2025/06/15 文献紹介
梅雨真っ只中、ジメジメとした湿気に体力が奪われる季節ですね。
今回は沖縄県立中部病院の岡と福岡徳洲会病院の大方が担当します。
紹介する文献は以下3つです。
①閉塞性心筋梗塞の心電図パターン
②肺塞栓症POCUS
③蜂窩織炎・膿瘍POCUS
まずは沖縄県立中部病院の岡です。
①Fabrizio Ricciら.
ECG Patterns of Occlusion Myocardial Infarction: A Narrative Review.
Ann Emerg Med. 2025 Apr;85(4):330-340.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39818676/
(無料で読めます)
閉塞性心筋梗塞(Occlusion Myocardial Infarction:OMI)の心電図パターンに関するレビュー論文の紹介です。
みなさまも経験されたことがあるでしょう。
「ST上昇はない。でも実は冠動脈がドン詰まりだった!」
そう、それが閉塞性心筋梗塞(Occlusin MI;OMI)です。
(より正確には NSTEMI-OMI ですが。)
閉塞性心筋梗塞(OMI)は2018年ごろから提唱された概念です。
従来のSTEMI vs. NSTEMIでは、冠動脈が閉塞しているNSTEMIが見逃されてしまいます。
ST上昇が見られないためNSTEMIとして扱われたもののうち、実際は25~33%が冠動脈が閉塞しておりSTEMIと同様に迅速な対応が必要だったといわれています。
(PMID: 39435181 無料で読めます)
そこで、STEMI かどうかではなく、Occlusin MIかどうかが重要になってきます。
(このOMIですが、一部のハードコアな方には、”はぐれSTEMI”という通称の方が馴染みがあるかもしれません。)
このレビューでは、OMIに特徴的な9つの心電図パターンが紹介されています(Figure 1)。
例えば;
* Hyperacute T波
* Wellens症候群
* de Winterパターン
* 南アフリカ国旗サイン など。
南アフリカ国旗サインについて少し補足します。欧米の心電図では、12誘導を以下のように縦に3つずつ並べて表示する形式が一般的です。
I aVR V1 V4
II aVL V2 V5
III aVF V3 V6
この配置で、I, III, aVL, V2 の誘導にST変化(上昇または低下)が現れると、南アフリカの国旗の模様に見える——
そこから「南アフリカ国旗サイン(South African flag sign)」と呼ばれています。
…しょうもない、なんて言わないでください!
さらに圧巻なのが、巻末の Supplementary Material(付録資料)。
9つのOMIパターンそれぞれについて、実際の症例の心電図と冠動脈造影画像(閉塞部位)が掲載されています。
非常に有益な情報量が多く、しかも無料で読めるとは驚きです。
…と思ったら、ラストオーサーは、あの Smith先生 でした。
Sgarbossaを修正したりと、今回もさすがの仕事ぶりです。
(https://www.emalliance.org/education/dissertation/20210323
)
救急医であれば、この9パターンの心電図はマスターしておきたいですね。
続いて、福岡徳洲会病院の大方です。
②Rafael Hortêncio Melo, et al.
Diagnostic accuracy of multi-organ point-of-care ultrasound for pulmonary embolism in critically ill patients: a systematic review and meta-analysis
Critical Care . 2025 Apr 23;29(1):162.
PMID: 40269937
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40269937/
みなさんは肺塞栓が鑑別疾患に上がるような患者が来た時に、D-ダイマーの結果が出るまでの間、どのように除外判断をしたり、肺動脈造影CT検査に踏み切ったりしますか?
私自身、バイタルや病歴に加え、心エコーで右室拡大をチェックしたり下肢エコーで血栓の有無を確認したりしますが、エコーでもっと除外に使えるような所見はないのかと感じる場面がよくあります。
この文献は肺・心臓・下肢静脈をまとめてエコーで評価をするmulti-organ POCUSによって、肺塞栓の診断精度がどれほど高まるのかを検証したシステマティックレビューとメタアナリシスです。
4つの前向き研究が対象となり、594人が含まれました。
POCUSで評価された所見は以下の通りで、1つ以上あれば陽性です。
肺エコー:胸膜直下の楔形・三角形・円形の低エコー病変
心エコー:右室拡大、D-sign、TRPG、McConnell's signなど
血管エコー:静脈の虚脱がないことや血栓の有無
結果は、感度0.90(95% CI 0.85–0.94; ¬ I2=0%)、特異度0.69(95% CI 0.42–0.87; ¬ I2=95%)、陽性尤度比3.35(95% CI 1.43–8.02)、陰性尤度比0.16(95% CI 0.08–0.32)でした。
特に感度が高く、陰性尤度比も小さいため、「除外の補強」としての有用性が期待されます。
技術的な難しさはあるかもしれませんが、一度やってみる価値があるなと感じました。皆さんも試してみてはどうでしょうか?
③Kristine Jeffers, et al.
What is the Utility of Point-of-Care Ultrasound for Diagnosis of Soft Tissue Abscess vs. Cellulitis?
Journal of Emergency Medicine. 2025 May:72:121-128.
PMID: 40274497
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40274497/
次は、蜂窩織炎と膿瘍をエコーで見分けるのは有用かを吟味したナラティブレビューです。
ERで蜂窩織炎を疑う患者にしばしば遭遇しますが、エコーを行ったことは数回程度しかありません。研修医の先生がエコーのオーダーを入れた時に「それ必要か?」と言いに行こうとした時に膿瘍が見つかったケースも少なくないです。
この文献をきっかけに、余裕があるときはエコーをしようと思えるようになりました。
ちなみに膿瘍のエコー所見は、周囲と境界明瞭、内部が低エコーで不均一、圧迫すると内部が可動するswirl signなどが挙げられます。
この文献(https://link.springer.com/article/10.1007/s43678-021-00132-9
)にはわかりやすいエコー所見が示されています
4つのシステマティックレビュー/メタアナリシスをまとめており、POCUSの感度は90〜98%、特異度は67〜88%でした。
膿瘍かどうか診断が不明瞭であれば除外に有用だろうと結論づけています。
全ての症例に施行するのは難しいかもしれませんが、検討しても良いかもしれません。
また、以前EMA文献班でも紹介した軟部組織感染症に対するPOCUSの紹介記事もご参照ください。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/20200129
以上です。次もまた楽しみにお待ちください。