様々な代謝異常(異化亢進、脱水症、肝機能障害、様々な腎排泄率を含む)があり、BUN/Cre比の解釈が複雑になり得る事がlimitationとして挙げられています。

AKIやCKDの患者ではCreの上昇を伴うため消化管出血があってもBUN/Cre比が上昇しないため指標としては使用できない報告もありますし、現状ではHgb値の推移や直腸診などを参考にしつつ、循環動態によって緊急性を判断していくしかないようです。

後半は山本から1つ文献を紹介します。

『院内心停止はどこで起きるかで助かりやすさは変わるのか?』

③ Roedl K, et al.
Location of In Hospital Cardiac Arrest An Updated Analysis of Epidemiology, Emergency Response, and Outcomes.
Crit Care Med. 2026 Feb 16.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41697093/

院内心停止ってICU、救急外来、病棟、どこで起こるかで予後が全然違いますよね。
そりゃ、ICUや救急外来の方が予後は良くなるに決まっている...
そんな先入観は、院内心停止と言っても、場所や患者背景が違いすぎるので、本当にそうなのか、という疑問もあります。

そこで、今回は全米の大規模レジストリを使って、諸々調整した研究を紹介します。
本題に入る前に用語だけ。

この論文でいうテレメトリー病棟は米国などでよく使われる区分で、ICUではないけれど心電図などを連続で監視できる病棟のことらしいです(OpenEvidence)。ここでは テレメトリー病棟をテレメ病棟、それがない一般病棟を非テレメ病棟と呼びます。

それでは、本文の紹介に行きます。
数字がたくさん出てきますが、普段の自院を想像しながら、毛嫌いせずよくよく眺めてみてください。

AHAのGWTG Rを用いた観察研究で2010年から2021年の成人の院内心停止235,560件が対象です。
圧倒的な症例数ですね。
場所はICU、救急外来、テレメ病棟、非テレメ病棟に分けています。

まず どこで起きたか。
ICUが53.4%で半数以上、救急外来が14.0%、テレメ病棟が16.0%、非テレメ病棟が16.6%でした。

目撃された心停止の割合は、
ICU 95.0%、救急外来 92.0%、テレメ病棟 79.1%、非テレメ病棟 65.7%。
ROSCまでの時間の中央値は、
ICU 6分、救急外来 7分、テレメ病棟 8分、非テレメ病棟 10分。

初期波形がshockableなのは、全体で15.9%ですが、ICU 16.7%、救急外来 18.2%、テレメ病棟 20.7%に対して、非テレメ病棟は10.9%と低めでした。

そして生存率です。
粗の生存率は ICU 19.2%、救急外来 25.8%、テレメ病棟 28.2%、非テレメ病棟 21.6%。

これだけ見るとICUが一番悪そうに見えますが、ICUはそもそも重症が集まる場所なので当然で、患者背景や施設要因などを調整すると生存率は、
ICU 21.2%、救急外来 22.2%、テレメ病棟 23.0%、非テレメ病棟 19.2%でした。

神経学的予後も同じ傾向で退院時CPC1、2(神経学的予後良好)の割合は、
調整後でICU 12.9%、救急外来 13.8%、テレメ病棟 14.0%、非テレメ病棟 11.1%で、これは場所の違いで差があり、基準を非テレメ病棟 とすると調整後オッズはICU aOR 1.21、救急外来 aOR 1.33、テレメ病棟 aOR 1.35でした。

しかし、ご覧の通り絶対差は大きくありません。

さて、これまで報告されている心停止の生存率(だいたい20%程度)と同じで、結果としても非テレメ病棟が最も低く、当たり前っちゃ当たり前の結果です。

私が注目したのは2つです。

1つ目。モニターのある病棟では初期波形がshockableである割合が高い。

2つ目。神経学的予後は場所で差は出るけれど、その差は小さい。

ICUや救急外来は重症患者が多い、一方で非テレメ病棟は元々元気な人が多い、だから初期波形shockableが少なく、ROSCまでの時間が長くても、差がそこまでではないのでしょうか?

つまり非テレメ病棟の中に本当はモニターをつけた方が良い人がいて、それを拾い上げきれていないのかもしれませんね。

結果、あまり救急外来と関係ない話題ですが、誰にモニターを装着するかはとても悩ましいよね、という話でした。