2024/11/16 文献紹介
みなさま
EMA文献班の定期便です。
以下の4つの文献を紹介します!
① 心停止に対して高度な気道確保と血管収縮薬どちらが先の方がいいの?
② 除細動で電極パッドを貼る位置、場合によっては変えてみませんか?
③ ④ 外傷患者への”spinal motion restriction”ってどないなん?
まずは京都府立医科大学附属病院の中村より心停止に関わる2つの文献を紹介します。
① Wang HE, et al. Vasopressor or
advanced airway first in cardiac arrest?
Resuscitation. 2024 Oct 30:110422. Epub ahead of print. PMID: 39486473.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39486473/
院外心停止で、病院前での心肺蘇生では血管収縮薬の投与、高度な気道確保が特定行為として行われますが、どちらを優先すべきか明らかではありません。
2024年4月後半にご紹介した文献(https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001289)は日本のウツタインデータを用いたもので、血管収縮薬firstの方が、1か月後の生存率、神経予後良好率、ROSC率いずれもが高いという結果でした。
今回ご紹介するのは、2018年に公表されたRCTであるPART trialの二次解析です。元の研究は、院外心停止において、高度な気道確保の手段を気管挿管とラリンゲルチューブで比較し、ラリンゲルチューブ群で72時間生存率が優れているというものでした。
アメリカの27の救急医療サービスで2015年12月〜2017年11月に実施され、2404例が対象になりました。
Primary outcomeである72時間生存率は、血管収縮薬first群 vs 高度な気道確保first群で有意差はありませんでした。(OR 0.96; 95%CI: 0.71-1.31)
Secondary outcomeであるROSC率(OR 0.83; 95%CI: 0.66-1.06)、退院時生存率(OR 1.09; 95%CI: 0.68-1.73)、退院時神経予後良好率(OR
0.97; 95%CI: 0.53-1.78)ともに有意差はありませんでした。
本研究は、日本とは救急体制が大きく異なるアメリカでのものです。前述した日本の先行研究では80.3%が高度な気道確保firstであったのに対し、本研究では75.7%が血管収縮薬firstでした。アメリカでは救急隊による骨髄路確保が可能であり、血管収縮薬投与のハードルが低かった可能性があります。
血管収縮薬としてアドレナリンの他にバソプレシンを使用した比率、血管確保における静脈路と骨髄路の比率、各手技の成功率の記載がないことなどには注意が必要です。
日本の病院前では、まずBVM換気を行いつつ、できるだけ早くアドレナリン投与を試み、並行して高度な気道確保を検討し迅速に搬送する、という現状は変わらなさそうです。
② Lupton JR, et al. Initial
Defibrillator Pad Position and Outcomes for Shockable Out-of-Hospital Cardiac
Arrest.
JAMA Netw
Open. 2024 Sep 3;7(9):e2431673. PMID: 39250154
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39250154/(無料で読めます)
ショック可能な心停止に対し除細動失敗後に、電極パッドの装着位置を前胸部と側胸部(AL)から前胸部と背部(AP)に変更し転帰が改善したという先行研究があります(PMID: 36342151)が、初回からパッドの位置を比較した前向き研究はありませんでした。
本研究は、ショック可能な院外心停止に対する救急隊の除細動器パッドの初回の装着位置をAL群とAP群で比較した前向きコホート研究です。
2019年7月から2023年6月にアメリカの単一の救急サービスで実施され、255例が対象となりました。
Primary outcomeである病院前でのROSC率はAP群で有意に高い結果でした。(aOR: 2.64; 95%CI:
1.50-4.65)
一方、Secondary outcomeである病着時のROSC持続率(aOR: 1.34; 95%CI: 0.78-2.30)、入院時の生存率(aOR: 1.41; 95%CI: 0.82-2.43)、退院時の生存率(aOR: 1.55; 95%CI:
0.83-2.90)、退院時の神経予後良好率(aOR: 1.86; 95%CI: 0.98-3.51)ともに有意差は見られませんでした。
興味深いことに、体重が増加するにつれてAL群でさらにROSC率が低下する結果となり、体脂肪による電気抵抗の増大が、パッド装着を前後にすることによって軽減される可能性が示されました。
2台の除細動器を同時に使用するDSEDが注目を浴びつつありますが、通常の除細動での電極パッドの位置の考え方にも大きな変化が出てくるかもしれません。
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次に、聖路加国際病院の宮本より外傷患者への脊椎運動制限に関する2文献の紹介です。
文献紹介のその前に。。。。
2018年に刷新されたThe
Advanced Trauma Life Support® (ATLS®)の第10版の【脊椎・脊髄外傷】の章で、それらの外傷が疑わしい患者に対する固定方法に関する記載がそれまでの“spinal immobilization” から “spinal motion restriction”にマイナーチェンジされたことを知ってますか?
従来の患者をロングスパインボードに固定する「脊椎固定(Traditional
Spinal Immobilization, TSI)」と呼ばれる方法は、頚部過伸展や褥瘡や呼吸困難や誤嚥等のリスクがありそうだという報告が増えてきました。
そのため現在は、患者の負担を軽減しつつ脊椎の動きも抑える「脊椎運動制限(Spinal
Motion Restriction,SMR)」が推奨されるようになっています。
つまり、主に頸椎カラーを使用し、必要に応じて患者を抑制することで、脊椎の安定を確保しながらも、患者に対する負担を軽減するように努めることが大事だと強調されたのです。
JATEC第6版でもバックボードは”できるだけ早く除去することに努める”と記載されており、ご存じの方も多いかもしれません。
でも、SMRに変えて実際患者への影響はどれくらいあるのか?ということに関してはまだまだよくわかっていない事も多かったのです。そこで今回はTSIとSMRに関する文献を2つ紹介します。
③Nuanprom P, et al P. Traditional Spinal Immobilization versus Spinal Motion
Restriction in Cervical Spine Movement; a Randomized Crossover Trial. Arch Acad Emerg Med. 2024 Mar 12;12(1):e36. doi: 10.22037/aaem.v12i1.2263. PMID: 38737134.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38737134/
健康なボランティアを対象に、外傷性脊髄損傷(TSCI)の予防におけるTSIとSMRの効果を比較し、頸椎の可動域(ROM)および固定時間の差異を調べています。
この研究におけるSMRではバックボードを用いず、スクープストレッチャーを用いることで患者の搬送中の負担の軽減が試みられています。(詳細は文献をご参照ください)
無作為にTSIとSMRを割り当てた無作為クロスオーバーデザインで実施され、IMUセンサー(慣性計測装置)を使用して、屈曲-伸展、回旋、側屈の3つのROMが計測されました。
結果、
・屈曲・伸展:TSI(13.92±4.97度)/ SMR(10.74±3.33度)
・側屈:TSI(16.09±4.69度)/ SMR(14.07±5.17度)
といずれもSMRでもTSIと遜色なく、どころか、より効果的に運動制限ができていました。
なお、回旋の程度は両群で差異は認められず、固定に要する時間はTSIの平均固定時間が150.93±33.58秒であったのに対し、SMRでは162.81±37.07秒と若干SMRで長くなりましたが、臨床的には問題となるほどの差ではないと筆者らは結論づけています。。
この研究は健康なボランティアを対象としているため、外傷患者に対して同様の効果が得られるかは不明ですが、TSIにこだわらなくて良い一つの理由になりそうです。
④Kraai TW, et al. The effect of
ATLS/PHTLS spinal motion restriction protocol on the incidence of spinal cord
injury, a nationwide database study. Eur Spine J.
2024 Sep;33(9):3637-3644. doi:
10.1007/s00586-024-08421-4. PMID: 39122846.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39122846/
では、実際にSMRを積極的に行うと患者へはどのような影響が生じるのでしょうか。
この論文では、SMRプロトコルが、外傷性脊髄損傷(TSCI)の発生率にどのような影響を与えるかを分析しています。
本研究では、1986年から2021年にかけてオランダ国内で収集された全国データを基に、SMRの遵守率がTSCIの発生率に与えたであろう影響を評価しました。
画像検査技術の進歩や外傷機転の変遷、実際の固定方法の内訳が獲得できていないことなどツッコミどころは多々ありますが、
分析の結果、脊椎骨折に伴うTSCIの発生率は35年間で39%増加しており、特に頸椎損傷が多く見られる傾向が明らかになりました。
一方、胸椎および腰仙椎損傷におけるTSCI発生率は減少しており、SMR導入がこれらの部位には有効であった可能性が示唆されています。
頸椎損傷に関してはSMR単独ではTSCI予防に限界があることが考えられ、CTスキャンの普及による軽度の頸椎骨折の見逃しが減ったことも考えられるでしょう。
胸椎や腰仙椎にはSMRが有効である一方、頸椎損傷に対しては他の固定方法の併用が検討されるべきかもしれません。
代替的な正しい頚椎の固定方法に答えは出ていませんが、頚椎カラーに加えて折り重ねたタオルで首を挟むなど他の物品で頚部の運動を制限することで、胸腰仙椎だけでなく頚椎損傷も保護し、患者の負担も軽減できる一石二鳥な方法が見つかるかもしれません。
一度自施設の固定方法を見直してみてはいかがでしょうか。
今後とも文献班をよろしくお願いします!
聖路加国際病院 救急科・救命救急センター
宮本 颯真 (Sohma
Miyamoto)
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Department of Emergency and Critical Care Medicine, St. Luke’s Hospital