2024/12/02 文献紹介
2024年11月後半の文献紹介は中東遠総合医療センターの大林から3つと湘南鎌倉総合病院の田口から2つをお送りいたします。メインテーマはCPAでの骨髄路です。
まずは大林からRCTを3つまとめてご紹介いたします。
2024年5月後半の文献紹介で、院外心停止おける骨髄路(IO)と静脈路(IV)に関する研究を取り上げました。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001290
IOは静脈が虚脱している傷病者に対して、IVに比べて迅速かつ確実にルート確保ができることはみなさんご存知のとおりです。しかし、OHCAにおいてIOがIVと比較して効果的かどうかはまだわかっていません。
今回はIO firstの効果を調べた前向きRCTが立て続けに発表されたので3本まとめて紹介します!
①K Couper, et al. A Randomized Trial of Drug Route in Out-of-Hospital
Cardiac Arrest.(PARAMEDIC-3)
N
Engl J Med. 2024 Oct 31:Online ahead of print.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39480216/
PMID: 39480216
②M.F. Vallentin, et al. Intraosseous or
Intravenous Vascular Access for Out-of-Hospital Cardiac Arrest. (IVIOEU)
N Engl J Med. 2024 Oct 31:Online ahead of print
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39480221/
PMID: 39480221
③Y.C.Ko , et al.
Intraosseous versus Intravenous Vascular Access in Upper Extremity Among Adults
with Out-of-Hospital Cardiac Arrest: Cluster Randomised
Clinical Trial (VICTOR Trial). BMJ. 2024 Jul 23:386:e079878
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39043416/
PMID: 39043416
試験概要は以下の通りです。(IV群、IO群とは最初にその手技を試みることを意味します)
①イギリス、2021年11月〜2024年7月
18歳以上で静脈路確保が必要な院外心停止、妊婦は除外
患者をIV群とIO群に1:1でランダム割り付け、場所は救急隊が決定
主要評価項目は30日生存率、副次評価項目は自己心拍再開率など
②デンマーク、2022年3月〜2023年2月
18歳以上で静脈路確保の適応がある院外心停止、外傷は除外
患者をIV群とIO群に1:1で割り付け
IO群はさらに穿刺部位を上腕骨と脛骨に1:1でランダム割り付け
OHCAの場合、医師同乗の救急隊が出動
主要評価項目は自己心拍再開率、副次評価項目は30日生存率など
③台湾(台北市)、2020年2月〜2023年6月(2021年5月〜7月は一時中断)
20歳から80歳の院外心停止、外傷・妊婦は除外
4つの高度救急隊を2週間を1区切りとしてIVとIOを2:1でランダム割り付け
(該当期間はすべての患者に対してIV群またはIO群とする)
主要評価項目は退院時生存率、副次評価項目は自己心拍再開率など
※①以外の研究では自己心拍再開は20分以上継続したものと定義されている
結果
①6,082名が対象
主要評価項目
30日生存率:IO群4.5% vs.
IV群5.1% 調整治療効果 0.94(0.68
to 1.32, 95% CI)
副次評価項目
自己心拍再開率:36.0% vs 39.1% 調整治療効果 0.86 (0.76
to 0.97, 95% CI)
退院時生存率:3.7% vs 4.0% 調整治療効果 1.00 (0.68 to
1.46, 95% CI)
この試験では薬物投与までの時間は短縮されず、自己心拍再開した割合がIO群の方がわずかに少なかった。
薬効が投与経路によって異なる可能性があると考察では述べられていました。
個人的には、IV群のうち1/3近くが初回失敗してIOにルート変更していますが、最終的なルート確保までの時間が同じだった点については気になりました。
②1,479名が対象
主要評価項目
20分以上の自己心拍継続::IO群30% vs IV群29% リスク比1.06(0.90 to 1.24 95% CI)
副次評価項目
30日生存率:12% vs
10% リスク比1.16(0.87 to 1.56 95% CI)
この試験でも薬物投与までの時間は短縮されなかったが、医師がいるためか①の研究よりも現場到着からルート確保までの時間(中央値)は早かった(①12分 vs ② 6分)
Discussionでは①とは異なり、臨床転帰に差がなかったことは薬剤の効果が投与経路に依存しない可能性があることを示唆していると述べていました。
③1,771名が対象(期間を2:1に割り付けたが、患者数はほぼ1:1となった)
主要評価項目
退院時生存率::IO群10.7% vs. IV群10.3% オッズ比1.04(0.76 to 1.42 95% CI)
副次評価項目
病院前自己心拍再開率:10.8% vs 9.0% オッズ比 1.23(0.89 to
1.69 95% CI)
2時間以上の自己心拍再開:31.4% vs 33.2% オッズ比 1.17(0.82 to 1.66 95% CI)
この試験ではIV群でアドレナリン投与率がIO群に比べて低い(52.0%)。これは台北市で現場から病院までの距離が平均5分強と短く、初回失敗すると取り直している時間がないことを反映していると思われます。(ちなみに①の研究では1時間以上)
これら環境が異なる3つの前向き研究の結果は似ており、IOはIVに対して自己心拍再開や生存率などの異なる転帰をもたらさないことがわかりました。IOの方が素早く留置できそうなイメージだったのですが、リアルの救急現場だとIVとそれほど時間も変わらないことに驚きました。まだサンプルサイズの問題などからガイドラインの推奨を変えるほどの結論は出ていませんが、今後も注目していきたいテーマの1つです。
続けて湘南鎌倉の田口よりCPAへの骨髄路の観察研究と、おまけで挿管時の薬剤投与順序に関する文献です。
④C-H Yang, et al. Intraosseous and Intravenous Epinephrine
Administration Routes in Out-of-Hospital Cardiac Arrest: Survival and
Neurologic Outcomes.
J
Am Heart Assoc. 2024;13:e036739. DOI:
10.1161/JAHA.124.036739
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.124.036739
今度はRCTではなく観察研究です。この研究はOHCAへのIV vs IOの比較に加えて、上肢 vs 下肢の比較をすることを目的としています。
試験概要
研究デザイン:後ろ向きコホート研究
期間と地域:2021年1月〜2023年8月、台湾・桃園市
対象:非外傷性OHCA。除外基準としてDNR、外傷、溺水などが含まれる。対象者は初回アクセスがIVまたはIOのいずれかであった患者に限定された。
評価項目:
主要評価項目:退院時生存率、良好な神経学的転帰(CPCスコア1または2)
副次評価項目:2時間以上の生存率
結果
対象者:2,168名(IV群845名、IO群1,323名)
主要評価項目:
退院時生存率:IV群15.1% vs IO群13.1%
(aOR, 1.02; 95% CI, 0.72–1.35,
p=0.918)
良好な神経学的転帰:IV群10.8% vs IO群6.9%
(aOR, 1.39; 95% CI, 0.94–2.05,
p=0.098)
副次評価項目:
2時間以上の生存率:IV群29.9% vs IO群26.0% (aOR,
1.16; 95% CI, 0.90–1.49, p=0.254)
アクセス部位別分析:
上肢アクセス(IVまたはIO) vs 下肢アクセス(IOのみ)の結果:
退院時生存率:上肢13.5% vs 下肢5.1% (aOR,
0.32; 95% CI, 0.20–0.50, p<0.001)
良好な神経学的転帰:上肢9.8% vs 下肢2.7% (aOR,
0.27; 95% CI, 0.14–0.51, p<0.001)
2時間以上の生存率:上肢29.5% vs 下肢17.6% (aOR, 0.65; 95% CI, 0.48–0.87, p=0.004)
この研究でも、IOとIVの間に生存率や神経学的転帰に統計的に有意な差は見られませんでした。一方で、アクセス部位別の分析では、下肢が上肢に比べてすべてのアウトカムにおいて有意に悪い結果を示しました。ただし下肢にはIOのみしか含んでおらず、この結果を外挿できるかは慎重に考えるべきかもしれません。
⑤Pierre Catoire, et al. Effect of
administration sequence of induction agents on first-attempt failure during
emergency intubation: A Bayesian analysis of a prospective cohort.
Acad Emerg
Med. 2024;00:1–7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39425254/
ERでの挿管時には導入として鎮静薬と筋弛緩薬を使用しますが、この投与の順番を考えたことはありますか?これらの薬剤の投与順序(鎮静薬を先にするか筋弛緩薬を先にするか)が、初回挿管の失敗や有害事象に関連するかどうかを検討した研究です。
2021年から2024年にかけてアメリカの単一施設の前向きコホートデータを分析しました。救急外来で気管挿管を受けたすべての患者が対象です。ベイズロジスティック回帰分析を用いて、薬剤の投与順序の効果を測定しました。
合計2,216人の患者が解析対象となり、筋弛緩薬を先に投与された患者は56.6%でした。年齢、性別、体格指数(BMI)、および使用薬剤で調整後、初回試行失敗率に対する筋弛緩薬先行戦略のORは0.73(95% CrI 0.46–1.02)でした。ORが1未満である確率は95.7%、0.9未満である確率は87.6%と推定されました。
今回の研究では筋弛緩先行が良いのではないかという結果でした。ただし鎮静ではエトミデートがメインで使用されている、調整した交絡因子が不十分な可能性もありこの研究だけで日本のpracticeを変えることにはならなさそうです。
個人的には、筋弛緩だけが効いた状態のawake paralysisのリスクから鎮静薬firstが良いものだと信じ込んでいたので、意外なテーマでした。今回このawake paralysisは有害事象として検討できていないようなので、そういったものも評価した今後の研究に期待です。