2024.04.30

2024/04/30 文献紹介

新年度がはじまり早くも1ヶ月が過ぎますね。新しい環境には慣れてきましたでしょうか?

さっそくですが、国際医療福祉大学の西田と聖マリアンナ医科大学の川口より4月後半分の文献を紹介いたします!

 

今回のラインナップは以下です。

1. OHCAでは高度気道確保よりアドレナリンfirstの方予後良かった

2. 救急外来での迅速ウイルス検査の有効性について

3. 心理的安全性の評価の仕方

 

 

1. Okubo M, et al. Sequence of Epinephrine and Advanced Airway Placement After Out-of-Hospital Cardiac Arrest. JAMA Netw Open. 2024 Feb 5;7(2):e2356863. PMID: 38372996

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38372996/

 

近年では心肺蘇生におけるアドレナリンの早期投与の有効性についてのエビデンスが蓄積されつつあります。

そんな中、アドレナリン投与と高度気道確保(AAM)を行う順番によって、院外心停止(OHCA)の予後が変わるかを比較した研究をご紹介します!

 

2014-2019年の日本のウツタインデータを用いて、救急救命士によるアドレナリン投与・AAMを受けた18歳以上のOHCA 259,237人が対象となりました。

 

Primary outcomeである1ヶ月生存率は、Shockable群、Non-shockable群の双方においてアドレナリンfirst群が高いという結果でした(OR 1.19; 95%CI, 1.09-1.30)(OR 1.28; 95%CI, 1.19-1.37)。

Secondary outcomeである1ヶ月後の神経予後良好率、プレホスでのROSC率も、双方においてアドレナリンfirst群が高い傾向でした。

 

今回の研究では、大多数がAAMを先に試行されており(Shockable69.3%Non-shockable81.3%)、日本では救命士は骨髄路確保できないという背景があるかもしれません。ルート確保ができた群と、末梢静脈が完全に虚脱してルート確保できずにAAM先行とならざるを得なかった群がいる点については、論文の解釈に注意が必要だと考えます。また、AAM first群のほう蘇生介入早いにも関わらず、予後はアドレナリンfirst群の方が良いという結果でした。

 

これまで、OHCAにおける蘇生行為の最適な順序は明らかにされていませんでしたが、窒息CPAや小児を除けばアドレナリン投与を優先した治療をより意識する必要性について考えさせられる研究でした。無料で読めますので、ぜひ目を通してみて下さい。

 

 

2. Schober T, et al. Clinical Outcomes of Rapid Respiratory Virus Testing in Emergency Departments: A Systematic Review and Meta-Analysis. JAMA Intern Med. 2024 Mar 4:e240037. PMID: 38436951

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38436951/

 

COVID-19 pandemicを経験し、以前にも増して救急外来で迅速ウイルス検査を行う機会が増えましたね。

今回、急性呼吸器感染症に迅速検査を行うことで、ERのマネジメントにどう影響を与えたのかを調べたメタ解析をご紹介します。

 

11件の研究で6068人が対象となりました。

迅速検査をすることは、primary outcomeである抗菌薬使用の減少とは関連しませんでした(RR, 0.99; 95% CI, 0.93-1.05)

secondary outcomeであるER滞在時間・再受診・入院率も減少しませんでしたが、抗インフルエンザ薬の使用率は増加し、X線・血液検査は減少しました。

 

サブ解析では、検査結果が陽性の場合には抗菌薬の使用が少ない傾向にあったものの、全体の抗菌薬処方率とは関連していませんでした。

これはインフルエンザ検査の研究でのみ観察されており、他のウイルス検査よりもマネジメントを変える可能性はあります。

 

limitationとして、成人は16%のみであるため、ハイリスク群を増やした場合には結果は大きく変わるかもしれません。ルーティンの迅速検査の有益性は限られており、個人的にも治療方針を変える際に検査を行うべきだと思っています。皆様はいかがでしょうか?

 

 

3. Goodrich M, et al. Psychological safety and perceived organizational support in emergency medicine residencies. AEM Educ Train. 2024 Apr 13;8(2):e10964. PMID: 38618191

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38618191/

 

心理的安全性ってどうやって評価するの?

 

最近「心理的安全性」という言葉をよく耳にします。Edmondson(2012)によると 関連のある考えや感情について人々が気兼ねなく発言できる雰囲気 を指すそうです。

また、Perceived Organizational SupportPOS 知覚された組織的支援)は耳慣れない言葉ですが、ざっくりいうと「うちの病院って自分達のことよく考えてくれてるよねとどれくらい感じるか」のことです。

どちらも燃え尽き症候群やチームのパフォーマンス、患者の安全性に影響を及ぼすと言われています。大切なのはわかっていても「お互いを思いやろう」とか「風通しのいい雰囲気を作ろう」など規範論に落ち着いてしまいがちで、結局どうすればいいのか悩むスタッフやチーフレジデントは多いのではないでしょうか。

 

本研究では2つのスケールを使って米国の救急のレジデントプログラムの心理的安全性とPOSを評価しています。

スケールの名称と具体的な質問項目は次の通りです。

 

·Psychological Safety Scale (PSS)

私の部署は...

ミスをした場合に非難されることが多い。

問題や困難な事象を提起することができる。

他と違うという理由で他人を拒絶することがある。

リスクを冒しても安全である

他のメンバーに助けを求めるのは難しい。

自分の努力を損なうような行動を故意にとる人はいない。

一緒に仕事をすると、自分独自のスキルや才能が評価され、活かされる。

·Survey of Perceived Organizational Support (SPOS)

私の部署は...

福利に対する私の貢献を高く評価している。

私の後任を低賃金で雇うことができれば、そうするだろう。

私の余分な努力を評価しない。

私の目標や価値観を強く尊重してくれる。

私からのいかなる苦情も無視する。

私に影響する決定を下す際に、私の最善の利益を無視する。

私が問題を抱えたときに助けてくれる。

私の幸せを気にかけてくれる。

私が可能な限り最高の仕事をしたとしてもそれに気づかないだろう。

私が特別な頼みごとをするとき、快く助けてくれる。

私が職場で満足しているかどうかを気にかけてくれる。

私に対してほとんど関心を示さない。

私の意見を気にかける。

私が仕事で成し遂げたことに誇りを持っている。

私の仕事をできるだけ面白くしようとする。

それぞれの質問に対する回答は5段階または7段階(1:全然思わない~5or7:とてもそう思う)の選択式になっています。なお、否定形の質問に1と回答したら点数は5or7点で計上されます。(そういえば病院全体で時々行われる職員アンケートに似たような項目があった気が。。。

調査対象となった米国の7つの救急プログラムのPSSは平均4.0SPOSは平均5.6でした。

 

「うちの研修どうだった?」「今日の勉強会どうだった?」というアンケートを作る際にこういったエビデンスのある評価スケールを組み込むと有効な回答が得られるかもしれません。各施設の参考になりましたら幸いです。