2025/02/01 文献紹介
あっという間に2月に突入してしまいましたが、1月後半の文献を紹介させていただきます!
①軽度~中等度DKA 持続インスリン静注 vs インスリン皮下注
②てんかん重積にケタミンが有効?
③手技直前トレーニングで乳児の挿管成功率up
④医療教育における安全なAI活用のためのフレームワーク
①Alnuaimi A et al. A systematic review and meta-analysis comparing outcomes between using subcutaneous insulin and continuous insulin infusion in managing adult patients with diabetic ketoacidosis. BMC Endocr Disord. 2024 Aug 1;24(1):133.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39090718/
*無料で読めます
糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の標準治療といえばインスリン持続静注ですが、近年、軽度〜中等度のDKAにおけるインスリン皮下注の有効性を示唆するエビデンスは増えてきています。
アメリカのADAガイドラインでも、非ICUにおいて速効型インスリン皮下注を1-2時間おきに投与することが提案されています(PMID: 19564476)。
過去EMAで紹介させていただいたERベースの研究( https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001277 )では、インスリン皮下注導入後、ER滞在期間が1.4~3.6時間短縮され、効果や安全性にも有意差がないことが報告されています。
今回は、インスリン皮下注 vs 持続静注の効果を比較したメタ解析をご紹介します。
・対象患者:軽度から中等度のDKA(ph 7.0-7.3, HCO3 10-18)。18歳未満、ショックや意識障害は除外。
・RCT6件(245名)、観察研究4件(8,444名)
・計8,689名(皮下注712⼈、持続静注7,962⼈、筋注15⼈)
結果です。
アウトカムである死亡率、DKA回復までの時間(MD: 0.17時間, 95%CI -3.45〜3.79)、低血糖、低カリウム血症(RR: 1.02, 95%CI 0.88〜1.19)、入院期間(MD: -0.38日, 95%CI -2.83〜2.08)は両群間で有意差を認めませんでした。
*MD(Mean Difference)平均差
研究数が少なく、euDKAや妊婦が含まれていないことなどの制約があり、まだまだ評価が必要です。
さらに、
一般病棟で2時間おきの血糖測定?
具体的なプロトコルは?(Table1に少し紹介)
など色々な課題はあるものの、ICUが逼迫している状況によっては、知っておくと良いかもしれないな・・と思いご紹介させていただきました!
②Zitek T et al. Midazolam and Ketamine for Convulsive Status Epilepticus in the Out-of-Hospital Setting. Ann Emerg Med. 2024 Dec12:S0196-0644(24)01195-8. Epub ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39674935/
最近、てんかん重積に対するケタミンが注目されていることをご存じでしたか?
私は知りませんでした。
ケタミンは、NMDA受容体を拮抗することで、ベンゾジアゼピンとは異なる作用機序で神経興奮を抑える可能性が指摘されています。
今回、てんかん重積に対し、ミダゾラムにケタミンを追加することで発作停止率が向上するかを検討した、プレホスピタルの研究をご紹介します!
・フロリダ州EMSデータ(2015-2024年)を使用した単一システム後ろ向きコホート研究
・対象:ミダゾラム2回投与 or
ミダゾラム1回以上投与した後にケタミンを追加
全年齢対象(妊婦・航空機搬送は除外)
・EMSのプロトコル:
①ミダゾラム初回投与
・成人5mg IV or IO or IN or IM
・小児0.1mg/kg(最大5mg) IV or IO
0.2mg/kg(最大5mg)IN or IM
②5分後に発作が持続→ミダゾラムを1回追加投与可
③2回投与しても発作が持続→ケタミン追加可
・成人100mg+0.9%NS50ml IV or IO
100mg IN or IM
・小児1mg/kg IN or IM
・全体688例(ミダゾラム単独598例、ケタミン追加90例)うち、小児132例(ミダゾラム単独114例、ケタミン追加18例)
結果です。
病院前の発作停止率は、ミダゾラム単独80.1% vsケタミン追加94.4%、絶対差14.3%(95% CI 8.6% – 20.1%)。傾向スコアマッチング後でも、82.0% vs 94.4%、絶対差 12.4%(95%CI 3.1% - 21.7%)と、ケタミン追加群の方が発作停止率が高いという結果でした。
心停止に至った患者はおらず、挿管率は両群とも1.1%(マッチング後)でした。
ケタミンは救急領域で使用頻度が高く、比較的導入しやすい薬剤かもしれません。
異なる作用機序でアプローチすることは、理にかなっている可能性があります。
一方で、他の研究数が少なく、特に小児では使用例が少ないため有効性の評価は不十分です。
また、脳血管障害に対するケタミンの安全性は確立しつつあるとはいえ、添付文書上は禁忌とされているため、頭蓋内病変が疑われるケースで積極的に使うのか?
(ちなみに禁忌に痙攣発作の既往も記載されてました..)
今後の評価が待たれますが、循環不安定例やベンゾジアゼピン単独で効果が乏しいケースにおける選択肢の一つとして、頭に入れておこうと思います。
③Flynn SG, et al. Coaching inexperienced clinicians before a high stakes medical procedure: randomized clinical trial. BMJ. 2024 Dec 16;387:e080924. PMID: 39681397
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39681397/
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手技の1時間前にトレーニングすると乳児の挿管の初回成功率up
比較的珍しい教育系のRCTです。昨年のBMJクリスマス号に掲載されたのでご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
アスリートやミュージシャンが本番の直前にウォーミングアップやリハーサルを行うように、医療者も重大な手技の直前にトレーニング(just-in-time training)を行うことでパフォーマンスを向上できるのではないか、という着想から行われた研究です。
研究の概要は以下の通りです。
アメリカのボストン小児病院でトレーニングを受ける麻酔科の医師や認定看護師を対象とした単施設研究
P: 小児病院でトレーニングを受ける麻酔科の医師や認定看護師
I: 乳児気管挿管の手技前1時間以内にシミュレーションとコーチングを受ける
C: 手技の最中に指導医がコーチングを行う
O: 気管挿管の初回成功率、認知負荷、合併症の発生など
結果
介入群(手技前にシミュレーション)70名と対称群(手技中にコーチング)83名の比較において、気管挿管の初回成功率は91.4% vs 81.6%, odds ratio 2.42 (95% CI 1.45 to 4.04), P=0.001でした。
また、副次評価項目である手技者の認知負荷はNASA Task Load Indexで評価され、全6項目中で精神的なキツさ、時間的なキツさ、努力の必要度、フラストレーションの4項目で介入群の方が有意に負荷が低いという結果でした。一方で合併症の発生率に差はありませんでした。
施設の人的・物的リソースに違いがあることや、その日に生じる手技の予測が難しいERという環境ではこの研究デザインを私たちの日常にそのまま適用するのは難しいかもしれませんが、夕方や週末に行われることが多いシミュレーショントレーニングを勤務前や冒頭、昼休みに開催するなどの工夫ができるかもしれません。部活の朝練っぽいですね。 ICUであれば気管切開やECMO抜去など、計画的に行う手技の修練に応用できそうです。
④Gin BC, et al. Entrustment and EPAs for Artificial Intelligence (AI): A Framework to Safeguard the Use of AI in Health Professions Education. Acad Med. 2024 Nov 14. PMID: 39761533.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39761533/
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医療者教育におけるAIの活用を安全に進めるためのフレームワーク
前回の文献班配信に引き続きAIネタです。
いろいろな場面でAIを活用する機会が増えており、「依存するのではなくうまく活用することが大切」と言われます。といってもどんな風に活用するのがよいか判断するのは難しいですよね。
本論文は、医療者教育の場面で、AIにどれくらいのタスクを任せられるかという観点を提案しています。イメージとしては、研修医と一緒に働くときに「この研修医にはどれくらいのことを任せられて、どれくらいのことを自分でやる必要があるだろう」と考えるのと似ています。
最初にそのAIが信頼できるかどうかを、能力(タスクを正確にこなせるか)、誠実さ(透明性が高くバイアスがないか)、善意( 患者や学習者のためになるように行動できるか)の3つの要素で評価し、それをもとに段階的に仕事を任せるという概念をAIに応用したのが次のスケールです。
AI版Entrustment Scale(どれくらい任せられるか)
【レベル1】任せられない 例:研修の合否判定
【レベル2】常に人がチェックしていればちょっと手伝ってもらえる 例:学生や研修医向けのフィードバックの要約
【レベル3】半分くらい任せられる 例:レクチャースライドを作ってもらう
【レベル4】かなり任せられるが最終チェックが必要 例:一定の基準に基づいたテストの採点
【レベル5】丸投げできる (具体的な例示なし)
本文では、AIが完全に独立してタスクを実行することはリスクがある等の理由で【レベル3】くらいに留める必要があると述べられています。また、AIの導入と活用には利用者(指導者、研修医や専攻医などの学習者、プログラム管理者)全員が責任を持ち、AIの結果を批判的に評価する能力を養う必要があると締め括られています。
巷に溢れる様々なツールの使い分けをこのスケールに当てはめてみるのも面白いかもしれません。
EMA文献班
国際医療福祉大学成田病院 辻 晴香
聖マリアンナ医科大学 川口剛史