2024.09.01

2024/09/01 文献紹介

歴代最強クラスの台風、サンサンに振り回された8月終盤でしたが皆様いかがお過ごしでしょうか?

熱帯低気圧になったとはいえ、まだまだ線状降水帯の発生など気が抜けない日々が続きますが、

外に出られない日は文献でも読んで過ごしてみるのはいかがでしょうか。

 

まずは湘南鎌倉総合病院の田口からこちらの2本をお届けします。

 

Ryan N B, et al. Managing Emergency Endotracheal Intubation Utilizing a Bougie.

Ann Emerg Med. 2024 Jun 22:S0196-0644(24)00232-4.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38912998/

「ブジーの扱いに習熟せよ」

 

ブジーの使い方は自信がありますか?

 

なおブジーについては、多施設RCT2021年に紹介しており、ブジーとスタイレットで初回挿管成功率は変わらなかったという結果でした。https://www.emalliance.org/education/dissertation/20211231

しかしDAMで、視野がよくない患者、肥満の患者、頸椎固定が必要な患者などではブジーで初回から挿管することも選択肢の一つです。

 

今回のレビューではブジーの使い方について詳細に説明しています。

ビデオが11個もあり、教育的にもおすすめの文献です。

特に興味深かった資料は下記です。

 

・喉頭浮腫が高度でもブジーで挿管できることがある。(Video E1)

・事前にブジーを結ぶように形をつけておき(snail tail)、挿管直前に結び目を解くとちょうど良い曲がり具合になる。(Figure 3)

・ブジー挿管は介助者なしで、一人でもできる。(Video E6)

 

ブジーを使う機会のある方は一読の価値ありです。

  

Alex I P Craston, et al. Being a patient in a crowded emergency department: a qualitative service evaluation. Emerg Med J. 2024 Jul 30. emermed-2023-213751.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39084692/

「混雑したEDで患者は’loss of autonomy’, ’unmet expectations’ and ’vulnerability’ を感じている」

 

こちらは、混雑した救急外来(ER)での患者体験についての質的研究です。これまで、混雑が医療従事者や患者の予後に与える影響についての研究はありましたが、患者体験の詳細については明らかではありませんでした。

 

この研究では、イギリスの大規模救急外来(ED)で、混雑時に患者やその家族にインタビューを行い、「自律性の喪失」「期待への不満足」「脆弱性」の3つが患者体験における主要なテーマとして特定されました。

 

具体的には、自律性の喪失は患者が情報不足や状況のコントロールができないと感じること、期待への不満足は清潔さや快適さが期待に足りないこと、脆弱性は患者が無防備で危険にさらされていると感じる状況を指します。

 

対策として、スタッフからの情報提供の改善や待ち時間の目安を示すスクリーンの設置、トイレや飲食物の提供場所を明示する掲示物の改善、トリアージの順番など医療プロセスの透明化、そしてセキュリティスタッフの明示などが提案されていました。

これらにより、患者が自分の状況をより理解しやすくし、不安を軽減することができるのではないかとされています。

 

質的研究は、量的研究にはない患者の生の声や細やかな感情を捉える点で、重要な研究でした。混雑する外来では皆が不快な気持ちになりやすく、接し方にはより注意が必要です。患者さんその家族の気持ちを理解し、対策をとる上で参考になればと思います。

 

 

続いて、中東遠総合医療センターの大林からはこちらの2本をどうぞ。

 

Verma A, et al. Efficacy of 10%, 25% and 50% dextrose in the treatment of hypoglycemia in the emergency medicine - A randomized controlled studyAm J Emerg Med. 2024 Aug:82:101-104.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38851077/

「低血糖補正は50%ブドウ糖液じゃなくてもいい」

 

成人の低血糖による意識障害等に対して、救急外来では50%ブドウ糖液40mL(ブドウ糖20g)を静注するのが一般的ではないでしょうか。

海外でも50%ブドウ糖液50mL静注もしくはグルカゴン1mg筋注が推奨されています。

それに対し小児の場合は、高濃度ブドウ糖の投与により脳浮腫や死亡などの有害事象報告があるため、10%ブドウ糖液2mL/kgが推奨されています。

 

今回紹介する研究は、成人の低血糖治療において、50%よりも低い濃度のブドウ糖液を用いることができるかを検証したものです。また海外で一般的なブドウ糖25gが本当に必要なのかも検証しました。

 

研究概要です。北インド都市部にある救命救急センターにおいて、血糖値 70mg/dL以下で意識障害(GCS < 15)がありブドウ糖の経口摂取ができない204名の患者を、10%65名)、25%74名)、50%65名)ブドウ糖液治療群の3つにランダムに割り付けました。

その後、ブドウ糖5gずつを1分間隔で静注し、初回投与からGCS 15もしくは元のレベルに戻るまでに要した時間、ブドウ糖の総投与量を記録しました。また血管外漏出、24時間以内の低血糖のリバウンド、低血糖の原因も確認しました。

 

結果、3群間で来院時の血糖値、GCSは同様であり、意識レベルの回復に要した時間に差はありませんでした。意識レベルの回復にブドウ糖25gを要したのは10% 2名(3%)、25% 3名(4%)、50% 8名(12%)と50%群で多く、リバウンドが生じたのは50%1名だけでした。

 

当初最小サンプルサイズを384名としましたが、研究期間の終了で204名しか登録できず群間差の検出力不足ではあります。しかし、結果からは低血糖の治療には50%ブドウ糖液である必要性も、多くのブドウ糖を投与する必要性もないといえそうです。

 

低血糖の治療なんて当たり前すぎる内容かもしれませんが、たまには常識とされるプラクティスを疑って見直してみるのもいいかもしれませんね。

 

Luijten D, et al. Safety of treating acute pulmonary embolism at home: an individual patient data meta-analysis

Eur Heart J. 2024 Aug 21;45(32):2933-2950

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38993086/

「肺血栓塞栓症、軽症なら外来治療も検討」

無料で読めます

 

皆さんは急性肺血栓塞栓症(以下、PE)ERで診断したら、トリアージツールを使って入院もしくは外来治療の判断をしていますか?
肺塞栓症重症度インデックス(PESI)や簡易版PESI(sPESI)30日死亡率を予測するツール、Hestiaルールは入院適応を判断するツールとして知られており、これらのツールを用いて外来治療の適応を判断することは安全であるとされています。

しかし、これまでの研究では対象となる患者の数が比較的少なかったり、単一施設研究であったり、がんなどの特定のサブグループが十分に含まれていないか除外されていました。

 

そこでこれまでの研究のレビューおよび個別患者データのメタ分析を実施して、トリアージツールによる外来治療の安全性を検証したのが、今回紹介する研究です。

 

15の研究が事前に設定した包含基準を満たし、そのうち10件の研究から患者の個別データを共有することができ、最終的に2694名の外来治療を受けた患者が主解析の対象となりました。(感度解析を3回実施していますが詳細は割愛します。)

主たるアウトカムは14日全死亡率および有害事象の発生です。

結果は、14日全死亡率0.11(3)で、1人はPE関連、1人は大出血関連、1人はその他の理由で死亡しました。また再発性静脈血栓症は0.34%、大出血は0.19%で全死亡率と合わせた複合エンドポイントの発生率は0.56%でした。30日全死亡率や有害事象発生率もわかっており、全死亡は担癌患者、有害事象発生は担癌患者、心疾患・肺疾患の既往、トロポニン上昇、(NT-pro)BNP上昇で相対的リスクが高いとのことです。

 

低リスクPEは外来治療にしましょう!...というのはなかなか勇気がいりそうですが、どうしても入院ができない事情がある状況では、PESI class/sPESI 0Hestiaルールに該当しないといったことを確認して、上記のようなリスクを説明できるとよいのではないでしょうか。

 

湘南鎌倉総合病院 救急総合診療科 田口

中東遠総合医療センター 救急科  大林 正和