2023.11.01

2023/11/01 文献紹介

EMA文献班の定期投稿です。 ついに11月になりました。紅葉のきれいな時期ですね。

今回は健生病院の徳竹から2つの文献を紹介します!

① Griffey RT, et al. The SQuID protocol (subcutaneous insulin in diabetic ketoacidosis): Impacts on ED operational metrics.
Acad Emerg Med. 2023 Aug;30(8):800-808. PMID: 36775281.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36775281/

軽症~中等症のDKAにはインスリン皮下注射での治療もアリかもしれない

DKAではインスリンの絶対的欠乏があるためにケトアシドーシスとなっているため、そのインスリンを可及的速やかに補充することが治療の中心です。
そのため、「DKAの治療と言えばインスリン持続静注」は当たり前になっていることと思います。

でも、インスリン持続静注ってモニタリングや管理が煩雑であぶなっかしくて、なんとなくハードル高く感じませんか?
一般的にはICUやそれに準ずる病床に入院して合併症や治療効果をモニタリングすることが多いですよね。

最近ではDKAをインスリン皮下注射(subcutaneous insulin:SQuID)で治療するエビデンスは蓄積されつつあり(知りませんでした!)、非ICU環境におけるSQuIDでの治療はアメリカやイギリスのガイドラインにより支持されています。
(PMID: 36507644, PMID: 35224769も併せてどうぞ)

じゃあERでもその治療をやってしまえばいいのではないか、と考えるのが自然です。
特にCOVID-19流行後はICU需要が増加したために、軽症~中等症のDKAはERで管理されることが増えたそうですが、ERベースでの研究はそれほど多くないのが現状です。

そこで、SQuIDによりER滞在時間を減らすことができるかどうかが主な焦点となった研究を紹介します。

本研究は、単一施設のERにおいて軽症~中等症のDKAへのSQuIDによる影響を評価した準実験的研究です。

軽症~中等症のDKAとは、重症DKA(HCO3- < 10mmol/L, pH < 7.0)を除いた血糖値 > 300mg/dL、血中ケトン濃度 > 1.1mmol/L、AG開大代謝性アシドーシスを満たす症例を指します。

また、SQuIDプロトコールはおおむね以下のようになります(詳細は原著を参照してください)。
・リスプロという速効型インスリンを2時間毎に使用する
・血糖値 > 250mg/dLのときには0.2U/kg皮下注射する
・血糖値 < 250mg/dLとなれば0.1U/kgに減量し、ブドウ糖液を追加

SQuIDを導入した2021年8月1日~2022年2月28日までのデータを収集し、それを介入前の期間と比較しました。
評価対象は忠実性(2時間毎の血糖チェック)、安全性(低血糖に対してブドウ糖投与を要した割合)、ER滞在時間でした。

177例のDKA患者(SQuID78例、インスリン持続静注99例)が同定されました。
このうち76例がICUに入室し、それ以外の101例のうち73例がSQuIDで治療され、28例がインスリン持続静注を受けました。
SQuIDの症例のほとんどがICU以外に入室したんですね。9例ではERから退院しています。

忠実性や安全性に関しては有意差がなく、
ER滞在時間はSQuID導入前の期間と比較して1.4~3.6時間の短縮が認められました。

それほど劇的な効果ではないですが、SQuIDの導入によりER滞在時間をわずかに短縮することができるようです。
また、ERからの退院割合も増えたようです。

個人的に期待しているのは、ICUやそれに準ずる病床がない、または救急科をはじめとしたDKA管理に慣れたスタッフがいない病院などでのSQuIDの効果と安全性に対してです。

施設によっては、夜間にご自身で診てしまったDKA患者は専門科でなくとも朝までは管理しなければならない方々もいらっしゃるのではないでしょうか。

まだ評価が必要であり本格的な導入は時期尚早と思いますが、
インスリン持続静注に慣れない医師でもある程度のSQuIDプロトコールに沿ってDKAを安全に治療できる時代がくればよいな~と感じたので、本研究を紹介しました。
ERでDKAを治療する文化はあまりないかもしれませんが、診療の引き出しとして武器を持っておくとどこかで役立つかも⁉
今後の研究に期待します。


Friedman BW, et al. Randomized Trial Comparing Low- vs High-Dose IV Dexamethasone for Patients With Moderate to Severe Migraine.
Neurology. 2023 Oct 3;101(14):e1448-e1454. PMID: 37604662
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37604662/

急性片頭痛の再燃予防目的で使用するデキサメタゾンの至適用量は???

片頭痛の第一選択薬はメトクロプラミドです。
えっ、アセトアミノフェンやNSAIDsだけしか投与していない???メトクロプラミドは最重要薬剤です。

さらにさらに、実は米国頭痛学会によればデキサメタゾンも頭痛再燃を予防する観点から推奨されています。
(Headache . 2016 Jun;56(6):911-40.)
※本邦の頭痛の診療ガイドライン2021では、弱い推奨/エビデンスの確実性C

臨床現場ではあまり使用されていないようにも思われ、過小評価されている薬剤なのではないかと感じています。

ERを受診した頭痛患者では、その半数が48時間の間に強い頭痛が再燃してしまうことが分かっています。
(Ann Emerg Med . 2008 Dec;52(6):696-704.)

そして、7研究のMAによればデキサメタゾンは頭痛の再発を減少させることが示されています(NNT 9)。
(BMJ . 2008 Jun 14;336(7657):1359-61.)

デキサメタゾンの投与量についてはさまざまな報告がされており、至適用量がわかりませんでした。

その至適用量を検討するためのRCTを紹介します。
米国のERを受診した、中等度~重度の疼痛がある一次性頭痛患者209例を対象にした二重盲検RCTです。

片頭痛の診断基準を満たさずとも、過去に同様の頭痛を1度でも経験していれば対象患者として組み込まれました。
発熱や神経学的異常があるような二次性頭痛が疑われる患者は除外されました。

全ての患者はメトクロプラミド10mgを15分かけて点滴静注され、デキサメタゾンを4mg静注する群と16mg静注する群に無作為に割り付けられました。
(プラセボ群は設定されませんでした)

1週間時点での持続的な頭痛の緩和が得られている割合は、4mg群:34% vs 16mg群:41%で有意な差はありませんでした(絶対差 7%, 95% CI -6%~ 20%)。

95% CIが大きすぎるのがやや気にはなりますが、頭痛再燃予防目的でのデキサメタゾンは4mgといった比較的少量な用量を用いてもよさそうです。

サンプルサイズ計算から360例が必要と判定されていましたが、半数程度で終了してしまったことはlimitationです。
もしかしたら16mgを投与した方が効果が高い、という可能性は残っています。

これからの研究を追う必要がありますが、個人的には体格に合わせて(入手可能な製剤の規格より)3.3mg-6.6mg程度で使っていこうかと考えています。