2024/10/02 文献紹介
遅くなりましたが、9月後半の文献紹介をお送りいたします。
今回の担当は東京ベイ・浦安市川医療センター 救急集中治療科の竪と山本です。
今回は竪から1つのみ紹介させていただきます。
外傷性血胸に対するドレナージカテーテルのサイズに関するシステマティックレビュー&メタ解析です。
Nicole B Lyons, et al. Small versus large-bore
thoracostomy for traumatic hemothorax: A systematic review and meta-analysis
J Trauma Acute Care Surg 2024 Aug 30
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39213292/
皆さんは外傷性血胸に対して太いドレーンではなくアスピレーションキットを挿入した事はありますか?血液だから詰まらないように太いドレーンを挿入すると教わった先生が多いのではないしょうか?
2024年6月前半分で最新のヨーロッパの自然気胸ガイドラインを紹介しました。
https://www.emalliance.org/education/dissertation/202001293
同ガイドラインでは自然気胸に関して保存的治療の推奨度が高まり、ドレーン留置の推奨度が下がっていました。ドレーン留置をするとしても、太いチューブではなく、細いチューブでも良さそうというシステマティックレビュー&メタ解析も今年出ており、自然気胸に対する治療はここ数年で大きく様変わりしています。外傷性気胸に対しても同様であり、実は外傷性血胸に対しても例外ではありません。
今回のシステマティックレビュー&メタ解析では9つの研究(3つのRCT、残りはコホート研究)が組み込まれ、細いドレーン(SBTT: 14Fr以下、アスピレーションキットを想定)と太いドレーン(LBTT: 20Fr以上)で比較検討されました。
治療失敗、合併症発生、死亡率、ICU・病院滞在期間はいずれも有意差がありませんでした。ちなみに挿入直後のドレナージ量はSBTTで有意に多いという意外な結果でしたが、SBTTは量が増えてきたタイミングでの挿入となった事、エコーで挿入部位を確認している事が関係したのではないかと考察されています。
9つ中2つの研究で疼痛の違いを検討しており、1つは有意差を示せましたが、もう1つは示せませんでした。疼痛のスコアが両者で異なっていたり、疼痛を訴えるタイミングについて言及されていないのが問題でした。気胸の研究ではSBTTで疼痛が少ないことが示されており、実際に手技をしている時の印象としてもそれは間違いないでしょう。となると外傷性血胸でも今後はSBTTがfirst choiceとなるのでしょうか?
実は9つの研究の中で、緊急でのドレナージ症例が含まれているのは2つのみであり、緊急でのドレナージ症例では依然としてLBTTが基本であると本文中で記載されています。しかし緊急を要さない症例では、より疼痛の少ないアスピレーションキット挿入がfirst choiceで良いかもしれません。ガイドラインの改訂にはより多くのRCT、多施設研究が今後必要であると考察されています。
自然気胸だけでなく外傷性血胸のマネージメントもこの機会に見直してみてはいかがでしょうか?